(なお、高塚の語りは大半が作者の思想・体験です)
ある日の夜 マルタ島鎮守府 居酒屋鳳翔
「何事も無く、平穏無事に1日が終わり、鳳翔さんの店で締めの一献に行き着く。これを贅沢と思わない奴は終わってるな」
そう言ってカウンター席に座り、夕食と一献に舌鼓を打つ高塚。
「うふふ、前も言いましたけど、憲兵さんも副官と一緒で口が上手いですね」
「正直な感想ですよ。それに自分も彼奴も下戸ですからね。酒を飲むなら、宴会みたいに皆でワイワイもいいでが、こうして呑むのも好きなんです」
互いに微笑みながら会話を交わす高塚と鳳翔。
「そう言えば、神通さんがこんな事を言ってましたよ。「非情と言う人間には程遠い方です」と」
「おや、そんな事を言ってたんですか」
「はい、「あの時の憲兵さんの顔はどんな状況でも決して諦めずに救い出そうとする者の表情だった」。そして、「あの表情をする人間が非情である訳がない」…と仰っていましたね」
「……そうですか…まあ、ついつい熱くなってたから、そんな顔になったのでしょうね」
「あらあら…憲兵さんは何故、軍へ?」
「興味が歴史と政治と外交と国防だったから…と言ったら大半は納得してくれます。でも、ちょっと奥が深いんですよ、私の場合は…多分、鳳翔さん達も関わります…いや、発端と言っていい」
「私達が…ですか?」
「えぇ…有名な大和や赤城を図鑑で見て、艦歴を調べていくと他の艦種に興味を持ち、逸話や出来事、その最期を知り…更に戦の経緯と結果を知った。私も祖父がいましたし、田舎だったせいで、隣組がまだ残ってたりしてて…高校生になって外に出ると、情報が溢れていたから、余計に集める様になった…結果、自分や滝崎の中にはこの思いが芽生えていた。『いま自分が有るのは祖父を含めた先人達のお陰であり、先の大戦の悲劇は繰り返してはならない。戦った先人の想いと犠牲を忘れてはならないし、公正な視点で伝えなければならない」と…艦艇なら、多数の乗組員が居ますから、余計ですね。その乗組員自身と家族、遺した想い……それを無駄に、また、繰り返さない為に自衛隊に入りました。入隊を推したのも、新人教育に耐えれたのも『先人を忘れる無かれ』の決意です。実際、新人教育中に何度も折れそうになったけど、「硫黄島や南方、敗戦と戦後復興の苦しみに比べれば何ぼのもんだ!」って……曲がった根性で耐えました……あっ、長々とすみませ…」
長く語り過ぎたと思い、高塚が顔を上げると鳳翔さんが泣いていたので、思わずフリーズする。
しかし、直ぐに再起動した。
「あ、あわわわ! ほ、鳳翔さん!? 大丈夫ですか!?」
慌てながら思わず立ち上がり、鳳翔に問い掛ける高塚。
「あ、あら、すみません、高塚さん…もう、やだ、もう1つの昔の事を思い出してしまって…」
「昔の事……末期と復員船の時ですか?」
「えぇ……最後はひとりぼっちになって……復員船になって見た皆さんの笑顔……嬉しかった…」
「…………」
鳳翔の物言いに静かに杯を傾けて聞く高塚。
「……それを知って、自分の事の様に護ろうとする人に会うなんて…世の中わかりませんね」
「……まあ、それが役目ですので」
そう高塚が言った時、店の戸が開き、足柄、隼鷹、那智、陸奥が入ってきた。
「ヒャッハー、憲兵殿が居るじゃん! 高塚少佐〜、奢って〜」
「あら、高塚少佐、ごちになろうかしら」
「隼鷹、足柄。まったく…すまない、少佐」
「いや、別に構わないよ。陸奥と4人で飲みに来たのか?」
「えぇ、高塚少佐は晩酌かしら?」
隼鷹・足柄の物言いに那智が謝罪し、陸奥の問いに頷いて答える高塚。
「鳳翔さん、皆に何か肴を出してくれ。支払いはこっちで」
「おっ、憲兵殿、やるじゃん! ゴチになりまーす!」
「いいのか、高塚少佐?」
「いいの、いいの。気にしない、気にしない」
隼鷹の反応に那智が聞いてきたので笑いながら答える高塚。
そして、窓から外を見て一言。
「…月が綺麗だな」
その頃……
「……月ガ綺麗ダナ」
「ン、何カ言ッタカ?」
「イヤ、ナンデモ無イ」
月を眺めていたヲ級の呟きを聞いた同じヲ級が訊くと、眺めていたヲ級はそう返し、視線を元に戻した。
いま、このヲ級達の周りには重巡・軽巡・駆逐艦型の深海棲艦が輪形陣を組んで航行している。
そんな中、月を眺めていたヲ級は密かに考えていた。
(コノ感ジ…何時カ何処カデ感ジタ事……何時ダッタ? 何処ダッタ?? ダメ、思イ出セナイ)
俗に言うデジャブを感じて思い出そうとするも思い出せないヲ級。
(デモ…確カアノ時モコンナ風ダッタ…隣ニハ…」
「………ドウシタ? 私ノ顔二何カ付イテルノカ?」
視線を隣にいるヲ級に向けると、そのヲ級が不思議そうに訊いてきた。
「イヤ、チョット考エ事ヲシテイタ」
「珍シイナ。ダガ、ソロソロ止メロ。指揮官ガ気ヲ逸ラスナ」
「アァ、ワカッテル」
頷いてから視線を再び前に向けるヲ級。
ただ……相棒のヲ級に言われてもこのヲ級は考え事を止めていなかった。
この思い出しそうで思い出せないデジャブの正体をずっと考えていた。
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