季節は冬。現在俺は週末に領へ戻り、書類整理と治安維持の為の巡回を行っている。警備の引き締めも兼ねているので面倒だが続けている。今は大事な時期だからね。工事も終わって安定期に入ればこんな面倒な事はしないでもいいんだが・・・・・・。
「ふむ、そろそろ酸性が必要か」
ついでに畑の土も見ている。二酸化炭素を溶かした酸性雨を降らせないとかな。
「後は森の様子はどうだ?」
「はっ、あれから根腐りも起こすことなく、汚物は森に吸収されたようです」
近くの衛士が答える。こいつ等は厳しい面接にパスし、俺が定期的に巡回するので意識が高くなった連中だ。
「そうか。ならば引き続き汚物は腐葉土と混ぜ、臭いがしなくなったところで森に撒いておけ」
「はっ!」
とりあえずはこんなところかな。雨を降らせた後、学園に戻るとしよう。
「才人、領の調子はどう?」
ルイズがオルニエール領の様子を聞いてきた。こいつらは婚約者だけど学生なのでそこまで政務に携われないのだ。
「順調だよ」
「でもダーリン、誰しも領の経営なんて最初は躓くものよ?それを難なくやっているってすごい事だわ」
個人的にNAISEIチートを知っている身としてはキュルケが褒めてくれることを素直に喜べない。もっと上手い手があったんじゃないかってね。
「難なくってわけではないね。周りに助言を貰ってやっとこさやっている状態だよ」
ほんとまだまだだ。
「他の貴族ではこうは行かない。平民との隔たりでもっといっぱいいっぱいになる」
シャルロットの言った通りなのかな。
「ん、まあ俺はそこまで偏見とか無いからかもしれないね」
今俺は学院のテラスでルイズ、キュルケ、シャルロットと茶を飲みながら談笑している。シエスタとテファはお代わりのお菓子を取りに厨房へ行った。
まだ領内は周りに借金などをすることなく上手く回っているので問題ないが、蓄えも俺の錬金に依存している状態だ。追々改善していかなければなるまい。
「地域の特産・・・・・・かぁ」
「ん、何?」
「いやルイズ、収入の大半が俺の錬金だとどうかなって思ってね」
「オルニエールって言ったらワインがあるじゃない。それを一工夫してどうにかなんないの?」
「その手があったか」
元々オルニエールではワイン造りが盛んだ。今も作られてはいるが、年寄りがメインでこの先頼っていくには心許ない。
なので若者の中から実地研修を受ける奴を募集、同時にグラッパを作ろう。
グラッパとは、ワインの搾りかすを再利用して作る酒の事で、搾りかすの割にアルコール度数が高いのが特徴だ。これとタルブで広めたスパークリングワインを試験的に作成してみよう。後は・・・・・・ミードかな?まあ、それは後だ。どこかから蜂を捕ってこなければならない。
資金に余裕が出来たら太陽光発電も取り入れて電球くらいは取り付けても良いかも知れないな。まあ、住人の大半が年寄りだから早く寝るし、必要なのは酒場くらいだろうが。
「色々と参考になったよ。ありがとうルイズ」
「なんとなくの一言でそこまで持っていくのもあんただけだと思うけど・・・・・・まあいいわ」
「何、もう新しい事思いついたの?」
「うん、2、3種類酒が増えそうだ」
「いいわね。出来たらあたしにも頂戴?」
「興味ある」
「今はまだ頭の中でだけの構想だから上手く行ったらね」
やはり一人で悩んでいるより相談したほうがいいな。
週末、早速領に帰ったら余っている土地を使ってドドーンと錬金で建物を建てた。こういうときお手軽でいいよね。錬金。
ここの前に読み書き出来る村人を集め、この建物がどう言う事に使うのかを説明する。
「いいか、これは普段捨てるしかなかった搾りかすを再利用して酒を造る設備に使うんだ。人が集まったら俺が造り方を説明するからみんなは声をかけて、人を集めてくれ。出来るだけ若者が良い。年寄りはワイン造りに忙しいからな。もちろん興味があるなら年寄りでも歓迎だ」
「だども若様。搾りかすってーと外聞が悪いんじゃねえべか?」
「貴族には不純物を取り除いた酒精の高い酒とでも説明しておけばいい。実際嘘は言ってないからな。さて、俺は機材を錬金してくる。後は頼んだぞ」
「分かりましただ」
後は適当にぶどうか搾りかすを貰ってきて現物を作る準備をしなければならないな。錬金は本当に便利だ。そうなると本格的に作るんだったらぶどう用にガラスの温室を作るのも手か。要検討だな。
現状残っていたのは干しぶどうしかなかったため、錬金で戻してワインを造ってもらい、そこから搾りかすでグラッパを、残り半分でスパークリングワインを作ることにした。これらは別にフルーツワインでも代用できそうなため、冬に強い作物を並行して研究する事にする。
後は温室だ。
まず、試験的に一戸建ててみる。強度が必要なのでガラスも厚めだ。そして雪が積もらないように屋根の角度をきつくする。
後は風石と火石を使ったエアコンを取り付け、完成だ。火石は危険だが、エルフは照明用に使っていると聞くし、メイジがわざわざ魔法を使ってヒビとか入れなければ問題ない。逆にここで爆発があったらメイジのせいだ。いくらか監視用の使い魔を放っておこう。
軌道に乗ってきたら室内にでもエアコンを取り付けるか。暖炉も風情があっていいんだが、いかんせん薪代が結構かかる。一般家庭に普及させるのは一通り実験が終わってからだな。せめて火石の安全基準を灯油レベルにまで上げなければ話にならん。
酒は仕込んだので少し待たなければ。強いグラッパと婦人でも楽しめる甘いスパークリングワインで客層を分けていこう。楽しみだ。
番外編は基本短編になりそう。
追記
シャルロットがタバサになっていたので修正しました。