無事日本に帰ってきた俺は当初言語の壁どうしよう?と思っていたのだが、ルイズのワールド・ドアによる異次元ゲートが何らかの作用を起こしたのか問題なくハルケギニア語が日本語に聞こえる。オスマンの恩人のアメリカ兵と言い、佐々木氏と言い、どうなってんだ?
帰ってきたら、まずは両親に帰還報告を行った。俺は楽観視していたんだが、両親はそうでもなかったらしく、俺が複数の恋人を作っているにも関わらずご馳走を食べることとなった。だが、異世界人問題に加え、用意している時間は無い。外食するよりも出前を頼んだ。
流石に核家族だった俺たち家族だけならピザ一枚で足りたが、今は恋人が追加で5人居る。おまけにシャルロットはよく食べる。寿司も追加だ。それに母さんが味噌汁と肉じゃがを作ってくれた。うれしいがそんなことよりコーラだ。この際ドクペでもいいから刺激が強く甘い炭酸飲料が飲みたい。
みんな箸が使えないのでどんぶりものは相談してから食べよう。まあ、スプーンとフォークでもいいんだけど。
寿司が来た当初はシャルロット以外敬遠してたが、母さんがついでに外国人でも食べられそうなカルパッチョを食べさせてからはみんなパクパク寿司を食べていた。キュルケ以外わさび抜きで。シャルロットもわさびいけると思ったんだけどな。
後はデザートの餡蜜をみんなで食べて緑茶で締め。そうそう、こういうのでいいんだよ。ピザ食ってる間はコーラ飲んでたけど。
しかしここで問題が発生した。人数が多すぎて客間が狭いのだ。貴族に布団を敷いてみんな一緒の部屋はきついだろう。
仕方が無いので後の滞在中はマンスリーマンションで過ごしてもらうとして、しばらくは最寄の旅館に泊まって貰う事に。何故ホテルじゃないかと言うと、大きな部屋にまとめておかないと慣れるまで何をしでかすか分かったもんじゃないからだ。ナンパされたキュルケが男を追い払うのに火の玉でも出されたらたまったものではない。ルイズは魅惑の妖精亭で豚を量産した実績があるし。安定の釘宮ボイスなので日本では罵倒された側も面白がるだけだと思うので、そこからエクスプロージョンを使われたらどうしようもない。最悪テファに辺り一帯に対する忘却を唱えてもらいフォローしなければならない。胃が痛い。
せっかく我が家に帰ってきたが、俺には監督責任があるので両親と相談し、電車に乗ることとなった。父さんの趣味がアウトドアなので、6人は乗れる自家用車があるが、それだとあぶれるものが居るのでルイズ、キュルケ、シャルロットを自家用車で父さんと、シエスタとテファはタクシーで俺がナビゲートの為に付いた。
「ふわぁ、馬車と違って静かだし揺れませんねー。しかも速いです」
「そうね、シエスタ。私は村からあまり出たことが無かったから馬車自体乗る機会は少なかったけど、すごい」
「お客さんたち外国の人ですか?」
「ええ、見ての通りです」
全て日本語に訳されているため、流暢ってレベルじゃない。その上シエスタは日本人の血は八分の一で日本人要素は黒髪くらいだし、テファに至ってはハーフエルフだ。違和感がやばいんだろう。
「彼女達中東辺りから来ましてね。移動手段は主に馬車かラクダだったそうです」
「そうなんですか。いやあ、世の中は広いなあ」
シャルロットは無口だが好奇心旺盛なので、こういう時いろいろな質問をするだろう。キュルケも同様だ。ルイズには第一夫人候補としてあの二人をよろしく頼んでいる。ついでに父さんと母さんが付き添っているのであちらはあちらでとてもにぎやかなんじゃないかな。
そして駅まで危ない単語が出ないかとひやひやしながらも、無事到着した。こういうのはいくら日本の歩き方講座しててもぽろっと出てしまうものなのだ。
「それではお義父さま、お義母さま。楽しい時間でしたわ。また後日よろしくお願いします」
「義父さま、義母さま、キュルケとシャルロットが色々と済みませんでした」
「気になるものは仕方が無い。ありがとうございました」
無事駅の前で3人と合流した。
「父さん、送ってくれてありがとう。母さんも質問攻めご苦労様。明日また顔を出すから。それと肉じゃがご馳走様」
そこから俺一人で旅館まで案内することになった。
「それにしても明らかにトリスタニアより広いわね。馬車も四台並んで交差できる広さのある道だったし、田舎者扱いされるのはわたし達の方か」
「そこは文明の差があるから仕方が無いよルイズ。みんな、電車の使い方は覚えているか?俺は人数分の切符を買ってくるから、男に絡まれたら魔法を使わないであしらってくれ。日本人は外国人は珍しく見えるだろうから、人通りの多いところで固まって話しかけるなって雰囲気出していれば大丈夫だよ。それでも空気読まない奴が来たら俺がなんとかするから時間を稼いでいてくれ」
「男のあしらい方ならあたしに任せて、ダーリン」
「頼んだ、キュルケ」
幸いラッシュの時間はまだなので修羅場ではない。だが人が少ない分ルイズ達が目立つのでさっさと済まそう。
そう思い人数分の切符を買ってきた。
「説明したとおり、電車に乗るために必要なものだからあの改札口に他の人がやっているようにその切符を入れてくれ。そうしたら穴が空いた切符が向こう側から飛び出すからそれを取って足元の白線の内側で待つんだ。途中売店でチョコレートでも買おう。一度宿に寄るから、一旦荷物を降ろしてから休憩しよう」
「チョコレート!お義父さま方に挨拶するからすっかり忘れてたわ」
「ルイズが食べたことがあるって言うお菓子?」
「食べたい」
「いいですね。甘いものはまだまだ入りますよ」
「うん、あんみつも美味しかったけど、ちょこれーとにも興味があるわ」
女性陣は甘味に魅了されているようだ。これは滞在中しっかりカロリー計算しながら店に入らなくては。
「取った切符は電車から出た後も使うから、なくさないようにスカートのポケットにでも入れておくといいよ」
この後改札口にシエスタがスカートを挟まれるという場面があったものの、無事プラットホームでチョコレートをみんなで食べ、電車に乗った。
「すごい、車以上に静かだわ」
シエスタがこれ以上田舎者感を出さないために声をひそめながら感嘆の言葉を漏らす。人が少ないため全員席に座れた。だが俺はあえてフォローのためつり革に掴まっている。
「日本の電車は秒単位で運行してるのもあるから必要以上の速度を出さないんだ。けれど危ないからK駅まで座っていてくれ。近くなったら案内の声がかかるから」
「分かりました、才人さん」
ルイズはカチコチ、キュルケは驚き疲れたのか無反応で脚を組み、シャルロットはなにか色々考えている。シエスタはあっけにとられ、テファはその胸に視線が集中しおどおどしていた。普段から胸を見られていても、異民族の視線は辛いか。テファの前に移動し、男共の視線を牽制する。テファは俺の恋人だ。
「ありがとう、サイト」
「どういたしまして。着くまでそこまで時間はかからないから少し我慢してくれ」
キュルケはその視線にも余裕の表情と言うか疲れてるのか居ないものとして扱っているし、他は他で視線を集めているが、貴族だし平民のシエスタは反応していないので多分大丈夫。
「お、ポイント高い外人はっけーん、まーくん、こっちこっち」
「んだよヒデ、すげ、美人ぞろいじゃん。日本語通じる?俺たちと遊ばない?」
あー、やっぱ絡まれたか。
「疲れてるの。また今度にしてくれるかしら」
「えーいいじゃん、なんなら休憩できる場所も俺知ってるよ?」
「そうそう、ついでに楽しいところ教えてあげるからさ。行こう行こう」
チーマーっぽいあんちゃん達がキュルケを主に声をかける。面倒だな。
「アンちゃん達、この娘達は俺の友達なんだ。それにこれから旅館に戻るところだから案内してくれなくても大丈夫だ」
「あんだてめぇ」
「あ゛あ゛?」
まるっきりチンピラだ。テンプレから外れてくれよ。
こういうのは言葉より態度で示したほうが楽だ。手すりを思い切り捻る。
「あ?」
「え?」
「俺ちょっとばかり力が強いんだよね。君達の肩とかうっかり掴んじゃったら折れちゃうかも」
そこには握力によってゆがんだ手すりがあった。後で反対に曲げて直しておこう。
「ごめん、用事が出来ちゃった。また今度ね」
「待ってよまーくん!」
ふう、やれやれだぜ。
「ありがと、ダーリン」
「こっちだと火の玉で追い払うわけにもいかないからね」
車掌さんには申し訳ないが、後先考えない馬鹿が出てくるのが悪い。今の俺はTシャツだからぱっと見分かるだろうに。
一騒動遭ったものの、旅館に着いたので荷物を降ろして休憩する。
「はぁぁ、疲れたわー」
「お疲れ、みんな。風呂でのシャワーの使い方は家で実演したとおりだ。休憩が終わったらゆっくりしてくるといい。お、梅昆布茶か。みんなも飲むか?」
ここは布団も仲居さんが敷いてくれるので、外国人のルイズ達にもなんとかなる。
「才人さんこそ先導ご苦労様です。お茶は私が淹れますから座っていてください」
「頼んだ」
シエスタの奉仕精神に頼ることにした。このときばかりは専属メイドがありがたい。
「お風呂に髪の毛入れちゃいけないのよね」
「そうそう」
「サイト、この髪飾りの使い方、これでいい?」
「うん、大丈夫。挟むだけだから大して気にしなくていいよ」
「どうせならダーリンと混浴が良かったわ」
「そうなるとキュルケたちの裸を他の男に見られるからね。部屋を借りたらそうしようか」
「このお茶なんて名前?ほのかに酸っぱい」
「梅昆布って言う酸っぱい実で味付けした海草が使われてるんだ。名前はそのまま梅昆布茶」
それから何十分か適当にだらだらして、風呂に行くことにした。
「やっぱ広い風呂っていいなー」
結構早い時間、しかもシーズンがずれているのでほぼ貸切状態で風呂に入っていた。お約束の「向こう側から女性陣の声が」とかは残念ながら無い。
「それにしてもルイズ達大丈夫かな?まあ、分からないことはシエスタ辺りが聞くだろ」
そのまま30分ほど湯に浸かっていた。
風呂から出た俺は伝統と化した牛乳を腰に手を当てて一気に飲み干し、ルイズ達を待っていた。あ~甘さが喉に絡みつくんじゃ~。
フルーツ牛乳にしとけばよかったと若干後悔しつつも部屋へ戻り、風呂上りのストレッチをする。
「さっぱりしたわ」
いい顔でルイズ達が戻ってきた。
「問題はなさそうだね」
「ええ、せいぜい小さな失敗くらいよ。本人の名誉の為にそれは伏せておいてあげるけど」
「それにしても平民があんなに大きなお風呂に入るなんて本当にダーリンの国には身分の差が無いのね」
「ああ、貧富の差はあるけどね。一応建前はみな平等って事になっている」
「そういえばこっちには指で磨かないんだっけ。どうしたらいいの?」
「あちゃー、歯ブラシのこと説明してなかったか。こっちは歯を磨く専用のブラシがあるから、夕飯を食べたら俺が順番に磨いてあげよう。硬い膝枕なのは勘弁してくれよ」
「その硬いのがいいんじゃない」
キュルケは結構マッチョ好きだ。
「それはキュルケだけ。柔らかいのも嫌いじゃない」
一方シャルロットはしょっちゅうキュルケに構われてるからかそんなことを言う。
「ま、順番は後で決めればいい。こっちにはじゃんけんって言うのがあるから、そのとき教えよう」
シーズンオフなのとみんなが疲れているので部屋で食べることにした。
「あうあうあー」
「磨き終わってから言ってくれ」
夕飯には仲居さんに外国人だからという事でスプーンとフォークを用意してもらい、みんなで食べた。炊き込みご飯が美味しかった。
「はい、終わり。口の中をゆすいで来て」
「ふふぶっはいほよ」
ルイズはくすぐったかったらしい。
「なら磨き方教えるから、覚えるまでは我慢するんだな」
「ひょうははいはめ」
「次はシャルロットか?」
「お手柔らかに」
「なんか違う気がするけど、まあ優しくするよ」
こうして順番に磨いていき、残すは寝るだけとなった。
「じゃあ今日はおとなしく寝よう。全員相手できるけどみんな疲れてるだろう」
「もう、サイトったら・・・・・・」
テファはまだ恥じらいが抜けないな。
「明日は部屋探しだ。2ヶ月くらいは居る予定だから、その間自分達だけで生活してみるのも面白いだろう」
「ダーリンが居るならどこだっていいわ!」
「ああ、こっちはあっちと違ってやたら安い物件とか
「しないで。絶対に、しないで」
「シャルロットが怖がってるからテレビでも見ながら寝よう。さて、どんなのがあるかな?」
この後結局2時間くらいみんなでテレビを見て、寝るのが遅くなった。
近いうちなろう辺りで別のを執筆しようかと思います。