そして、英国面が来る。
数日後 マルタ島鎮守府
「陸に上げられたマグロ状態だな」
「皮肉な表現だな…手伝ってくれ」
「はいよ、新隊員の訓練後と思えば楽なもんさ」
猛訓練による疲労であちこちに寝転がる艦娘達(主に駆逐艦・巡洋艦)を手助けする滝崎と高塚。
神通を中心に連日の戦闘・連携訓練を実施していた。
皮肉にも普段から神通の訓練を受けている駆逐艦達、艦船である頃から昼夜の猛戦闘訓練を受けていた巡洋艦・戦艦達は付いてこれていたが……問題は海外艦である。
神通の直接指導を血反吐を吐かんばかりに耐えながら潜り抜いてきたフランス水雷隊はまだ付いてきていたが、手練れのイギリス組、ドイツ・イタリア組は気合いで付いていくのがやっとの状態であった。
(ただし、スラバヤ沖海戦等で経験のあるエクセター、エンカウンターは対応している)
「イタリア艦の乗組員が言ってたぞ。『レーダーで動きを観てたが軌道が滅茶苦茶過ぎて追えない』てな」
「だろうな。艦船より小回りの効く人型なら余計に軌道なんぞクソ喰らえ状態になるだろうし」
手助けをしながら口も動かす高塚と滝崎。
「つーか、訓練見てて、なんで神通が俺の所にあんな相談を持って来たのかわかったわ」
「神通が? 何を相談しに来たんだ?」
「あぁ、実は……」
……………………………………回想………………………………………
数日前 高塚の部屋
「えっ、空戦について教えてほしい?」
「はい。主にドッグファイトとロッテ戦術についてです」
部屋で軽く事務仕事していたところ、神通が教えて欲しい事があると言う事でやってきた。
「それはいいが…多分、滝崎とかレナータの方が……あっ、忙しいか、あの2人は。それに俺は航空科ではなくて砲兵だけど」
「ですが…航空戦関連書籍も持ってますよね?」
「まあ、概要程度でいいなら」
そう言って高塚は神通に出来る限り詳細、且つ簡単に説明した。
「……とまあ、最近は電子戦とレーダー管制もあるから、ロッテを基本とした編隊行動が中心になりつつある。まあ、戦闘機の主兵装が機銃からミサイルになったからだが……で、これを聞いて神通はどうするんだ?」
一通り語り終えた後、高塚は気になって理由を尋ねてみた。
「……今のままでは『二水戦』としての限界を感じたからです」
「『限界』? まあ、訓練は厳しいのは何時ものは通りだがな」
「確かに私達『華の二水戦』『鬼の二水戦』は厳しい猛訓練によって世界最強の水雷戦隊に数えられています。ですが艦隊行動は時として『的』になる事もあります」
「つまり、『水雷戦隊』に拘らずに『駆逐隊』や『小隊』、時には単騎で動かし、目標への接近時における被弾率を下げる…と?」
「出来れば個人技術の向上…それに敵中遭難時の対処能力取得も考えています」
「なるほど、自由裁量範囲を広げ、個人にも工夫させる様に促す……最終的には単騎行動であっても水雷戦隊全体で単目標多方向同時雷撃を行う事が出来る様にすると」
「そ、そこまでは私も……今は考えていないです」
『いや、貴女なら何時かサラリとやりそうなんですよね。しかも、『今は』でしょう?』と高塚は心中で呟くが口には出さない。
「やはり、『水雷戦隊統制雷撃』では限界がありますか? そもそも、魚雷の命中率を上げる為の水雷戦隊による統制雷撃ですからね」
高塚は備え付けのコーヒーメーカーでコーヒーをいれつつそれを言うと神通は苦い顔をする。
砲撃にしろ、雷撃にしろ発射までのプロセスの大半は数学計算であるが、魚雷は未来位置と魚雷速を考えて撃たなければならない。
魚雷は命中率向上の為に扇状で発射する。これは目標が未来位置近辺で舵を左右に向けても当たる様にする為だ。
しかし、発射直後に大きく進路変更されると魚雷は無駄になる…最後尾発射したものがまぐれ当たりを出したらいいくらいである。
幾ら命中寸前には雷跡が無くなる酸素魚雷とて、そうされては無駄になる…これを避けるには敵の軒先まで踏み込むぐらいしかない…失敗すれば死体の山を築くが。
これを解決したのが各種誘導魚雷であるが…これはイタチごっこ状態だが。
「まあ、仕方ないですよ。今はそれしかないんですし。誘導酸素魚雷なんて物が出来るまでは原来の形を工夫するしかないですよ」
そう言って高塚は神通にコーヒーを渡した。
…………………………………回想終了……………………………………
「そんな事を」
「あぁ、まあ、最近は結構バラバラしてるらしいよ、神通隊も」
「あー、俺らも学習しないとな…神通達を困らしてしまうな」
「大丈夫だろう、お前は。つーか、イギリスさんが早く来てくれないかね?」
「それは知らないよ」
その頃 ジブラルタル海峡
「艦長、ジブラルタル海峡に入ります」
副長の報告にレベッカは静かに頷いた。
彼女は乗艦の改45(D・デアリング)型駆逐艦1番艦『ユリシーズ』の艦橋で優雅に紅茶を啜っていた。
「深海棲艦も随分と大人しいのね」
「オールド・レディ、足の方は大丈夫ですか?」
後ろから声を掛けられ振り向くとオールド・レディ…ウォースパイトが艤装を外した状態で後ろにいた。
「あらあら、足は普通よ。まあ、あの艤装が大袈裟なだけよ」
「あの艤装が大袈裟とは…お祖父様が聞いたら大騒ぎになります」
「あのかわいい士官見習いがいい歳のお爺様なんて…長く生きてみるものね」
それを聞いてレベッカは苦笑いを浮かべる。
彼女の家は典型的な英国貴族家で、始祖はエリザベス1世時代にドレイク卿と肩を並べる程の船乗りだったそうな。
それから彼女の家はずっと海軍に居続け、何かしろで各代の『ウォースパイト』に乗艦していると言う、切っても切れない縁だった。
「あと数日すればマルタに到着致します。もう少しの辛抱です」
「辛抱ね…今はこの優雅な船旅を新鮮に感じているわ」
次号へ
ご意見ご感想をお待ちしております。