…いえ、もう本当に。
本当に申し訳ありませんでした!
更新が全くできずに、お待たせしてしまい申し訳ありませんでした!
…お待ちしていてくださる方が本当にいらっしゃるのでしょうか?
もう忘れられている可能性のほうが高いですね…。
とにかく、申し訳ありませんでした!
…毎回の前書きで謝っている気がします…。
今回はキンジ視点からスタートです。
白雪が捕まったことに気付き、俺はレキの協力も得て地下倉庫まで来ていた。
迂闊だった。
白雪に脅威が迫っていることはアリアが散々いっていたことだし、俺だって一応警戒はしていた。
つもりだった。
しかし、心の底では『魔剣』などいないと思い込んでいたのかもしれない。
詩穂ですらいることを前提に動いていたのだ。
俺は…アリアを信用してやれなかった。
そして、俺のことを心から信頼してくれていた白雪すら裏切ったのだ。
俺は音を立てないように地下倉庫7階を走りつつ、己の失態を悔やむ。
だが、今は悔やんでいる暇は無い。
白雪を、助けないと…!
闇雲に探していたが、割とすぐに発見できた。
地下倉庫の中でも危険な火薬ばかりが置いてある大倉庫と呼ばれる場所…。
そこで複数の声が聞こえた。
気配を殺しながら、静かに近寄る。
そして緊急用赤色灯で一際赤く光るバタフライナイフを鏡代わりに…様子を窺った。
そして、目を疑った。
巫女装束に身を包んだ白雪。
これはある意味想定済みだ。
しかしもう1人の姿が見えてしまった。
…詩穂。
なぜかうつ伏せで倒れた状態で目隠しされている詩穂が、いたのだ。
しかもお尻をあげた不恰好な体勢で倒れているせいか、かわいらしい真っ白の下着まで丸見えである。
目隠しされた状態であの体勢だからか、ひどく扇情的だ。
あわてて目を逸らそうとするが…状況が状況だ。
なるべく詩穂の方は見ないように気をつけつつ、しかし無視できないものが見えてしまったので詩穂の方を見てしまう。
足が…凍っているのだ。
まるで床に縫い付けられているかのように靴ごと右足が凍っている。
アレのせいで…詩穂は不恰好に倒れたままなのだろうか?
会話を良く聞くために、曲がり角に身を寄せる。
すると、不明瞭だった会話が聞こえてきた。
「……、ちょっとこの体勢キツイんですけど。この氷なんとかなりませんか?」
「…能天気なものだな。お前は状況がわかっているのか?」
詩穂の声に答える、時代がかった男喋りの女の声が棚の向こう側から聞こえた。
…こいつが、『魔剣』…!
実在していたなんて…!
「リュパン4世が遠山キンジと同じくらい茅間詩穂を警戒するように言っていたが…全くもって理由がわからないな。」
リュパン4世…理子。
理子のことを知っているとなれば、やはりイ・ウーのメンバー…!
兄さんのことを、殺した…!
俺の憧れで、尊敬の対象で、崇拝すらしていた…!
兄さんを…兄さんを…!
「…リュパン4世?…あなたも、イ・ウーのメンバーなんですね?」
頭に上りかけた血を、詩穂の声がかき消した。
その声はさっきまでの声とはあまり変わっていないが…しかし、意思があった。
…そうだ。
落ち着け、キンジ。
ここで冷静さを失ったら白雪も詩穂も危ないかもしれない。
…まだ、動くべきではない…!
「ああ。だから私は、優秀な原石である星伽白雪…お前を招待しに来たのだ。」
「…優秀な原石…。私は、そんなところ…!」
『魔剣』の発言に白雪が怯えた声をあげる。
しかし、詩穂がその怯える声をかばうように言葉を続けた。
「…招待。つまり、あなたは白雪さんの力が…欲しい、ワケですね?」
「そうだ。その優秀な力を手に入れる。」
詩穂の声に、少しだけ力が入った。
これは…詩穂なりに状況を何とかしようとしているのだろう。
おそらく、『魔剣』の隙を見つけようとしている。
ならばなおさら俺が動くわけにはいかない。
詩穂が作り出そうとしているチャンスを…見逃さない、ためにも。
「でも、どうして欲しいのですか?『魔剣』さんは見た限り、その力があれば充分強いはずですよね?それなのに、必要なんですか?」
「欠陥品にしか守られていない原石に…手が伸びるのは、当たり前だろう?」
「うぐっ、欠陥品とまで言われてしまいましたか…。」
詩穂はおどけたように言ってはいるが…その言葉に、まだ意思が宿っている。
…『魔剣』の意識が、白雪から詩穂若干に移った。
「じゃあ、この氷ほんとにどうにかしてくださいよ…。足が変な方向に曲がっちゃいますし、冷たくて凍傷起こしそうなんですが…。」
「……呆れてものも言えんな。」
はぁ、と『魔剣』が棚の向こうで溜息をついた。
…この瞬間に、悟った。
今なら…いける!
「白雪逃げろ!」
何も束縛が見当たらない白雪に注意を呼びかけつつ、俺は走り出した。
「キンちゃん!?」
「キンジ君!?」
2人は驚くように声を上げ、そして…。
「無駄だ。貴様如きでは届きすらしない。」
と、棚の向こうから飛来する何かと共に声が聞こえた。
そして、俺の足元に…。
ダンッ!
と何かが飛来しぶつかった。
「うおっ!?」
俺はその何かに足を取られ、前につんのめる。
足元の床には、綺麗に湾曲した刃物が突き刺さっていた。
これは…ヤタガンと呼ばれる、銃剣の先に付けるフランスの小型の剣だ。
「これは『ラ・ピュセルの枷』…。お前はもう、動けない。」
『魔剣』の声と同時に、剣の先から…。
パキ、パキ…と白いものが広がってきた。
これは…氷!?
「…!キンちゃん!その場から離れて!」
白雪が焦るように俺に注意を促すが、時既に遅し。
足が、氷によって床に縫い付けられていく。
立ち上がろうとした肘や手にも氷は到達し…。
ついに俺も詩穂と同じように起き上がれなくなってしまった。
何が、どうなっている…?
これが『魔剣』の仕業であることに間違いはなさそうだ。
しかし物理現象を無視したその光景に動揺は収まらない。
「我が一族は光を纏い影の裏をかく…それはすなわち、策を策で葬るもの。その私に、安易な策など、通じない。」
『魔剣』の声だけが響き、そして…。
フッ、と非常灯の光が消えた。
そして、完全に包まれた闇の中で…。
「い、いやっ!何をするの!?」
「ちょ、痛い痛いです!」
ジャリジャリ、ベキベキという音と共に白雪と詩穂の声が上がる。
前者は何らかの金属音。
後者は、おそらく氷を床からはがす音。
俺は…床に縫い付けられたまま、身動き1つ出来ない。
2人の声は聞こえなくなり、しかし金属音だけはジャリジャリとなり続ける。
白雪と詩穂に何かがあったのは間違いないだろう。
だが、俺は動くことすらままならない。
…事態を、悪化させてしまった。
俺は、また…!
何も考えずに…!
シュッっと空気を裂く音が聞こえた。
…先程の銃剣がこちらに飛んでくる音だとすぐに理解し、同時に死を直感した。
ギンギンッ!
しかし、それを高い金属音が遮った。
…死んで、いない?
「バトンタッチね、キンジ。」
特徴的なアニメ声に、振り返ると…。
「アリア!?」
「…ふん。ホームズか。」
と同時に、倉庫に明かりが灯っていく。
パッパッパッ…。
暗闇だった倉庫は、アリアの登場に呼応するように晴れやかに光を取り戻していく。
明るくなったことで状況が把握できるようになり…そして、白雪と詩穂の姿が見えないことに気付いた。
2人とも、棚の向こう側へと引きずられてしまったのだろう。
火薬棚の隙間から『魔剣』が再び銃剣を放つが…。
ギン!ギギン!
「何本でも投げてくれば?こんなんバッティングセンターみたいなものだわ。」
小太刀を構えたアリアに、そんなものは通用しなかった。
2本の小太刀を構え悠々と立つ姿は天下の鬼武偵にふさわしい。
がちゃん…
と少し遠くの扉が閉まる音が鳴り…。
大倉庫は静寂に包まれた。
「…逃げたわね。」
その場が一旦収まったことに、俺は安堵した。
キンジ→詩穂
私は目隠しをされた後、氷に縫い付けられてしまった右足はそのままに両手をも縛られてしまいました。
…右足が凍ったまま倒れこんでいるので、正直体勢がかなりきついです。
というかお尻を持ち上げていないと足に負担が掛かってしまいます。
…という場合では、無いようですね。
私が変に飛び出していったせいで、事態は確実に悪化しています。
しかし…まだなんとかなる可能性は残されています。
先程走りこんだ時、白雪さんの姿を確認しましたが…。
何の拘束も受けていなかったように感じられたのです。
『魔剣』が棚の裏から銃を向けている可能性も否定できませんが…。
白雪さんは、今逃げることが不可能ではない状況に立っているということです。
さあ、どうする、詩穂?
考えろ…。
頭をフル回転させて、少しでも状況を改善するんだ…!
『魔剣』の先程の言葉。
「お前にもエサになってもらうぞ。」
このことから、私も…そして白雪さんも、エサに過ぎないという可能性が出てきます。
つまり私や白雪さんと関係性があって、かつイ・ウーとも関係性が高いと思われる人物をおびき出すことが…狙いである、はずです。
…可能性として考えられるのは。
アリアさんかキンジ君でしょう。
しかしキンジ君はおそらくまだイ・ウーに深く関わっていないはずです。
つまり狙いはアリアさん…でしょう。
目的はどうであれ、『魔剣』はアリアさんをここに呼び出そうとしている…。
では、どうすればいいでしょう?
…答えは明白。
白雪さんがここから逃げ出すことが出来れば、白雪さんも…そして私も助かる可能性が高いです。
白雪さんがここから逃げ出せれば、『魔剣』はエサを1つ失うことになります。
つまりアリアさんが…助けが来るまで私が『魔剣』に殺されてしまう可能性が低くなると思われます。
じゃあどうやって白雪さんを逃がしましょう?
白雪さんが何の拘束も受けていないとすれば…。
『魔剣』の意識が一瞬でも別のほうに向けば。
白雪さんはAランクの優秀な武偵です。
状況が変われば、きっと逃げ出してくれるはずです…!
なら、私がやるべきことはただ1つ。
「…『魔剣』さん、ちょっといいですか?」
「……なんだ。」
『魔剣』の意識を…!
私に移させる…!
「ちょっとこの体勢キツイんですけど。この氷なんとかなりませんか?」
「…能天気なものだな。お前は状況がわかっているのか?」
『魔剣』が私の質問に反応してくれたことに、勝機を見出しました。
…いける!
「リュパン4世が遠山キンジと同じくらい茅間詩穂を警戒するように言っていたが…全くもって理由がわからないな。」
…不意に理子ちゃんの名前が出ました。
と同時に、理子ちゃんの生死を、安否を問いだしたい気分に駆られます。
…今は、我慢です。
流されたら…チャンスが、消えてしまう…!
「…リュパン4世?…あなたも、イ・ウーのメンバーなんですね?」
私はまるで今気が付いたかのように『魔剣』に語りかけます。
…ここら辺からはもう気を抜けません。
私は少しでも多くの情報を白雪さんに掴んでもらうため…カマをかけてみることにしました。
不確かな情報を、確かなものにする。
それはとても重要なことです。
なぜなら。
情報を制したものが。
戦いを、制するのですから。
「ああ。だから私は、優秀な原石である星伽白雪…お前を招待しに来たのだ。」
「…優秀な原石…。私は、そんなところ…!」
白雪さんが怯えた声を上げます。
…少しでも『魔剣』の意識が白雪さんに行かないよう、私は言葉を畳み掛けます。
「…招待。つまり、あなたは白雪さんの力が…欲しい、ワケですね?」
「そうだ。その優秀な力を手に入れる。」
いいえ、違います。
あなたの目的は、白雪さんではない…!
でも、その言葉をぐっと堪えて、カマかけを開始します。
「でも、どうして欲しいのですか?『魔剣』さんは見た限り、その力があれば充分強いはずですよね?それなのに、必要なんですか?」
「欠陥品にしか守られていない原石に…手が伸びるのは、当たり前だろう?」
「うぐっ、欠陥品とまで言われてしまいましたか…。」
…否定、しませんでした。
つまり『魔剣』かが何らかの力を持っていることは、ほぼ確定したわけです。
そしてそれはおそらく床を凍らせたこの力、です…。
ふと、理子ちゃんのゆらゆらと蠢く髪の毛を思い出しました。
…きっと、あんな感じの言葉では説明できない力なのでしょう…。
『魔剣』の意識が、私の会話に向けられていくのを感じます。
…あと、少し…。
「じゃあ、この氷ほんとにどうにかしてくださいよ…。足が変な方向に曲がっちゃいますし、冷たくて凍傷起こしそうなんですが…。」
「……呆れてものも言えんな。」
もう一言か二言ぐらいで、意識が私に移る。
そう確信した瞬間。
「白雪逃げろ!」
なぜかここにいないはずの声が上がりました。
「キンちゃん!?」
「キンジ君!?」
白雪さんも同時に声を上げました。
…どうして!?
どうしてキンジ君が…!?
「無駄だ。貴様如きでは届きすらしない。」
混乱のせいで頭が回らない中、『魔剣』の余裕の声が聞こえました。
そして…。
ダンッ!
という音と。
「うおっ!?」
というキンジ君の叫び声が上がります。
そして、すぐに。
パキ、パキ…。
と先程私が体験した音が聞こてきます。
私は直感でキンジ君も私と同じ目にあっているのが理解できました。
「これは『ラ・ピュセルの枷』…。お前はもう、動けない。」
『魔剣』が決め台詞のような事を口走り…。
「…!キンちゃん!その場から離れて!」
白雪さんの切羽詰ったような声も聞こえました。
…わからない。
何が起きているのか、もうわからない、です…!
目隠しされたかりそめの暗闇が。
フッ、と深くなった気がしました。
部屋が…暗く、なったのでしょうか?
「い、いやっ!何をするの!?」
今度は白雪さんの悲鳴のようなものが聞こえました。
そして数瞬後。
私の腕が、何者かに強引に引っ張られました。
「ちょ、痛い痛いです!」
ベキベキ、と足の氷も私の体と一緒に強引に引き剥がされていきます。
…そして。
「…んむっ!?」
口にまで布を巻かれ、とうとう言葉さえ発することが出来なくなってしまいました。
…私は誰かに担がれているのを感じながら。
目も言葉も両手も封じられ、何も出来ないのでした…。
…私は結構長い時間担がれ、目隠しのせいで場所もわからないままドサッと降ろされました。
と同時に口を封じていた布が解かれます。
「…大丈夫?詩穂。」
…聞こえてきたのは、白雪さんの声でした。
…え?
白雪、さん?
「…白雪さん?あの、『魔剣』は?」
「危なかったよ。『魔剣』が私を鎖で捕まえようとしたけど、なんとか逃げ切れたんだ。」
つまり、私を担いで白雪さんは安全なところに避難してきてくれた、ということでしょうか?
…嬉しいですが…なんでしょうか?
嫌な予感が、頭から離れません。
白雪さんは目隠しも解いてくれます。
…目の前にいるのは、やっぱり白雪さんです。
「あ、ありがとうございます。とにかく一旦外に脱出しましょうか?」
「…ううん。私は『魔剣』を何とかしなきゃ。」
…やっぱり。
何か、違和感が…。
今の発言に加えて、白雪さんの態度も。
今さっきまで『魔剣』に怯えた声を出していた白雪さんが…どこか勇ましい雰囲気を出して『魔剣』を何とかする…だなんて言うでしょうか?
そもそも白雪さんなら、「キンジ君を助けに行く」という表現をするはずです。
…この白雪さんは…本当に、白雪さんなのでしょうか?
でも、姿も声も白雪さんです。
「…キンジ君は、いいんですか?」
「え?ああ、キンちゃんも助けてあげなくちゃね!」
まるで今気が付いたような言い方をします。
…いえ、でもやっぱりどんなに目を凝らしてみても白雪さんです。
じゃあ、キンジ君みたいに性格の変わる何かがあるのでしょうか?
…でも、そんなトリガーになるようなことはあったでしょうか?
…知りたい。
この白雪さんがどうであれ。
この違和感の正体を、私は知りたい…!
「…白雪、さん。…どうして巫女服なんですか?」
「…『魔剣』に、言われたんだよ。私が来ないとキンちゃんを殺す、って…。」
白雪さんは少し震えるような声を出しながら言います。
…今の発言は、自然に聞こえますね。
「…さっきの『魔剣』の氷も白雪さんが剥がしてくれたんですか?」
「うん。ごめんね、だいぶ強くしちゃったから…。痛くなかった?」
今のは、ちょっとおかしいですね。
白雪さんは仮にも私をライバルとしてみています。
…こんな優しい言い方を、するでしょうか?
それとも…ただの疑心暗鬼?
「いえ、剥がすときは痛みましたけどもう大丈夫です。」
「そう?良かった…。私、ちょっと疲れちゃったから少しここで休むね。」
白雪さんはそう言うと、その場に座り込みました。
…この時ようやく、自分がどこにいるのかを認識しました。
ここは…いつのまに階を上がったのか、地下6階。
そこに大量に配置してあるスーパーコンピューター…。
ここは、スーパーコンピューター室。
たくさんのコンピューターが立ち並ぶ、まるで近未来世界に迷い込んでしまったかのような感覚に包まれる場所です。
…先程の火薬棚よりは危険を感じません。
そして、今私と白雪さんがいる場所は…エレベーターホール。
コンピューターが多すぎて迷路のようになっているコンピューターエリアの中でも比較的広くて身を隠す場所はありません。
…なぜ、『魔剣』を恐れていたはずの白雪さんはこんなところに逃げてきたのでしょうか?
なぜ、Aランクの優秀な武偵である彼女は敵に襲われる可能性のある場所で休息を取ろうとしてるのでしょうか?
…考えれば考えるほど沸いてくる、違和感。
…知りたい。
暴きたい…!
「…白雪さん。そういえばこの前のケーキ、おいしかったです。こんな場面で言うことじゃありませんけれど…ありがとうございます。」
「ううん、いいよお礼なんて。どういたしまして。」
ダウトです。
私は彼女からそもそもケーキ…いえ、プレゼントなんてもらいません。
というか私を毛嫌いしている白雪さんが私にプレゼント?
ありえません。
「…そういえば白雪さん、ケーキで思い出したのですが今度教えてもらう料理って…なんでしたっけ?」
「え?うーん、なんだったっけ…?」
「……あ、グラタンでしたよね?」
「あ、そうそう!グラタンだよ。『魔剣』を捕まえたら教えてあげるね。」
「はい。よろしく、お願いします…。」
ダウトです。
私が次に彼女に教えてもらうのはグラタンではなくカルパッチョです。
…いよいよ怪しくなってきましたね。
白雪さん…いえ、『彼女』も私の現状にそぐわない発言に訝しげな表情を作ります。
…さぁ、今こそ化けの皮を剥いで…。
…いいえ。
よく、もっとよく考えてみましょう。
私は一旦『彼女』から目を逸らし、周りのコンピューターを眺めながら考えを整理してみることにしました。
例え仮にこの白雪さんが本物ではなかったとして…。
それを暴いたら、どうなってしまうでしょうか?
…間違いなく私は無事ではすまないでしょう。
では、どうしましょうか?
この白雪さんが偽者である前提で情報を整理してみましょう。
『彼女』が偽者であるなら、どこかに本物の白雪さんがいるはずです。
キンジ君もまだこの地下倉庫のどこかにいるはずです。
…アリアさんもきっと動いているはずです。
つまり、私に出来ることは…時間稼ぎ。
『彼女』をここから移動させなければ、少なくともキンジ君たちに行く被害は少なくなるはず、です。
…もう心の中では確信しています。
『彼女』こそ、『魔剣』。
おそらく何らかの変装や変声術を使って白雪さんに化けている…。
普段人の気配が無い地下倉庫に他の一般生徒がいる可能性はかなり低いです。
つまり私が上手く動けば被害は最小限に収まるはずです。
また、ここは比較的広いエレベーターホール。
アリアさんとキンジ君と白雪さん…。
この3人が集まってくれれば『魔剣』を捕らえることは余裕なハズです。
よし、私のやるべきことは決まった…!
今こそダメ武偵が役に立つときです…!
私は心を決め、『彼女』のほうに振り返ります。
…そして。
「…え?」
「…え?」
目の前の光景に、唖然としました。
「…は?」
「…は?」
まるで鏡のように私の言葉を反芻する、『彼女』。
「…ええ!?」
「…ええ!?」
そこには。
紛れも無く…。
『私』が、驚いたような顔でポニーテールを揺らしているのでした…。
詩穂→キンジ
俺はなんとか白雪を鎖から救出し――その過程でヒステリアモードになってしまったわけだが――1つ上の階のスーパーコンピューター室に来ていた。
水に足を取られる白雪を補佐しながら、歩みを進める。
まるで迷路のようなコンピュータに囲まれた通路を足音を殺しながら進み…。
「……キンジ。」
先に上に行ってもらっていたアリアと、鉢合わせをした。
「…良かった、無事に白雪を助けられたのね…。」
「何とかね。アリア、『魔剣』は?」
「まだ見つけてないわ。この階にいることは確かなんだけど…。」
アリアは俺と白雪の姿を確認し、ホッと安堵した表情を作った。
『魔剣』の事を聞いてみると、まだ交戦はしていないようだった。
確かにこの階から上に続く扉やエレベーターは全て破壊されていたからな。
あと調べていないのは…エレベーターホールぐらいだ。
「…アリア。その…助けに来てくれて、ありがとう。」
白雪が少し照れながらも…真摯にアリアに礼を言う。
もちろんアリアは面食らった顔をしたあと、顔を真っ赤にしながら。
「べ、別に依頼だから助けただけよ!あたしの目的は『魔剣』の逮捕!別に感謝されることなんて無いの!」
しかし…まだ完全に安心したかというと、全然そんなことは無い。
詩穂…おそらく、『魔剣』に連れ去られてしまった詩穂が、未だに見つからないのだ。
「…まだ詩穂の安全を確保できていない。それに、『魔剣』に人質を取られている可能性だって充分考えられる。…急ぐぞ。」
「うん!」
「言われなくてもそうするわ!」
2人の頼れる声を聞きながら、また捜索へと向かった…。
エレベーターホールの近く。
そこで聞きなれた声が聞こえた。
「……、だから!私ですって!」
「…、違います!私なんです!」
…詩穂の、声だ。
しかし何かがおかしい。
同じ声が、言い争っている…?
「…様子がおかしいわ。」
「うん。まるで1人でケンカしてるみたい。」
アリアと白雪も違和感に気付いたのか、疑問を顔に浮かべている。
…しかし、ヒステリアモードの聴覚がその声の正確な位置を捉える。
…2つの詩穂の声は、別々の場所から聞こえている…!
「…とにかく行ってみよう。2人とも、戦闘態勢を維持してくれ。」
俺は2人の盾になるように前へ出て、エレベーターホールに入っていく。
…そして。
なんとなく予想はしていたものの、やはり驚くべき光景が目の前に広がっていた。
「私が、本物です!」
「いいえ、私です!」
…2人の詩穂が、言い争っていたのだ。
「…え?これ、どういうこと…?」
後ろから入ってきたアリアも思わず呆然とする。
すると2人の詩穂はこちらに気付いたのか、同時にこちらに首を回した。
「…キンジ君!良かった、来てくれたんですね!」
「アリアさんも白雪さんも、無事でよかったです!」
2人は全く同じ仕草で喜び、こちらに歩いてくる。
…なんだ?
一体、何が起きている…?
2人の詩穂は俺の数歩前で立ち止まると、今度はお互いに向き合いながら言い争いをはじめた。
「…キンジ君!コイツが『魔剣』です!私に化けてるんです!早く捕まえましょう!」
「違います、コイツの言葉を信じちゃいけません!コイツが本物の『魔剣』なんです!」
「なっ…!ち、違います!私が本物なんです!」
「ウソです!私が本物です!」
2人の詩穂は全く同じ動作で腕を真上にピンと伸ばし、ワーワーと口々に叫びだした。
…どちらかが『魔剣』であることに間違いは無いようだ。
どうにかして判別は付かないだろうか…?
しかしこの瞬間、詩穂が女性であるが故に、ヒステリアモードの目が捉えた。
片方の詩穂の胸が…もう片方より、大きいのだ。
…どっちが本物かは、悲しい理由だがわかってしまった。
小さいほうが正解である。
「…2人とも、一旦離れてくれ。」
「「…はい。」」
2人は俺の命令に割りと素直に従い、ある程度距離をとった。
そして俺は、そのうち胸の大きいほうの詩穂に向かって…。
ガキュン!
と、発砲した。
『魔剣』もそのくらい想定済みだったらしく、体を捻ってさも当然の如く避ける。
そして『魔剣』はすぐさま距離をとり、バッと服の裾から筒のような何かを落とす。
「…ふん。やむを得まい。」
シュゥゥゥゥゥ…。
それはどうやら発炎筒だったらしく、もくもくと煙が巻き上がる。
むやみに突っ込むことはせず、詩穂の安全を確保した上で煙から離れた。
ぱっぱっぱ…。
と発炎筒の煙に反応してスプリンクラーが動き出す。
後に待機してくれていたアリアと白雪も周囲を警戒しつつ俺の元によってきた。
「詩穂、大丈夫?」
「あ、アリアさん…。ありがとうございます、助けに来ていただいて。」
アリアが真っ先に詩穂に安否を確認する。
詩穂はアリアが来ていたことに気が付くと、律儀にお礼を言った。
これでようやく…詩穂の奪還も成功したわけだな。
…さあ、『魔剣』。
そっちの駒はもう無い。
ここからが、勝負だ。
キンジ→詩穂
私はなんとかキンジ君に本物であると見分けてもらい、無事救出されました。
…しかし、残念ながらまだ事態は収束していない模様です…。
とにかくこの煙が晴れるまでは小休止のようですね。
「…キンジ君、どうして私が本物だってわかってくれたんですか?」
私はキンジ君にとりあえず気になったことを聞いてみました。
するとキンジ君はとてもバツの悪そうな顔をしてから、優しい声で言いました。
「俺が、詩穂のかわいい顔を見間違えるはず無いだろう?」
「にゃっ…!?」
な、なななななんななな…!
なんで、こう余計な場面で口説いてくるんでしょうか…!
…って、あれ?
もしかして…。
「…アリア、さっき向こうで切っていたワイヤーを見せてくれ。」
「え?いいけど…。」
キンジ君は真面目な顔に戻ると、アリアさんにさっきのワイヤーなるものを要求しました。
…私のいない間に、色々起こっているみたいです…。
アリアさんは制服のポケットから細すぎて目を凝らさないと見えないようなワイヤーを取り出すと、キンジ君に渡しました。
「…あの、アリアさん?これは?」
「さっき大倉庫に『魔剣』によって仕掛けられてた罠よ。別にこの程度のチャチな罠に引っかかるはず無いんだけどね。」
アリアさんは少し呆れたように肩をすくめると、キンジ君のほうに向き直りました。
当のキンジ君はというと…。
「…白雪、こんな感じの罠をアリアのロッカーに仕掛けたことはあるか?」
「ううん。キンちゃんに誓ってそんなことはしてないよ。」
「…やっぱり、か。…不知火に花占いを見られたりはしなかったか?」
「それは…うん、見られました。キンちゃんに誓って。」
キンジ君に誓ったところで信憑性が上がるのかどうかはさておき、アリアさんの証言と食い違うことを白雪さんは誓いました。
…つまり。
「あの女、最初から今詩穂に化けていたように白雪にも化けて学校に潜入していたらしい。現に俺は不知火が白雪を中庭で見ている時間と同時刻に白雪を別の場所で目撃している。」
「…キンジ、あんた、まさか…なったのね!?」
キンジ君の素早い推理を聞いて、アリアさんの目が見開かれます。
…やはり。
キンジ君は今、『あの』状態になっているようですね…。
だとすれば、何らかの方法で『魔剣』の変装を見破ったことにも頷けます。
…このキンジ君と、アリアさんと白雪さん。
この3人なら…!
しかし、私の期待を嘲笑うかのように。
部屋の温度が、グンッと下がったように感じました。
「…私の一族は、火に滅ぼされかけた。だからこそ、『この力』を研究し続けてきたのだ…。」
不意に、エレベーター付近のだいぶ離れたところから『魔剣』の声が聞こえてきました。
『魔剣』の付近には、まだ晴れない煙と共に…。
その美しい光景を目が認識すると共に、部屋の室温がドンドン下がっていくのを感じます。
…あれが、『魔剣』の力…!
「我が一族は光を纏う聖女の振りをしながらも闇に身を隠す魔女の一族。私はその30代目。」
バッと煙が晴れ、そこに立つ『魔剣』の姿があらわになります。
西洋の甲冑に身を包み、そこにたたずむ少女。
その髪はまさに氷を体現したかのように銀色で、その鋭くも美しさを感じてしまう瞳の色はサファイア。
…古めかしい男口調には似合わない、美しい白人の少女が幅の広い洋剣を構えて立っていました。
「我が名は、ジャンヌ・ダルク30世。」
…ジャンヌ・ダルク…!?
ありえ、ないです…。
ジャンヌ・ダルクは15世紀、フランスとイギリスの100年戦争を勝利へと導いた、フランスの聖女です。
…しかし、ジャンヌ・ダルクは…!
「…う、ウソよ!ジャンヌ・ダルクは火刑で処刑された…!」
「ふん。アレは影武者だ。」
アリアさんは動揺しながらもしかし声を上げます。
しかし、『魔剣』…ジャンヌ・ダルク30世はその言葉を鼻で笑いました。
「…まぁ、アンタが何者でも関係ないわ。『魔剣』!アンタを逮捕する!」
アリアさんは叫びながら、単身飛び出します。
白雪さんがなにやら焦った顔をしますが、しかしアリアさんが止まるはずがありません。
アリアさんはまるで弾丸のように走りこみ、ジャンヌさんとの距離を詰めます。
30mは離れていたはずの距離が、一瞬にして0に近い距離に。
アリアさんは2本の小太刀で切りかかると、ジャンヌさんもその大きい剣で受けます。
「…無駄なことはしないほうがいい。私の聖剣デュランダルに、斬れないものは無い。」
「……!」
アリアさんは何かを感じ取ったのか、すぐに小太刀を引きバッとその場を離れました。
するとアリアさんの小太刀が凍り始め…その氷がパキパキとアリアさんの手元までやってきます。
アリアさんは小太刀をすぐに後ろに放り、今度はホルスターからガバメントを取り出します。
そして素早く銃口を光らせます。
バンッ!バンッ!
コルト・ガバメントは大型の銃。
それゆえ銃声も大きく、弾丸も大きいです。
しかしそれはジャンヌさんの剣に易々と弾かれます。
アリアさんは苛立ったように声を上げました。
「最近銃が効かないヤツ多すぎよ!」
「余計なことを言っている場合か?」
ジャンヌさんはアリアさんに負ける要素が無いと判断したのか、どんどんアリアさんを押し始めます。
…そこに、キンジ君が飛び込みました。
「……!」
「ただの武偵如きが!」
アリアさんは驚きながらも、キンジ君の動きに合わせて立ち居地を調節します。
アリアさんがジャンヌさんの剣を狙い、キンジ君がジャンヌさんの甲冑を狙います。
ジャンヌさんはどちらの弾丸も余裕の表情で捌きつつキンジ君に狙いを定めました。
キンジ君に走りこむジャンヌさんに咄嗟にアリアさんが足払いをかけますが、それも予想済みといわんばかりにジャンヌさんは平然と飛び越えます。
ジャンヌさんの剣がキンジ君を捉え…!
「……っ!」
…世界が、静止しました。
ジャンヌさんが驚きの表情を顔に浮かべ、キンジ君の目の前に着地しました。
キンジ君が、ジャンヌさんの剣を。
左手の人差し指と中指で、止めていました。
しかし、驚きの時間を素直に与えてくれるほど、我らがアリアさんは甘くありません。
「ていあっ!」
アリアさんはジャンヌさんの無防備な背中に回し蹴りを叩き込みます。
ジャンヌさんはサッと自慢の剣を手放し、しゃがむことでその一撃をかわします。
「…オルレアンの白夜…。」
「…なっ!?」
ジャンヌさんが何かを呟くと同時に。
彼女の聖剣デュランダルが、突如凍りつきました。
当然キンジ君の手も一瞬で凍り、キンジ君は思わず剣から手を放してしまいます。
こ、これは…!?
もう、疑いようがありません…!
これは、噂でしか知りませんですが…!
そして落ちてきた聖剣を難なく拾うと、そのままジャンヌさんは回し蹴りのせいで体勢の整っていないアリアさんに向かって…。
「ラ・ピュセルの枷。」
アリアさんの足元に、銃剣を放ちました。
当然のようにその銃剣を中心に床が凍りつき…アリアさんも足を床に縫い付けられてしまいます。
ガガガン!
キンジ君が無事な右手でベレッタを放ちますが…。
やはりジャンヌさんは剣で弾き返してしまいます。
「…クソッ!」
キンジ君はベレッタをフルオートに切り替え。
ババババババ!
とジャンヌさんに向かって連射しました。
これはさすがに捌けないのか、ジャンヌさんは後退しながらこれを避けます。
「キンちゃん!アリア!」
そしてこの隙に白雪さんが動きました。
ジャンヌさんとアリアさんの間に入るように体を割り込ませると、ジャンヌさんを威嚇するように睨みました。
私も流石にアリアさんを助けるべく動きます。
幸いにも白雪さんとジャンヌさんが睨みあって動かないので、私はアリアさんの足元に座り込むと氷をペリペリと剥がします。
…しかし、剥がし終えた途端にアリアさんは座り込んでしまいます。
「アリアさん!?」
「…く、ぅ…。」
アリアさんの両足を見ると、見事に凍傷を起こしていました。
かなり深いもののようで、アリアさんは立ち上がれそうにありません。
「…ダメ、か…。」
キンジ君も左手の氷を壊しながらこちらに来ますが…その左手は先程の氷のせいか握力が微塵にも感じられません。
さらにキンジ君も先程足を凍らされていたダメージが来ているのか、足取りが少々おぼつきません。
一気に劣勢になってしまいました。
キンジ君はおそらく一回くらいは動けるでしょうが、あまり戦闘を続けられるような状態ではありません。
アリアさんも足の凍傷と小太刀を失った状態でとてもではありませんが戦闘ができるとは思えません。
何とかできるとしたら…白雪さん、ただ1人。
でも、彼女は…。
「…し、白雪…さん…。」
白雪さんは…私の予想とは裏腹に。
その瞳に、闘志を燃やしていました。
「…ジャンヌ。悪いけど、私はもうあなたを逃がすことは出来なくなったよ。」
気が付くと、部屋の温度が元に戻っていました。
辺りを見回すと、お札のようなものがすぐ近くの壁に貼ってありました。
「ふん。イ・ウーで研磨された私をお前が捕らえることができるのか?」
「…どうだろうね。私は
白雪さんは、
…まさか…!
ジャンヌさんが『超能力者』であるように…。
白雪さんも、『超能力者』…!?
白雪さんの謎の発言、『G17』という言葉に…。
ジャンヌさんの表情が固まりました。
「…ブラフだ。G17など、この世に数えるほども存在しない。そもそも…お前は超能力は使えない。それが『星伽』を裏切ることになるのは…お前も理解しているはずだ。」
「…ジャンヌ。あなたは見抜けなかったね。」
白雪さんは髪をまとめていた白いリボンを解きます。
…同時に、部屋に強烈な緊張感が走りました。
「私は…キンちゃんがいる限り、どこまでも強くなれるんだよ。それに、私が許せないのは…!」
白雪さんが刀を構えます。
その構えは…不思議な、刀を頭上に高く掲げ刀だけを相手に向けたような。
奇怪で、独特で…しかし、どこかかっこいい構えでした。
「私の友達を、大切な人を、ライバルを…傷付けたこと。」
白雪さんの刀が、フッと。
静かに、しかし堂々と揺らめく。
焔を燈しました。
これが、これこそが…!
白雪さんの超能力…!
「…キンちゃん、アリア、詩穂。…私はこれから、強くなるよ。だから、嫌いになっても構わない…私を、見てて。」
白雪さんは寂しそうに、でも力強く言います。
…私は…。
こんな強い彼女を、見ていることしか出来ない…。
「…白雪、安心していい。1つだけありえないことがある。」
低く、甘く蕩けてしまうような声が響きます。
動けないキンジ君が、しかし白雪さんを優しく励まします。
「…俺が、俺たちが、お前を嫌いになることなんて…ない。」
キンジ君…!
そうです。
見ているだけじゃ、無いはずです!
私にも、応援することぐらいは出来るはずです…!
「…白雪さん!私は白雪さんが…どんな白雪さんでも、白雪さんが大好きです!」
「へっ!?」
白雪さんが少し顔を赤くしながらこっちに若干振り返ります。
…でも、その顔はすぐに優しい顔に変わります。
「…白雪。アンタが負けたら、承知しないわよ。私はそのほうが嫌いになっちゃうから。」
「…キンちゃん、詩穂、アリア…。」
白雪さんは焔の燈る刀を構えなおし、覚悟を瞳に燈します。
「…ありがとう。すぐに、戻ってくるからね。」
白雪さんはジャンヌさんを見据え、しっかりと宣言しました。
「ジャンヌ。あなたを…逮捕するよ。もう、負けない!」
「…私は、600年もの歴史を背負っている。お前など…。」
「ジャンヌ。『星伽』も同じように歴史を紡いできたんだよ。アリアは150年、あなたは600年。そして、私たちは…2000年もの永い時を。」
白雪さんは、ジャンヌさんを諭すように、語りかけます。
「『白雪』っていうのは本当の名前を隠すための伏せ名。私が継いできた諱、私の真名は――『緋巫女』。」
白雪さんは地面を強く蹴ると、ジャンヌさんに向かって走り出しました。
ジャンヌさんは焔を宿した刀を聖剣デュランダルで防ぎ…。
そして、その一撃をいなして『後退』しました。
「炎…!」
ジャンヌさんの額に一筋の冷や汗が流れました。
…ジャンヌ・ダルクは火刑で処刑されかけた…。
彼女は、炎が怖いのでしょうか…?
「今のは星伽候天流の初弾、
白雪さんは威嚇するように刀を頭上に掲げます。
…そうか、あの構えは白雪さん自身に炎が燃え移らないようにするための構え…!
「私の刀、
「…それは、私の聖剣デュランダルにも言えることだ。私の剣に斬れないものなど存在しない。」
2人の剣士の、斬り合いが始まりました。
2人の刀剣はギンギンと音を立てながら斬り結び合い…しかし、両方とも傷1つ付きません。
そして、まるで柔らかいプリンでも切るかのように。
周りのコンピューターや壁や防弾性のはずの床が2人の刀剣が触れるだけでザシュザシュと斬れていきます。
「…凄い。これが、一流の超偵同士の戦いなのね…。」
アリアさんが思わず感嘆の声を上げます。
キンジ君も見とれているようで…しかし、その目には何かを探っているようにも見えます。
「…アリア。なんとか加勢したいが…今の戦いに下手に手を出したら、白雪の足を引っ張りかねない。…アリアは、『超能力者』と交戦したことはあるか?」
「うん。でも、こんなに高度な戦いは初めてだわ。でも、この戦いは多分長くは続かない。」
「…長く続かない…?アリアさん、それって…。」
アリアさんは少し考えた後、改めて説明してくれました。
「超能力は、その力が強ければ強いほど消費も大きいわ。あの2人は…両方とも強い『超能力者』。もう、すぐに…均衡が、崩れる。」
白雪さんの表情を見ると…。
互角に見える戦いなのに、白雪さんの額に汗が滲み、呼吸も荒くなっているように見えます。
「だから、その瞬間がチャンスのはずよ。」
「アリア。その瞬間が…わかるか?」
「…経験則で、なんとなく。半分くらいカンなんだけど…。」
アリアさんは捨てられた子犬のような顔で、キンジ君を見上げます。
「信じて、くれる…?」
キンジ君はそんなアリアさんの頭を。
…優しく、撫でました。
「なっ…!き、キンジ君…!?」
私の驚きの叫びを無視して、キンジ君は言葉を続けます。
「…アリア。あの時は俺がバカだったよ。俺はアリアのことを、生涯信じるよ。」
「しょ、しょーがい…?」
「ああ。どんなときでも、どんな場所でも…俺はアリアの味方だよ。」
するとアリアさんは顔を真っ赤にして…しかし顔は、逸らしません。
…あれ?
私、ハブられてます?
「だからアリアも…俺のことを信じてくれるか?」
「…うん。」
スーパーキンジ君の前では、アリアさんですら従順になってしまいます。
…やはり。
確信しました。
スーパーキンジ君は女の子に優しい…とてつもなく。
つまり、スーパーキンジ君になるためのトリガーに…。
女の子が関係している可能性は…かなり高い、ということでしょうか?
私がまた状況に合わない考察をしていると…背中が、急に熱くなりました。
「…うあっち!?」
慌てて熱の原因を探ると…日本刀でした。
2人の世界に行っていたアリアさんとキンジ君も、私の異変に気が付いてくれます。
取り出してみると…日本刀が、赤熱していました。
…まるで、燃えているかのように…!
「な、なんですか、これ…。」
先程の緋色に光った時のものとはまた違う色の輝き。
その刀身はもはや銀色だった元の色など見えません。
その刀はまるで私に語りかけてくるように、赤く、赤く、輝きを増していきます。
「…私にも、何かしろ…ということですか?」
私の言葉に呼応するかのように、輝きが増します。
「…出来るのでしょうか?私なんかが…?」
「…出来るわ。」
アリアさんが、私の独り言に答えてくれます。
「アンタにだって、出来るはずよ。」
その、単純な励ましが。
心を、軽くしてくれます。
私に、勇気をくれます。
「あたしはもう動けない。だから…キンジを任せられるのは、今は詩穂だけ。」
「アリアさん…。」
「あたしの言った瞬間に飛び出して。あたしを…信じて。」
アリアさんはキンジ君から元気をもらったのか…いつもの、自信に溢れる目で私を見てくれます。
キンジ君も、何も言いませんが…優しく、私を見つめてくれます。
刀が、後押しするように光り続けます。
「わかりました。やってみます…いえ、やります!」
「…よし。2人とも…絶対に、逮捕するぞ。」
キンジ君の言葉に、私とアリアさんは同時に頷きます。
そして、白雪さんとジャンヌさんの戦いを瞬きもせずに見つめ。
その瞬間を待ちました…。
その瞬間は、本当にその数分後に訪れました。
白雪さんがジャンヌさんを壁際まで追い詰め…。
しかし、白雪さんのほうが明らかに消耗していました。
「…はぁ、はぁ…。ジャンヌ、もう終わりだよ…。」
「ふ、ふふっ…。」
ジャンヌさんは不適に笑うと、その場にしゃがみ込み。
白雪さんの脇を通って後ろを取りました。
「くっ!」
白雪さんはそれを追うように刀を振りますが、ジャンヌさんはそれを平然と剣で弾き返します。
白雪さんは戦意を喪失したかのように、フラフラと後退し…。
何故かその刀を…鞘にしまってしまいました。
「ホームズを連れ去るついでにお前も連れ去るつもりだったのだが…こればかりは仕方がないな。」
ジャンヌさんは白雪さんが抵抗の意思をなくしたと判断し、ゆっくりと白雪さんに近づいていきます。
…やはり、アリアさんが目的でしたか…!
「見せてやろう。『オルレアンの氷華』を…!」
ジャンヌさんはその聖剣を頭上に高く掲げます。
デュランダルに、青白い光が…集まっていきます。
これは、素人の私にもわかりました。
ジャンヌさんは、白雪さんにトドメを刺す気です…!
「っく、まだか…!?」
「まだよ、キンジ。まだ、あと少し…!」
キンジ君が今にも飛び出しそうにするのを、アリアさんが制止します。
その青白い光が、一際強くなった瞬間…!
「キンジ!今よ、行って!」
アリアさんが叫ぶのとほぼ同時に、キンジ君が走り出しました。
そのスピードは、アスリート選手より速く…しかし、ジャンヌさんには嫌でもその動きはバレていました。
「…ただの武偵如きが!」
ジャンヌさんは力任せに光ったままのデュランダルを横薙ぎに振ります。
キンジ君はその動きに合わせてスライディングの要領で一閃の下を通り…。
銃を撃とうとしました。
しかし。
バガッ!
不吉な音を立てて、キンジ君のベレッタが壊れました。
…これは、1年の頃、強襲科で何度も見た光景…!
―暴発―!
なんで、こんなときに…!?
「なっ!?」
暴発の衝撃で銃を取り落としたキンジ君が、その場に倒れこみます。
氷のダメージに耐えていた足が…ここで限界を迎えたのでしょう。
「…私の超能力を侮りすぎたな。お前の銃口を…コイツで塞いだだけだ。」
ジャンヌさんは辺りに舞うダイヤモンドダストに目を向けながら、キンジ君を見下ろしました。
最初に発炎筒まで焚いてスプリンクラーを作動させたのは、私達武偵の武器である銃を無効化するため…!
『魔剣』はイ・ウー指折りの策士。
その言葉を改めて実感しました。
「…さあ、これで本当に終わりだ。…惜しいものを斬ってしまうな…。」
ジャンヌさんは白雪さんに向き直ると、今度こそデュランダルを頭上に構えました。
そして先程一際光り輝いたのは気のせいだといわんばかりに、更に青く、蒼く輝きます…!
もう、振り下ろしてしまう…!
その刹那。
「…詩穂。今よ。…その刀なら、多分…止められるわ。」
私はアリアさんの言葉を背に、走り出しました。
ただ、走る。
友達を、大切な人を、ライバルを助けるために…!
「…うあああぁぁぁぁぁあぁあぁ!!」
情けない叫びを上げながら、目的の場所に辿り着き。
振り下ろされた聖剣デュランダルを下から迎え撃つように。
力いっぱい、刀を振り上げました。
ガギンッ!!
…静寂。
気が付いたら閉じていた瞳を開けると…。
驚いたようなジャンヌさんの顔と。
目の前で拮抗する、赤い光と青い光が見えました。
「…ありがとう、詩穂。私も…負けないよ。」
私のすぐ後ろにいたはずの白雪さんは、私のすぐ隣に立っていて。
そして白雪さんはスッと居合いの構えを取ります。
「これが私の…私たちの力だよ!」
白雪さんの言葉と共に、暖かい…包み込むような熱が、辺りを覆います。
「――
白雪さんの放った居合いは。
そのスピードは全く落ちないまま。
聖剣デュランダルを、真っ二つに斬り抜きました…。
ドガァァァァァァン!!
同時にその居合いから巻き上がった炎が、天井にぶつかります。
ジャンヌさんはその光景を、ただただ呆然と眺めていました…。
「…『魔剣』。逮捕だ。」
いつのまに足が回復していたキンジ君が対超能力用の手錠をジャンヌさんの手にかけ。
この戦いは、幕を下ろすのでした…。
後日。
ジャンヌさんは逮捕され教務課に連れ去られていきました。
…たっぷり先生たちに
まぁ、自業自得なのでなんとも言えないですが…。
ジャンヌさん、ご愁傷様です。
「I'd like to thank the person...」
さて、私は今閉会式のチアを観客席から眺めていました。
不知火君のかっこいいボイスをバックに、チアの子が次々と出てきます。
キンジ君はどこか嫌そうな顔をしながら、下を向いてギターを弾いています。
…どうして、でしょうか?
武藤君や他の男子生徒は、まるで役得だといわんばかりにチアの皆さんを観賞しているというのに。
キンジ君は、なぜ見ないようにしているのでしょうか?
…それは、女嫌いだから?
どうして女嫌いなのでしょうか?
ハッキリ言って、ぶっきらぼうではありますが話してみれば女の子に嫌われるような性格ではありません。
むしろ割りと優しいです。
そこに女嫌いになってしまう理由が見つけられません。
…では、なぜ?
…それは、女の子を見てしまうといけないから。
…どうして?
…それは、きっと…。
わーわー!
キャーキャー!
一際歓声が大きくなりました。
…アリアさんと、白雪さんが出てきたからです。
アリアさんは始めから参加が決まっていましたが、白雪さんは飛び入り参加に近いです。
というもの、なにやら『星伽』の掟でこういう目立つことは禁止されていたからなんだそうですが…。
アリアさんにゴリ押されて、今に至ったそうです。
…当の白雪さんはめっちゃ恥ずかしそうにしています。
でも見ていて腹立つ位に胸がぽよんぽよん揺れていて…。
ああぁ、腹が立ちます…!
そして、曲がラストに差し掛かり…。
チアの皆さんが手に持っていたポンポンを上に放り投げ、銃でガンガンと撃ちました。
…こういうところは本当に武偵高らしいですね…。
こうして。
忙しかったではすまないアドシアードも、無事終了するのでした…。
打ち上げ、と称して私達4人はファミレスに来ていました。
…なんでファミレス?
軽食も済ませ、4人でわいわい会話していると。
「…ああ、そうだ。白雪。」
アリアさんが話を切り出しました。
「アンタもあたしのドレイになりなさい。」
…!?
場の空気が若干凍てつきます。
しかし次の一言で白雪さんは篭絡されました。
「これからはあたしたちと一緒に行動しなさい。ハイ、これキンジの部屋の鍵。」
「ありがとうアリア!私、これからも頑張るね!」
「おいおいおいおい!?」
今度はキンジ君が焦る番です。
アリアさんが渡した偽装カードキーをサッと制服の内側にしまうと、白雪さんは何事も無かったかのように居住まいを正します。
「キンちゃん…!私、嬉しいよ!合鍵…愛の証だね!」
「いや、そもそも男子寮だ!」
「なによドレイ一号。文句あんの?」
アリアさんにすごまれるとキンジ君は勢いをなくして、ただ項垂れました。
…キンジ君、ふぁいとです。
そのあともグダグダと話し、解散したのは割りと遅くでした…。
コン、コン。
「はーい。」
私はその日の夜、(今日から)白雪さんの部屋を訪ねました。
がちゃ、とドアを開けてもらい、私はそそくさと部屋に入りました。
…『魔剣』の事件から白雪さんは私をライバルとしてだけでなく、友達として扱ってくれることが多くなりました。
もちろん私は嬉しいですが、キンジ君が絡むとやはりアウトなのでそこらへん何とかならないでしょうか…。
「…で、どうしたの?」
「はい。えっと、私のこれ…。」
私は背中から一本の日本刀を出します。
アレほど強いジャンヌさんの一撃を受けたのに…刃こぼれ1つ起こしていません。
刀身はあの時緋色に輝いていたのが嘘のように元の銀色に戻っています。
「これって一体…なんなんですか?」
私が白雪さんを訪ねた理由。
それは、もう明らかにただの日本刀を逸脱しているこの刀のことを聞くためでした。
「…詩穂。このことは、誰にも…キンちゃんにも、あなたの両親ですら話しちゃダメだよ?」
「…ハイ。」
私が絶対に話しません、と誓うと白雪さんはその重たい口を開きました。
「…それは、『
「イロカネシズメ…。」
私は刀を見ながら、白雪さんの話に耳を傾けます。
「正確に言ったら、それは私達『星伽』に代々伝わる色金殺女の…元となった、刀。」
「…ええ!?」
つまり、白雪さんの刀の元ネタとなった刀…ということでしょうか?
「そ、そんな…。これは私の家にたまたまあった刀なんですよ?そんなはずは…。」
「…うん。それはまだ私にもわからないけど…。でも、気をつけてね。」
白雪さんは言葉を1つ区切り。
こういいました。
「この前の占いに出てたんだけど…。詩穂は、いつか詩穂じゃなくなる時が来るの…。」
自室のベッドに寝転がりながら、私は色々なことを考えていました。
…なぜ、ジャンヌさんはアリアさんを攫おうとしたのでしょうか?
これについては何も…何も、わかりません。
イ・ウーの目的が、さっぱりわかりません。
次に、叶さんの『情報』。
確かに聖剣デュランダルを持っている人は存在しました。
でも、なぜ叶さんはそのこととジャンヌさんが結びつかなかったのでしょうか?
なぜ、彼女は『魔剣』が地下倉庫にいることがわかったのでしょうか?
…この2つに関しては、いつか叶さんに聞いてみないとわかりませんね。
そして、やはり一番引っかかるのは…先程の白雪さんの言葉。
私が、私で無くなるときが来る…?
一体どういう意味なのでしょうか?
こればっかりは、考察の余地すらありません。
…結局、謎ばかりが残って。
でも、今は事件を解決できたことがとても満足で。
私はいつの間にか、夢の世界に旅立っていくのでした…。
読了、ありがとうございました!
今回は…めちゃくちゃ長かったです。
読んでて飽きますよね、これ…。
とにかく2巻の内容は終了です。
次回に一旦番外編をはさんで、3巻内容に移っていきたいと思います。
vsジャンヌ戦でしたが、戦闘内容が原作から少しズレています。
そのため混乱させてしまったかもしれません。
でも原作どおりにすると詩穂の活躍がなくなっちゃうんですもの…。
その代わりキンジの活躍シーンがめっちゃスキップされまくりましたが。
ごめん、キンジ…。
その代わり視点をたくさんあげたから許してくれ…。
え?許さない?
申し訳ありませんでした。
…そして、原作のカナとうちのオリキャラの叶を区別するために、少しだけ改稿させていただきました。
今までの表記
どちらも「カナ」
改稿後
原作のほうは変わらずに「カナ」
オリジナルのほうは「叶」
それにつられて「アカネ」→「明音」
ただし、「明音→叶」もしくは「叶→明音」で話しかける場合のみ、
「カナちゃん」「アカネ」
となります。
ややこしくして申し訳ありませんが、ご了承ください。
感想・評価・誤字脱字の指摘・詩穂に叩き込みたいSッ気などを心からお待ちしております。
※追記 2015/07/16
感想欄にてsepiaさん(勝手に名前を出してしまって申し訳ありません)にルビの振り方を教えていただきました。
というわけで全ての話を見直し、ルビの振れる場所は全て修正しました。
勝手な改稿をお許しください。
修正抜けやそれに伴う誤字脱字がございましたら是非感想欄にて指摘していただくと嬉しいです。
そしてルビの振り方を教えてくださったsepiaさん、本当にありがとうございました!!