2 白髪少女提督マリア大佐
1年前……占守島分駐所
深海棲艦の出現にロシアはウラジオストクを含めた沿海州海岸地域などに多大な被害をもたらした。
それは領土問題になっていた千島列島を含めた北方領土も入っていた。
しかし、ウラジオストクのロシア太平洋艦隊は壊滅し、海軍戦力を損失、北方領土を維持する事が出来なかった。
そこに艦娘を保有した事により改変された日本海軍が掃討・奪還作戦を発動、北方領土を奪還した。
これにより守備範囲が拡大し、北方方面の最前線は大湊鎮守府から北に張り出した。
そこで上層部は単冠湾泊地の開設と共に前線哨戒拠点として占守島に分駐所の設置を決定した。
そして、占守島分駐所が開設され、提督が配属される日になったのだが……。
「こんな僻地に配属される提督ね……ロクな奴じゃあないわ」
占守島分駐所秘書艦として配属された叢雲は冬季被服を着て新たに配属される提督を待っていた。
とりあえず、叢雲が聞いているのは提督が着任する……としか聞いていないので、それ以外の事は何もわかっていない。
故に彼女が出来るのは分駐所の前で待つ事ぐらいだった。
「あら、誰か来たみたいね…少女?」
キャリーバックを曳きながらこちらへやって来る少女。
そして、その少女は分駐所の門に到着すると叢雲を見て言った。
「あなたがこの分駐所の秘書艦?」
「え、えぇ…そうよ…貴女、誰なの?」
「私は……はい、辞令書」
少女が渡した辞令書にはこう書かれていた。
「『マリア士官候補生 貴官を大佐に任官し、占守島分駐所への配属を命ず』…えっ、あ、貴女が提督!?」
「そう、よろしくね」
北の冷たい風が雪の様に白い少女の髪をフワリと靡かせる。
その光景に思わず見とれながマリアが差し出した右手を握る叢雲だった。
分駐所執務室
「えーと…提督は何でこんな僻地に来たの?」
執務室の古いストーブで沸騰させたヤカンのお湯で暖かいお茶を煎れる叢雲。
「来たのって…自ら志願したの」
「し、志願……あ、あの、提督って何歳?」
「16歳」
「16!?」
確かに最近は若い提督も輩出されているが……叢雲が知っている限り、士官候補生で16歳、しかも大佐となれば成績は…。
「ちなみに成績は?」
「同期ではトップよ。苦手なのは運動関連だけどね」
「…………あ、うん……ロクな奴なんて言って、ごめんなさい」
「???」
何の事だかサッパリ解らないマリア。
一方、叢雲と言うと……
(おかしいじゃないの!? 成績トップ、16で大佐よ! 充分エリート街道じゃない!! なのに志願で僻地に来るなんて…何かおかしいわ!!)
目の前で煎れたばかりのお茶を優雅に飲むマリアを見ながら叢雲は設定キャラをかなぐり捨てて心中でツッコミを入れていた。
「こんな誰もが捨てておけない、スカウトで引っ張りダコであろう私がこんな僻地の分駐所へ志願で来るなんておかしい?」
「……心でも読めるの?」
「同じ疑問を誰もが持つからね」
当たり前だ…と叢雲は心中で再びツッコミを入れる。
「確かにそうよ。私の成績を見てあっちこっちからスカウトは来たわ…でもね、私は余り興味もないし、うるさいのや人が多いのが苦手なの」
「だから、自ら志願でこの最北端の分駐所へ?」
「えぇ。それに私は日本生まれじゃないの」
「まあ、それは髪を見ればわかるわ。何処の生まれ?」
「ロシアよ。でも、母はルーマニア生まれ。父はロシア生まれ」
「……ふ、ふーん…」
ルーマニアと言われて疑問符を浮かべながら頷く叢雲。
「無理して頷く事はないわ。さて、今日はどうしようかしら?」
「まあ、建造するとか…私を出撃させるとか…」
「……いえ、今日はもう休むわ。雪や冬は好きだけど、移動で疲れたしね」
そう言ってマリアはキャリーバックを曳いて執務室の隣にある寝室兼私室に入っていった。
数時間後………叢雲の部屋
「むぅ……ほぇ……うそ、もうこんな時間!?」
提督が私室に引き揚げた為、仕方なく自室に戻った叢雲。
本当だったら少しだけベッドに寝転がって直ぐに提督を私室から引っ張り出すつもりだったが、いつの間にか寝入っていたらしく、起きると陽は落ち、時計は1800を指していた。
「あぁ、もう! 夕飯はどうするのよ!?」
飛び起き、乱暴に自室のドアを開け、提督私室に向かう。
途中で食堂の前を通り掛かると……誰も居ない筈の食堂の調理場から鍋がグツグツと鳴り、包丁がまな板を叩く音が響いている。
慌てて叢雲は調理場に入るとエプロンを着たマリアが料理をしていた。
「な、何してるの、提督?」
「なにって…夕飯の準備ですよ」
「…えっと…提督って料理出来たの?」
「えぇ、士官学校ではする機会自体が減ってたけどね…さあ、出来上がり。簡単な物だけど、夕飯にしましょう」
占守島分駐所稼働初日の夕飯は鮭の塩焼き、卵焼き、お味噌汁、ご飯の4品であったものの、何故か仄かに暖かかった。
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