帰った当初の母さんは信じられないと言った顔をしていた。
「才人?本当に才人なの?」
「うん、才人だよ。父さんは?」
「仕事よ。そろそろ帰ってくる頃だから、まとめて説明してちょうだい」
「分かった。だけどその前に荷物を降ろしてくるよ。デルフ、そしたら説明して俺達一度出るから挨拶」
「へーへー、俺様がデルフリンガーだよ。相棒のおっかさん」
「俺は連れて行ってくれるのか?」
「お前は背中の背骨に沿って隠しておけばいいからな。シャツの中で逆さに吊っておけばいいだろう」
「悪いな、デルフ。あ、俺地下水って言うんだ。よろしくな。マスターの親御さん」
「こいつらは魔法の剣で意思を持っているんだ。まあ、そんなものだと簡単に考えていてくれればいい」
「そ、そう・・・・・・」
「後ろに説明したい女の子が居るけど、それは父さんが帰ってきてからにしよう。そのほうがいい。それより母さん、久しぶりに味噌汁と肉じゃが食べたい。俺は自販機でコーラ買って来るよ」
「それなら何か頼んで一緒にコーラも届けて貰いましょう。父さんが帰ってくるまでは家にいて」
「分かった」
そこでくいくいと俺の袖が引かれる。
「才人、挨拶したいんだけど」
「ああ、父さんが帰ってきてからでいいかなと思ってたけど、まあいか」
「わたくしルイズ・フラソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールと申します。呼びにくかったらルイズと気軽にお呼びください」
「あ、ルイズずるい。キュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストーです。キュルケで結構ですわ」
「シャルロット・エレーヌ・オルレアン。シャルロットでいいです」
「シエスタです。よろしくお願いします!」
「ティファニア・ウエストウッドです。みんなからテファって呼ばれています」
「待て待て、一度に言っても分からないだろう。名前を聞かれたら改めて自己紹介すればいいから」
「そうね、母さんもびっくりしちゃって。長いお名前の方が多いのね。申し訳ないけど後で改めて聞かせてもらうわ」
「まずは一息付きたいな。母さん、緑茶か玄米茶ある?ほうじ茶でもいいんだけど、あっちには紅茶くらいしか無くてさ」
こうして父が帰ってくるまでは微妙な空気が残るため、母さんは台所に引っ込んだ。
「はぁ、やっぱお茶飲んでると落ち着くな」
「才人さん、これの使い方は上を押せばいいんですか?」
「うん、下に急須を調節して置いてからね。早く慣れようって言う姿勢は感心だシエスタ」
「えへへ」
「それにしてもベッドが無いわね。どうやって寝てるの?」
「ああ、そこに引き戸があるだろ?横にずらして開く戸なんだけど、その中にふとんって言う寝具が入ってるんだよ。寝るときはそれを敷いて寝る。この畳に布団を敷くとイグサの香りも相まって日本人は落ち着くんだよ」
「そういうものなのね。一つ勉強になったわ。ねえ、才人私もふとんで寝てみたいんだけど」
「分かった、ルイズ。それならホテルより旅館にしよう。全員一室で泊まれるくらいの方が何か分からないことがあった時聞けるからそのほうがいいだろう」
「この家で寝るんじゃないの?」
「5人は流石に狭いだろう」
「ただいま」
「父さんが帰ってきた。紹介するからちょっと静かにしててくれ。おかえり、父さん!才人だ!」
「才人、才人なのか?」
「ああ、あっちで相当揉まれて筋肉付いたけど、才人だよ。ただいま。父さん」
「お帰り。それで、後ろの娘さん達は?」
「俺の婚約者。それも全員」
「え?あ、えーと、そうだ、まずは帰還祝いだ!ご馳走にしよう」
「それだけど、母さんが味噌汁と肉じゃが作ってるから出前がいいな」
「そうか、なら外国人のお嬢さんたちにも食べられるようピザがいいか」
「それだと足りないだろうし面白みも無いから寿司も追加でお願い」
「そうだな。日本の味を知ってもらおう」
「じゃ、あらためて母さんと一緒に説明するから玄関で話し込むのもなんだし」
「それもそうだな」
こうして出前が到着する間、料理を作り終えた母さんと帰ってきた父さんに説明した。
「婚約者が出来た。それも5人」
「改めて聞いても現実感が無いな。あっちの世界は同時に娶っても大丈夫なのか?」
「貴族が居るからね。側室とか普通に居るよ。ルイズが第一夫人候補だけど」
「お義母さまにはあらためて、お義父さまにははじめて紹介させていただきますわ。ルイズと申します。よろしくお願いします」
「ああ、よろしく頼むよ。ところで皆とても個性的な色合いの髪の色をしてるけど、染めているのか?」
「いえ、地毛ですわ」
「そ、そうだったのか」
実際に染めた不自然さが全く無いのだ。
「で、そっちの赤い髪がキュルケ、青い小さい娘がシャルロット。黒髪の娘がひいおじいさんに日本人の血を持つシエスタ。最後の金髪の娘がティファニア。この娘はハーフエルフだ」
「ハーフエルフって言うのがいまいち分からんが、分かった」
「とりあえず才人の彼女ってことでいいのね?この子ったらこんな可愛い子をそれも5人も捕まえちゃって、隅に置けないわ」
半分思考停止してるらしい。まあ時間が経てば回復するだろうし、いいか。
そこでインターホンを鳴らす音が。
「出前が来たようだ。こっちで俺が好きだった飲み物もあるから、あと生魚を美味しく食べる技術が進歩しててね。どっちが先に来たのか分からないけど、まあ食べよう」
それから母さんがカルパッチョ作ってくれるまではシャルロット以外寿司には手を出さなかった。
カルパッチョを食べてる様子を見て
「・・・・・・本当に食べてしまったのか?」