ここはとある小学校、現在小学生の楽しみである給食の時間。
皆楽しそうに給食の時間を過ごしている。
だがそんな楽しい時間であっても《いじめ》と言うものが存在している限り苦痛でしかない者もいる。
「お、リンリン杏仁豆腐いらないなら貰ってくぞ」
そう言って一人の少年が小柄な少女からデザートである杏仁豆腐を取上げる。
「さ、最後に食べるのよ、返しなさい!!」
彼女の名は凰鈴音(ふぁん・りんいん)中国人の両親の都合で日本に越してきて、この学校に転校してきた。
彼女本来の快活で可愛らしい表情は鳴りを潜め、怯えや不安、怒りと言った物が混ざりあった複雑な表情を浮かべて叫ぶ。
「やーなこった、悔しかったら取ってみろ」
そう言って少年はデザートを持った手を挙げる。
これを取ろうとする鈴音だったが、小柄な彼女ではどうしても届かない。
「じゃあ俺はこの酢豚を貰っていこうかな」
鈴音が席を離れて杏仁豆腐を取り返そうと躍起になっていると別の少年が給食の一品である酢豚を取っていく。
ちなみに鈴音の好物は酢豚であり、これを見た彼女は怒りを露にしする。
「いい加減にしなさいよ!!」
「お、中国人が大爆発か、あはははは」
また別の少年が鈴音を煽る。
この三人は学内一の悪餓鬼で先生が居ないところでやりたい放題で手がつけられなかったが、鈴音が転校してきたことで矛先が彼女へ向き、彼女以外への問題が大きく減少した。
そのため先生達も注意はするがそれ以上の事はしないため悪餓鬼三人が調子に乗るってのを助長する結果となった。
そしてそれを見ているだけのクラスメイト達。
自分が鈴音の立場じゃなくて良かった。
自分が鈴音の立場にならない様に。
そう言った考えは、けして攻めるべきではない。
誰もが平穏で当たり前な日常を求めている。
だがそんな中でも変わり者はいる。
まず、いつもこうなると止めに入る少年二人。
だがこの二人は所用で席をはずしている。
そしてもう一人....
「飯が不味くなる!!」
そう言って立ち上がるのは真黒な髪をかきあげ、猛禽類を思わす凛々しい顔つきに鋭い眼光、道着に紺色の袴、素足という変わった服装をしている少年。
彼の名は《黒鷹(こくよう)》
「いつもいつも騒がしくてかなわん!!喧嘩なら俺が買ってやる」
立ち上がった黒鷹は鷹のような鋭い眼差しで睨みつける。
「な、なんだよ。お前いつも変な格好しやがって、調子乗ってるんだろ」
「わかった、お前リンリンの事が好きなんだろ」
「いい格好したいだけだろ」
三人は言いたい事だけ言うと大きな声で笑い出した。
黒鷹としては鈴音の笑顔が気に入っているため好きかと問われればはっきりと好きだと言えるが、格好を付けたいがためにこういった行動に出ているのではない。
「何を言うかと思えば。お前らの態度が、考え方が気に入らん。三人揃わなければ何も出来ないくせに態度ばかりでかくて恥ずかしくないのか?それでも誇り高き日本男児か、情け無い奴め」
「一度痛い目に会わないと解らないらしいな!!」
黒鷹の発言に、鈴音から杏仁豆腐を奪った悪餓鬼の一人が反応し、奪った杏仁豆腐を黒鷹めがけて投げつける。
空を舞う杏仁豆腐と、それが入っていた強化プラスチック製の容器。
黒鷹はそれ目掛けて目にも止まらぬ速さで一歩踏み込み容器を手に取ると宙を舞う全ての杏仁豆腐をその容器で受け止め鈴音の机に戻す。
勢いそのままにもう一歩踏み込み鈴音から杏仁豆腐を奪った悪餓鬼の目の前に迫る。
黒鷹の動きの早さに反応すら出来ていない悪餓鬼を軽く押してやり後ろにある椅子に座らせる。
「は?」
椅子に座ってやっと目の前に黒鷹がいることに気がついた悪餓鬼だったが瞬間移動と見間違うほどの動きに頭がついてこれず状況を理解できていない。
そんな悪餓鬼の座った椅子を蹴り飛ばすと氷の上を滑るようにして教室の出入り口へ向かう。
「きゃあああああああ、変態!!」
「さいて~」
椅子に座ったまま蹴飛ばされた悪餓鬼は教室の出入り口付近で椅子ごと後ろに倒れこみ仰向けの状態で教室の外まで滑っていった。
そしてちょうどそこにスカートを穿いた女子生徒数名が通りかかり、悪餓鬼がスカートの中を覗き込む形になり、それにより悪餓鬼が周りから罵声を浴びせられることになった。
「お、お前みたいな不細工のパンツなんか興味ねーよ!!!」
などと余計なことを言ったため、スカートの中をのぞかれた生徒は泣きながら走り去り、周りのからは余計に非難されることになった。
「さて、まだやるか?相手になるぞ?」
「お、おぼえてろ!!」
捨て台詞を吐き、最後の悪あがきと手に持っていた酢豚を鈴音に投げつける。
黒鷹はそれを先程と同じ様に一つたりとも落とす事無く受け止め、呆然としている鈴音の元へと向かう。
「何を呆けておる、しっかりせんか凰鈴音」
「なんで.....」
「なんだ?」
「なんで助けたの!?今度はあんたがいじめられるかもしれないのに」
「いいか凰鈴音、いじめと言うのはいじめをする奴らより弱いから起こる。転校生と言う事で肩身の狭い思いをしていじめられながらも弱音を吐かない芯の強さを持っている、それを前面に押し出せ。そうすればあんな奴らに負けはしない」
「そんな事言われても....」
凰鈴音は本来快活な性格で友達付き合いも苦手なわけではないが、転向してきて早々に悪餓鬼三人組に目を付けられてしまい友達もまともに作れずにいた。
他に助けてくれる二人がいるが、それも先程と同じ様にいじめに巻き込まれると思い一方的に距離を置いてしまっている。
そのため学校内では何時も一人、黒鷹は日を追うごとに明るさの消えていく凰鈴音を見て本来の快活で可愛らしい表情が見たいという思いが強くなっていった。
「よし、なら友達付き合いから始めようじゃないか」
黒鷹は一方的な思いを告げ、鈴音の頭を強めに撫で回す。
「や、やめなさいよ....」
鈴音は俯きながらも黒鷹の好意を受け止め、されるがまま撫でられると言う行為も口では嫌がるそぶりを見せながらも振り払おうとはせず、下を向いたままの表情には、不安や寂しさの中にも確実に変わった黒鷹への思いを胸に秘め嬉しさが見える複雑な表情を浮かべる。
「おい、凰から離れろ!!」
「まて一夏、状況をよく「おまええええええ!!」
大きな掛け声と共に一人の少年が黒鷹に殴りかかってくる。
「いてぇ、いくらなんでもここまでするか?」
教室で黒鷹に殴りかかってきた少年の名前は《織斑 一夏(おりむら いちか)》正義感の強い彼は黒鷹に撫でられ俯いている鈴音を見ていじめられていると勘違いしたとのこと。
「お前が周りを見ないからだろ」
そして一夏を止めようとしていたのが《五反田 弾(ごたんだ だん)》
一夏と彼の二人は何度も鈴音をいじめる悪餓鬼三人を止めに入っていた。
「すまんすまん、少々やりすぎたわ」
そういって笑ってみせる黒鷹。
殴りかかってきた一夏が悪餓鬼どもと違い骨があり軽くあしらっても何度も殴りかかってきたため少し熱くなってしまい一夏を何度も投げ飛ばし起き上がらなくなるまで、それを続けていた。
「さて凰鈴音、これから友達としてよろしく頼む」
「そうだ凰、一人じゃ学校も楽しくないだろ?いじめられても俺が守ってやる」
「はぁ一夏の発作が....」
「で、でもあたしなんかといても面白くないし.....」
三者三様の思いにうろたえる鈴音。
「で、どうする?友達としてはお互い名前で呼び合うのが良いと思うが」
「凰、っていうのも悪いわけじゃないが.....」
「凰鈴音って毎回呼ぶのも友達として変だしなぁ」
うろたえる鈴音をよそに、いつの間にか仲良くなった男三人はお互いをどう呼ぶかという話題で盛り上がっていた。
「俺たちは名前でいいとして」
「黒鷹は本名なのかそれ?」
「黒鷹って言うのは師匠が付けてくれた名前だ。そんな事より彼女の名前だが。鈴と言うのはどうだろうか?呼びやすくていいぞ」
「ちょ、ちょっと人の話を聞きなさいよ!!」
自分ひとり蚊帳の外となりいつの間にか自分のあだ名まで決まりそうになっている状況に慌てる鈴音。
「か、勝手に決めないでよ。それにと、友達なんて....」
「鈴、これからよろしくな」
「鈴、よろしく」
「鈴、よろしく頼む」
黒鷹達は鈴音が気を使ってこうなる事など容易に想像できていた。
そんな強引な三人を見て鈴音は驚きながらも顔に笑みを浮かべる。
「しょ、しょうがないわね。そこまで言うならと、友達になってやろうじゃない!!」
そうして4人は仲良くなり常に一緒に行動したり遊んだりする仲になり、自然といじめも無くなり本来の調子を取り戻した鈴音はあっという間にクラスメイト達と仲良くなっていた。
そして数年後。
「鈴、ここにいたか」
中学二年に上がってすぐ両親が不仲になり鈴音は急遽中国に戻ることになった。
そして黒鷹達は鈴音に挨拶をするべく鈴音の実家にやってきていた。
すでに鈴音は準備終え、後は両親の待つ車に乗り空港へ向かうだけとなっていたが黒鷹達が来たときには鈴音の姿が見えず、三人で手分けして探す事となった。
「黒鷹.....あんたには世話になりっぱなしね。小学校のときからずっと.....」
小学校時代からここまでの間長い事一緒に居た黒鷹と鈴音はお互いに意識し合う仲にまで発展していた。
「そうだな。だが俺も世話になった。両親の味には及ばないが鈴の作る中華は好きだぞ」
鈴音と友達になるきっかけの後、鈴音に「助けてもらったお詫び」といって実家の中華料理店に黒鷹達を招待し、料理を振舞った。
だが鈴音の料理の腕は壊滅的で一夏と弾は殆ど食べれなかったが、黒鷹は作り手の魂を感じると、三人分の料理を一人で食べきった。
それから黒鷹は鈴音に料理の味見役として何度も店に招待されることになった。
「っ!!そ、そう。それじゃ.....その....あたしの料理の腕がよくなったら毎日食べてくれる?」
僅かに潤んだ瞳、紅をさす頬で上目使いで鈴音は一世一代の告白をする。
黒鷹も毎日味噌汁を~という件だろうと言うのは容易に想像がついた。
「もちろんだ期待しているぞ?それまで俺の隣は空けておくからな」
「うん!!」
言いたい事を言い切った鈴音は黒鷹達と別れ離れになってしまう悲しみ鳴りを潜め、いつか必ず再開してやると言う決意を固めるのだった。
「じゃあな鈴。向こうでも上手くやれよ」
「その表情は....黒鷹と上手く行ったんだな」
「ま、まあね、えへへ」
黒鷹と共に両親の元へと戻ってきた鈴音は車に乗り込み一夏達と一言二言交わすと空港へと向けて走り出した。
「鈴!!
走り去る鈴音に向けて黒鷹は大きな声で叫ぶ。
それに気がついた鈴音は車の窓から顔を出し叫ぶ。
「
こうして長いようで短かった鈴音との付き合いはここで一旦途切れるのだった。
だがかならずもう一度会えると黒鷹と鈴音は信じるのだった。
本編までもう2~3話かかる