…いつものことながら、お待たせして申し訳ありません…。
でも絶対にエタることだけは無いと思いますので、これからも見放さないでもらえると嬉しいです。
今回の話は潜入作戦です。
館に潜入してから出るまでを書いただけなので実は対して内容はありません…。
『紅鳴館』への侵入当日の朝。
私達はモノレールの駅にて、理子ちゃんと合流しました。
アリアさんは余所行きの可愛いワンピース。
キンジ君は地味な感じの私服。
私は…まぁ、キンジ君に負けず劣らずな地味私服。
3人で男子寮を出て、約束の時間まで理子ちゃんを待ちます。
…しばらく、待つと。
「詩穂ー、キーくん、アーリアーっ!」
背後から理子ちゃんの声が。
その声に反応して、3人で振り返ります。
「……っ!」
そして、キンジ君が息を呑むのと同時に…時が止まったような感覚に襲われました。
そこにいるのは、間違いなく理子ちゃん。
仕草が彼女そのものです。
しかし…彼女は、何故か変装していました。
出会ったことも無いような、とんでもない美人さんに。
「り…理子!何でその顔なんだよっ!」
キンジ君が我に返ったように理子ちゃんに問い詰めます。
その表情は…どこか、ひどく狼狽しているように見えます。
「あは。理子、ブラドに顔が割れちゃってるからさぁ。万が一、にね?」
「だからって…どうしてカナの顔なんだっ!」
カナ…?
いえ、叶さんはこんな顔ではありません。
…別人?
…いえ。
思い出せ…確か、どうでもいいようなところにヒントがあったような気がします…。
「だってぇ、カナが理子の知っている中で一番美人なんだもーん。」
理子ちゃんの言葉も、私の頭の中を素通りしていきます。
確か…キンジ君が叶さんと初めて会った時…。
『「カナ」…っていう名前に慣れないだけだ。』
キンジ君はそう言っていたはずです…。
つまり、キンジ君が言っていた『カナ』とは…理子ちゃんが今変装している彼女のことでしょう。
しかし、ただのキンジ君の知り合いなら…キンジ君もこんなに驚くとは思えません。
また、理子ちゃんの知り合いでもある、ということは…?
「…おーい、詩穂ー?行くよー?」
…『カナ』さんの変装をしている理子ちゃんの髪形は…長い、三つ編み。
叶さんに聞いた、言葉が蘇ります。
『そいつはこう言ったんだ。「遠山キンジという子を見かけたら、よろしくね」ってな。』
…偶然、なんでしょうか?
ここまで、偶然とは思えないぐらい繋がっている。
…おそらく、私の推論ですが。
キンジ君は少なくとも、ここで出会うはずは無いはずの人物『カナ』さんの知り合いで。
理子ちゃんの知り合いで…おそらく、イ・ウー内にいて叶さんと明音さんと接触したと思われる人物…。
『カナ』さんもイ・ウーに所属していれば、理子ちゃんと知り合いである点も頷けます。
…しかし、全てはあくまで推論。
今の私にはこのぐらいしか…。
そもそもイ・ウー内で叶さんと明音さんに接触した『長い三つ編みの女性』が『カナ』さんであることは正しいとは言えませんし…。
「…おーい?詩穂ー?置いてっちゃうぞー?」
「ひゃわあっ!?」
気が付くと、目の前に理子ちゃんの…いえ、『カナ』さんの顔がありました。
…そうですね。
今は、考えることよりも…。
今やるべきことを、やるべきです。
横浜郊外の、森の奥。
鬱蒼と茂った木々のせいで薄暗い景色の中。
『紅鳴館』は、ひっそりとそこに建っていました…。
「うわぁ…。」
横でアリアさんがドン引きしています。
わかります、その気持ち。
「…い、いやぁ、意外なことになりましたねぇー…ははは…。」
館から出てきた管理人さんが、私達を出迎えてくれます。
…ていうか。
「さ、小夜鳴先生…ですか…。」
「武偵高の生徒さんが来るとは…いやー、私としては少し気恥ずかしいですね…。」
武偵高の非常勤講師。
管理人とは小夜鳴先生その人でした…。
早速これ、失敗臭くないですか?
普通知り合いは雇わないでしょうし…。
「ま、まぁとりあえず入ってください。」
まだ戸惑いの消えていない小夜鳴先生に案内され、少し不気味な『紅鳴館』に足を踏み入れるのでした…。
『紅鳴館』の館内は、外から見るよりも更に不気味な雰囲気でした。
壁一面に飾ってある、オオカミの剥製。
所々に置いてある、錆び付いた槍。
…なんですか、このホラゲーに出てきそうなステージは…。
「…どうぞ。」
応接室は用意していないのか、すぐにホールまで案内された私達は。
小夜鳴先生に言われて席に着きました。
「…ビックリしましたよ、小夜鳴先生、こんなに大きなお屋敷に住んでたんですね。」
キンジ君が平静を装っているのが丸わかりな態度で小夜鳴先生に話題を振ります。
「いやー、私の家ではないんですけどね。ここの研究施設を借りる事がよくありまして…気が付けば、管理人のような立場になっていただけですよ。」
はは、と小夜鳴先生は苦笑しながら続けます。
「ただ、私はよく研究に没頭してしまうので…そういう点では、侵入者を撃退してもらえるので武偵にハウスキーパーさんを任せるのはいいことなのかもしれませんね。」
ちなみに私達が侵入者なんですけどね!
「…では、予定通り…この3人を雇っていただけますか?」
派遣会社の人を装った理子ちゃんが話をまとめてくれます。
どうやらそれでいいようで、小夜鳴先生は短く大丈夫です、と答えてくれました。
「しかし、驚きました。まさか先生と生徒さんだったなんて…。ご主人がお戻りになったらちょっとした話の種になるかもしれませんね。」
…理子ちゃんもさすがに管理人さんが小夜鳴先生であったことは想定外だったのか、少し引きつったままの笑顔で話を続けます。
「まぁ、契約中にお戻りになられれば…の話ですけれど。」
理子ちゃんはさりげなく、ブラドが帰ってくるのかを聞きます。
対する返答は…。
「いや、今彼はとても遠くにおりまして…。しばらく帰ってこないみたいなんです。」
…帰っては、こないみたいです…。
よかった…のでしょうか?
「ご主人はお忙しい方なのですか?」
理子ちゃんはまだ聞きだそうとします。
小夜鳴先生は気にすることなく。
「それが、お恥ずかしながら…よくは、知らないんです。私と彼はとても親密ですが…直接話した事が無いものでして。」
…え?
どういう、意味でしょうか…?
比喩的な表現には聞こえませんでしたし…。
…一体、どういう意味なのでしょうか…?
理子ちゃんがこの館を去り、私達は2階の部屋に案内されました。
…どうやら、私達の部屋のようです。
3部屋使っていい、とのことなので…おそらく1人1部屋でしょう。
「すみませんねぇ、この館のルールというか…ハウスキーパーさんは指定の制服を着てもらうことになっているんです。それぞれの部屋に置いてあると思うので自分に合う大きさのを選んで使ってください。仕事については…前のハウスキーパーさんが置いていってくれた資料が台所にあると思いますので、それを見て適当にやっちゃってください。」
小夜鳴先生は少し早口で説明します。
「で、私は研究で忙しいので…普段は地下の研究室にいます。じゃあ、夕食になったら呼んでください。では。」
言いたいことを言うだけいうと、小夜鳴先生はさっさと地下に続く螺旋階段を下りていってしまいました…。
…残される、私たち3人。
「…始めるか。」
「そうね…。」
「はい…。」
最初は管理人さん…つまり小夜鳴先生に信用してもらうために、普通に働く手筈になっているはずです。
とりあえず、部屋に入って制服とやらを着ることにしましょう…。
クローゼットを開けると…。
そこには、男子用と思われる燕尾服が数着。
そして…女子用と思われる、メイド服。
「…まぁ、わかってはいましたよ、ハイ…。」
少し恥ずかしいですが、見せる相手はキンジ君、アリアさん、小夜鳴先生くらいのものです。
ここは…仕方なく、着替えるとしましょう。
…そう割り切ってしまえば、むしろ可愛い服が着られることに喜びすら感じてしまいます。
だって、メイド服!
散々ギャルゲやエロゲをプレイしてきて…こんなに可愛い服が着られるなんて…!
「………♪」
早速着てみましょう。
サイズは、一番小さいものを選びます。
…これでも少し大きいのですが、これにしましょう。
…まず、私服を脱いで、下着姿になって…。
…白いフリルのあしらわれたチューブトップを着て…。
…黒い、可愛らしいワンピースを着て…。
…おお、ドロワまでありますね…。
…あ、あれ?ペチコートもある…。
…ニーソまで…。
…エプロンってどこにつけるんでしょうか…?
…あ、あれれー?
着るのが難しいですね…。
…とまぁ、着替えに戸惑っていると…。
コン、コン。
「詩穂、終わったか?」
キンジ君が来てしまいました。
確かに、武偵憲章5条にも『行動に疾くあれ』とありますけども…!
いくらなんでも女の子の着替えの時間を早く見積もりすぎですよ、キンジ君…!
「ま、まだですー!もうちょっと待っててくださいー!」
「そうか。」
…扉の前から、キンジ君の気配が消えました。
多分アリアさんのほうに行ったのでしょう。
…なんか、字面だけ見るとキンジ君がすごい見境ない人に見えます…。
…そして、その数分後。
「…よし。」
何とかそれっぽく着れました。
というわけで、早速外に出て2人に合流しましょう。
…部屋の外に出て、アリアさんの部屋に行きます。
…ガチャッ。
「ぐ…あ…。」
「どうよ!?どうなのよ、キンジ!?」
扉を開けると、すぐ目の前にアリアさんとキンジ君がいました。
…なぜか、アリアさんがキンジ君を四の字固めをかけていました。
「…な、なにやってるんですか…?」
「あっ、詩穂!聞きなさい!この変態、あたしの着替えを覗いたのよっ!」
「え、またですかキンジ君!?」
「またってなんだ…よ…っ!」
大体予測がつきました。
これはまぁ…いつもの、喧嘩でしょう。
ほっといていいパターンですね。
「じゃあ、私は先に台所に行ってきますね。」
「オーケー…あたしはコイツをもうちょっとしばいて行くわ…。」
「お…おいっ!詩穂、たすけ…。」
「では、またあとでー。」
…段々とアリアさんとキンジ君の日常に慣れてきてしまってる自分にびっくりですよ…。
私はプロレス(アリアさんの暴力とも言う)している2人をおいて、さっさと仕事に取り掛かるのでした…。
…『紅鳴館』に潜入して数日が経過しました。
次第に私もアリアさんもキンジ君も仕事に慣れ、仕事の合間に休憩と称して昼寝をすることも可能なレベルになりました。
というのも、管理人であるはずの小夜鳴先生は食事のときくらいしか顔を出さないので…割とテキトーにやってしまってもバレないからです。
…そんな日々の中でも、目的を忘れてしまうほど私も間抜けではありません。
理子ちゃんから事前に聞いていた位置にある監視カメラの死角を使って、防犯システムやスムーズに動けるための通路等を調べ上げます。
もちろん地下だって調べますし、小夜鳴先生の行動パターン等もある程度把握していきます。
…7日目の夜。
ガガーン!!
「ひぅ…!」
突如鳴り出した雷に、ビクッと体が強張ります。
つ、梅雨ですねぇ…。
発達した入道雲のせいで、梅雨の雨は大抵雷を伴うものです。
「…うぅ、もう部屋に引き篭っていたいです…。」
…とはいえ、とりあえずはお風呂に入らないと…。
私は一通りの仕事を雷に怯えつつこなし、シャワールームへと向かうのでした…。
シャァァァ…。
雨の音とシャワーの音が混じりあい、一緒くたになるような音。
この館は西洋式なのか、湯船と言うものは存在していません。
よって…お風呂、といってもシャワーを浴びて汗を流し体と頭を洗うだけです。
「…湯船が、恋しくなってしまいますね。」
そんな独り言もシャワーと雨の音に掻き消されてしまいます。
……ガガーン!
「ひっ!」
…さ、さっさと出ましょう。
そして同じくそろそろ仕事が終わったはずのキンジ君とアリアさんに会いに行きましょう…。
1人で入るお風呂が、こんなにも怖いなんて…!
…ガガガーン!!
「えぅっ!」
私はお風呂の中でさえ雷にビビりつつ、急いで体を洗うのでした…。
シャワールームから出たあと。
私は早速アリアさんとキンジ君に連絡を取ろうと携帯を取り出しました。
すると…。
ヴヴヴヴッ!
「きゃっ!」
唐突に携帯が震えだします。
雷のせいで精神的に疲労している私は、些細なことにも驚いてしまいます。
「で、でで電話…ですか…。」
少し落ち着いたあと、電話に出ます。
「も、もしもし…。」
「もしもし、あ、あたしよあたし…。」
…新手の詐欺でしょうか?
あたしあたし詐欺?
「あ、アリアさん、どうしました…?」
「…ねぇ、詩穂、今どこ…?」
「へ?シャワールームの前ですけど…。」
アリアさんはどこか不安そうな声です。
…あ、そっか。
アリアさんも確か、雷が苦手でしたっけ…?
「い…今から、遊戯室に来なさい…っ!」
…やっぱり。
私と同じく、誰かと一緒にいたいようです。
もちろん、私としてもこの提案は飲むしか選択肢がありません。
「り、了解です今すぐ行きます!」
…ところで、遊戯室ってここから割と遠いんですよね…。
『紅鳴館』の無駄なだだっ広さに絶望しつつ、私はアリアさんの待つ遊戯室に向かうのでした…。
遊戯室。
ビリヤード台が6台ほど置かれているその部屋の隅の台で…。
アリアさんが、キューを構えていました。
「アリアさん。」
「きゃぁっ!」
コンッ…。
アリアさんが驚いた反動で球を衝いてしまいました。
突かれた手球はコロコロと力なく転がり…。
ガコン、とどの球にもぶつからずポケットに入ってしまいます。
「…ファールですよ?」
「う、うるさいわねっ!ちょっと手元が狂ったのよ!」
ガガーン!!
「きゃあっ!」
「ひゃいっ!?」
唐突に鳴り響く雷の轟音に、2人で抱き合います。
や、やっぱり…2人いても、怖いものは怖いですね…。
「…あ、アリアさん、い、いい一旦落ち着きましょう…。」
「そ…そうね、2人いるんだから余裕よね…。」
とりあえず体を離し、お互いに呼吸を整えます。
「こ…こうなったらキンジも呼ぶわ…。詩穂だけじゃ頼りないし…。」
「…やっぱり余裕ないですよね…。」
ピカッ!
空が白く、一瞬光ります。
…そして、約4秒後。
ガガガーン!!
「きゃうっ!」
「うぇあっ!」
2人して飛び上がります。
アリアさんは操作中の携帯を取り落としてしまうほどビビッています。
…私も人の事言えませんが…。
「お、お、脅かさないでよ、詩穂…。」
「…え、い今のは、雷のせいですよ!」
ピカッ!
…また、空が光りました。
そして、約5秒後…。
ガゴゴーン!!
「ひゃっ…!」
「……なるほど。」
「な、なるほどって…どう、どうしたのよ詩穂…。」
雷が光ってから音が鳴るまでの時間の間隔が長くなっています。
これはつまり、雷雲が遠ざかっている証拠です。
理由としては、光が伝わる速度と音の伝わる速度が大きく異なっているからです。
光が一瞬で距離を移動するのに対し、音の伝わる速度は約340m/s。
つまり、1回目のときに光ってから約4秒経って音が伝わったのに対し。
2回目の場合は光ってから音が届くのに5秒かかりました。
ここから算出すると、雷雲が遠ざかる速度を求める事が出来ます。
また、雷雲と地平線のなす角度を用いて三角関数も用いると雲の高度やそれに伴う雲の大きさも求める事が…。
ガガガガーン!!
「ぎゃおっ!」
「わぅっ!」
しかし怖いものは怖いです!
急に来るとビックリしてしまいますよ…!
「だ、だだ大丈夫ですアリアさん…!雲は、遠ざかっています…!」
「そ、そうなの?」
「はい、このまま行けば大体20分もすれば音はなくなりますよ…。」
…まぁ、梅雨の雲なんて大体そうですけどね…。
私の予想通り、アリアさんと震えてしばらく固まっていると…。
…ががーん!
……ががーん…。
雷の音は、遠ざかっていきました…。
「はー…もう、こんぐらい離れれば平気ね。」
「ですね。全くもって、怖かったです…。」
なんとか震えが収まった私達は、ビリヤード台に手を付いて深呼吸します。
…よし。
なんとか、切り抜けました…。
「…ふぅ。しかし、どうして雷が遠ざかってるなんてわかったの?」
「え?えーっと…中学生くらいの知識ですよ。」
雷のせいか頭の回りきっていないアリアさんに、雷が遠ざかっている原理を説明します。
アリアさんは別に頭が悪いわけではないので、すぐに合点がいったように頷きました。
「なるほどね…言われてみれば納得だわ。」
「あはは…。ところでアリアさん、今何時ですか?」
「え?ちょっと待って。えーっと…。」
アリアさんは携帯を取り出すと、画面を覗き込みます。
「…あ、キンジを呼ぶの結局忘れてた…。」
「ま、まぁ結果的に大丈夫でしたし、いいんじゃないでしょうか…?」
「なんだっけ…そう時間よね。えーっと…23時30分。」
…理子ちゃんとの定期連絡をするのは、確か夜の2時のはずです。
となると…。
「…暇ね。」
「…ですね。」
うーん、何かいい暇つぶしは…。
…あ、そうだ。
「…アリアさん。」
「何よ?」
「コレ…やりません?」
私はビリヤードの台を指差し、アリアさんを誘うのでした…。
1時間後…。
「…よう。」
「…あ、キンジ君。」
彼も暇だったのか、キンジ君が遊戯室にやってきました。
対する私とアリアさんはビリヤード中…です。
「…な、なんであたしの番が回ってこないのかしら…?」
「あ、アリア、大丈夫か…?」
「うん…なんかもう、詩穂のこと嫌いになりそう…。」
私とアリアさんはビリヤードをしていたのですが…。
「なんで全部マスワリなのよっ!ズルよ、イカサマよっ!」
「お、落ち着けアリア…何があったんだよ。」
「詩穂が!全部!球を!落とすの!」
アリアさんはぎぃー!と犬歯を剥いてダンダン!と地団駄を踏みます。
…ごめんなさい、アリアさん…。
こういうゲームは…あまり、負けたくないんですよ…。
「つまり…なんだ?詩穂が、悉くマスワリしていくわけだな?」
「キンジ!アンタも詩穂と勝負しなさいよ!」
「何でだよバカバカしい…。」
「やりなさい!ドレイは大人しく言うことを聞いてればいいのよっ!」
う、うわぁー…。
アリアさん、ご機嫌ナナメですね…。
いえ、私のせいなのですが。
「わかったよ、ったく…。詩穂、そういうわけだから…いいか?」
「はい、大丈夫ですよ。時間はまだありますからね。」
チラッと時計を確認すると…0時30分。
まだ、時間には余裕があります。
「…じゃあ、よろしくお願いします。ルールは…ナインボールもいいですが…。全部落として落とした球の合計した数字で勝負、でどうですか?」
「ああ。それでいい。」
ちなみにこのルールは『はじ○てのwii』で採用されているルールです。
ファウルはマイナス3点減点ですが…あまり関係ないので、今回は割愛です。
なぜなら、ファウルなんておそらく起こらないから。
「ブレイクはキンジ君からでどうぞ。」
「いいのか?」
「ええ、いいですよ。」
本当はバンキングで決めるのですが…まぁ、そこら辺は妥協です。
というか…上から目線で失礼ですが、ハンデです。
「…よっ。」
コン…カコン!
キンジ君のブレイクが真っ直ぐに飛びます。
…どうやら、多少なりとも経験があるようですね。
コン、コンと球は散らばりますが…。
結局どのポケットにも入りませんでした。
「キンジ君、ビリヤードをやっていたんですか?」
「え?まぁ、昔兄に付き合わされて…な。」
なるほど。
しかし…キンジ君のブレイクで球は落ちませんでした。
つまり、私の番です。
「じゃあ、私の番ですね。」
私はキンジ君からキューを受け取ると…。
台を、少しだけ観察します。
…よし。
とりあえずキスとキャノンで2と5を落としましょうか…。
「…えいっ!」
…コンッ!
力は入れすぎないように、ラシャと平行にキューを合わせ…真っ直ぐ、衝きます。
…ガコン!ガコン!
狙い通り、2と5が落ちました。
キスとキャノン、加えてコンビネーションはどれも他の球を利用して衝く、比較的使いやすい技です。
入射角と反射角を視野に入れて衝けばいいだけですから。
…まぁ、実は衝く力によって反射角が変わってくるのでそこら辺は慣れですけど。
「…すごいな。」
「いえいえ。まだ終わってませんよ?」
そして改めて台を観察。
…マッセ…は、ラシャを傷付けちゃいそうなのでやめておきましょう。
となると…バンクですかね?
30分後…。
「…結局ダメだったわね!詩穂にボロ負けじゃない!」
「何でお前が得意げなんだよ…。」
「ご、ごめんなさい、キンジ君…。」
アリアさんが何故か自慢げにキンジ君を罵倒する中、私達は一旦遊戯室で解散するのでした…。
そして、深夜2時。
自室に戻った私達は、改めて携帯電話を手に取り…。
理子ちゃんとの、定期連絡を始めました。
『アリア、理子、詩穂。聞こえるか?』
『聞こえてるわ。』
『うっうー!ばっちりだよー!』
「大丈夫です。」
使っている通信機器は…なんと、携帯。
しかし日本の携帯の電波は非常に複雑な信号を使っているので…相当な技術者でない限り、盗聴されることはないです。
そういうわけなので、私達は4者間での通話を開始します。
『とりあえず、アリアから中間報告ヨロ!』
ちなみに理子ちゃんは夜に元気になるタイプなので、非常に元気です。
かくいう私も深夜はテンションが若干上がってしまうのですが…理子ちゃんのおかげで、あんまりバレていないようです。
『…
『そう、それだよアリア!』
『だが、地下室には小夜鳴が常にいるぞ。』
「うーん…小夜鳴先生を、どうにかして外に連れ出さないとですね…。」
作戦会議は順調に進んでいきます。
しかし、こういった『盗み』はやはり理子ちゃんの分野のようで…。
『よし、古典的だけど「
こうして、夜が更けていくのでした…。
10日目の、夜。
作戦の決行日は最終日ということになったので、今日は4日前に当たります。
「山形牛の串焼き、柚子胡椒添えです。」
「ありがとうございます。」
小夜鳴先生に言われた料理を差し出しつつ…私は、とりあえず料理名をそれっぽく言います。
…なんとも滑稽な話ですが、一応使用人っぽく振舞います。
私自身こういった演技等は大の苦手で…傍から見たらさぞ不自然な動きでしょう。
「…茅間さんの料理は…評価を下しがたい味、ですね…。」
「…申し訳ありません…。」
小夜鳴先生はその肉を一口食べると…なんとも微妙な表情でそんな感想をくれました。
…どうしてこうなってしまうのでしょうか…?
小夜鳴先生に注文された料理はとても簡単なもの。
毎晩、毎食、串焼肉。
しかも表面を軽く炙るくらいのレアが好きだそうで…。
それ以外には、香辛料にニンニクの系統を使うな、という指示があるくらいで…なんとも味のアレンジがしやすいはずなのですが…。
というかニンニクがダメって…。
吸血鬼か何かですか…。
小夜鳴先生は食事を終えると、窓際に立ち庭のバラを見に行きました。
「Fii Bucuros...。」
小夜鳴先生はボソッと、何かを口にしました。
……?
ぶっころす…?
「Doamne,te-ai vorbi limba romana...?」
今度はアリアさんがまた何か別の言葉で言いました。
…うーん、発音的には…ヨーロッパ系でしょうか?
「…驚きました。神崎さんはルーマニア語を話せるんですか?」
「ええ。昔、ヨーロッパにいたので…先生こそ、どうしてルーマニア語を?」
…びっくりですね。
今の2人の会話はルーマニア語だったようです。
「この館の主人がルーマニアのご出身なんですよ。私たちはルーマニア語でやり取りするんです。」
なるほど…ブラドはルーマニアの出身である、と…。
…あれ?
ルーマニアの、ブラド…?
ブラド…いえ、ヴラド…。
…ドラキュラ・ヴラド・ツェペシュ…?
…いえ、そんなわけないでしょう。
ドラキュラ伯爵はそもそも創作上の人物です。
たまたま…響きが似ているだけでしょう。
「神崎さんは、何ヶ国語話せるんですか?」
「えっと…17ヶ国語です。」
なんて私がくだらないことを考えているうちに、会話が進んでいるようです。
…アリアさん、そんなに話せるんですか…。
なんですか、17って…。
私なんて日本語と英語が限界です。
「
「…数?」
「ええ、あの庭のバラです。あのバラは17種類のバラの長所を集めた優良種なんですよ。」
「はぁ…。」
「そうだ、あのバラの名前は『アリア』にしましょう!うん、それがいい…!
…そういえば、小夜鳴先生は遺伝子学者さんでしたっけ…?
遺伝子学は未だ解明しきれていない謎が多い、ロマン溢れる学問です。
「…あの、先生。」
「……はい、なんですか?」
「遺伝子学について…少し、ご指導願えませんか?」
気が付けば、私は小夜鳴先生にとんでもないお願いをしていました。
これにはキンジ君もアリアさんも小夜鳴先生も…そして、私もビックリです。
「…あっ、せ、先生のお仕事が忙しくなければ全然構わないんですけれど…!」
「ええ、構いませんよ。今夜は良い日なのですから。」
…よ、よし。
アリアさんの…いえ、新種のバラ『アリア』のおかげで機嫌がいいみたいです。
この際授業では聞けないような少し興味のあることについても聞いちゃいましょう…!
※以降、2人の遺伝についての会話が続きます。
読み飛ばしてもらって構いません。
「えっと、では…小夜鳴先生は、遺伝子はどこまで影響するとお考えですか?」
「ふむ…というと?」
「つまり、個人の性格は親や周りの環境によって作られます。それに対して、身長や輪郭等は親の遺伝によって作られます。」
「…なるほど。つまり、茅間さんはその人の形質や実力…そういったものに、どれほど遺伝子が関係しているか、と言いたいわけですね?」
「はい。」
「これは、私の持論なんですが…それでもいいですか?茅間さん。」
「…よろしくお願いします。」
「…わかりました。私は、遺伝子の情報は本人の身体能力や学習能力、記憶力にまで及ぶと考えています。例えばアスリートの子供はアスリートになりやすく、アスリートを志望する事が多いですよね?また、記憶力の側面でも親の出来が良いと子供の記憶力がよく出来ている事が多いです。これは科学的根拠にも基づいていて、人が物事を『記憶』するという手段は物事をどのように捉えているか、によって決まります。特徴をしっかり覚えることの出来る人は記憶力が良い。このことは周知の事実です。この事から、親の物事の捉え方そのものが子供に遺伝される、と考えれば辻褄が合うのです。」
「なるほど…。先生、私の考えを話してもいいですか?」
「はい、お願いします。生徒さんの意見を聞くことも重要な教師の仕事ですからね。」
「…私は、あくまで遺伝とは外見のみの情報であり、本人の学習能力や身体能力にはあまり関わりがないんじゃないかと考えています。オオカミに育てられた子供の話をご存知でしょう?本人の性格や能力は環境によって形作られていく証拠です。先生が仰っていたアスリートのお話ですが、親が子供にアスリートになってもらいたいと願うのは当然の帰結だと思います。よって、それに適した環境を親が作るので子供がアスリートになりやすいのは当然です。環境や育て方で子供の能力が形作られていく、それが私の考え方です。」
「…茅間さんの意見にも一理ありますね…。」
「ありがとうございます、先生。」
「しかしながら、やはり科学的根拠が足りていないですね。アスリートの子供が適した環境内にいる。そのことは真実でしょう。でも、アスリートに適した心臓や筋肉というものをご存知ですか?血液を送る量が生まれつき多い心臓。生まれつき、強い再生能力を持つ筋肉。こういったものは全て遺伝されるものであり、そのことは脳の構造も同じです。人は脳で考え、行動する。つまり脳の機構が遺伝されるということは、能力も遺伝する事と同義なのです。」
「うーん、そう考えると確かにそうですね…。」
「でしょう?茅間さんの意見も最もですが、こういった考えが妥当だと思います。」
「…ですが、やはり能力は全て遺伝してしまうとは考えにくいです。そもそもそういった能力が全て遺伝で決まっていくとしたら、学問の発展はありえなくなってしまいます。能力の遺伝によって能力の限界値が定められてしまうのであるとすれば、子供は両親の性質を合わせて生まれていくわけですから…何世代にも渡って、全ての人間が平均に近づいていってしまいます。しかし、現実はそうではないはずです。全ての生物は環境に適応し進化しようとする論にも矛盾してしまうのです。そもそも進化論自体が間違っている感は否めませんが…しかし、それでも人類が平均に向かっているとすれば、ここまで科学力が発展した事実と矛盾してしまいます。」
「茅間さん、それは極論です。全ての人類が平均に向かっていく…それは間違いですよ。そもそも遺伝とは親よりも能力的に優れた子供を残していく性質なのです。遺伝の掛け合わせによって、優れた配偶子を後世に残していく…それが遺伝というシステムなのです。」
「…確かに、そうですね。でもやはり能力が遺伝することも極論だと思うんですよ。」
「ほう…?」
「つまりですね………。」
※ここまでが無駄な論争
「…アリア、あの2人は一体何を話しているんだ…?」
「さぁ…。あたしたちは、もう仕事終わっていいのかしら…?」
小夜鳴先生の講義、というか途中からただの討論会でしたが…。
この日はこうして、夜が更けていくのでした…。
作戦決行の、前日の深夜。
私達は最終定期連絡を行っていました…。
『掃除してるときに調べてみたんだけど…地下のセキュリティがとんでもないことになってるわ。金庫の部屋の鍵が、物理的な鍵、磁気カードキー、声紋キー、指紋キー、網膜キー…。部屋の中は、赤外線に加えて威圧床まで…。理子、どう?』
アリアさんの報告を聞いて愕然としました。
な、なんて厳重な…。
普通ただの十字架にここまでするでしょうか…?
「となると、単純に部屋に侵入する時点で難しいですね…。」
『なんだよそれ…政府の重要機密書類レベルだぞ。』
キンジ君の戸惑いの混じった声が聞こえます。
彼の言うとおり、かなりとんでもないですね…。
『うーん…じゃあプランB24で行けるかな!理子は盗むって決めたら絶対に盗んじゃうんだよっ!』
対して理子ちゃんの声は明るい声。
どうやら平気っぽいです。
『ところで、「
『なんであたし確定なのよっ!?』
理子ちゃんは特に何の脈絡もなくアリアさんを指名します。
『いやー、キーくんはどうせ男同士だから対して時間稼ぎは出来ないだろうし、詩穂は個人的に小夜鳴先生に近づけるのは嫌だし…ね?』
『私情じゃないっ!あたしをなんだと思ってるのよ!』
『……ツンデレ要員?』
『あんた、帰ったら風穴よ…。』
アリアさんが穏やかな心を持ちながら激しい怒りに目覚めた辺りで、取り敢えず『
あとは…補佐役と、実行役ですね。
『それで、実行役なんだけど…キーくん、いける?』
『どうして俺なんだよ。』
『ちょっと理子!?あたしはまだ納得してないわよ!?』
「アリアさん、お、落ち着いてください…。」
アリアさんがまだ不満げにブツブツ言っていますが…理子ちゃんとキンジ君の話は続きます。
『いや、詩穂に実行役は…ちょっと、ねぇ?』
『ああ…わかった、俺がやる。』
それで納得しちゃうんですか、キンジ君…。
でも理子ちゃん…悔しいですけど、正しい判断だと思いますよ…。
「…じゃあ、私が補佐役をやればいいんですね?」
『うん!詩穂、理子と一緒にがんばろーねっ!』
『…役割はそれでいいとして、あたし達はどうすればいいの?』
アリアさんはどうやら諦めたらしく、話を進めることにしたらしいです。
『うーん…アリア、どのくらい時間が稼げそう?』
『先生は研究熱心だから…連れ出せても、せいぜい10分くらいね。』
『10分かぁ…難しいなぁ…。』
これは流石に理子ちゃんもきつそうですね。
10分で、金庫の部屋を破り、セキュリティを掻い潜り、十字架だけ奪い、痕跡を残さず、違和感を残さず、終わらせる…。
しかも盗むのは理子ちゃんではなくあくまでキンジ君。
理子ちゃんは遠くから…言葉だけで、私たちに作戦を実行させなければいけません。
『…キーくん、理子が渡した道具があるでしょ?その中から、針金一式とフックと…~~と、~~と…を持っていって。あとは実行するときに理子が指示するよ。』
『了解だ。…理子、信じていいんだよな?』
『うっうー!全部理子りんにお任せですよー!』
…どうやら、やっちゃうらしいです。
理子ちゃん、とんでもないですね…。
泥棒としての才能は、やはり理子ちゃんに及ぶものはそうそういないことでしょう。
『アリアは…まぁ、頑張って?』
『あたしだけ適当!さっきからっ!あたしだけ適当!』
『じゃあ、りこりん落ちまーす。また明日ねー?』
『ちょ、理子…っ!』
ブツッ。
アリアさんの抗議虚しく、理子ちゃんの回線が落ちる音がしました。
…アリアさん、今回の扱いひっどいですね…。
「…じゃ、じゃあ私も落ちまーす…。」
『ああ、また明日な。』
『ちょっと!あたしを置いてかないでよっ!』
…よし、切りましょう。
ブツッ。
…い、いえ、違いますよ?
アリアさんの相手が面倒だなぁ、キンジ君に全部押し付けてやろうかなぁ…なんて考えてませんよ?
ヴヴヴヴヴ…。
と、自己弁護しているところで…携帯が鳴りました。
相手は…理子ちゃん?
「…もしもし?どうかしましたか?」
『…詩穂。ごめんね、また…。』
「いえ、構いませんよ。」
理子ちゃんの声は…先程の作戦会議の時とは打って変わって…重く、沈んでいて。
『詩穂…。詩穂に聞いて欲しい事があるんだ。』
「…はい。」
『詩穂には嫌われたくないし、詩穂とはずっと綺麗な私を見ていて欲しい…でも、私はもう隠し事を詩穂にはしたくないよ…。』
「…理子ちゃん、大丈夫です。」
ひどく怯えるような、理子ちゃんの口調。
きっと…これから、理子ちゃんは本当は話したくないようなことを話してくれるのでしょう。
でも…私を、信じてくれているから、話してくれる。
私に隠し事をしたくないと、話してくれる。
「私が理子ちゃんを嫌いになんてなるわけありません。いつも、何度でも言いますよ。私は、理子ちゃんが大好きなんです。」
『詩穂…っ!』
ぐす、と少しだけ理子ちゃんが鼻を啜る音が聞こえました。
そして、先程よりいくらか元気になった声で。
『…えへへ。前も、言ってくれてたもんね。ごめん。』
「謝ることじゃないですよ。親友なんですから…当然、です。」
『じゃあ…ありがと、詩穂。』
電話越しに、理子ちゃんとお話しする。
よくよく考えたら、私はあまり理子ちゃんとは電話なんてしませんでした。
直接、いつでも会えましたから。
だから少しだけ…新鮮で、不思議な感覚です。
『…じゃあ、詩穂。お願いだから、私の話を聞いて欲しいな。私の…過去の、薄汚い私の話を。』
「……はい。」
理子ちゃんが電話越しに語る内容は…どれも凄惨で、悲しくて、信じがたい話でした。
幼い頃、リュパン家の理子の両親が死亡し、没落したこと。
そこで親族を騙ったブラドに連れ去られ、ルーマニアで監禁されていたこと。
家畜のように扱われ、ろくな食事も衣服も無かったこと。
何とか脱走し、イ・ウーに逃げ込んだこと。
しかし、そこでもブラドに見つかり…ある、約束を取り付けられたこと。
『その約束が…初代リュパンを、超えることだったの。』
「…はい。」
『だから、私はそのために…アリアを、オルメスを…超える必要があるんだよ…それしか、方法が…ないんだ。』
理子ちゃんが、ハイジャックの時言っていた事が…ようやく理解できました。
理子ちゃんは、きっと…それしかないと、思い込んでいる。
なら、私は…!
「本当に、そうなんでしょうか?」
『…え?』
「ブラドの枷から抜け出す方法は、本当にそれだけなんですか?」
『だ、だって、それしか方法が…!』
「例えば…そうですね、ブラドを倒すとか…。」
『無理だ!無理に決まってるよ!』
理子ちゃんは声を張り上げます。
見えない…恐怖に、怯えるように。
「ブラド…って、一体何者なんですか?」
『…ブラドは、化け物だよ。』
――化け物。
叶さんに聞いた時から、予想はしていましたが…。
『ただの化け物じゃない…アイツは、吸血鬼なんだ。』
「吸…血鬼?」
吸血鬼。
ヴァンパイア。
――ドラキュラ。
鋭い悪寒が背中を這いずります。
『他の生物の血を吸い、永遠に生きる怪物、ドラキュラ・ブラド…それが、あいつの正体。』
…まさか、そんなまさか。
ドラキュラ伯爵は創作上の人物で。
ヴラド・ツェペシュはルーマニアの偉人で。
確かに、ドラキュラ伯爵のモデルはヴラド・ツェペシュだという説もありますが…!
「…し、信じ難いですが…そんな…。」
『詩穂。これは、紛れもない…事実だよ。』
…しかし。
今は、その正体はあまり関係ないことを思い出した。
「…でも、本当に吸血鬼でも…倒せないわけじゃないでしょう?」
『ううん、無理。アイツは不死身。そもそも絶対に勝てない相手なんだよ…。』
理子ちゃんが、沈んだように言いました。
…確かに、この問題はそんなに簡単に終わるような問題ではありません。
「…理子ちゃん。また、一緒に考えましょう。突破口は、あるはずです。」
『無理なものは、無理だ…っ!』
「私のご主人様は、無理って言葉が嫌いなんです。だから…きっと、大丈夫ですよ。」
根拠のない自信。
理由のない励まし。
それはただの…蛮勇。
けれども、今はただ。
理子ちゃんに笑って欲しくて。
「理子ちゃん…あなたのために、私はここにいるんです。理子ちゃんのために、私は全力を尽くします。だから、どうか…信じてください。」
『詩穂…。』
「大丈夫です。私は確かに弱くて頼りなくて残念ですが…理子ちゃんを助けたい気持ちは、本物ですよ?」
『…うん。わかった。私は…そんな詩穂が、好きだから…。詩穂が信じて、って言ってくれるなら…信じるよ。』
「理子ちゃん…!」
『…うん、そうだよね!最初から諦めたら試合終了だって、誰かが言ってたもん!』
「はい!一緒に…頑張りましょう!」
『おー!』
お互い、虚勢を張って。
でも、励まし合えて。
優しい、夜を終えるのでした。
…力のない優しさほど、空虚なものは無いのに。
翌日。
ここで働く最後の日であり、作戦実行の日でもあります。
そして館を去る1時間前。
私達は…計画を、実行しました。
実行するのはキンジ君ですが…彼は、今きっと頑張って穴を掘りつつ地下を目指しているはずです。
部屋を開けられないなら、開けなければいいじゃない!
という精神のもと、地下を掘り下げ金庫の部屋の天井に穴を開け…そこからぶら下がって宝を奪い去るという、とんでもない作戦。
なんとも労力が必要な上にキンジ君がすごくキツそうな作戦ですが、かなり理にかなった作戦です。
というのも、この方法だと新たに部屋の中に仕掛けられた威圧床を踏まなくて済む上に、痕跡も非常に残りにくいです。
そして、アリアさんはというと…。
今頃、小夜鳴先生と頑張ってバラ園でよく知りもしない遺伝子改良トークをしていることでしょう。
そして、私は…。
『…こちらキンジ。侵入に成功した。』
『おっけー、キーくん。今から理子が指示するとおりに針金を繋いで…。』
『先生、このバラはどんな風に咲くんですか?』
補佐、というわけで緊急時にいつでも動けるよう…。
館で待機しつつ、聞こえてくる3人の声に耳を傾けているのでした。
…私、この作戦に要ります?
『…よし、出来た。フックを下ろすぞ。』
と、ここでキンジ君の方に動きがあったようです。
…ちなみにアリアさんとキンジ君の間のみ、実は無線が繋がっていません。
なんでもキンジ君が集中するためだとか。
『……くそ、上手くいかない…。』
…声だけですが、上手く行っていないみたいですね…。
…暇だなぁ…。
『…詩穂、動いて!アリアから
「えっ!?どうしたんですか!?」
『雨が降ってきたみたいで…もう館に戻ってきてるみたい!』
唐突に理子ちゃんの指示が響きます。
雨…なんて、不運な…!
『くっ、時間がない…!』
キンジ君の焦るような声。
…そういえば…。
「キンジ君、例の薬って持ってますか!?」
『え…ああ、今あるぞ。ってまさか…!』
「はい、飲んでください!」
『マジかよ…!』
そうです。
この前渡した、キンジ君のヒステリアモード誘発剤…!
今こそ出番です!
『え?え?何、何の話!?キーくんこんな時に薬なんて…!』
事情をわかっていない理子ちゃんが混乱するように言いますが、私は指示を続けます。
「キンジ君!」
『…ええい、飲めばいいんだろっ!』
…ゴクリ。
キンジ君が何かを飲み込むような音が聞こえました。
…あの薬は即効性。
飲んで、約5秒もしないうちに効果があるはず…!
「…理子ちゃん!キンジ君のわかる範囲でえっちい言葉を言ってください!」
『ええ!?なにその急な無茶振り!?』
「いいから!」
今のキンジ君なら、軽い性的興奮でも…!
『うぅ、詩穂が言うなら…!えっとキーくん、聞こえる?』
『…聞こえてるぞ。』
『……え、えと…実は、理子好きな人に縄で縛られると興奮するんだ!』
なんのカミングアウトですか!?
いえ、言えって指示したのは私ですけど…!
『な、縄…で…。』
キンジ君の呟きが、小さく聞こえたあと。
『…詩穂。君の作戦にまんまと引っかかってしまったみたいだね。』
急に冷静で、大人びていて…どこか蠱惑的な声に切り替わりました。
…うわぁ、ホントになりましたよ…。
自分でやっておいて、少し引きました。
『…理子、回収が終わった。今から帰還準備に入る。』
『「はやっ!」』
理子ちゃんと声を合わせてツッコミます。
本当に、ヒステリアモードのキンジ君はとんでもないですね…。
ちなみに、アリアさんは。
「て、天気がいいですねー。」
「…?今、雨が降ってきたのですが…。」
「あ、あれ?おかしいですね、あはははー…。」
「神崎さん、大丈夫ですか…?」
…アリアさん、強襲以外のことももう少し頑張ってください…。
そうして、無事に盗み終わった私達は。
平然とした顔で館を去り、別動隊である理子ちゃんに十字架を渡しに行くのでした…。
読了、ありがとうございました。
今回の話は…特に大きくは進展していませんね…。。
むしろ私の趣味が全開だったので、本当につまらない文章になってしまいました…。
なんですか、ビリヤードって。
遺伝子のことって。
そんなもの誰得か、って話ですよ…。
お目汚し申し訳ありませんでした…。
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こんな駄小説を読んでくださって、本当にありがとうございます!