この世には『魔』と呼ばれる存在がいる。
例えば池袋の首無しライダー、彼女は欧州の伝説の妖精であるデュラハンである。
馬に乗り首をもたぬ姿を持つという伝承は彼の地から遠く離れたこの日本でもよく知られているだろう。
故意にまたは偶然に隠されているだけでまだまだ多くの化け物がどこかに、いや気付いていないだけで実はすぐ隣にいるかもしれない。
日本にも古くから『魔』は存在する。
時代のなかで数を減らすも確かにいる。
鬼種は人間と系統の異なる生粋の魔であり人間を超越した存在。
その鬼種の血を持ち異能を扱う混血。
退魔組織は、その魔を退ける退魔をなす組織。
その退魔組織である七夜一族に少女は生まれた。
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この山の中には風の音、木々の揺れる音、どこからともなく騒ぐ虫の声。それ以外無音の空間を地を這う獣のように機敏な動きで小さな人の影が月の光さえ無い暗闇を割いて駆ける。
その影の大きさは精々中学生以下だが、速さは子供のそれとは格別のもので形容するなら風でも吹いたのかと感じるほどだ。
少女の名は
齢10歳にして日本最大の退魔組織の一つである七夜一族で実働して魔を滅する役割を担っていた。
しかし少女は今左眼を失いそこから血を流し逃走していた。
七夜一族は魔法などの外法を一切使用せず、山の中の隠れ里で近親交配を繰り返し遺伝として一代限りの超能力を遺し退魔を執行してきた。
さらに本来人間以上の力を持つ相手に対して生還すべく磨いた暗殺術を用いて戦う一族である。
その結果として人間でない化け物に対して生まれる激しい殺害衝動にかられる生粋の暗殺者達だ。
七夜の超能力はありえざるモノを視るというもので、少女は一瞬先の未来が視える淨眼「未来視」をもつ。
その淨眼の戦闘での有能性と少女自身の七夜暗殺殺法の異常な腕前により、10歳という若さで退魔の最前線に立っていた。
単独で混血の討伐に出た支基は無傷では無いものの勝利を収めて帰還して始めて眼にしたものは、燃え上がる自分の生まれ育った七夜の隠れ里となお里の破壊活動を続ける鬼の姿だった。
旧来の日本建築の建物は砂でできているかのように崩され、原型をとどめた建造物などない。
それと同様に多くの七夜一族の人間が鬼の足元に倒れている。
あの鬼と戦闘があったのだろう、鬼の皮膚にはいくつもの裂傷がありいくつもの刃が刺さったまま放置されている。
しかし鬼は全く気にしたようすも無く動いている。
気配を潜めよくその姿を観察すれば、サイズだけは人間だが皮膚の色、口の形状、額の角から視て強さだけでなく容姿も間違いないと確信を持つ。
(あれは本物の鬼だっ!)
この日七夜の隠れ里は混血でも何でもないもない、もうこの世界にほとんど現存しない真性の魔、古くから日本に伝わる鬼に襲撃された。
本来ならば有り得ないことだが、この隠れ里が見つかるわけがないと、どんなにその可能性を否定しようと七夜の隠れ里が襲撃され壊滅した事実は変わらないのだ。
鬼が振り返りこちらを見る。
(やばいっ、殺されるっ!)
瞬間少女の淨眼を発動させる。
眼に映ったのはあと数瞬で鬼の右手による打撃で顔面がミンチになり自分が死ぬ未来。
瞬時に一歩後ろに下がり顔を引く。
鬼は少女の視えた未来通りに少女の顔面を殴る。
その衝撃を利用し背中から飛ぶように後退、そのまま無我夢中で逃げた。
何分走っただろうか、いや何秒、何時間、時間の感覚も忘れ兎に角走り続ける。
「油断した、左眼が……」
少女の顔は赤一色の絵を描いた画家の持つパレットのように血で真っ赤に染まり、鬼の拳が直撃した左の瞼の辺りは骨が折れたのか凹み、その衝撃で左眼は破裂していた。
走る為に地を蹴るたびに刺すような痛みが少女を襲い、血は止まらずに流れる。
走る痛い走る鮮血走る。
どれくらい離れたもんかと少女は走りながら後ろを視る。
いる
姿が視える、追ってきている。
逃げな……「殺せ」
脳裏に浮かぶのは奴を殺さなければという衝動。
七夜という血族が持つ欲求。
すぐ後ろにいる化け物を。
逃げ「殺せ」
に「殺せ」
「コロス!」
懐から任務に使用していたナイフを取り出し、反撃を開始する。
少女は山の中、木々を利用し一匹の蜘蛛となる。
常に淨眼で「未来視」を続け最善の動きを、常に体術を利用しナイフで切り付ける。
少女は止まらない。木から木へ、ナイフで攻撃。永遠と繰り返すそれは鬼を中心に惨殺空間を作りあげていた。
しかし鬼は止まらない、元々七夜の隠れ里を襲った時点で数えきれないほどの傷を負っても動いていたのだ。
死なぬように淨眼をフルスロットルで発動していた少女の無い左眼が熱をもつ。脳を焼き切る程の熱が生まれる。
無い左眼が何かを視た。潰れて暗闇しか視ることのできないはずなのに何か青黒く輝く線が。
「殺す」
右眼に映る映像と左眼に映る線、脳裏に浮かぶ未来の映像を統合して鬼の胴にある線を本能的にナイフでなぞる。
切れた。
殺した。
幻想そのものである鬼は二つの肉塊となって横たわり、どういうわけか灰のように散っていく。
強大な敵に勝った余韻に浸らず、少女は歩いて山の麓を目指す
「治療しなきゃ……」
これが少女にとっての物語の始まりで、直死の魔眼をもつきっかけだった。
あれ?池袋騒乱記なのに池袋にいない。
多分二章以降は池袋にいます。