とりあえず、霧島姐さんは読書家です。
2日後……マルタ島鎮守府
「フランスの偵察機からの偵察写真によると……タ級が消えてるな」
事務机に置かれた写真の1枚を取り上げ、滝崎が言った。
「これが、あのタ級の入っていた輸送船団か? 確かに旗艦位置にタ級がいないな」
以前撮られた写真を見比べながら松島宮が呟く。
「バレアレス達は撃沈までは至っていないと言っていた。しかも、単騎だった事から独断先行だったのかもしれない……故に考えられるのは左遷された、か」
「左遷な……深海棲艦に左遷なんてあるのか?」
「さあね…まあ、何らかの配置替えもあったのかもしれない。憶測でしか言えないけど」
「憶測な…とりあえず、これは要監視だな。また、威力偵察の必要がある」
「それには賛成だ。後はフランス・アメリカ組の錬成具合か……そっちももうちょっと時間が必要だし」
「あっ、コエトロゴンのデータリンクの方はどうだ?」
「あっちは順調だね。バレアレスとのリンクはもちろん、艦娘とのリンクも出来てる。後は艦娘達の慣れかな」
「ふむふむ、漸く、フランス側を納得させられる下準備が出来上がりつつあるな」
「あぁ、全て順調…よーそろ、だね」
「よーそろ…か」
暫くして………滝崎の執務室
執務をしていた滝崎にドアからノックの音が聞こえ、一度手を止める。
「どうぞ、開いてますよ」
「失礼します、副官」
その応答と共に霧島が慣れた様子で入って来た。
「やあ、霧島。もう読んでしまったのかい?」
「はい。少し前に返却しに此方へ来たのですが、居られなかったので、こうして再び参りました」
「そこまでしなくても、机の上に置いといてくれれば、此方で処置するのに…律儀だな」
そう言って滝崎は貸していた書籍を霧島から受けとる。
なぜ、こんな事になっているかを説明すれば、松島宮が置いている書籍を全て読み終えてしまい、松島宮が「滝崎ならもっと大量に持ってるから、話してみればどうだ?」と言われ、滝崎に相談した。
もともと、マルタ島への異動に伴い、大量の本を持って来ていたが、一度読んでおり、今や置物状態になっていた為、「腐らすよりは読んでもらった方が本にもいい」と言って霧島へ自由に貸していた。
「副官がお持ちの書籍は種類が豊富なので、ついつい読み急いでしまいます。それにジャンルが様々ありますので」
「慌てなくても本は逃げないんだけどな。それに松島宮の執務室は来客もあるから、私物の本は置き難いし、どうしても種類が制限されて堅苦しい物しか置けないからな」
「それに比べて副官執務室ならお堅い来客は来ないから、私物書籍を置いても問題は余り無い…ですね」
「あはは、確かに」
そう言って滝崎は返却された書籍を本棚に格納していく。
そして、次の号数の書籍を有るだけ出していく。
「えーと、次はこれと、これと、これ…でいいかな?」
そして、霧島に間違っていないかの確認も兼ねて題名と書籍を見せる。
「……はい、間違いありません。あと、もう何冊か借りてよろしいでしょうか?」
「あぁ、いいよ。でも、大丈夫かい?」
「大丈夫です」
そう言って霧島は本棚に歩み寄り、既に決めていたらしく、本をとっていく。
「マンガの鬼平犯科帳ね…また渋い物だね」
「あら、副官も年齢の割には渋い物をお持ちだと思いますが?」
「あはは、確かにそうだ。それと人情物は好きなんだよ。色々と考えさせられるし、人の動かし方とか…まあ、色々と学べる」
そう言ってから滝崎はチラリと時計を見て、小型冷蔵庫や茶器棚から飲み物とお茶菓子を置いていく。
「副官、私は長居は…」
「いやいや、この時間と15時にはこれが必要なんだよ。それに長居は構わないよ」
霧島の発言に答える様に言うと同時にノックの音が響く。
「どうぞ。開いてるよ」
「ほな、失礼するで〜」
「し、失礼します…はい」
「失礼するよ」
「失礼するぜ」
黒潮、潮、涼風、深雪が入って来た。
「ありゃ〜、ホンマに副官のところはお菓子がいっぱいやな〜」
「あたいが1ばーん!」
「あっ、こら! 抜け駆けは深雪さまが許さないぜ!」
「……お菓子…一杯です」
……誰も霧島の事に気付かずにお菓子に視線が集中している。
「やれやれ…夢中になるのはいいが、先ずは霧島さんに挨拶しなさい」
まるで後輩をたしなめる先輩……あるいは娘をたしなめる父親の様に滝崎は穏やかに言う。
すると、漸く気付いたのか、慌て……
「「「「お疲れ様です」」」」
……涼風と深雪はお菓子を胸に抱きながら遅い挨拶をする。
「……午前と午後のある特定の時間に駆逐艦の子が居なくなる理由がわかりました」
「別に駆逐艦以外の子も大歓迎なんだが…まあ、余裕がないから仕方ないよな」
呆れた様子な霧島に滝崎は苦笑いを浮かべながら答える。
「それにさ…マジで駆逐艦とか戦艦とか階級とかどうでもいいし。そんなん、只の付き物だしな。そんな物に付き合ってたら、下手したら息が詰まって、窒息死してしまうよ」
「松島宮殿下の副官とは思えない発言ですね。まあ、わかっていましたけど」
「理解ある仲間が居て幸せだよ。あっ、本当な話だからな」
「わかってます。副官はそこに関して嘘は吐けませんので」
「うーん、なんかトゲがある様な…まあ、仕方無いけど」
そう言って滝崎は袋を開け、開け口を霧島の方に向けた。
「……なんですか?」
「上に『嗜好品の数を増やしやがれ!』って言ったら、その第一陣がこれだとさ」
呆れた調子ながら、ニヤリと笑う滝崎の表情に吊られる様に霧島は開け口に手を伸ばす。
そして、取り出したるは……ガリガリ君のソーダバーであった。
「地中海は比較的温暖な気候だが…常夏のハワイやトラック、ラバウルと勘違いしてないか? 上はさ。まあ、美味しいからいいけど」
そう言ってガリガリ君をもう一個取り出し、袋を開ける。
「あっ、副官はん、アイス食べとる」
「副官だけ狡い!」
「あたい達にもくれ〜!!」
「えっと…霧島さんも…す、すみません!」
「はいはい、ちゃんと君達の分もあるよ。さあ、霧島さんもどうぞ」
勧められるがままにアイスを取り出し、一口かじる霧島。
「……美味しいです」
「それはよかった」
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