あっ!主人公の名前は支基(ツカモト)です。
その少女はここ池袋駅において妙な存在感を放っていた。
150cmピッタリの小学生と宣言しても疑われることの無いような小さな体格、腰まで伸びる濡れた鴉のような長い黒髪、病人のような白い肌、一般のものと比べると大きめの医療用の白い眼帯、何より都会で若い少女が着るには大いに違和感のある淡い青地に金糸で美しい菊の刺繍の施された和服を着た美しい少女。
齢13歳、これから中学二年生になる七夜支基はここ池袋駅において奇妙な存在として周りに認識されていた。
ただ単純に浮いているともいえる。
支基は背筋をピンと伸ばし外見は待ち人を真剣に待つご令嬢だが、内心はボーっと何も考えずに立って今まで視たことのないような大きな人混み、人の流れをぼんやりと視ていた。
支基が池袋駅のロータリーで佇んでいること十と数分後。
誰もが支基の大和撫子然とした空気に当てられ近寄りがたく思いただ通り過ぎているところに一人の男の影が近寄る。
「あー、俺は渡草三郎っていうんだが……、あんたが七夜支基っていうお嬢さんでいいのか」
風景として視ていた一部が話かけてきた。
支基はそう感じた。
渡草三郎と名乗った男の容姿は20代半ばといったところで、男にしては少し長い髪に睨みつけているかのような三白眼、服装もシャツのボタンを二つまで開けて首には金のネックレスが輝いている。
一般人からしたら渡草は十分に関わりたく無い容姿をしているかも知れない。
「はい私が支基です、迎えにきてくれてありがとうございます」
支基は行儀正しくお礼を言う。
彼こそが明後日より中学生になり池袋で一人暮らしを始める七夜支基のお世話になるアパートの管理人の一人、渡草三郎である。
彼の家族は池袋近郊で数件のアパートを経営しており、彼からしたら優秀な家族が経理などを担当して自分は家賃の徴収など面倒なこと担当らしい。
なぜ支基が渡草のアパートで暮らすことになったかというと、時は二年前の七夜の隠れ里襲撃事件まで戻る。
支基は鬼との戦闘後怪我を癒そうにも里にあった薬も全部瓦礫の下にあることを思い出しすぐに治療の為に下山し、人目に付く訳にもいかないので治療用の道具を求めて麓の町の裏路地を渡って薬局か何かに道具だけ拝借しようとした。
しかし幾ら七夜として鍛え上げられた異様な人体だろうと極度の流血による眩暈、多くの外傷による痛みのショックからついに失神して裏路地に倒れ込んでしまった。
眼を覚ませば知らない天井もとい七夜として生を受けてから人生で始めて厄介になる病院のベッドの中で白い個室の病室の天井を見上げていた。
(拙い……、私は戸籍など持って……)
支基が焦り始めると個室の白い箱のドアが音を立てて開けられる。
スッと30代くらいのよれたスーツの男が入ってきた。
「君が七夜支基ちゃんだよね、僕は浅神の者だけど……、単刀直入に言うねここで戸籍をもたぬ不審な少女として警察のお世話になるのと、浅神に引き取られて個人として暮らすのどちらがいい?」
「それは二択の提案じゃなくて、一択の強制選択ですよね」
支基は浅神という家について知識があった。
浅神とは七夜一族のように退魔一族の一つであったが、長い時の流れの中でついに超能力をその特徴として失い途絶えた血族である。
しかし名のある一族としてその能力は失えど大きな財力などの高い社会的地位を持つ存在だ。
おそらく浅神の者がその表社会的なコネを使って自分をこの病院へ連れてきたのだろう。
身の安全の為支基は尋ねる。
「私を連れてどうするつもりですか、まさか私の血を利用して再び……」
「まさか、秘密の為だよ」
魔は隠さなくてはいけない、これは裏社会のルールである。
「はぁ、分かりましたこれからどこへ?」
「とりあえず、浅神の本家へ」
こうして支基は浅神の家に厄介になったが、せっかく七夜という一族から望まずしも解放された身としてもっと多くの世界が見たいと言って、大学卒業後に全額返金するからと無理を言って経済的支援を受けながら池袋で中学二年生として一人暮らしを始めることになった。
その際住む家を探した結果、浅神が提示したのが浅神と経済的に関係のあった渡草のアパートだった。
渡草はこれが育ちの良いお嬢さんかと普段一緒につるんでいる面々、特に強烈な二人の男女を思い出して目の前の令嬢然とした少女と比べていた。
渡草は支基に話かける。
「すまねぇな、本当は俺の兄貴みたいなしっかりした人が迎えに行くべきなんだろうが生憎都合が悪かったらしくてな」
「いいえ、とんでもないです。わざわざ来ていただいて」
「礼儀の正しい嬢ちゃんだな、まったく誰かに見習わせたいぜ」
お互い初対面でぎこちないながらも会話を続けて、
お互いの性格に異常な点が無いことから特に問題無く話が進んでいた。
すると、後ろから軽い調子の男女の二人組の声が聞こえた。
「あれー渡草さんじゃないっすか。こんなとこでなにしてるんっすかー」
「っていうかその中二心をくすぐる電撃文庫の女主人公みたいな女の子誰ぇー、こんな子と知り合いなんて渡草さんずるーい」
後ろから聞こえたテンションの高い二人の声に支基は反応する。
「誰?」
そこにいたのは支基よりは血色がいいが、それでも一般の人間に比べると肌色の薄い二人、前者は目つきが鋭くリュックを背負ったヒョロッとした男で、もう一方は暗めの服を着た女だった。
やっと池袋に着いたってのに話がすすまねーです。
これからもまったりと進ん行くつもりです。