2ヶ月間貰った領地をほっ放り出してたので、俺はオルニエール領に向かうことになった。
元々領主不在の直轄領だったので人事を調整して俺が居ない間も回るようにしてあったが、ジョゼフの手ほどきとヴァリエール公爵の手記もあって問題は無い、と思う。
ともかく、俺にはバハムートと言う足があるので月に一度は政務をしに戻らないといけなかったのだ。
「お帰りなさいませ。旦那様」
「ただいま、セバス」
こいつの名前はセバスチャン。名前からティンと来たので家老として雇い入れたのだ。元々屋敷を管理していた老夫婦にも好評の出来る執事である。
「予定より少し早いが戻ってきた。何か変化はあったか?」
「いえ、特にはございません」
「そうか」
そういやこいつらにも土産を渡しておかないと。
「そうだ、みんなに土産を用意してある。ビールと言う酒とチョコレートと言う菓子だ。菓子は孫と食べるといい」
「ありがとうございます」
「では、溜まった政務を片付けるかな」
俺は早速仕事を片付けるために執務室へ向かうのであった。
「旦那様、お耳に入れたいことが」
しばらく席を外していたセバスがなにやら領民から聞いたようだ。
「最近の作物の具合が芳しくないようです。土メイジを派遣するのがよろしいかと」
「もうじき秋だったな。凶作か?」
「それほどではございません」
ふむ、それだと来年辺りに来る可能性があるか。
「今回刈りいれを行ったら腐葉土を撒け。虫が沸くが栄養に変わる。それと、キングベヒんもスで貝と魚の買い付けをしてこよう。どうせだから領民に食べさせ、殻と骨を砕いてこれも畑に撒け。腐葉土を取った森には腐敗し切って臭いすらしなくなった糞尿を撒いておけ。ただしぶどうの木にはやるなよ。森の生命力ならアレも養分にしてくれるだろう」
「はっ」
堆肥は今のハルケギニア民にはまだ受け入れられないだろう。何しろ糞尿が栄養に変わるなんて知識が無いのだから。それよりはまだ森から腐葉土を持ってきて撒くか、貝殻でミネラルを補給させたほうが外聞もいい。ここら辺の森ならば亜人は狩り尽くしたのであとは肥沃な土が残っているだけだし。何より直接畑に撒いてコレラが発生するのが怖い。森に浄化してもらおう。
「買い付けの資金はいかが致しますか?」
「錬金した大粒のダイヤがあっただろう。アレを3粒売ればお釣りが来る」
「では、そのように」
しかし内政と言ってもやることは地味だしあまり無いな。俺があまり口出ししないと言うのもあるんだが。ああ、そうだ。冬に仕事が無くなるからアレをしよう。
「今期の秋から冬にかけて上下水道の工事を行うよう触れを出せ。老人ばかりで過疎化が厳しいからな。出稼ぎでもいい。ここに足を運ぶ人間を確保しろ。3割でも住み着いてくれれば儲けものだ」
「かしこまりました」
「それと、他の領地から人が入るといさかいが起こる可能性があるからな。警備を強化するために面接を行う。実技と筆記も加えておけ。面接と実技か筆記を合格すればそれに見合った部署に配置する」
「はっ」
老人達の過疎地だが、余所者を警備に加えて横暴な態度に出られても困るからな。楽しい楽しい圧迫面接だ。
「面接は一次と二次に分けて、二次の公表はするな。一次面接と他の試験を通ったものにだけ受けさせろ。こういったものはどうしても漏れが出るから入念に試験するぞ」
「面接の面子はどのように?」
「各村の村長を集めろ。仕事を休ませた分はしっかり補填しろよ。二次面接に俺が直接見る」
「かしこまりました」
これでよし。他に何かあったかな?
「他に何かあるか?」
「ヴァリエール公爵様からの招待状を受けています」
「分かった。日程を調整しておけ。キングベヒんもスで行くからそれも含めてな」
「はっ」
貴族になるとこういう見栄って大事なんだよ。竜を侍らせて魔獣に馬車を引かせる。これで権威を示さないといけないわけだ。
「着る服は俺が考案しよう。ちと関節が窮屈でな」
イザという時動けないと大変だ。
「ようこそ、婿殿」
それから一週間後、キングベヒんもスで俺はヴァリエール領に来ていた。
「ご無沙汰しております。義父上、義母上」
そこには歓迎の意を示すヴァリエール公爵と目礼するカリンちゃんが居た。
「うむ、領地を得て婿殿もそろそろ八月経つ。調子を聞きたく思ってな」
「義父上のおかげで順調です。義母上も腕は衰えていませんか?」
「確かめてみますか?」
「はい、義父上、演習場を貸していただけますか?」
「カ、カリーヌ。せっかくの婿殿との語らいだ。今宵は義理の息子と二人きりで酒を酌み交わしたいと思っていたのだ。後日にしてくれ」
「義父上がそう言うのであれば、義母上、申し訳ありませんが明日にしましょう」
「そうですね。では、そのようにしましょう」
最近はカリンちゃんに挑むのが裏ボスをソロで挑んでいるような気持ちになってちょっと攻略してみたくなってきた。報酬は「烈風を倒せし者」と言う称号。尚、毎度粘られて時間切れになるので経験値が必要だ。
「ならば夕餉の後にでもチェスでもしながら最近の様子を聞かせてくれまいか。婿殿が頑張っている様子が最近楽しみでな」
「はい、義父上」
尚、ヴァリエール公爵は知略面でかなり強いのでチェスはぼろ負けだった。
「ただいまー」
お触れを出してからの面接は来月なので、一旦学院に帰ってきた。
「おかえりなさい。お疲れ様、あなた」
ルイズが俺に駆け寄ってきて頬にチュッとねぎらいのキスをしてくれる。ハハハ、愛い奴め。
「ああ、ただいま、ルイズ。オルニエールに顔を出したら義父上から招待状を貰ってね。顔を出したらチェスでコテンパンにされちゃったよ」
「父さまったら大人気ないわね。でも、それだけじゃないんでしょう?」
「ああ、領地について何か困ってないか聞かれたよ。義父上のおかげで大分助かっているんだけど」
「父さまが手記をくれるなんて黄金にも等しいわよ。いえ、生み出す量で言えば黄金に勝るでしょうね」
「そうだな。おかげでこうやって月に一度顔を出すだけで妻達との時間が作れる。本当に感謝するしかないな」
「もう、才人ったら!」
「真面目な話、俺だけだったら仕事に追われ妻達とはすれ違いになっていただろう。何しろ領地が旧オルニエールの倍以上はあるのだから。だから、本当に助かっているんだよ」
「才人・・・・・・」
「そうだ、今度領地の警備を強化するために面接をするんだ。ルイズ達の鑑定眼も生かしてみないか?」
「領地の?」
「ああ、上下水道を工事するために人足を雇うんだけど、それだけだと外から来た若い奴等が早まった行動をするかもしれない。治安を守る人材が必要なんだよ」
「でも、私に出来るかしら」
「何、大丈夫さ。クルデンホルフでの一件もあっただろう?もっと自信を持つといい」
「そうね、才人がそう言うなら私も頑張ってみるわ」
「ああ、頼もしいな」
「才人、今日は久しぶりにシエスタが忙しいの。だから・・・・・・」
「みなまで言わなくてもいいよ。夜は長いようで短い。思う存分語り合おう」
「才人・・・・・・!」
この直後俺はルイズに押し倒された。あれ、立場逆じゃね?
才人君は安定志向なので積極的なNAISEIをしてくれません。でも堅実派なので先行投資をしてでも後の確実な得を取る派です。