「人生やり直すのに、遅すぎることはないのよ!」
俺の正面に座る見事なロリボディをした我らが生徒会長桜野くりむが何処かで聞いたことがある言葉を叫んでいた。
最近飽きつつあるため皆いつも通りに聞き流す中、杉崎だけは賛同の返事を返していた。
「そうっすね」
「貴方に言っているのよっ、杉崎!」
「ええ!?」
わざわざ返事を返してくれた杉崎に対していきなり人差し指を突きつけられながら言い返す会長。賛同したのに攻撃された杉崎は驚いていた。
まあ、確かに杉崎は反省すべき点が多々あるからな。
「確かにこいつ、早急に人生やり直す必要があるもんなー」
そう言って腕をぐるりと杉崎の首に巻いて締め付ける椎名。……胸が微妙に杉崎に当たっているからか杉崎は苦しみより喜びの顔を浮かべていた。流石はド変態代表である。
「いいわね。今のキー君もいいけど更生したキー君というのも見てみたいわ」
「ちょっ……更生って。俺は超真面目優等生ですよ。知弦さん」
少し微笑みを浮かべた表情で、首を締められたままの杉崎に話しかける紅葉先輩。
あっ、杉崎がタップし始めた。どうやら順調に首は締められていっているらしい。
「……真冬もみたいです。真面目な杉崎先輩。きっと……かっこいいと思いますよ?」
「真冬ちゃん?それだと今の俺全否定されてないか?」
杉崎の言葉にそっと目を逸らしながら「……ごめんなさい」と呟く椎名妹。
……だんだん杉崎の顔が土気色になってきているな。まあ、大丈夫だろう。
「杉崎。ここから近いところに更生施設が一つあるから行ってこい」
「俺、そんなに酷い人格をしてるかなあ!」
当たり前だ。少なくとも俺の中ではかなり酷いぞ。
……叫んだからか先程よりもヤバイ顔色になっている杉崎。あれ、死ぬんじゃねぇの。
そう思ったのは俺だけじゃなかったようで椎名妹があわてて止めに入っていた。
「おっお姉ちゃん。そろそろ放してあげようよぅ」
「ごめん、真冬。お姉ちゃん、生まれて初めて真冬のお願いを……却下する!」
「こんなところで!?」
「椎名が椎名妹の頼みを断るなんて……どんだけ嫌われてるんだよ杉崎」
椎名の杉崎への
ていうかやばくないか杉崎。もう顔色が明らかに死人のそれになってきてるんだが……あっ倒れた。
「……おっおーい、鍵?あれ?やっちゃった?」
「やっちゃったってなに!?お姉ちゃん!?」
「そりゃあ、『殺す』と書くほうの殺っちゃっただろ。椎名妹」
「そんなことはどうでもいいよ!ていうか深夏っ!確かに人生やり直したほうがいいとは言ったけど終わらせろとは言ってないわよ!?どうするのよ……この事がバレたら大変なことに……」
まさかの死人ができてしまいパニックになるなか、俺と紅葉先輩は落ち着いて今後の行動を模索していた。
「生徒会で初の死人ね……仕方ないわ、隠しましょう5人で……手伝ってくれるリョウ君」
「まあ、こんな奴のために人生棒に振るなんて馬鹿馬鹿しいですからね。……いいですよ手伝いましょう。」
「ちょっと?あの……知弦に笹鳴?なんでそんなに活き活きとした顔をしているの?今までそんな顔、見たことないんだけど」
何故か会長が怯えていたが気にせず作業を続ける。
「それじゃあリョウ君。そこの棚にのこぎりがあるから取ってくれる」
「了解しました」
何故生徒会室にのこぎりがあってそれを紅葉先輩が知っているのか疑問に思ったが気にせず作業を続ける。
「それじゃあ私が切るからリョウ君は押さえててくれる」
「了解しました」
「されてたまりますかああああああああああ!!」
何故か杉崎がタイミング悪く起きてしまったが気にせず作業を続けーー
「いや何続けようとしてるんだよ!?」
ようとしたが杉崎に止められてしまった。……チッ。
どうやら不満なのは俺だけではなかったようだ。他の面々も文句を漏らす。
「なんだよ。生き返ったのかよ。……つまんねーの」
「俺の生死の扱い軽くないか!?」
「隠し通す自信があったのに……」
「そういう問題じゃあなくない!?」
「よかったですぅー。「まっ真冬ちゃんっ……!」お姉ちゃんが人殺しにならなくて本当によかったです」
「そっち!?」
椎名と紅葉先輩の言葉、プラス真冬ちゃんの上げてから落とす攻撃の追撃によりorzと膝をつけ倒れる杉崎。……しかし、orzってなんて発音すればいいんだろうか。オルズ?いや、オアズか?
などと考えこんでいるといつの間にか会長と杉崎が真剣な眼で見つめあっていた。えっなにこの状況。
「会長……」
「杉崎……」
「……ボクは死にません。貴方が、好きだから」
「……杉崎……」
さらに真剣な眼を向ける会長に対して唇を付き出し始める杉崎。だからなんなのこの状況。
しばらくそのまま時間が過ぎたあと会長が「はぁー」と長いため息をついた。
「どうしました?やっぱりファーストキスは二人きりがよかったですか?」
「馬鹿は死ななきゃ直らないって言うでしょ」
「はい?」
突然の話題転換について来れない杉崎。しかし、ここで俺は会長が何を言いたいのかがわかってしまった。
「会長、世の中上手く行きませんね……」
「本当にね……」
「えっと、どういうことですか会長?」
「馬鹿は死ななきゃ直らないから臨死体験したならマトモな人間になるかなって思ったのよ」
「なんだそんなことですか……。大丈夫ですよ会長!俺はマトモですから!」
「マトモな人間は絶対にそんな発言をしないよ!」
杉崎が全力でマトモアピールをするが会長はそれを即批判する。しかし、それに納得できなかったのかこちらに話を振る杉崎。
「皆っ!俺、マトモだよな!」
「「「「「……………」」」」」
長いながーい静寂がそこにはあった。杉崎への解答は言うまでもないだろう。だって、ねぇ……。
そしてまたもorzと落ち込む杉崎。まあ、自業自得というか普段の行いが悪いというか……。
「まあ、気にするな杉崎」
「笹鳴……」
杉崎の肩にポンッと手を置く。俺の言葉に杉崎は目に涙を浮かべ俺を見つめてくる。うんやめろ。
「そんなのいまさらの話だろ」
「ぐはっ」
俺の一言に倒れる杉崎。
そんな杉崎に気にもせずに会長は話を進める。
「とにかく杉崎は更生すべきだと思うのよ。仮にも生徒会副会長なんだし威厳がないと」
「威厳の欠片もない会長がそれを言いますか」
思わずそう漏らししてしまったが俺は悪くない。ほら周りの面々も頷いているし。
そんな周りの視線に気づいた会長だが、強引に話を進めにかかる。
「とっ!にっ!かっ!くっ!今日は杉崎の性格の改善をしましょう!それがいいわ!うん!」
「どっどうしたんですか急にそんなことを言いだすなんて」
あまりの剣幕に軽く押されながら質問する杉崎。確かに今日の会長は少々しつこい気がする。
皆も疑問に思ったのか首を傾げたりしていている。
そんな中会長は堂々と鞄からだした物を机に叩きつけた。
「これよ!」
それは碧陽学園の壁新聞だった。一見なんの変哲もない壁新聞。しかし、その内容はいつもと少し気色が違った。
「『速報!生徒会副会長・杉崎鍵は、昔二股をかけていた!』だぁ?」
「あらあら大変ねぇキー君。」
「ひどい記事です!杉崎先輩はそんなことする人じゃあ……。……………………ごめんなさい」
椎名が読み上げた記事に紅葉先輩は楽しそうに笑い、椎名妹はフォローしようとしたが途中で杉崎ならしていてもおかしくないことに気づき謝っていた。
そして俺はこう思った。だからなに?と。
そもそも、四人もの女子に俺のハーレムメンバーになれ!などと宣いている奴だ。今更こんな記事を読んだところで何も思うまい。
しかし、会長はそうは思わなかったようだ。
「生徒会副会長ともあろう者がこんな記事を書かれて!」
「あの新聞部、こういうの好きですからねぇ……」
確かに碧陽学園の新聞部はというか今新聞部部長はこういったゴシップ記事のような物が好きだ。これまでも生徒会関係のゴシップ記事を書いていて会長が愚痴をよく漏らしている。書かれているのがほとんどが会長が起こしたドジについてだから仕方がない。
まあ、問題がある分実績もしっかりと残しているから普段は少しの愚痴ですむのだが……。
「杉崎!まずはこの記事の内容は真実なのかどうかはっきりとしてもらうわ!」
今回は本気でお怒りになっていた。まあ、今回は新聞部に対してではなく、どちらかというと杉崎に対してだろう。まあ、確かにこれまでの記事よりもとんでもない内容であることは確かだしな、わからなくもない。
「あ、会長。嫉妬ですか?俺の昔の女が気になって「そうやって誤魔化そうとしても無駄よ。杉崎!」ませんか……」
杉崎がいつも通りに道化を演じる作戦を行ったが失敗していた。どうやら今回の会長は大分本気のようだ。
「降参したら、キー君。こうなった時ののアカちゃんは事実確認が取れるまで諦めないわよ」
「分かってますけど……」
『会長モード』とも言うべき状態になった会長と紅葉先輩の駄目押しにより観念したらしい杉崎はこれまでの軽い態度をやめて真剣な目で答えた。
「結論から言って、事実です。俺は、昔、二股かけてました」
杉崎の言葉に会長は、いや、俺を含めた誰もがつっかかることはなかった。いつもの様に軽いノリでの言葉なら誰かが責めていただろう。だが、杉崎の真剣な目を見て、それができる人間はここにはいなかった。
「……そう」
そう小さく呟いた会長は座り、杉崎に向き直った。
「……で?そのことについて杉崎は詳しい経緯を話す気はあるの?」
「すいません。今はちょっと、勘弁してください」
「……でも、事実なのよね」
「はい」
「弁明する気は?」
「ありません」
「……ん、わかった。じゃ、この件はおしまいっ!」
会長はそう言い背伸びをすると、いつもの様に杉崎につっかかっていた。
「さて、杉崎!それじゃあ早速貴方の更生をするわよ!生徒会役員がこんな記事を書かれちゃ困るんだからね!」
「……そうですね。まあ、更生というより表面を取り繕うぐらいはしましょうかね」
その言葉にいつもの様に俺たちも続く。
「そうだな、確かに杉崎の愚行は目に余るものがあるしな」
「まっ真冬もっ、杉崎先輩はもう少し気をつけたほうがいいと思います!」
「そうだぜー、鍵。おまえ常日頃からハーレムだなんだ言ってるだろ?そりゃ、ゴシップの一つや二つ書かれてもしかたねぇよ」
「こんなところでケチをつけられちゃ、それこそつまらないわよ、キー君。ハーレム目指すならもっとガードを固くしないと」
もう誰も二股について触れていなかった。別に気を遣っているわけではない。その選択肢を作ろうともしていない。
これは逃げなのかもしれない。杉崎に対する甘さなのかもしれない。
でもそれがなんだ。逃げるのが悪なんて誰が言った。甘さが不出来に繋がると誰が証明した。
いつか戦わなきゃいけなくて、苦い思いをすることになるのだとしても、今じゃなくてもいい。少なくともここはそういう場所じゃない。
そのことを他の奴らも理解しているからこそ俺と同じことをした。それだけの話だ。
「さて、それじゃあ杉崎の更生をどうのようにしてやるか考えてこう!」
こうして、いつも通りの会議が始まる。
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