緋弾のアリア 残念な武偵   作:ぽむむ@9

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第23話です。



…いえ、エタってないです。
本当です。
死んでません。

…本当に、長い間更新を空けてしまいました。
それでも待っていてくださった方がいるなら、私はとても嬉しいです。
遅れてしまって申し訳ありませんでした。
今後も実生活が大変故更新が不定期になってしまうかもしれませんが…エタることだけは絶対にありません。

今後とも、よろしくしてくださるとうれしいです。


すかーれっと・おぶ・とぅるーす
第23話 ふおんなまくあけです


ある、梅雨の日のこと。

とある建物の、とある一室。

薄暗く静かな部屋で…大きな声が、静寂を引き裂いた。

 

「…あれは一体…どういうつもりなんだ!?」

 

イスに偉そうに座る禿げかかった男がヒステリーでも起こしたかのように喚き散らす。

この部屋には、この男を含めて3人しかいない。

 

「…どういうことも何も、緊急事態だったから使用したまでだ。お前らにイチイチ許可を取るのも面倒だろ?操縦士も緊急事態だって言ったらすぐに出してくれたぜ?」

「そんな事が許されると思っているのかっ!!」

 

…ああ、面倒だ。

どうして大した実力も無いのに威張る事が出来るのか…。

上に立つ人間とはとても思えない。

そもそも結果を出したのはこっちだし、褒められるならまだしもキレられる筋合いなど微塵にもない。

 

「大体お前らは、新しく入ってきたくせに…!」

「……うぜぇ。」

 

小さく、口の中で呟く。

幸い男の怒声に掻き消されて聞こえていないみたいだった。

男の説教とも言えない怒号は続く。

 

「始末書を書くのも責任を取るのも私なんだ!ヘリの無断使用など…!」

「……あー、わりぃ。」

 

いい加減聞き飽きた金切り声を遮り、なるべくよく聞こえるようにゆっくり言ってあげた。

 

「オレ達は今日でここを辞めさせてもらうよ。世話になったな。」

「……は?」

 

ハゲが大きく口を開きながら固まる。

勢い余って振り上げた手が、力無く空中を彷徨っている。

オレは少し満足し、未だ着ている武偵校の制服の胸ポケットに手を突っ込んだ。

 

「ほれ、これ辞表。じゃあな、もう二度と会うことは無い。」

 

『じひょう』と平仮名で適当に書いてある紙をハゲに投げつけ、オレ達は部屋を出ようとする。

当然、ハゲも黙りっぱなしではなかった。

 

「ま、待て!冗談だろう!?ここでやめてもらっては困る!」

「知ったこっちゃねぇ。お前が困ろうとどうしようと関係ないこった。」

「私の…私の立場はどうなると言うのだ!」

「それこそ知るか。首でもくくってろ。」

 

オレは眠そうに欠伸をする親友を引き連れ、無駄に金だけ使ったような部屋を出る。

背後から悲鳴とも怒声とも取れない声が聞こえたが、もうどうでもいいことだった。

 

 

 

 

 

 

 

「…大きい組織の割りにー、大した情報は無かったねー?」

「ま、こんなもんだろ。イ・ウーで収獲があったからここはもう用済みだ。そもそも東京武偵局の下層部を引き当てちまったらしいしな…。どうりで頭の悪い命令ばっかり来ると思ったぜ。」

「でもー…勝手に抜けて大丈夫かなー?」

「知るか。オレ達に手ぇ出そうってんなら相手するだけだ。」

「……ふふふー♪」

「…あんだよ。」

「冷静に見えてー…意外と血の気多いよねー?カナちゃんー。」

「…お前が言うか、アカネ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

叶→詩穂

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

梅雨も終わりが見えてきて、なんだかからっとしてきた今日この頃。

期末テストも近づいてきたある日の夕方。

 

「じゃ、行ってくるね~!」

「い、行ってくるわ。」

「はい、いってらっしゃい。」

 

理子ちゃんとアリアさんが玄関から出て行きます。

理子ちゃんは楽しそうに。

アリアさんは少し緊張気味に。

私は軽く手を振りながら、それを見送ります。

 

…というのも、今回の件で理子ちゃんは完全に足を洗ったみたいで。

アリアさんとキンジ君に全面的に協力する、という話になったわけです。

そういうわけで、たった今理子ちゃんはアリアさんのお母さんである神崎かなえさんの証言に行ってしまいました。

…どうやらアリアさん曰く、今回の証言のおかげで差戻審が確実になる、とのことです。

 

「理子、あんた本当に証言してくれるんでしょうね…?」

「昨日も散々言ったじゃん。詩穂に誓ってそれはないよ!」

 

アリアさんと理子ちゃんは、わーわーと騒ぎながら駅のほうに歩いて行ってしまいました…。

2人を見送った私はリビングに向かいました。

 

…うーん、理子ちゃんもアリアさんもいないと…少し暇ですねぇ…。

 

私は手持無沙汰故にキンジ君の部屋に向かいました。

 

 

 

 

 

…コン、コン。

キンジ君の部屋のドアを軽くノックします。

もはや恒例行事です。

 

「キンジ君、いいですか?」

「…ああ。」

 

キンジ君のぶっきらぼうな返事を確認して、部屋に入ります。

…でも、そのぶっきらぼうな声は、いつもよりもどこか…緊張感があったようにも聞こえました。

 

「おじゃましまーす…キンジ君、何を見ているんですか?」

「ん?…ああ…。」

 

ヘッドフォンをしているキンジ君は、私の声に生返事。

キンジ君はパソコンで何かを見ていました。

…失礼ながら、横から覗いてみると…。

 

「Flash動画…ですか?」

「…理子から、送られてきた。」

 

そのFlash動画は何処かで見たことのある動画とそっくりでした。

…というか、明らかに大変なものを盗んでいっているようにしか見えないんですが…。

動画の中では、アリアさんや白雪さん、理子ちゃんや私がデフォルメされたようなキャラクターがちょこまかと走り回っています。

 

…しばらくして、その動画に違和感を感じました。

動画の背景に紛れて…日付や時間のようなものが、見え隠れしているのです。

 

…動画を見終わった後、キンジ君は立ち上がりパソコンを閉じました。

そして銃やナイフなどの彼の基本装備を制服にしまい込んでいきます。

 

流石にこれでわからないほど、私はバカではありません。

 

「…キンジ君も行っちゃうんですね。」

「ああ。少し…な。」

「はい、いってらっしゃい、です…。」

 

きっちり武装を整えたキンジ君は、アリアさんたちと同じように出かけて行ってしまいました…。

私は玄関から彼を見送った後、リビングに戻ってきます。

 

うーん…キンジ君も行ってしまいました。

となると…ここに残っているのは私と白雪さんだけです。

時間的には白雪さんは…夕食を作り始める時間でしょうか?

うーん…それには少し早いかな?

などと考えつつ、台所に向かうと…。

 

「あ、詩穂。どうしたの?」

 

向かう途中で外出姿の白雪さんと出くわしました。

…あれ?

何か、この先の展開が想像できる気が…。

 

「白雪さん、その…どちらへ?」

「私も買い出しに行ってくるね。」

「…え、白雪さ…。」

 

私も一緒に行きます、と私が言う前に白雪さんはそそくさと玄関から出て行ってしまいました。

 

…ガチャン。

無情にも玄関が閉ざされる音が聞こえました。

 

…一瞬で、この部屋の住人がみんな揃って出て行ってしまいました。

ポツン、と1人部屋に部屋に取り残される私。

 

…え、なんでこんな自然にぼっちにされてるんですか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

当然、私は暇人なので私も外に出ることにしました。

…といっても、白雪さんの買い出しについていくのも微妙ですし、アリアさん達についていくのは論外。

というわけで、自然にキンジ君をストーキングしてしまうわけで。

…無粋なのは承知ですが、気になってしまったものは仕方ありません。

 

「……一体どこに向かっているんでしょうか…?」

 

キンジ君は何処かいつもより早足でどんどん進んで行ってしまいます。

当然歩幅が違うので、私は少しだけ小走りになりつつキンジ君を追いかけます。

 

「…『空き地島』…?」

 

キンジ君を追うにつれ。

段々と…目的地がわかってきました。

武偵校は元々、東京湾の上に浮かぶ人工浮島(メガフロート)の上にあります。

そしてその人工浮島は2つ存在していて、片方は武偵校や生徒の寮がある『学園島』。

対して…『空き地島』と呼ばれている人工浮島は、本当に何もない空き地です。

風力発電用の風車やその他色々なものがポツポツと点在しているものの、ほぼ何もない平地です。

もちろんこんな何もない場所に好き好んでいくような人はいません。

 

「…『空き地島』なんかにどうして…?」

 

しかしキンジ君は迷うことなく進んでいきます。

私もそれに倣い、キンジ君にこそこそと尾行します…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『空き地島』の端。

風力発電用の風車が立ち並ぶ場所までやってきてしまいました。

キンジ君は空を仰ぐように、視線を上げます。

私もそれを追うように顔を上げました。

 

亡霊のようにひっそりと回り続ける、機械仕掛けの風車。

そのうちの1本…何故か折れ曲がり、回っていない風車のプロペラの上に。

 

女の人が、腰かけていました。

 

「――あ――。」

 

まるで時が止まってしまったかのような、強い衝撃。

揺れる三つ編み、優雅な仕草。

その女の人は、恐ろしいまでに…綺麗な人でした。

 

…あの、顔は…。

以前理子ちゃんが、変装していた時の…!

 

キンジ君は決心したかのように女の人を目指して風車をよじ登っていきます。

私は佇む風車の陰に隠れ、その様子を見つめていました。

 

「……キンジ、ごめんね。」

 

透き通った鈴のような声が、耳に届きました。

 

「イ・ウーは遠かったわ。」

 

イ・ウー。

その単語は、今の私を一気に委縮させました。

…まだ、ブラドを倒したからって終わってなんかいなかったんだ…!

そんな簡単なことに、今更ながら気が付きます。

 

「どういうことだ…カナ!――いや……。」

 

キンジ君の言葉は、少しだけ怒りに染まっていて。

でも女の人は動揺一つ見せません。

私は頭の中で、ただ茫然と、カナという女の人を認識していました。

 

「……兄さん!!」

 

……え?

 

ただでさえ停止気味だった思考が、完全に停止します。

 

……にい、さん…?

 

「…キンジ。あなたは神崎・H・アリアのことが…好き?」

「なっ…!」

 

2人の会話が耳を通り抜けていきます。

何やら大事なことを聞き逃しているみたいですが…今の私には、理解すらできません。

 

「そんなこと…今は、関係ないだろ!」

「…そう。肯定も否定も、しないのね…。」

 

私は風に吹かれ、ただただ言葉を聞き流していました。

……次の言葉を、聞くまでは。

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、一緒にアリアを…殺しましょう?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!!!!!」

 

口から声が零れ出そうになるのを、必死に手で抑えました。

しかしそれよりも。

今の言葉に…戦慄を覚えます。

 

アリアさんを…殺す…?

一体何を言って…!?

 

「……カナ…何を、言っているんだ…?」

 

キンジ君のお兄さん…カナさん、と便宜上呼ぶことにしましょう。

カナさんは穏やかな表情のままで、風車のプロペラに腰かけています。

 

「…今、そっちに行く。」

 

キンジ君はカナさんの座るプロペラを進んでいきます。

高さは…約15mほどでしょうか?

そんな危険な高さの上で、しかしキンジ君は進みます。

…地面は当然のようにコンクリートで出来ています。

落ちたら、ひとたまりもないでしょう。

 

「半年ぶりに会えたと思ったら…アリアを殺す、だって?冗談はやめてくれ、カナ…!」

「冗談なんかじゃないわ。私は今夜、アリアを殺す。」

 

ギィィ…。

翼端に座るカナさんにキンジ君が更に歩み寄ろうとして…しかし、行けません。

これ以上カナさんの近くに行くとバランスが取れなくなり、転落してしまうかもしれないからです。

 

遠山家(わたしたち)の使命は、悪の根源を討つこと。それが()に生きる、ということなのよ、キンジ。」

「………!」

 

義。

その言葉を聞いた途端、キンジ君の体が強張ったのが遠目でもわかりました。

カナさんは依然穏やかな口調のまま、話を続けます。

 

「出エジプト記32章27――各々腰に剣を帯び、宿営の中を入口のから入口へ行き巡って、各々その兄弟、その友、その隣人を殺せ――。」

 

聖書の、1節。

確か、民に裏切られたモーセが怒りのあまり口にした、残酷で悲しい言葉…。

 

――裏切り者(アリアさん)に、死を――

 

「アリアはまだ幼い。パートナーがいなければ、簡単に終わらせることが出来るわ。」

「だから待ってくれよ、カナ!!」

 

キンジ君が叫びます。

信じられない…信じたくない、現実を目の当たりにするかのように。

子供のように叫びます。

 

「半年も放っておいて…俺が今までどんな思いでいたのか…!それに、アリアを…殺す、だなんて…!」

「……そう。」

 

カナさんは悲しそうに、視線を落としました。

 

「あなたもまた、イ・ウーに育てられたのね。」

「…な、なにを言って…。なんだよ、それ…。」

 

キンジ君は次から次へと来る不可解な言葉に、言葉を失います。

カナさんは悲しそうな表情のまま立ち上がりました。

 

「おいで、キンジ。」

 

ギィ…。

カナさんがキンジ君に近づきます。

 

「あなたが私を信じているように、私もあなたのことを信じているわ。」

 

ギィ…。

キンジ君は…恐れるように、後ずさります。

 

「おいで。()()は一晩で終わるから。」

「………!!」

 

その瞬間。

キンジ君は何かが切れてしまったかのように。

 

バッ!

 

拳銃を…彼独自の改造が施された、ベレッタを腰から抜きました。

カナさんは目を見開き…そして、とても残念そうに首を振りました。

 

「軽々しく銃を見せるのはよくないわ…。」

 

カナさんはゆらり、と立ち位置を変えました。

手はダラリと腰のすぐ横に、足は肩幅程度に…。

それはまるで、構えてすらいない一般人のようで…。

 

「見せてしまえばそれだけで、装弾数、射程距離、使う弾の種類まで…見せることになるのだから…。」

 

 

 

――パァン!!!

 

 

 

銃声が、響きました。

しかし…音は、キンジ君のそれではない。

この場で銃を撃ったのは、間違いなくカナさんでした。

でも銃は、見えません。

 

何が、起こって…?

 

――ガッ!

 

別の大きな音のせいで、思考の世界から戻されました。

プロペラ部分のほうを改めて確認すると…キンジ君が、ワイヤーを使ってプロペラからぶら下がる音でした。

被弾したのかバランスを崩したのか…プロペラから落ちてしまったようです。

 

「…キンジ。あなたはどうして…私に立ち向かったの?」

「…………!」

 

キンジ君は必死に…ワイヤーを巻き上げ、上がっていきます。

 

――パァン!!

 

もう一度銃声が響きます。

…そして、今の一瞬で。

カナさんの腰のあたりが光るのを、見ました。

 

…そしてキンジ君のワイヤーの動きが、停止します。

よくわかりませんが…今の一瞬で、何かがあったみたいです。

 

「昔からキンジは打たれ強い子だったけど…どうして今の状況でもそんなに強い目ができるのか、わからないわ。」

 

 

……プツッ。

 

 

悲しいくらい無慈悲な音とともに。

キンジ君を支えていたワイヤーが…切れました。

 

「…キンジ君っ!!」

 

たまらず私は風車の陰から飛び出します。

しかし…落下するキンジ君の下に辿り着くことは、確実に不可能でした。

私はそれでも全力で走り…。

 

しかし残酷にも、キンジ君の体は地面に落ちていって…!

 

 

 

 

 

 

 

………ガッッ!!

 

 

 

 

 

 

 

…落下するキンジ君を受け止めたのは…当然、私ではなく。

上から飛び降りたカナさんでした。

 

「…あんまりノゾキはよくないわよ?」

 

カナさんはキンジ君をゆっくりと地面に横たえると、思わず飛び出てしまった私に向き直りました。

 

「…キンジ君を、アリアさんを…どうする、つもりですか…?」

「聞こえていたんでしょう?そのままの意味よ。」

 

カナさんはあくまで優雅に…しかし、隙の全く見えない立ち振る舞いで私に近づいてきます。

私は少し後ずさり、いつでも武器が取り出せるように全力で警戒します。

 

「…………!!」

「…どんなに警戒したって、意味のないこともあるの。覚えておきなさい。」

 

 

 

――パァン!!

 

 

 

 

「……え?」

 

ドスッ!という鈍い音とともに、私の右肩が強い衝撃に襲われました。

そして…ようやく、自分の肩が防弾制服越しに被弾したことを理解します。

 

「……っく!」

 

私は更に少し後ずさり、右肩を庇いながら背中の銃を左手で取り出します。

カナさんは…まるで何もしていないかのようにその場に立っていました。

 

今のは…一体…!?

 

「目に見えることが全てではないように…あなたの知らないことはたくさんあるの。」

 

カナさんはこちらを視線で制しつつ、少しづつ私に近づいてきます。

…ジリ……ジリ……。

それに押されるように、私も後ずさっていきます。

 

「……あなたは、アリアとキンジのお友達なの?」

 

カナさんは少しだけ立ち止まり、キンジ君を守るような立ち位置を取りました。

…その仕草に、違和感を覚えます。

 

あの人は…敵?

それとも、味方?

 

判断しあぐねる頭で、しかし私はカナさんとの対話を続けることを選びました。

 

「…お友達だと、私は思っています…。」

「……………。」

 

少しだけ長い沈黙の後。

 

「……そう。」

 

カナさんは寂しそうに目を伏せ、それだけ言いました。

……今、この瞬間。

私はこの人が…カナさんが、敵ではないと判断しました。

それは…アリアさんのような、直感。

 

「…カナさん。」

「……なぁに?」

「あなたは…アリアさんを、殺しますか?」

 

端的に、それが知りたかった。

私は、友を…愛する友人たちを。

守れるなら、守りたかった。

 

「……ええ、殺すわ。」

「本当に…殺すんですか?」

「……………。」

 

カナさんの表情が…初めて、少しだけ揺らぎました。

 

…きっと、カナさんは。

何らかの理由ですが…アリアさんを、本心では殺したくない。

そう、それはまるで…そうするしかないと思い込んでいるみたいに。

 

少し前の、理子ちゃんみたいに。

 

「……あなたがどういう人なのか、私は知りませんが…アリアさんやキンジ君が、巻き込まれてしまうのなら。」

 

私は。

 

「私は、あなたをここで放っておくわけにはいかないんです。」

「…………そう。」

 

カナさんはもう、迷ったような顔をせずに。

先ほどの穏やかな顔に戻っていました。

 

「キンジは、いいお友達に恵まれたのね…。」

「…あなたは、一体…。」

「じきにわかるわ。」

 

カナさんは、両手をだらりと下げました。

…先程の、何も構えていないような…

 

『そういう構え』。

 

………来る!

 

「…バイバイ。次に会うときは、ゆっくりお話ししましょう。」

 

パァン!!!

 

来るとわかっていても、射撃線はおろか銃すら見えないのだから避けようがありません。

ですから、私はせめてもの抵抗として…。

 

カナさんの腰のあたりが、ピカッというマズルフラッシュで光るのを目に焼き付け…。

 

 

 

 

 

 

 

 

――ドスッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……ぴりりり…ぴりりり…。

 

「……ん…んぅ…。」

 

…目覚ましの音が、聞こえます。

私はまどろみの中、まだ眠い、と寝返りを打とうとして…。

 

 

 

――パァン!!

 

 

 

「うひゃああ!!??」

 

脳内にフラッシュバックした銃声で、ガバッと飛び起きました。

そして…鮮明に、思い出します。

 

…あの時の、カナさん…。

アリアさんを、殺すって…!

 

「あ…アリアさん!」

 

私は寝癖で乱れた髪を直す暇もなく、寝間着のままアリアさんの眠る寝室に向かいました。

アリアさん…!

 

ガチャッ!

 

寝室のドアを開けると…アリアさんは、2段ベッドの上段ですやすやと眠っていました。

 

「…は、あはは………ふぅ……。」

 

幸せそうに眠るアリアさんを見て、心底安心しました。

少し、笑いも出てしまいます。

 

「よ…よかった…。」

 

私はへなへな、と床にへたり込みながら安堵の息を漏らしました。

 

…カナさんは、やはり…。

アリアさんを、殺さない…?

それとも…?

 

「………あれ?」

 

そういえば、なぜ私は戻ってきているのでしょうか…?

昨日、キンジ君を追いかけたらカナさんがいて、それで…?

 

…そうだ、キンジ君。

キンジ君はどうなったのでしょうか?

 

いつもキンジ君が寝ている2段ベッドの下を覗いてみましたが…そこには誰の姿もありませんでした。

もう1つある2段ベッド(理子ちゃんと白雪さん用)も覗いてみますが…。

 

「……すぴぃ…んぅ、詩穂ぉ…そこはらめぇ…。」

「…んぅ…くぅぅ…キンちゃん…既成事実ぅ…。」

 

案の定、白雪さんと理子ちゃんが寝ていました。

…ていうか2人とも寝言とんでもないですね…。

 

となると…キンジ君は、一体…?

 

 

 

 

 

 

 

 

探してみれば、あっさりと見つかりました。

キンジ君は自分の部屋のデスクの前で、椅子に寄りかかるようにして眠っていました。

 

「…じゃあ、昨日のあれは…?」

 

昨日、確かに私は見たはずです。

カナさんを…カナさんに立ち向かう、キンジ君を。

 

でも、現実に私もキンジ君も戻ってきています。

カナさんが私とキンジ君をここまで運んできた…とも考えられますが。

 

「まさか…夢?」

 

そんなはずは…でも、そんな気も…。

何が何やら、朝の寝惚けも合わさって混乱してきました…。

 

…確証。

なにか、証拠となるものが欲しいです。

 

「…昨日の、証拠になるもの…。」

 

目の前には、椅子にもたれかかって寝ているキンジ君。

昨日の騒ぎは空き地島。

空き地島…に今から行くのは少し厳しいですね。

となると…。

 

キンジ君。

彼から、何か証拠を…。

 

「…って、別に起こして聞けばいいだけじゃないですか…。」

 

…朝は頭の回転が悪くて、本当にダメです。

 

 

 

 

 

 

 

 

とりあえず眠っているキンジ君をわざわざ起こすのも気が引けたので、私は自室に戻って身だしなみを整えることにしました。

寝癖を直して、寝間着から制服に着替えて…。

髪をポニーテールに結って、武器の状態をチェックして。

準備完了、と私は自室を出てリビングに向かいました…。

 

その、向かっている途中。

キンジ君が、少し慌てたような表情で部屋から出てきました。

 

「…あ、キンジ君、おはようございます。」

「詩穂…!アリアは…!?」

 

…今の彼の言葉で、確信しました。

夢じゃ、ない…!

 

「無事ですよ。アリアさんなら寝室で寝ていますよ。」

「…そう、か…。」

 

とりあえずキンジ君が安心できるように、なるべく落ち着いて答えました。

キンジ君はそれを聞いて、安堵したような…でも、少しまだ不安げな表情を作りました。

 

「一応、確認してくる。」

 

キンジ君はそう言って、寝室のほうに歩いていきました。

…そして、入れ替わるように白雪さんが寝室から出てきます。

 

「…おはよう、詩穂。キンちゃんがすごい顔してたけど…?」

「……おはようございます、白雪さん。」

 

…昨日のことを、白雪さんに…言うべきか。

私は一瞬迷いましたが、すぐさまこう答えました。

 

「…多分、キンジ君は寝不足なんですよ。早く朝ご飯を作りましょう?」

「そ、そう?うーん…。」

 

白雪さんは怪訝そうながらも納得してくれたらしく、リビングのほうに歩いていきます。

私も白雪さんについて行きます。

 

…多少の、罪悪感と共に…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

朝の、食卓。

アリアさんも理子ちゃんも起きてきて、皆で朝ご飯を食べます。

 

「…そういえばアリア。昨日の夜俺って、どこにいた?」

「んふぇ?あんふぁならあふぁしがはえっふぇきふぁふぉきにふぁ…」

 

キンジ君はそれとなーくアリアさんに昨日のことを聞いていました。

…が、アリアさんはもぐもぐとパンを食べながら話すので…。

 

「アリア。食べながら話さないの。」

「ふぁーい…。」

 

白雪さんに怒られていました。

当然っちゃ当然です。

 

「キー君なら自分の部屋で椅子にもたれて寝てたよ。少なくとも理子とアリアが一緒に帰ってきたときには。」

 

理子ちゃんが引き継ぐようにキンジ君に報告していました。

 

「詩穂も私が帰ってきたときには珍しくもう寝てたし…。だから寂しかったんだよー!」

「うにゃ、だ、抱き着かないでくださいってば!」

 

最近見境がなくなってきた理子ちゃんを引きはがし、椅子に座らせます。

…でも、今の情報はかなり気がかりですね…。

 

「そうか…。」

 

キンジ君はチラリ、と私を見るとそれ以上は口を開かなくなってしまいました。

…それ以降は、つつがなくいつも通りに朝が過ぎていくのでした…。

 

 

 

 

 

 

朝ご飯も終わり、自室で登校の準備をしていると。

 

「…詩穂。少し、いいか?」

 

ドア越しにくぐもった声が聞こえてきました。

声の主は…。

 

「…はい。構いませんよ。」

 

ガチャ。

ドアが開き、入ってきたのはやはりキンジ君でした。

…自ずと、彼が来た理由もわかってしまいます。

 

「…なあ、詩穂。聞きたいことがあるんだが。」

「な、なんですか…?」

 

真剣な眼差しが、私を見抜きます。

なんだか問い詰められている気分です。

 

「…昨日、お前…俺の後を()けたな?」

 

ギクリ。

体が強張ります。

…そ、そういえば尾行していたこと自体はあまりよろしくない行為でした…!

 

「……そ、そんなことシテマセンヨー…?」

「…さっき俺がアリアのことを聞いたときこう言ったよな。『無事ですよ。アリアさんなら寝室で寝ていますよ。』って。どうして俺がアリアの安否を気にしていることが、わかったんだ?」

 

ギクゥッ!

し、しまった…迂闊でした!

というかやけに冴えてますねキンジ君…ヒステリアモードでもないのに。

 

「……うぅ、はい。ついて行きました…。」

 

というわけであっさり白旗を振る私。

情けないというか、間抜けです…。

 

「…ということは、昨日の会話も…。」

「はい。聞こえていました…。」

 

キンジ君は、ふぅ…と息を吐くと、頭を重たそうに振りました。

 

「夢じゃ、ないか…。」

 

…どうやら。

夢であって欲しい、と思っていたのは私だけではなかったみたいです。

そりゃ当然です。

だって…。

 

「…あの人が…カナさんが、アリアさんを殺すって言っていたのは…。」

「……いや、違う…。何かの、間違いなんだ…。」

「キンジ君…。」

 

キンジ君は…兄を、崇拝レベルで信じている。

そう理子ちゃんが話していたことがありました。

 

…彼は、きっと…。

 

「キンちゃーん。詩穂ー。そろそろ行くよー?」

 

白雪さんが私たちを呼ぶ声で、その話はお終いになってしまいました…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アリア。一緒に学校行くぞ。」

「へ?」

 

玄関にて。

いつもは一緒に行こうと誘うと嫌がるそぶりを見せるキンジ君が、自分からアリアさんを誘っていました。

当然アリアさんは目を見開いてびっくりしています。

 

「あっれー?キー君どしたのー急に。アプローチ?アプローチですか??」

「違う。」

 

すかさず理子ちゃんが茶化します。

しかしキンジ君は冷たく対応。

バッサリとネタを殺しましたね…。

 

「うえーん!詩穂ー、キー君が冷たいー!」

「だから急に抱き着かないでくださいってば!」

 

朝から2回も抱き着かれました。

今は涼しいですが、夏に入ってからやられると…さぞかし暑そうです。

 

「帯銃はしたか?背後に気をつけろよ。」

「な、なによ…キンジにしては随分と警戒的ね…。」

 

アリアさんはしかし、少し嬉しそうでした。

 

「でも良い心がけよ。あんたもようやく立派な武偵らしくなってきたじゃない。ほんとにどうしたの?」

 

アリアさんは嬉しそうな表情のまま、キンジ君に問いかけます。

対するキンジ君は…昨日のことなど、当然言えるはずもなく。

 

「…俺も一応、お前の…仲間、だからな。」

 

ごまかすように、そう言うのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、皆でバスに乗りいつも通り学校に着くと…何やら人だかりに遭遇しました。

どうやら、教務科(マスターズ)からの連絡掲示板の前にみんな集まっているみたいです。

 

「…あれ?あの子って…。」

 

白雪さんが何か…というか誰かを見つけたらしく、視線でそのことをみんなに伝えました。

その視線の先を追ってみると…見覚えのある、綺麗な銀髪が。

 

「…ジャンヌさん。おはようございます。」

「……ん?ああ、茅間か。」

 

ジャンヌ・ダルク30世さんことジャンヌさんでした。

いつも通りキリッと決め顔ですが、そんな彼女の両腕は塞がっています。

…何故か、松葉杖で。

 

「…ジャンヌさん、それって…?」

「ああ、少しな。バスに轢かれたのだ。」

「え、えぇ……。」

 

な、なんというか…。

ジャンヌさん、意外とドジなのでしょうか…?

 

…というあたりで私とジャンヌさんの会話は終了。

………コミュ障の辛いところですね…。

すると、今度は。

 

「…ジャンヌ。あなた、どうしてここに?」

「理子と同じだ。そういえばわかるか、星伽白雪。」

 

白雪さんが訝しげにジャンヌさんに問いました。

他の生徒が周りにいる手前上、逮捕とかそういう言葉は伏せているみたいですが…なんとも物騒な会話です。

でも、白雪さんはジャンヌさんの言葉に納得したのか少し警戒を解きました。

 

「ふぅん。じゃ、もう悪いことはできないね。おとなしくするんだよ?」

「…フン。」

「……ふふっ。」

 

茶化すように言う白雪さんと、少し拗ねたようにそっぽを向くジャンヌさん。

…今の会話を聞いて、何故か。

実は白雪さんとジャンヌさんは仲良くなれるような。

そんな気が、しました。

 

「ジャンヌ!ジャンヌじゃないか!どうしてここに!?自力で脱出を!?」

「理子…よくわからないネタで私をからかうのはやめてくれ。」

 

今度は理子ちゃんがジャンヌさんに絡んでいました。

ジャンヌさん、すごいいじられてますね…。

 

「ええい、私のことはどうでもいいのだ!」

「どうでもよくないわ!ジャンヌ、あんたも理子みたいにちゃんと……ママの裁判、出るのよ?」

「…ああ。それは心得ている。『取引』だからな。」

 

今度はアリアさん。

彼女の要件は…どうやら、『司法取引』のようです。

昨日理子ちゃんが行ったように、ジャンヌさんもまた『神崎かなえ』さんの冤罪を晴らすよう証言することが取引の内容みたいです。

 

「…それで、ジャンヌ。何を見ていたんだ?」

 

キンジ君が少し面倒くさそうに言います。

まぁ、確かにこのままジャンヌさんいじりが続くのもアレですしね…。

 

「ああ。この張り紙を見ていたのだが…遠山。お前の名前があったぞ。」

「……は?」

 

キンジ君が素っ頓狂な声を上げる中、私も目を凝らして張り紙を見ようとしました。

…しかし。

 

「み、見えません…。」

 

背の低い私は他の武偵校生達に阻まれ、全くと言っていいほど見えませんでした。

ガーン…。

 

「り、理子ちゃん…どうしましょう、見えません…。」

「あ、あはは…大丈夫、私も見えてないから…。」

 

とりあえず理子ちゃんに助けを求めてみましたが、理子ちゃんも小柄なほうなので見えないみたいです。

…困りました。

どうしましょう?

 

「…あんたたち!どきなさい、邪魔よ!」

 

と困っている私たちを見てか見ないでか、アリアさんが掲示板の前に溜まっている生徒たちに向かって大声を上げました。

すると…。

 

「お、おい、あいつA組の神崎じゃ…。」

「やべぇ、逆らったら殺られるぞ…!」

「神崎先輩!?マジか、告白を…!」

「おいやめろ。」

 

アリアさんを怖がって、掲示板の生徒たちはささーっ…とその場を後にしていきました。

…一部、変な人もいたような気はしなくもないですが。

 

「…さて。これで読めるわね。」

「ありがとうございます、アリアさん。」

 

素直にお礼を言っておくと、アリアさんは照れ臭そうにそっぽを向きました。

 

「べ、別に…あたしも見にくかっただけよ。」

 

…こういう時のアリアさんって、本当に可愛いですね…。

同性ながら惚れちゃいそうです。

 

さて…問題の掲示板を覗くと。

 

『1学期単位不足者一覧』

 

と、大きな文字が。

そしてその下にはズラーっと名前とクラス、不足単位が書かれています。

…いえ、ズラーっといるのはどうかと思うのですが…。

そして、その中に。

 

『2年A組 遠山キンジ 不足単位1.9 単位』

 

…1.9単位。

この学校は確か、1学期中に2.0単位取らなきゃいけないはずですが…。

 

「…キンジ君、どんだけサボってたんですか…?」

「いや、違うんだ!これはアリアの…いや、なんでもありません。」

 

どうやらキンジ君はアリアさんのせいで色々忙しくて単位がもらえてなかったみたいです。

まぁアリアさんの鋭い眼光に黙らされてしまうわけですが。

 

「キンちゃん…いくらなんでも、これは厳しいよ…?」

「あは、あっははは!き、キー君単位足りなさすぎ…っ!あはは、あはうぇっ!」

 

普段はキンジ君にとことん優しい白雪さんも、これには渋い顔。

ちなみに理子ちゃんはお腹を抱えて笑いすぎて呼吸困難になっていました。

 

「遠山…お前は問題児だったのだな。しかしこれがあるのだろう?」

 

ジャンヌさんは何故かドヤ顔で別の張り紙を指さしました。

そこには…『夏季休業期・緊急任務(クエスト・ブースト)』の文字が。

 

緊急任務とは、文字通り単位の足らない人のために教務科が用意した特殊な任務のことです。

単位が普通の任務よりも割増しでもらえる代わりに、報酬はとんでもなく安くなります。

無報酬であることもザラにあるみたいです。

 

「…でも、いくら緊急任務とはいえ、1.9単位なんてもらえる任務はそうそうないと思いますけど…。」

「そうだよな…。」

 

大体1学期に必要な単位のほとんどを1発でもらえるアホみたいな任務、あってはならないはずです。

ちなみに私はテストで単位を揃えてあるので、Dランクですが地味にこれに引っかかったことはありません。

 

「…あった。『カジノ・ピラディミオン台場の警備、1.9単位』。」

「ええええ!?」

 

あるんですか!?

都合良すぎませんか!?

キンジ君が見ているあたりを見てみると…確かに、1.9単位と書かれている任務が。

ええぇ…こんなんでいいんですか、武偵校…。

 

詳細のほうを眺めてみると、何やら色々なことが書かれていました。

 

要・帯銃、帯剣。

必要生徒数4名(要相談、女子を推薦)。

強襲科、探偵科を推薦、他学科も可。

被服の支給有り。

…報酬、無し。

 

「ああー…。」

 

最後の文章を見た瞬間、すべてを察しました。

ああ、そりゃ随分な単位なわけです…。

多分本来の報酬は教務科のものになるんでしょうね、これ。

 

しかしキンジ君にとっては、報酬の有無などもはや関係無いみたいです。

確かに留年は嫌ですしね。

 

「カジノ警備とか…キー君、見境ないねぇ。しかも報酬ゼロ。」

 

理子ちゃんが呆れたように言いました。

ぶっ壊れた腹筋は治ったみたいです。

 

カジノは、最近日本でも合法化された公営ギャンブル施設。

そこの警備が今回の仕事なのですが…。

そもそもカジノで事件はあまり起こらず、起きてもせいぜい乱闘騒ぎくらいです。

そういったところから、『腕の鈍る仕事』と武偵界隈では結構バカにされている仕事です。

実際、この仕事を受けるような人はほとんどいません。

 

…キンジ君のようなケースを除いて。

 

「アリア。一緒にやるぞ。」

「…え?なんでよ。あたし単位足りてる。」

 

キンジ君は思い出したように、アリアさんを誘いました。

当然アリアさんは拒否しようとしますが…。

 

「アリアもやるなら私もやるよ!負けてられないもん!キンちゃんは渡さない!」

 

と、白雪さんが何故か乱入。

すると負けず嫌いなのかアリアさんも。

 

「あ、あたしだってやるわよ!キンジは…か、カンケーないけど!白雪と2人でやらせたら何が起こるかわかったもんじゃないわ!」

 

とやる気になってしまいました。

…2人とも正常運転で何よりです。

そんな彼女たちを遠巻きに眺めていると…。

 

「いやー、修羅場って感じですなー。」

 

理子ちゃんが呑気に茶々を入れに来ました。

…いえ、どちらかというと私のほうに来た感じですけれど。

 

「…いや、理子。お前の名前も名簿にあるのだが…。」

「なんですと!?」

 

そんなマイペースな理子ちゃんを現実に戻すように、ジャンヌさんが衝撃の真実を告げました。

…理子ちゃんも足りていなかったのですか…。

 

「…理子ちゃん…。」

「ちが、違うんだよ詩穂!私は決して詩穂に夢中で単位忘れてたとか、そういうんじゃないんだよ!」

 

自分から颯爽とネタバレをしていく理子ちゃん。

そんな彼女の名簿には…1.3単位不足の文字が。

キンジ君ほどではありませんが、こちらもかなり重症です。

 

「うぅ…くっ、こうなったら…!」

 

理子ちゃんはキンジ君たちのほうに向きなおると、高らかに宣言しました。

 

「理子もカジノ警備やります!詩穂もやります!」

「私もやるんですか!?」

 

何故か唐突に巻き込まれてしまいました。

…いえ、薄々そうなるかな、とは思っていましたけど…。

一応抗議してみます。

 

「いえ、私は単位足りてますし、あんまりやりたくはないんですけど…。それに、必要生徒数4名って書いてありますし。」

「やだー!詩穂いてくれなきゃ死んじゃう!一緒にやってよぉ!」

 

う、うわぁ…。

見事に駄々っ子と化した理子ちゃんは限りなくめんどくさい感じで私にも仕事を迫ってきます。

アリアさんやキンジ君も、苦笑いするだけで特に助けてはくれません。

 

「…わ、わかりましたって。わかりました、やりますよ。」

「ほんと!?」

「はい。その代わり、今度何か奢ってくださいね?」

「イヤッホーウ!詩穂大好きー!愛してるー!」

「ちょ、抱き着かないでくださいって!」

 

理子ちゃんに押され、結局私も受けることになりました。

とはいえ…理子ちゃんだけが理由じゃありません。

 

…昨日のカナさんの言葉は、胸に引っかかったままです。

 

『アリアを殺しましょう。』

 

私はあの言葉を聞いてしまった以上、アリアさんを放っておけるほど人間出来ていません。

私はカナさんの言葉を胸に、アリアさんを見ました。

 

楽しそうな笑顔のアリアさんと…。

その向こうにある、憂いを帯びたキンジ君の顔。

 

きっとキンジ君も、私と同じように…。

アリアさんが心配で誘ったのかもしれないと、心の中で思うのでした。

 

「…ところで詩穂は、何奢ってほしいの?」

「へ?うーん…あ、今度アキバ行きたいので電車賃とかでお願いします。」

「………パフェとか思ってた私がバカだったよ…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、そんなジャンヌさんとの掛け合いもあった日の授業はというと。

 

「詩穂ー♪一緒にキャッキャウフフしよー!」

「いえ、私はいいです…。」

 

3時間目の体育は、夏も近づいてきたこともあってプールでした。

しかし、体育教員の蘭豹先生がこれまたいい加減で。

 

「銃使って水球やっとけ。何人か死んどけ。」

 

と言った後すぐに帰ってしまいました。

というわけで…私たちも自然と授業をサボることに。

 

泳げない私は当然プールサイドに上がり、同じような理由のアリアさんとおしゃべりしていました。

理子ちゃんはどちらかというと泳ぐのが好きなのか、プールに入りながらバシャバシャとやっています。

 

「まぁ、偶にはこういう平和な時間もいいものよね。」

「ですね…。」

 

アリアさんがしみじみと感想を漏らしました。

私もしみじみと言っておきます。

こういう平和な時間を壊していくのは間違いなく大半の理由がアリアさんなのですが…。

そこらへんは言わぬが華です。

 

ちなみに、男女は別なので今はキンジ君はいません。

白雪さんもクラスが違うのでいません。

 

そうやってボーっとしていると…。

 

「…ん?メール?」

 

アリアさんのケータイがヴヴヴ、と震えました。

ケータイを開いて中身を確認した彼女は…ボフンッ、と顔を一気に紅潮させました。

 

「ど、どうしたんですか?」

「べ、べべべべべ別に何ともないわっ!」

 

赤い顔のままブルブル震える彼女のケータイを盗み見ると…送り主は、キンジ君?

内容は…。

 

「何見てんのよっ!」

「わあっ、ごめんなさい!」

 

と、怒られてしまいました。

…いえ、超気になるんですけど…。

 

「ほう、どれどれ?」

「あっ!か、返しなさいよっ!」

 

いつの間にやらプールから上がっていた理子ちゃんがアリアさんのケータイをさっと取り上げてしまいます。

…こういうあたり、理子ちゃんの泥棒っぷりを垣間見ちゃいますね…。

 

「…ほーん…ふむふむ…デートのお誘いじゃないかっ!」

「な…え、ええええ!?」

 

理子ちゃんの口から衝撃発言が。

…そ、それは…とんでもないですね、キンジ君…!

しかし、俄然興味がわくのも事実。

 

「み、見せてください!」

「見ないでよーっ!」

 

騒ぐアリアさんを理子ちゃんが取り押さえ、その間にケータイを見ます。

ごめんなさい、アリアさん…。

 

「『親愛なるアリアへ。カジノ警備の練習がてら、2人っきりで七夕祭りに行かないか?7日の7時、上野駅ジャイアントパンダの前で待ち合わせだ。可愛い浴衣、着て来いよ?』って…。」

「読み上げないで!あたしを晒し者にしないで!」

 

アリアさんは理子ちゃんの拘束を抜け出すと、私の手からバッとケータイを奪い取ってしまいました。

そしてそのまま私をキッ!と睨みます。

 

「や、やっていいことと悪いことがあるでしょ!?もっとこう黙読するとかしなさいよ!」

「ご、ごめんなさい、つい…。」

「こらアリアー!私の可愛い可愛い詩穂をいじめたら許さないよ!」

「理不尽!」

 

当然アリアさんに怒られてしまいますが…理子ちゃんがカバーしてくれました。

…地味に、雰囲気が悪くならないようにふざけた調子で対応してくれる理子ちゃんに、心の中で感謝です。

まぁ事の発端も理子ちゃんですけれど。

 

「…で、どーするの?それ。キー君からお誘いなんでしょ?」

「うぅ…どうするの、なんて言われても…。」

 

アリアさんは本気で悩んでいるみたいですが…。

おそらくあれは、キンジ君が書いたものではないような気がします。

 

そもそも彼はこんなキザったらしい文章を書いたり送ったりする事の出来る人物ではありません。

文章だけ見ればヒステリアモードのキンジ君にも近いようにも見えますが…。

ヒステリアモードのキンジ君なら、もっとクラっと来るような甘ったるい文章を書くはずです。

…というわけで、私なりの結論としては。

 

「…多分、武藤君辺りによる卑劣な悪戯ですね、これ…。」

「え?何、詩穂。なんか言った?」

「い、いえ。なんでもないです。」

 

教えるべきかどうかは置いておいて…。

キンジ君もこういう約束事には真面目な人ですので、例え悪戯のせいでも責任をもって約束の時間に来るはずです。

ともなれば…アリアさんは行ったらキンジ君とデートすることに…。

 

「アリアさん!!」

「うわぁ!何よ、今度は大声出して…。」

「アリアさんが行くなら私も行きます!」

 

とりあえず阻止してみることにしました。

いえ、だって…。

 

「詩穂が行くなら私も行くよ!」

「言うと思ってたわよ!なんであんた達まで連れて行かなきゃいけないのよ。」

 

アリアさんは少し顔が赤いまま、それでも私の言葉にきっちり反応を返します。

どうやら先程のことに怒っているのか、ちょっぴり言葉が刺々しいです。

 

「そ、それは…だって、その…。そ、それよりアリアさんは行くんですか?キンジ君と、2人きりで。」

「うっ…き、キンジと2人…。」

 

咄嗟に話題を逸らしましたが、案外上手くいきました。

…とかなんとかやっているうちに。

 

キーン…コーン…カーン…コーン…。

 

と終業を告げるチャイムが鳴り響きました。

みんな次の授業が…というか一般科目はどうでもいいようで、のんびり歩きながら更衣室に向かいます。

 

「詩穂、私たちも戻ろ?」

「…はい、理子ちゃん。」

 

理子ちゃんに誘われて、私たちもまったり帰還。

…この後起こる大事件も知らずに…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昼休みを挟んで、5時間目。

私たちは専門科目…つまり、強襲科(アサルト)の授業です。

 

「おらぁ!とっとと動けや!ぶっ殺すぞ!」

 

ドゥン!

という爆音を響かせるM500で生徒を脅しながら、蘭豹先生が叫んでいます。

多分、まだ強襲科(ここ)の動きに慣れていない1年生らしき子たちの悲鳴も聞こえてきました。

 

「…こんな風景に慣れてしまった私が悲しいです…。」

「いや、自分で強襲科選んだんだろ。」

 

今はキンジ君と2人で休憩中。

先程までアリアさんも一緒に訓練していたのですが、『ちょっと模擬戦申し込まれたからぶちのめしてくるわ』と闘技場(コロッセオ)のほうに行ってしまいました。

どうやら叶さんに負けてしまってから色んな生徒に申し込まれるらしく、アリアさんは最近少しご機嫌斜めです。

 

というわけで…。

先程のメールの真偽を聞くチャンスでも、あります。

 

ど、どうしましょう…もしあれが武藤君とかの悪戯ではなくて、キンジ君が本気で送っていたものだとしたら…!

 

「あ、あの。キンジ君…。」

「…なんだ。」

「…そのですね、アリアさんの……。」

「おい、闘技場でマジヤバいバトルやってるらしいぜ!」

 

私の勇気を振り絞って出した声を遮り、強襲科の男子の大声が響きました。

 

「なんでも2年の神崎が押されてるらしい!」

「まじかよ、相手は!?」

札幌武偵校(サッコウ)の女子らしいけど…見たことねぇんだ。でも、三つ編みの綺麗な人だってよ!」

 

…その瞬間。

私とキンジ君は目を合わせ、即座に闘技場に走り出しました…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やれややれや!どっちか死ぬまでやれや!」

 

蘭豹先生の狂ったような大声が響く、闘技場の観客席。

沢山の人波をかき分けて、防弾ガラスの前までたどり着くと…。

 

「……アリアさん!!」

 

…防弾ガラスの向こう側。

そこに立っていたのは、ふらつく足で何とか立っているアリアさんと…。

カナさん、でした。

 

「おいで、神崎・H・アリア。あなたをもっと…見せてごらん?」

 

パァン!

乾いた銃声とともに、アリアさんの体がよろけます。

おそらく…防弾制服のどこかに当たったのでしょう。

 

「…うっ!」

 

アリアさんは短い悲鳴を上げ、その場に膝をつきます。

防弾制服は…TNK繊維を使用している性質上、銃弾が貫通することはありません。

しかし、その衝撃は…そのまま通してしまいます。

例えるなら鉄パイプで殴られるような、強烈な衝撃。

もちろん当たり所にもよりますが…その衝撃のせいで大けがを負うこともあります。

そして当然、頭部に当たれば…!

 

「蘭豹!こんなの違法だ!死者が出るぞ!」

「おう、死ねや死ねや!今後の教育のため死んで見せろや!」

 

蘭豹先生は明らかに教師とは思えない発言をしながら、手に持っているお酒をグイッと煽りました。

…キンジ君も言っている通り、本来防弾制服を着用した状態での実弾を用いた決闘は武偵法で禁止されています。

 

「…くそっ!」

 

キンジ君は見かねて、闘技場に自身も入っていこうとします。

それを私は止めようか迷っているうちに…。

 

「…待て、遠山キンジ。」

 

闘技場の扉を開けようとしたキンジ君の肩を、誰かが掴みました。

 

「…お前は…。」

「どけ。オレもあいつに用があるんでな。」

 

キンジ君をドンッと退かすと、その人は…。

叶さんは、闘技場に入っていきました。

 

「待ってよー。」

 

それに続くように明音さんも入っていきます。

…いつものように、微笑を浮かべて。

 

「…おい、橋田だぜ…。」

「布田もいるぞ。どうなっちまうんだこりゃ…。」

 

ざわざわ、と観客席がざわめきます。

キンジ君は扉に手をかけ…そして、離しました。

どうやら入ることをやめた…みたいです。

 

「…あら、あなたは…。」

「よう、久しいな。ちょっと面貸せ。」

 

叶さんは好戦的な笑みを浮かべながら、カナさんに歩み寄ります。

…2人とも読みが『かな』だから凄くややこしいですね…。

 

「…邪魔、しないで…。」

 

アリアさんはよろよろと立ち上がると、手で近寄ってくる2人を制します。

叶さんはそんなアリアさんを見ると…。

 

「邪魔なのはお前だ。寝てろ。」

 

ズガッ!

 

いつの間にアリアさんの背後にいたのか、アリアさんの肩を彼女の武器である…長い、西洋(ランス)で殴りつけました。

 

「うあっ…!」

 

アリアさんは短く悲鳴を上げると…その場に、倒れ伏しました。

 

「アリアっ!」

 

キンジ君が叫びますが…しかし、その声にもうアリアさんは答えません。

おそらく…意識を、失っているのでしょう。

 

「こいつをイジメてもらっちゃ困るんだよ…こいつの中身くらい、知ってんだろ?」

「ふぅん…。それが狙いってわけね。」

 

叶さんとカナさんは、何やらよくわからない会話をしています。

明音さんはにこやかに笑いながら、倒れたアリアさんを抱きかかえると…そのまま、少し離れた位置でアリアさんを降ろしました。

 

「…さて、お互い名乗ってなかったな。名前を言えよ。」

「『カナ』…とだけ、言っておきましょうか。」

「奇遇だな、オレも『叶』ってんだ。気が合うかもな?」

 

叶さんはニヤ、と笑うと槍を持ち直し…その場で、構えとも取れないようなポーズをしました。

槍を持つ右腕は大きく後ろに引き、足は肩幅程度に開いて横向きに。

左手は狙いを定めるかのようにカナさんのほうへ向けています。

例えるなら…槍投げでもしているかのような、不思議な態勢。

アリアさんと戦っているときには見せなかった、彼女の…戦闘態勢。

 

「…お前なら色々知ってそうだしな。全部吐いて楽になっちまえよ。」

「それは随分と物騒ね。」

 

カナさんはフフ、と笑うと…。

こちらもまた、何もしていない棒立ちのような『構え』を取りました。

…2人から、独特の気配が流れてきます。

殺気…でもない、不思議な迫力。

 

……そして、数瞬後。

 

パァン!

 

「!」

 

乾いた音が鳴り響き、直後…。

 

ガギン!!

 

金属同士がぶつかり合うような、鋭い音が聞こえました。

 

「…これを防いだのは、『教授(プロフェシオン)』に次いで2人目ね。」

「まぁ、そんなもんだろ。この世の中もっと頭のおかしい奴はごまんといる。」

 

驚いたように笑うカナさんと、少し驚きながらも…未だ好戦的な笑みを向ける叶さん。

2人の立ち位置は全くと言っていいほど、変化していませんでした。

カナさんは棒立ちのまま…叶さんも、先程の謎のポーズのまま動いていません。

 

「な、なにが起きたんだ?」

「さぁ…?」

「音は確かにしたよな…?」

 

観客席もざわつきますが、こればっかりはさっぱりわかりません。

隣で見ているキンジ君ですら、呆然と2人を眺めています。

蘭豹先生だけが、ニヤニヤと笑っていました。

 

「…次はこっちからだ!」

「……!!」

 

ヒュッ…!

 

叶さんの声が聞こえたかと思うと…。

次の瞬間、叶さんの姿が消えました。

…そして。

 

ガィン!!

ギギィン!!

 

2回、また金属音。

相変わらず叶さんの姿は見えませんでしたが、カナさんは…。

その音が聞こえている中、フラフラっとその場を横に動き、そしてグルっとその場で素早く半回転。

ブォン、と彼女の長い三つ編みが揺れました。

 

…ヒュォッ…。

 

そして、カナさんが半回転して後ろを見た…ちょうどその視線の先に。

先程の謎のポーズを解いて、直立した叶さんが…文字通り、現れました。

 

「…驚いた。防ぐくらいはすると思ったが、返してくるとはな。しかもそんなところに武器を仕込むたぁ…焦ったぜ。」

「そんな風に見えないわ。あなた、本当に強いのね…。」

 

…2人とも、笑っている…。

なんとも恐ろしい光景に、戦慄します。

 

「さっきの…縮地かと思ったけど、違うみたいね。他の子たちにも見えてなかったみたいだし…?」

「はは、ネタがバレなかっただけ御の字としよう。」

 

…2人の『かな』さんは、また構えます。

まるで、お互いが新しい遊び相手を見つけたように…!

叶さんはグッ、と大地を踏みしめ。

カナさんは構えているようないないような棒立ちで、それでも叶さんをしっかり見据えて…。

 

また、始まろうとした、そのとき…。

 

 

 

 

 

 

ぴぴぴぴーーーーーっっ!!

 

 

 

 

 

なんとも場違いな、ホイッスルの音が鳴り響きました。

観客席にいる生徒たちが、一斉にその音源を見つめます。

 

「何をやっているんですか!全員逮捕しますよ!?」

 

ホイッスルの音のほうには…小柄な婦警さんが立っていました。

誰かが通報したのでしょうか、その婦警さんは生徒たちを散らすと闘技場のほうにも歩いてきます。

 

「ほら、あなたたちも早く解散しなさい!」

 

婦警さんがこっちまでやってくると…。

 

「…はぁ。興ざめだ。アカネ、行くぞ。」

「んー。」

 

2人は、いつものように、連れ添って帰って行ってしまいました。

一方、カナさんは…。

 

「………ふぁ……ぁ。」

 

…のんきに欠伸を一つ漏らしていました。

その姿からは…もう、闘気も何も感じられません。

 

「……けっ。」

 

蘭豹先生は心底つまらなそうに、こちらにやってきました。

…鋭い眼光で、まだ残っていた生徒を散らしながら。

 

「サムイ芝居で水差しやがって。あとで教務科に来いや…峰理子。」

 

小柄な婦警さんを睨みながら、手にしたお酒をグイッと煽ります。

…ん?

峰…理子?

 

「くふっ。くふふふふっ…!」

「…理子ちゃん…?」

「そーだよ、詩穂ー!」

 

婦警さんから、今度は…理子ちゃんの笑いを押し殺すような声が聞こえました。

…理子ちゃんの変装だった、というわけですか。

どうやら理子ちゃんは、この騒ぎを聞いて…駆けつけてくれた、みたいです。

 

「……ふぁぁ…。」

 

カナさんはもう一度大きく欠伸をすると、またふらり、と向きを変えて…。

すたすた、と出口に歩いて行ってしまいました。

 

「…アリア!」

 

そしてその姿が見えなくなったことで緊張が解けたのか…キンジ君がアリアさんのもとに駆け付けました。

私もそれに倣い、アリアさんの方に歩み寄ります。

 

「アリア…アリア!」

 

キンジ君はアリアさんを抱きかかえ、何度も呼びかけますが…気を失っているアリアさんは、一向に反応を示しません。

…そこに、蘭豹先生がやってきました。

 

「大げさに騒ぐなや、阿呆が。」

「大げさも何も、殺されるところだったろっ!」

「はぁ…全く、茅間の平和ボケがうつったんか…?」

 

蘭豹先生は何やら心外なことを言いながら、キンジ君を見下します。

…私のせいになっているのは、この際黙っておきましょう。

 

「あの(アマ)、そもそも殺気なんてなかったやろ。」

 

…殺気が、なかった…?

でも確かにカナさんは『アリアさんを殺す』と…。

 

「橋田が乱入してくれて、ガキ共の勉強のために放っておいただけや。ホンマに橋田もあいつも本気やったら…。」

 

蘭豹先生は、酔っていてもその感性は衰えません。

この人は、香港で無敵の女傑と恐れられていた人だから。

 

「ウチが両方、殺っとるわ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

気絶したアリアさんを、キンジ君と一緒に救護科(アンビュラス)に運びます。

小救護室と呼ばれる一般生徒でも利用できる保健室のようなところに着くと…アリアさんは、目を覚ましました。

小救護室には、救護科の人は今はいません。

今日は武偵病院で実習らしく、救護科の生徒さんはみんな不在のようです。

理子ちゃんは、教務科に出頭してから…帰ってきません。

 

「……アリアさん。」

「うるさい。話しかけないで…。」

 

声をかけてみても、アリアさんは悔しそうに俯いたままでした。

 

「…アリア。どうやっても勝負はついてた。」

「うるさい…。」

 

コールドスプレーを持ってきたキンジ君が、アリアさんを諭すように言います。

 

「だから、もうカナとは戦うな。次は、殺され…。」

「うるさいうるさいうるさい!!どっかいけ、バカキンジ!」

 

アリアさんは俯いたまま、大声で怒鳴りました。

キンジ君はそれを見た後…コールドスプレーを置いて、部屋を出て行ってしまいました。

…私に、軽く目配せをして。

 

「…わかりました、キンジ君…。」

 

小さく、呟きます。

彼は本当に、優しい人です…。

私はキンジ君の後を継ぐように、アリアさんに話しかけました。

 

「…アリアさん。その…。」

「…あたしは。」

 

アリアさんは、顔を上げません。

でも私だけしかこの場所にいないから…口を開いてくれたのかもしれません。

…そうだと、いいな。

 

「あたしは、勝たなきゃいけなかった…。理子が変装してきたカナの顔を見て、キンジはすごくびっくりしてた。あたしは…そのカナから、決闘を申し込まれたの。逃げるわけにも、負けるわけにもいかなかったのに…!」

 

…叶さんに挑んで負けた時とは、ワケが違うのでしょう。

これはきっと…戦いに負けた悔しさと、別の悔しさ。

 

「…強くならなきゃ、いけないのに。あたしは確かに、叶よりも、多分明音よりも…弱い。さっき戦ったカナだって…あたしじゃ勝てないのはわかってる。でも…でも…!」

「…アリアさん。」

 

それなら、私は。

アリアさんの力になるって決めた、私は。

 

「負けちゃうのは、仕方ないことです。アリアさんより強い人がたくさんいることも、仕方ないことです。」

「…うん。」

「…アリアさんが悔しいのも、わかります。でも…やっぱり、アリアさんには前を向いていてほしいんです。」

「…詩穂、あたし…。」

 

アリアさんは、ようやく…。

涙に濡れた瞳ごと、顔を上げてくれました。

 

「アリアさん。いつか、お母さんを救うために…強くならなきゃ、いけないんですか?」

「…そ、そうよ。あたしは今よりももっと…!」

「じゃあ、仲間を…キンジ君を、大切にしなきゃいけないです。」

「………!」

「キンジ君だけじゃありません。他のみんなも…そして、アリアさん自身も。そうすれば、前を向けなくなっても…みんなが、助けてくれますから。」

 

私は自分でも恥ずかしいセリフを言っているな、と思いつつも。

アリアさんに、語り掛けます。

 

「…えへへ。アリアさん、大丈夫です。しっかり目標があるなら…立ち止まっても、また歩き出せるはずですから。」

「…うん…。」

 

アリアさんは、目の端の滴を右手で拭うと…静かに、笑いました。

 

「詩穂…ありがと。あたしはいつも、詩穂に励まされてばっかりね。」

「アリアさん…!」

「もう、大丈夫。あたしはきっと…大丈夫。」

 

アリアさんは、立ち上がるとぐいーっと伸びをして見せました。

…そう。

アリアさんがもう大丈夫、って言ってくれるなら。

 

私は…。

これでよかった、と思えるんです…。

 

 

 

 

 

 

 

「…いたた!」

「…とりあえず、消毒の続きをやっていきましょう…。」




読了、ありがとうございました。



今回は叶とカナ、2人の『かな』が出てきて大変ややこしかったと思います。
原作の『かな』は『カナ』
この作品のオリジナルキャラである『かな』は『叶』
と表記していきます故,複雑なことは承知ですが何卒理解してくれると嬉しいです。

しかも、明音→叶の時に限っては『カナ』と表記しますのでさらに複雑です。
そこら辺はちゃんと表記に差をつけたり地の文で何とかしていきますが…こればっかりは本当にただの私のわがままです。
申し訳ありません。




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