…はい。
もう言い訳する余地すらありませんね。
またもや更新が遅れてしまい、申し訳ありませんでした…。
さて、謝罪はしばらく置いておいて。
今回はいわゆる日常パートと、作戦会議パートが主です。
特に物語に進展がないという…。
じゃあなんでこんなに更新が遅れたんでしょうね。
私ってなんなんでしょうね。
理子ちゃんの部屋に泊まった翌日。
私は理子ちゃんと一緒に女子寮から登校しました。
…ここだけ聞くと、なんだか普通の登校風景みたいですが…。
「ふんふんふ~ん♪」
「…あの、理子ちゃん?」
「なーに?」
「…いえ、なんでもないです…。」
現在の状況を確認すると。
理子ちゃんと手を繋いで教室に向かって校内を歩いている途中です。
…何故か恋人繋ぎで。
「ふんふーん♪ふんふんふーん♪」
…まぁ。
理子ちゃんが幸せそうなので、良しとしましょうか…?
教室に入ると。
理子ちゃんは大きな声でクラスメイトに呼びかけました。
「たっだいまー!りこりん帰還いたしましたーっ!」
と、理子ちゃんの声を聞いたクラスメイトたちは。
わぁぁぁ、と理子ちゃんの周りを取り囲みました。
…自然、理子ちゃんと手を繋いでいた私も囲まれる形になります。
理子ちゃんは、私と違って人気者です。
可愛らしい見た目、高いコミュ力。
明るくとっつきやすい言動、そして幅広い趣味のおかげで誰とも仲良く接する事が出来ます。
…そして、私はというと。
「あ、あぅ…。」
絶賛コミュ障発動中です…。
「ねぇ理子ー、どこ行ってたの?」
「アメリカだよー。」
…事前に理子ちゃんは情報を弄っていたので、今までアメリカに
相変わらず計算高い人です。
「りこりん、待ってたよ!おかえり!」
「「りこりん!りこりん!」」
気が付いたらクラスには『りこりん
主にやっているのはノリのいい男子の皆さんです。
理子ちゃんも楽しそうに一緒に『りこりんりこりん』しています。
……あ、遠くの席にこの異常な状況を遠い目で眺めるキンジ君が見えました。
アリアさんは本来犯罪者である理子ちゃんがちやほやされているのが気に食わないのか、ぐぬぬ、と表情を歪めています。
「…あれ?茅間さんと理子ちゃんって仲良かったっけ?」
「うん?そうだよー。理子と詩穂はちょー仲良いのです!ね、詩穂?」
「へっ!?え、えと、あぅ……。」
急に矛先を向けられ、答えに窮してしまいます。
…どうも私は、不特定多数の人に囲まれてしまうとビビッてしまうようですね…。
コミュ障の典型ですね、わかります。
「え、えと、その…。」
「うんうん。かわいいなぁ、詩穂…!私の一生のパートナーだよねっ!
理子ちゃんが私に抱きつき、更に私は言葉に困ってしまいました。
…そんな私たちを見てか見ずか、遠巻きにいた1人の女子が、ぼそっと呟きました。
「…でもなんか、茅間さんってオドオドしてるっていうか暗いっていうか…理子にはもったいないよねー?」
ガァン!
その言葉が終わるのと、銃声が聞こえたのはほぼ同時でした。
「…もういっぺん言ってみな。」
…私のすぐ隣には、能面のような無表情をした理子ちゃんが。
その拳銃を持つ右手は高く、真っ直ぐに天井に向けられています。
周りの皆さんは、あまりの急展開に唖然としています。
「次、詩穂のこと悪く言ったら…風穴開けっぞ?」
理子ちゃんは呟いた女子に向かって静かに言い放ちました。
その女の子は数瞬呆然としたあと。
「…なっ何よ!ちょっと人気だからって…調子乗ってんじゃないわよ!」
そう言い残しドタドタと廊下に出て行ってしまいました。
…バカにされたり威嚇されたりするとすぐケンカ腰になるのはとても武偵高生徒らしいですね…。
などとかなり場違いなことを考えていると。
「…り、理子ちゃんの気持ちはわかるぜ!茅間さんかわいいもんな!」
「そ、そうそう!急にあんなこと言う高宮が悪いんだよ!」
…すぐに、周りのみんなが理子ちゃんのフォローに入りました。
ここら辺はやはり理子ちゃんのクラス内での信用がモノを言うようですね。
そしてさっきの方は高宮さんというのでしたか…。
当の理子ちゃんは、ただ無表情に…皆に言い放ちました。
「…理子の詩穂に、手ぇ出したら…だめだぞ?」
皆が黙り込み…クラスに静寂が舞い降ります。
…その一言を最後に、朝のHR開始のチャイムが鳴るのでした…。
…時は移り、お昼休み。
「…理子ちゃん、どうしたんですか?」
「へ?どうしたって?」
理子ちゃんと一緒にお弁当を食べながら、理子ちゃんに朝のことを問いただしてみました。
…でも、本人は何のことだかわかっていないようです。
「朝のことです。どうしてあんな…理子ちゃんらしくないですよ。」
理子ちゃんは朝のことを思い出したのか、少しバツの悪そうな顔をしながら。
「その…詩穂のことをバカにされたと思ったら、手が勝手に…。」
と答えました。
手が勝手に、って…。
「…だって、自分の大切な人が侮辱されたら、怒るでしょ?」
「あ、あぅ…理子ちゃん…。」
不意に大切な人、と言われて顔が熱くなってしまいます。
…ではなくて。
「…やっぱり理子ちゃんには、そんなことして欲しくないです。理子ちゃんは…優しい人、なんですから。」
「…ん。わかった。詩穂がそういうなら、もうしないよ…。」
理子ちゃんは渋々、といった様子で頷きました。
…私はお弁当に視線を戻すと、頭の中で考え始めます。
いくらなんでも、おかしい。
理子ちゃんの行動が明らかに後先を考えなくなっています。
…それは、なぜでしょう?
昨日のこと…というか私との再会も関係していそうですが…それだけじゃないはずです。
私と理子ちゃんの問題じゃなくて理子ちゃん自身の問題…。
これは、カンに過ぎませんが。
『ドロボー』のことが、関係しているような。
その事が理子ちゃんの余裕を奪っているような。
そんな気が、しました。
翌日。
武偵高では中間テストが行われました。
一般の高校が二日間に分けて行うはずの一般教科のテストは…この高校は一教科20分くらいの小規模の軽いテストで済ませてしまうので一日目の午前中で全テストが終了してしまいます。
そのあと体力テスト、身体測定、各専門科目――私だと、強襲科――のペーパーテストをやって一日で終わらせてしまいます。
…さて、一般教科のテストが終了して、現在体力テスト中…。
全種目をさっさと終わらせ、いつもどおりボロクソな自分の運動能力が記されている記録用紙を手にグラウンドの隅に座りました。
…すると、同じく全種目を終わらせたらしいキンジ君が私のほうに歩いてきました。
「…詩穂。終わったのか?」
「はい。キンジ君もですか?」
「ああ。」
そして私から少し離れた場所に腰を下ろすと、ボーっと他の生徒の体力テストを眺め始めました。
…少し、その距離に寂しさを覚えてしまいます。
その距離をごく自然に埋めるように、キンジ君に話題を振りに近寄ります。
「キンジ君はどうでしたか?」
「…至って普通だ。」
キンジ君が手渡してくれた記録用紙を見てみると…。
見事に高校2年男子の平均をなぞっていました。
…ある意味凄いですね…。
「詩穂はどうなんだよ。」
「へっ!?わ、私はなんというかそのあのですね…。」
…とかなんとか言い訳をしているうちに、キンジ君に記録用紙を覗き見られてしまいます。
キンジ君はそれに目を通すと…凄く申し訳なさそうな顔で記録用紙から目を離しました。
「…なんか、その…スマン。」
「…うぅ、謝られると更に惨めです…。」
…私だって地を這うようなこの記録には絶望しているんですよ…。
そんなことを話しながら、だんだん会話が世間話になってきたあたりで…。
「あら。あんたたち、一緒だったの。」
タオルを首にかけたアリアさんがこちらにやってきました。
手にはスポーツドリンクが入っていると思われるペットボトルが握られています。
アリアさんは私とキンジ君の記録用紙を見て…嘆息します。
「もうキンジはどうでもいいとして…。」
「どうでもいいってなんだよ。」
「詩穂、なんとかなんないの?」
「あぅ…ごめんなさい…。」
「ごめんなさいじゃなくて…もう。まぁいいわ。こういう努力で何とかなるものは何とかしときなさいよ?」
「…はい…。」
わかっているとはいえ、やっぱり直接言われるとグサッときますね…。
…でも、アリアさんの言うとおりです。
努力で何とか出来るなら…何とか出来るようになるべきです。
私たちは会話もそこそこに、教室に戻るのでした…。
そのあとの時間割だと、自由参加のテストがいくつか残っていました。
私はというと…生物の小テストを受けることにしていました。
というのもこの生物のテスト、DVDを見てプリントを埋めるだけで0.1単位もらえるらしいのです。
私は他の生徒さんと違ってあまり依頼で単位が稼げないので、こういうチマチマしたことで単位が稼げるのはとても助かったりします。
時間的に…今は、
あまり近くに人がいない席を探していると…見知った背中を見つけました。
「…キンジ君。」
「…詩穂か。」
キンジ君が端っこのほうの席に座っていました。
どうやらキンジ君も受けに来ていた模様です。
「隣、いいですか?」
「…好きにしろ。」
相変わらずなキンジ君のぶっきらぼうな返答に苦笑しつつ、キンジ君の右隣の席に失礼します。
…少し経つと。
「ほら、皆さん席についてください。テストを始めますよ。」
ポンポン、と手を叩きながら黒いスーツを着た先生がやってきました。
…すると途端に、教室内にいた女子生徒の皆さんがキャー、と黄色い声を上げ始めます。
…あの先生は…。
確か、救護科の非常勤の講師の
海外の大学を飛び級で卒業し、どう見ても20歳そこいらの年齢でありながら遺伝子学者でもあるすごい先生です。
女子生徒からの評判もよく、長身で顔はいわゆるイケメンさん。
しかも武偵高の先生としては珍しく、性格も優しく礼儀正しいという…いわゆる完璧超人です。
…どことなく不知火君を思い出しますね…。
とまぁ、こんな感じでなぜ武偵高に就任したのか謎な感じの先生です。
その小夜鳴先生がプリント…おそらくテスト用紙を配り始めます。
私にも配られたプリントに目を向けると…。
内容は至ってシンプルでした。
文章の途中途中に空欄があり、その空欄を埋めればいいみたいです。
内容は…『遺伝子学』。
なるほど、中々簡単そうです。
これは単位ゲットですね。
「…詩穂は、あいつらみたいに小夜鳴を見に行かなくていいのか?」
「へ…?私、ですか?」
少し唐突で不思議な質問がキンジ君から飛んできたので、少々面食らってしまいます。
…私は…。
「…まぁ、かっこいいとは思いますけど…天上の人というか何と言うか、私としてはあんまり興味が沸かないですね…。」
「…そうか。」
キンジ君はそれだけ言うと、テスト用紙に視線を落としてしまいます。
…はて?
なんだったのでしょうか…?
「詩っ穂ーー!会いたかったよーぅ!」
「みぎゅっ!?」
不意に、後ろから何者かに抱き付かれました。
…いえ、誰だかはすぐにわかるのですが…。
主に背中に伝わる2つの大きな胸の感触で。
「…理子ちゃん。とりあえず離れてください…。」
「んー。」
理子ちゃんは案外あっさりと離れると、とさっ、と私の右隣の席に腰を下ろしました。
…これで私は理子ちゃんとキンジ君に挟まれる形になります。
「理子ちゃんも来たんですか?」
「そーだよー。私は詩穂に会いに来たんだよ!」
テストを受けに来たわけではないようです。
…理子ちゃん…。
自分で言うのもなんかアレですが、どんだけ私のこと好きなんですか…。
「…おい、始まるみたいだぞ。」
キンジ君の発言の直後、照明が落ちます。
室内が薄暗くなり、DVDの上映が始まりました。
『遺伝。親の情報が子供に伝えられる…。』
…とは言っても…。
内容自体は簡単ですし、正直DVD見なくても用紙を埋められるんですよね…。
というわけで、DVDの音声をBGMに空欄に当てはまる言葉を埋めていきます。
…この空欄は二重螺旋構造ですね…。
…ここは優性遺伝かな…。
…ここはメンデルの法則ですね…。
…ものの3分程度で空欄を埋め終わってしまいます。
…暇、ですねぇ…。
前のスクリーンを見ると、有名なアインシュタインとマリリン・モンローの掛け合いが映っています。
どの話も知っているので、退屈で仕方がありません。
「…はぁ…。」
思わず溜息をついてしまいます。
すると。
「…暇なの?」
右隣から理子ちゃんが小声で話しかけてきました。
「へ?ええ、まぁ…。」
「じゃあさ、ちょっと…遊ぼうよ。」
理子ちゃんは言うなり私に身を寄せました。
そしてそのまま、その大きな胸で私の腕を…って!
「な、何してるんですか理子ちゃん!?」
「えぇー?うーん…誘惑?」
ホントに何やってるんですか!?
「ねぇ、私と…ちょっとイケナイ遊び、しよう…?」
「ひゃぁ…ちょ、ちょっと、理子ちゃん…!」
理子ちゃんの指先が唐突に首筋に触れました。
そのままさわさわ、と弱くくすぐるように指先が上下します。
当然くすぐったいです。
「や、やめ…ストップです、理子ちゃ…やぅぅ…。」
「ほれほれ、ここがいいのか?ここか?ここか?」
理子ちゃんは悪ノリしてか、私の体中の色々なところを撫で回し始めます。
お腹、耳、脇腹…。
だんだんとくすぐったさに…なんというか…。
ゾクゾクとしたものが…!
「ふぁ…ぅぅ…。」
「…ふふ、詩穂。気持ち…いいかな?」
「や、やぁ…理子ちゃん…。」
「かわいい…!詩穂、かわいいよぉ…!」
「…あのですね、茅間さん、峰さん…。」
……あれ?
気のせいでしょうか、最後のほうに男の人の声が…。
そして部屋がやけに明るいような…?
前のスクリーンを見てみると、『おわり』の三文字が。
…あれ?
『おわり』?
そしてすぐ横の気配に気が付いたときは時既に遅し。
…とてもお怒りの表情の小夜鳴先生が、私たちの席の隣に仁王立ちしていました…。
「…こ、これは、あのですね…!」
「り、理子のせいなんだよ!詩穂は悪くないの!り、理子だけが…!」
理子ちゃんは必死に状況を説明しようとしますが…やってたことがやってたことです。
どんなに説明しても無駄でしょう。
「そ、そうだ!キーくん!キーくんなら証人に…っていなーい!?」
どうやらキンジ君は厄介事を察知したのか、早々に帰ってしまった模様です。
「…お2人とも、TPOというものをご存知ですか…?」
…どうやら弁明の余地はないようです。
そのあとガッツリお説教を食らいました…。
私も理子ちゃんも空欄はしっかり埋まっていたので、お説教だけで済んだのが不幸中の幸い、と言うべきでしょうか…?
その日の夕方。
部屋に戻ると、白雪さんが荷物をまとめているところに出くわしました。
「…白雪さん?どこかに出かけるんですか?」
「ああ、おかえり、詩穂。」
白雪さんはキャリーバッグのチャックを閉めると、こちらに向き直ります。
「ただいまです。…旅行、ですか?」
「うーん、そんな楽しいものじゃないかも。」
軽く苦笑いする白雪さんの格好は…。
いつもの巫女服ですが、なにやら顔は少し元気がありません。
「今夜から、星伽にしばらく帰ることになったの。だから、キンちゃんをよろしくね?あ、でもキンちゃんに近づいたらダメだよ?」
じゃあどうしろと。
しかし…急に白雪さんの不在が決定になってしまいました。
実を言うとここ数日も白雪さんは
なんでも昨日までは出雲大社に行っていたのだとか。
「…そう、ですか。わかりました。じゃあ、またしばらく会えないんですね…。」
「そ、そんなことないよ!なるべく早く帰ってくるから…詩穂も、そっちは任せたよ?」
「…はい。わかりました。」
少し寂しく思ってしまい、ちょっと声のトーンを落としてしまった私を励ますように、白雪さんはえいっとガッツポーズを作って見せます。
…そうですね。
またしばらくはこの部屋の炊事洗濯その他諸々は私がやることになります。
頑張りましょう!
「…じゃあ、私はもう行くね。」
「はい。行ってらっしゃい、白雪さん。」
「うん!行ってきまーす!」
…こうして、なんだかよくわからないまま白雪さんは星伽の実家…青森に、行ってしまったのでした…。
そんな事があった翌週の休日。
梅雨に入ったのかここ最近は雨が多く、そんな中幸運にも晴れた日曜日。
私とキンジ君とアリアさんの3人で、何故か秋葉原に来ていました。
「…ほ、ほんとにこの道で合ってるの…?」
「はい、合ってますよ?」
アリアさんもキンジ君もアキバはあまり来ないのか、キョロキョロしながら歩きます。
…どうして秋葉原なんかにいるのかというと。
理子ちゃんが『ドロボー』の作戦会議をする場所として指定したのがアキバのメイド喫茶だからでした。
このメイド喫茶は…私と理子ちゃんがよく2人で遊びに行くときに行っていた場所です。
ちなみに作戦名は『大泥棒大作戦』。
…語呂悪いですね…。
「…ひ、人が多くて…たまらないわ…。」
アリアさんは行き交う人の量に目を回しながらも、先導する私にしっかりと付いてきてくれます。
キンジ君も戸惑いながら、無言で付いてきてくれます。
道行く人たちはアリアさんを見てボソッと一言。
「アホ毛だ。」
「ツインテだ。」
「妹ロリだ。」
「ミクだ。」
…初音さんではありませんし、妹でもありませんけれども…。
なんとなく共感します。
アリアさんの外見はとんでもなく可愛い上に、確かに創作上のキャラクターを想起させるような髪型・容姿をしていますし、当然でしょう。
「……??」
アリアさんはそんな道行く皆さんを不思議そうな目で見つめるだけでした…。
詩穂→アリア
「着きましたよ。」
とあるビルの、階段の踊場。
そこで詩穂は歩みを止めた。
「こ、ここなのね…。」
「はい。ここです。」
まるで戦場に行く気分のようだわ…。
とんでもなく緊張する…。
これなら犯罪者のアジトに強襲するほうがよっぽどマシね。
「…は、入るのか…?」
「へ?そりゃ、入りますけど…。」
キンジも同じように緊張しているようね。
よかった、あたしと同じ感性を持っている人がいて…。
おもむろに、詩穂が扉を開けた。
がちゃ。
コロンコロン…。
ドアを開けると、入店を知らせる鈴の音が店内に響いた。
と、同時に。
「「「お帰りなさいませ、ご主人様、お嬢様!!」
甲高い声が耳に届く。
…こういう、店なの…。
「じ、実家と同じ挨拶だわ…まさか、日本で聞くとは思わなかった…。」
驚きのあまり率直な感想がもれてしまう。
そして、あたしたちを案内してきた詩穂はというと…。
「きゃあ、詩穂ちゃん!お帰りなさいませー!」
「相変わらずかわいー!」
「詩穂ちゃんもここで働けばいいのにー!」
「にゃ、ちょ、ちょっと、今日は大事な用事なので早く案内してくださいー!」
…メイドたちに、囲まれていた。
詩穂本人はどこか照れている様子だったけど…その顔はどこか嬉しそう。
なるほどね。
ここは詩穂にとっては、ホームグラウンドのようなものなのね…。
理子もそうだけど、どうしてこういう場所に好き好んで来れるのか謎で仕方ないわ…。
そのあとメイドたちにたっぷり10分程可愛がられた詩穂を鑑賞させられたあと、ようやく席に案内されたのだった…。
アリア→詩穂
約束の時間から、だいぶ経ったころ。
アリアさんは注文したコーヒーを飲み干し退屈そうに枝毛を探し、キンジ君は疲れきった表情で水を飲み続けている、そんなある意味悲しい風景を向かいの席から眺めていた辺りで。
…ようやく理子ちゃんが来ました。
おそらく衝動買いしまくった後であろう、数々のお店の紙袋を抱えながら。
「きゃー、理子さま!お帰りなさいませ!」
「理子さまデザインされた制服、凄く好評なんですよー!」
「詩穂ちゃんもお帰りになってますよ!ご案内しますね!」
ちょっと、そこ!
どうして理子ちゃんは『さま』で私は『ちゃん』なんですか!
…なんて抗議は何回もやっているので諦めることにします。
理由は、曰く「可愛いから」。
納得いきません。
「ごっめぇーん、チコクしちゃったー!」
理子ちゃんはパタパタとこちらに走ってくると、私の隣に座りました。
席の配置的には私と理子ちゃんの向かいにキンジ君とアリアさんが座っている形になります。
「理子はいつものパフェといちごオレ!そこのカッコイイ奴にはダージリン、ピンクにはももまんでも投げといてー。」
「あ、私はアッサムをお願いします。」
「かしこまりましたー♪」
メイドさんに理子ちゃんが注文していたので、私も追加で紅茶をもらいます。
…少しお財布に響きますが、ここのアッサムティーはミルクとの相性が抜群にいいのでたくさん飲みたくなってしまうのです。
「…まさか、リュパン家の人間と同じ席に着くなんてね。天国の曾お爺さまも嘆かれてるに違いないわ。」
理子ちゃんがパフェを食べ終わり、落ち着いた辺りで。
アリアさんが少し嫌味を言いながらも作戦会議が始まりました。
「理子。俺たちはお茶に来たわけじゃない。……アリアと俺にした約束、ちゃんと守るんだろうな?」
キンジ君が、おそらくもっとも不安要素であろうことの確認をします。
…そもそも口約束なので、なんともいえないですが…。
キンジ君は、お兄さんについての情報。
アリアさんは、かなえさんの裁判での証言。
2人に対する報酬は、確かにこうなっていたはずです。
「もっちろん♪」
「…全く。だったら早く始めなさいよ。」
アリアさんが少し苛立ったように声を上げます。
ついでにダンダン、と机を叩くことも忘れません。
「お前が命令すんじゃねぇよ、オルメス。」
理子ちゃんもケンカ腰で口悪く反発。
…どうやら、この2人は根本的に仲が悪いみたいですね…。
いえ、そもそも元犯罪者と知りながらも理子ちゃんと仲良く話している私のほうが異常なのかもしれませんが。
理子ちゃんは鞄からゴソゴソ、とノートパソコンを取り出すと。
全員に見えるようにテーブルの上に配置し、なにやら設計図のような画面を表示しました。
「横浜郊外にある『紅鳴館』。…ただの洋館に見えて、これはかなり鉄壁の要塞なのですよー。」
理子ちゃんはクルッといつもの調子に戻ると、説明を始めます。
ディスプレイに表示される画面を見てみると…。
どうやら、その『紅鳴館』とやらの見取り図、のようです。
三階から地下一階までの正確な見取り図。
そして、その館に仕掛けてある膨大な量の防犯装置や館から逃げ出すための無数の逃走経路がものすごく緻密に、詳細に書き込まれていました。
ぶっちゃけ、すごい、としか言いようがありません。
「これ…あんたが作ったの?」
「うん。」
頬杖をつきながら、なんでもないように答える理子ちゃん。
「いつから?」
「んーと、先週。」
アリアさんの顔が驚愕に染まります。
当たり前です。
こんな精密で完璧な計画、プロに頼んでも最低3ヶ月はかかります。
私は、とりあえず気になったことを理子ちゃんに聞いてみることにします。
「こんな…どこで、誰にこんな作戦立案術を習ったんですか?」
「イ・ウーでジャンヌに。」
…ジャンヌ。
ジャンヌ・ダルク30世。
『
叶さんの言葉が、身を持ってわかりました。
『お互いの技術を、教えあって高めあう場所』。
これは…想像していたよりも、恐ろしい組織なのではないでしょうか?
『イ・ウー』…。
その強いメンバーたちが、お互いの知識や技術を教えあう…だなんて。
「理子が欲しいお宝は、ここの地下金庫にあるはずなの。でもこれがマジのマゾゲーでねぇ。でも、優秀な…息の合った2人組みと連絡役1人、保険が1人いれば何とかなりそうなんだよ。」
「そこで、あたしとキンジと詩穂、ってワケね。」
アリアさんがふぅ、と軽く息を吐きます。
「…でね、ここの館の主なんだけど…どうもここ何十年、帰ってないらしいんだよね。管理人がいるだけらしいんだけど…その管理人も不在が多くて、謎だらけ。」
「…その管理人、ってのは誰なんだよ?」
今度はキンジ君が理子ちゃんの言葉に食いつきます。
アリアさんは頭の中でシミュレーションでもしているのか、目を瞑って考え込んでいます。
「さぁ?でも主ならわかってるよ?」
「誰だよ。」
「アリアなら知ってるんじゃないかな…?『無限罪のブラド』。」
「なんですって!?」
アリアさんがその言葉を聞いた途端、ガタッと立ち上がりました。
メイドさんたちや他のお客さんも何事かとこっちを見ますが、アリアさんはそんなことはお構いなしです。
「…『無限罪のブラド』…イ・ウーのナンバー2じゃない…!」
ナンバー、2…?
それはつまり。
イ・ウーで2番目に強い、ということ。
「まぁ、落ち着けよオルメス。ブラドはここ何十年も帰ってきていない。どうせそんなに都合よく帰ってこねぇよ。」
理子ちゃんが嘲笑の笑みを浮かべて口悪くアリアさんにケンカを売ります。
案の定アリアさんは少し不機嫌になり。
「…そんくらい、わかってるわよ…。」
と言いながら、ドカッと席に座りなおしました。
キンジ君はそんな状況を見かねてか話題を少し変えようとします。
「それで、俺たちは何を盗めばいいんだ?」
これは、再開した日の夜の屋上で理子ちゃんから聞いています。
確か…理子ちゃんの、お母さんの形見の…。
「理子のお母さまがくれた…十字架。」
「あんた、どういう神経してんの!?」
瞬時にアリアさんが怒りました。
…アリアさんはまたもや立ち上がると、とうとう理子ちゃんにガバメントを向けながら怒鳴りつけます。
「あたしのママに冤罪を着せといて…自分の母親からのプレゼントを取り返せですって!?あたしがどんな気持ちか考えてみなさいよ!」
「あ、アリアさん、落ち着いて…。」
確かにアリアさんの気持ちはわからなくはないです。
でも、理子ちゃんはその十字架を…『形見』と言っていました。
つまり…理子ちゃんのお母さんは、もう…。
「これが落ち着いてなんかいられないわよ!あたしはママと、少しの時間だけしか話せない!壁の向こうにいて触れることも抱きつくことの出来ないのよ!?」
「……私はアリアが、うらやましいよ。」
「あたしの何がうらやましいってのよ!」
アリアさんはものすごい剣幕で理子ちゃんを怒鳴りつけます。
それでも…理子ちゃんは寂しそうに、ただ悲しそうに答えました。
「アリアのママは、生きてるから。」
「…………っ!」
…静寂が、場を支配します。
理子ちゃんはただポツポツと言葉を続けます。
「理子には、もうお父さまもお母さまもいない。理子が8つの時に…ね。十字架は、理子が5つのときに、お母さまがくれたものなの…。」
「………。」
アリアさんはストン、と着席すると、バツが悪そうに視線を逸らしました。
…気まずい空気が場に流れ、しばし沈黙が訪れます…。
「……理子ちゃん。それを、取り返せば…いいんですね?」
空気に耐えかね、なんとか努めていつもどおりの声で理子ちゃんに話しかけます。
理子ちゃんもえへへ、と少し笑った後、いつもの笑顔を浮かべて言います。
「うん。ありがと、詩穂。」
「…とはいえ、これはキツイわね…。」
アリアさんも気を取り直したのか、作戦会議に取り組みます。
…確かに、地図を見る限りはどうやっても厳しいですね…。
「うーん、そのまま潜入してくるのもいいと思うんだけど…それだと成功率が低そうなんだよねぇ。トラップやら防犯装置の位置もしょっちゅう変えてるみたいだから、もっと効率よく行きたいんだよ。」
理子ちゃんが最もな意見で場をまとめます。
そして、理子ちゃんの言うその効率的な方法とは…!
「というわけで、3人には『紅鳴館』のメイドちゃんと執事くんになって館に潜入してもらいまーす!」
………は?
キンジ君とアリアさんは、本当に「は?」と言った表情で固まり…しばらくした後、動き出しました。
「…メイドちゃんって…これ?」
アリアさんの指差す先には、せわしなく働く…この店のメイドさんが、立っているのでした…。
その日の、夜。
私は意を決して、ドアをノックしました。
コン、コン。
「……入っていいぞ。」
部屋の中から聞こえたぶっきらぼうな声に背を押され、私は部屋の中におずおずと足を踏み入れました。
お風呂に入って、夜も更けてきた…そんな時間。
アリアさんは既に就寝し、キンジ君もそろそろ寝るであろう…そんな時間です。
なぜ…こんな時間に、キンジ君の部屋に来たのかと言うと。
「…すこし、し、質問しても…いいですか?」
「…………………。」
長い、沈黙。
おそらくキンジ君も、私の質問の目星はついているのでしょう。
「……ああ。かまわん。」
「ありがとう…ございます。」
キンジ君は視線をイスに移し…目で、座れ、と促します。
それは…長い話をする、という合図でした。
私はお言葉(視線ですが)に甘え、イスに座らせてもらいます。
「……あの、キンジ君。」
緊張で、声が震えます。
…きっとこれは、キンジ君の中の核心。
きっと…聞いては、いけないこと。
でも…私は…。
「…ヒステリアモード、って…なんですか?」
キンジ君は予想していたのか、落ち着いて…話してくれました。
先祖代々伝わる、体質。
そのトリガーが…性的興奮、であること。
それのせいで嫌な思いをしていたこと。
そして今はそのことを隠して生きてきたこと。
発動すると、超人になれること。
入学試験のときSランクを取れたのもこれのせいだと言うこと。
全てを話し終えて…キンジ君は、俯きました。
その顔は、戸惑いと…少しの後悔が、見え隠れしているようにも見えます。
「俺は…この力を、正義の力だと思っていた。使いこなして、いつか必ず兄さんのような人に…なりたかったんだ。」
「…はい。」
「…でも、俺はこの力が嫌いだ。大嫌いだ。人を傷つけることしか出来なかった…。」
「…はい。」
懺悔するように。
後悔するように。
キンジ君は…全部、全部、話してくれました。
「…詩穂は、軽蔑するか?こんな力で、俺は…。」
「…キンジ君。」
…私は、きっと。
この時、この瞬間に。
なぜか…なぜだかはわかりませんが。
キンジ君と、本当の意味で心が通じたような気がしました。
「私は、軽蔑もしませんし、その力を悪用もしませんし、言いふらしたりもしません。」
「………。」
「ですから…もっと、いい方向に考えましょう!」
「…いい、方向?」
私は中身のない頭を振り絞って…考えて、考えて、考えます。
「私はキンジ君の事が知れて嬉しかったです。それに、その…せ、性的にその…興奮、するのは…お、男の人なら、普通と言うか、何と言うか…。」
何を言っているんでしょう、私は。
…でも。
キンジ君の助けになってあげたい。
「…きっと、キンジ君なら、大丈夫です。」
…どんなに考えても。
結局、こんな情けない言葉しか…言えなくて。
そんな自分に絶望します。
「…ああ。」
でも、キンジ君は。
いつもは見せてくれない、嬉しそうな微笑で。
私に、笑いかけてくれます。
「ありがとな、詩穂。幾分か、心が軽くなった…気がする。」
「え、えっと、その…。」
「もういい。話を聞いてくれただけでも…嬉しかった。」
キンジ君は、意識か無意識か、私の頭を撫でてくれながら続けます。
「そっその、わだ、私は…っ!な、何にも出来なくて…っ!」
何故か、涙が溢れてきます。
…どうしてなんでしょう。
わかりません。
でも、溢れてきた涙は…きっと、止まりません。
「…ありがとな、詩穂…。」
「…うぅ、ひぐっ…うぇぇぇん…。」
優しく頭を撫でてくれる暖かい手は…お父さんを、思い出しました。
「…失礼いたしました。」
「ああ…。」
たっぷり20分ほど、泣いていました。
もう涙は引っ込みましたが、未だになぜ泣いてしまったのかは謎です。
「…ところでキンジ君。ハイジャックのときは、どうやってあの状態になったんですか?」
「えっ…そ、それはだな…。」
とりあえず泣いてしまったのが少し恥ずかしかったので、ちょっと反撃です。
「…ここまで話しておいて、教えてくれないんですか…?」
「かっ…関係ないだろ!もういい!早く寝ろ!」
「あの時いたのは…アリアさんと理子ちゃんでしたね。でもあの時理子ちゃんで性的に興奮、は考えにくいですし…。アリアさんと、ナニしたんですか?」
「い、いや、特に何も…。」
…でも、キンジ君はこの体質が嫌いすぎてそういう本や情報は一切触ってこなかったそうですし…。
そう考えると、割とどうしようもないことでなったに違いありません…。
……そういえば…。
アリアさんが前、この部屋に白雪さんが攻めてきた辺りで、確か…。
キスしたら子供ができるものだと思い込んでいた…。
ということは。
「…キス、ですね?」
「…なっ…!」
「図星ですか。」
キスだけで性的に興奮って。
私が言うのもなんですけれど。
…ウブですね…。
「…っていうことは、ジャンヌさんのときもアリアさんとキスしたんですか!?」
「違う!アリアとはしていない!」
「ほほーう…アリアさんとは、していない…と。」
キンジ君がしまった、という顔をしますがとき既に遅し。
消去法で白雪さんともキスしていたことになりました。
……あれ?
なんか私だけ…取り残されてません?
…あ、あれ?あんなに泣いたのに、また涙が…。
「…キンジ君。とりあえず、そこらへんはわかりました。」
「なんかまた泣いてないか、お前。」
「気のせいです!」
気遣いが出来ているのやらいないのやら…。
「…利用方法ですけれど、おそらく…自在になる事が出来れば、最も有効活用できると思います。」
「そんな…兄さんじゃあるまいし、難しいだろ…。」
「いいえ。で、出来ます…!」
今から私が試す方法は。
…おそらく、私の中で過去最大級に勇気を使う行為です。
「キンジ君…わ、私と、き…キスして、ください…!」
キンジ君の目が大きく見開かれるのが見えました。
「…む…ッ無理だ!それだけは無理だろ!」
「その言葉はアリアさんが言っちゃいけないって言ってました…!」
「おいどうした、目が据わってるって!」
そりゃあもう私だって命がけレベルです。
でも…これ以外に、特に思いつきませんでした。
…ほんとですよ?
「後生ですから!お願いします!」
「こんなところで一生の頼みを使うんじゃない…っ!」
「うぅ、キンジ君…!」
先程のせいか、涙目で懇願します。
それでもキンジ君はダメだそうです。
「お、お願いします!この通りですから…!」
「おいバカ、頭を上げろって…!」
ガチャ。
「なによ、騒がしいわね、起きちゃったじゃな…い…。」
私がとうとう土下座スタイルを実行した辺りで…。
寝ていたところを起こされたような不機嫌そうな顔で、部屋に入ってきました。
…そして、その可愛らしい顔は瞬時に怒りに染まっていきます…。
「あんた…詩穂に何してくれてんのよぉぉぉっ!!」
「ちがっ、誤解だ、違うっ!」
…以下、アリアさん無双でした。
そうして、色々と有耶無耶になってしまいましたが…。
キンジ君の過去や悩み事に触れる事が出来て。
どこかハッキリして清々しいような、夜だったのでした…。
…悩み事に触れて清々しいとか、何様なのでしょうか私は…。
読了、ありがとうございました!
今回の話は特に推理も少なくただ百合の花が咲いていただけ、という…。
じゃあなんだったんでしょう、今回の話は…。
しかもまた百合百合してますし。
理子のキャラ崩壊がひどくなってきましたね…。
…ここまで来たらもう収拾がつかないです。
この作品の理子は、そういうキャラということで…。
…ごめんなさい。
そして、最近視点変更少なくね?と思ったので、アリア視点を入れてみたのですが…。
とんでもない蛇足感。
無理矢理ぶっこんだのがまるわかりですね。
毎回ながら、ひどい文章です…。
また、評価してくださった心優しい方がなんと26名も!
本当にありがとうございます!
皆様の優しさのおかげで今日までやってこれたようなものです。
感想・評価・誤字脱字の指摘・ご要望などなどをお待ちしております。
特に評価を付けていただくと死ぬほど嬉しいです!
低めの評価ならもっと頑張ろうと思いますし、高め評価なら涙を流しながら土下座します。
中くらいの評価だと心に平穏が訪れます。
…本当に評価ってよく出来てるシステムだなぁ、と思うこのごろです…。