自分で突っ込んでみました。
ある日のクレタ島近海 夜
この夜、哨戒の深海棲艦部隊は運が悪かった。
何故なら……
「…沈め」
至近…いや、零距離まで迫った不知火は死神の宣告の様に言いながら重巡に12.7㎝連装砲を顔面に突き付け、沈める。
周囲にいた重巡の僚艦は不知火の魚雷を受けて既に海上に姿はない。
そして、ユラリと立ち上がると周囲を見回す。
「よう、お疲れ」
「お疲れ様です。不知火さん」
改二になったばかりの摩耶と鳥海が不知火に近付いてくる。
2人も先程まで重巡隷下の部隊と撃ち合っていたのだが、どうやら終わったらしい。
「御二方もお疲れ様です。とりあえず、敵哨戒部隊とも交戦しましたし、私達も引き上げましょう」
「あー、威力偵察なら、もっと暴れれるんだけどな〜」
「これはそう言う『指示』ですから、従っていただきます」
何時もの表情を崩さず、摩耶の不満を一言で切って捨てるとクルリと反転し、帰路に着く。
「へいへい、優しい副官様と同じく優しい憲兵様のところに帰りますよ」
「……一言、二言余計です」
少し不機嫌そうに…実は意図を見抜かれた故の不機嫌だが…言うと荒れる海も気にせず、不知火は予定コースを行く。
その後ろを「やれやれ」と言いたげに摩耶と鳥海は付いていく。
そして、遠くで先程まで聞いていた雷音に似た音が3人にも聴こえていた。
この日、滝崎・高塚達の計画により、水雷戦隊を中心とした威力偵察が行われた。
チームは6つ。不知火、摩耶、鳥海の特設火力チームに川内、神通、那珂の水雷戦隊、これに今回鎮守府の潜水艦娘全員を入れた潜水艦戦隊、酒匂に夕張を付けた臨時水雷戦隊を加えていた。
2人の出した指示は『無線封止下で多方面から隠密理に侵入し、敵哨戒部隊と接触した場合、様子を観て危険無くば放置。気付かれたなら、交戦し、撤退。その後、集結し、帰還する』と言うシンプルなものだった。
無論、これが普通の威力偵察と言っていい。
一応、地中海方面艦隊上層部幹部の一部が講和を望んでいるとは言え、それでクレタ島の防備を教えてくれる訳でもないし、逆にクレタ島を何の助けも無しに自力で奪還する事で此方の力量を測るつもりなのだろう。
よって、今回の威力偵察も『偵察』以外の意味でも重要な布石であった。
そして、威力偵察自体は何も特別な事は無く、一戦の後、どの部隊も撤退した。
だが……
暫くして マルタ島鎮守府 会議室
「なに……天候の急変? 濃霧が掛かっただと!?」
その報告を受けた滝崎は片手に持っていた既に冷めた砂糖入りコーヒーのコップを乱暴に置くと、無線機の送受話器を両手で握り直す。
『はい。つい先程、集結海域に到着しましたが、クレタ島近海を覆う様に霧が発生。数秒で周囲も覆われたので残念ながら、他の戦隊の方は確認出来ませんでした』
無線で報告する不知火の声に混じり、摩耶と鳥海の会話も断続的に聞こえており、既に『霧が凄い』『周囲確認が難しい』との文言も聞こえていた。
「わかった。周囲警戒をしながら、他戦隊の到着を待ってくれ。改めて指示を出すかもしれん。気を付けてな」
『了解しました。通信終了』
不知火の言葉に送受話器を戻す滝崎。
そこに手近なソファで迷彩服姿のままで仮眠していた高塚と近くの椅子でウトウトしていたステファノス、控えていた大淀が集まる。
「話は大半聞いた。とりあえず、天気予報の確認だな」
「あぁ。大淀、済まないが松島宮達を起こして来てくれ。ステファノスはギリシャ、高塚はトルコから気象状況と予報の確認を頼む」
「「わかりました」」
「了解」
それぞれ分かれて指示に取り掛かる中、滝崎も手近な海図に状況を書き始めていた。
暫くして
「少し不味い事になったよ、副官殿」
「どうしました、山本大佐?」
既に主要メンバーが集まり、今後の対策を立てていた時、山本大佐が高塚と共に滝崎達の所へやって来た。
「実は同志から事情を聞いて、伝手を使ってロシアの気象台に天候を調べてもらったんだが、強力な寒気団が黒海からトルコを通り、こちらに南下したらしい」
「なんと…気象の異常てやつか」
「それだけなら、まだいいよ。この寒気団は勢力を維持しつつ、こちらまで来たみたいだ。気象レーダー映像があればもう少し上手く説明出来るが、どうやら長丁場になりそうだ」
「一過性ではない、か…仕方ない。集結海域を設定し直すか、このまま個々に帰還させよう。場合によってはこの天候が奪還作戦にも影響するだろうし、今から無理は…」
「大変です!」
3人の会話にステファノスが声を上げて入ってきた。
「どうした?」
「酒匂・夕張隊から連絡です! 先程からの濃霧で殿に就いていた皐月ちゃんと離れ離れに…」
「「「なに!?」」」
一難去る前に、また一難…と言わんばかりの事だが、3人の声は見事にハモっていた。
暫くして
「どう思う?」
「ここはキスカか、とツッコミたいところだが、それは後にして、先ずは直近の方針設定から」
松島宮の問いに滝崎は呆れながら言った。
「天候の方は?」
「ギリシャの気象台、並びに軍の予報も今までなかった事だから、長期化するかも知れない…と」
「むう…濃霧が晴れるかは後にして、まずは逸れた皐月の件から扱うか?」
「どっちにしても一緒だ。霧が晴れなければ航空機等使用の広域捜索は不可能だ。しかも、敵地な上に二次遭難の可能性もある。下手には動けない」
「まったく、神は悪戯好きと言うが、今回ばかりは少々嫌らしいね」
「季節が季節だからな…まるで、モスクワ侵攻の時みたいだ」
「確かあれは記録を塗り替える程の寒波だったのよね?」
「間違い無く、今の我々ね」
それぞれ好き勝手な事を言うが、誰も『それ』を言う事すら考えていなかった。
『大事の前の小事。駆逐艦の1人ぐらい見捨ても構わない』などと。
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