ー北欧アルディギア王国ー
この国の現在の王の名をルーカス・リハヴァインという。この男、山賊の頭領だと間違えられてもおかしくない雰囲気を醸しだしているが、誰よりも家族を愛し、民からの信頼も厚い男だった。そんな彼が現在どのような状況かというと、
「ならん!!」
誰もいない部屋で一人怒鳴り散らしていた。その声は王宮内全域に響わたっており、王宮内に仕える人間もその大男の怒り様に、どのように接すればよいのか困り果てていた。そもそも何故この大男が何故、これほどまでに怒り狂っているのかというと、始まりは2年前である。
大切に、大切に、大切に育て、目に入れても痛くないくらいの美貌、フレイヤの女神の再来とまでいわれた自分の娘が、何者かに襲われて行方不明となった。その時のルーカスは、すべての職務を後回しにし、仕える騎士たち全てを娘の捜索にあてようとしたが一人の女性の手により、それは止められた。のちに騎士たちは語っていた。
ーあの人から娘を奪ったら、この国が崩壊するー
そして娘は無事に発見されたのだが、問題となったのはここからであった。娘が国に帰還した直後の事である。やたらと日本(特に、絃神島)との協力体制を求めるようになってきたのだ。当初は、叶瀬夏音の件もあったので別におかしなことではなかったのだが、徐々に、それはあからさまになってきたのだった。ある時は、叶瀬夏音の護衛といいながら、第四真祖の調査を依頼したり、ある時は第四真祖を絃神島から本国に送り届けたりと、何かと第四真祖に絡んでいくのであった。ルーカスは恐れていた。いつか娘から、とんでもないことを聞くのではないかと。
そしてとうとう、その恐れていた事態が起きてしまったのである。
ーお父様、この方が私が初めてをささげた第四真祖、暁古城です!ー
そして現在に至る。
「ならんぞ!!なにが、あってもこのようなことがあってはならんのだ!!!」
ルーカスは、危機感を感じていた。自分が大切に育ててきた娘を、どこぞの知らぬ馬の骨に奪われてしまうことに。
彼自身、愛娘を一切嫁に出す気がないらしく、「娘に手を出す奴はアルディギア軍が総力を持って叩き潰す。その覚悟があるやつはかかってこいやぁッ!!」と豪語するほどの親馬鹿である。
「やはり、我が国の騎士団と軍の勢力をもって、あの小僧を葬り去るしか・・・」
一人で物騒な発言をしている時だった、背後から一人の老人が後ろにいた。その老人は、鷹のように精悍な顔立ちで、短く刈り込まれた白銀の髪が特徴的だった。
「何をしておる、ルーカス」
「父上、これはですね・・・」
その老人はルーカスの父親、つまり前国王である。今の話を前国王に聞かれてしまったのではないかと慌てふためいたのだが、
「言うな。お前が考えているのは、あの男のことだろう?」
「は、はい」
「おぬしの気持ちは、よくわかるぞ。わしの方もな、あの男に!あの男に!!」
その瞬間、その老人からあふれんばかりの魔力が放出し、手に持っていた杖の持ち手を握り潰したのであった。
「父上・・・」
ルーカスは父親に同情した。かつて、自分の父親は自分の母以外にも子供をもうけていた。その子供が、今自分が憎んでいる男に傷物にされたのである。浮気をしたことは許されたことではないが、一父親としての立場からしては、自分の娘を傷物にした男などに奪われるなど、神に誓っても許さなかった。そんなこともあってか、二人は今現在、第四真祖の殲滅という一つの目的に手を組んだのであった。
「ところで、現状はどうなっておる?」
「今、我が国の精鋭な騎士たちと、その軍の勢力を収集を掛けようかと」
「ふむ、ならば、それに対吸血鬼部隊と、わしに仕える騎士たちも導入して・・・」
二人の男たちによる殲滅話が盛り上がっている時だった、それは突然のように終えたのである。一人の女性とその娘によって。
「あなた、お爺様...」
その声が聞こえた瞬間、二人は固まった。そして二人からはあふれんばかりの汗が出始めた。聞き間違えだと思っていのだが、後ろを向く勇気はなかった。
(おい)
(何でしょう?)
(あの二人の予定は?)
(たしか、この時間は、二人ともいないはず。というよりも、そもそもこの国にいないはずです!)
(なら、なぜ、ポリフォ二アの声がした?!)
(そ、それは・・・)
男二人でこそこそと話している時だった。
「お父様、お爺様、こちらを向いてくださいませんか?」
その美しい声を聞いた瞬間、二人は女神が舞い降りてきたと感じたが、同時にハデスが自分たちの首を取りに来たとも感じたのである。二人は覚悟を決めて後ろを振り向くと、姉妹と勘違いされてもおかしくない位の美しい二人の女性が後ろで立っていた。
「ポ、ポリフォ二ア、ラ・フォリア」
その二人は、ルーカスの妻であるポリフォ二アと娘であり、第一王女でもあるラ・フォリアだった。
「お二人で何をこそこそと話しているのですか?」
ラ・フォリアが尋ねるとルーカスは意を決して答えた。
「お前のことだ、ラ・フォリアよ」
「私のですか?」
「そうだ、お前の結婚相手について話していたのだ」
「古城についてですか?」
ラ・フォリアにそう告げると、ルーカスは自らの本音をぶちまけた。
「私は、まだ納得していないのだ。何故、お前の結婚相手が第四真祖、暁古城なのだ!」
普通の人間であれば、今のルーカスの叫びで気絶しかけていただろう。だが、ラ・フォリアとポ・リフォニアは、全く動じることがなかった。むしろ、またこの話かと、呆れていた。
「お父様はあの時言われましたわよね。結婚相手は私が決めてよいと。それに今後のことを考えたら、今回の結婚話は、この国にとっては大いに役立ちますとも申しましたよね?」
うっ、と黙り込むルーカス。前にラ・フォリアから説明を受け、ルーカスも前国王も、これについては当然わかっていた。もし、古城との結婚が上手くいけば暁の帝国と同盟関係を結める。暁の帝国は他の国よりも技術が進歩している。技術とは、この世界において、最も金になるものである。つまる話が、暁の帝国は、他の国からしたら宝の山なのである。だが、ラ・フォリアからしたら、それはサブ要素であり、メインとなるのは古城自身である。彼は、まだ政治については初心者。つまり、今の古城にラ・フォリアが政治を教えれば、上手いこと、こちらが有利になるように進むことが出来る可能性があった。それに、ラ・フォリア個人からしたら、好意を持っている男性の子供を授かることが出来るのだから、いわば一石三鳥である。だが、ルーカスからしたら、それでもこの世に一人しか、存在しないラ・フォリアをそんなことに使うなど許さなかった。
「それでも、ならん!!」
「は~、あなた」
ポリフォ二アは呆れていた。今のルーカスは、はたから見たら、だだを捏ねている子供の様にしか見えていなかった。
「そ、それに、あの男はお前以外にも、他の娘ども囲っているではないか」
「あら、それは彼が魅力のある人だからではねくて、ね、お爺様」
「お、おぅ、そのような考え方もある・・・な・・・」
前国王は目をそらしながら小声で発言した。その顔は汗でいっぱいだった。
「な、父上」
まさか、味方であった前国王にあっさりと裏切られたことに、驚きを隠せなかった。前国王の目は語っていた。
(だって、ワシ、妻以外ともやってしまったし)
(父上ーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!)
心の中で、今ほど自分の父親を恨んだことはなかった。父親が裏切ったことによって、一気に形成が崩れてしまった。自分の中では、自分と父を合わせて、戦力は4:6の割合で何とか持ち堪えていたのだが、一気に1:9になってしまったことによって、崩壊寸前だった。だが、それでもルーカスは戦い続ける覚悟だった。自分が大事に、大事に育てた娘を、たかだか、ぽっと出の第四真祖ごときにやるつもりなども一切なかった。しかしながら、いくら根性論でなんとかするにしても、結局数字上で1:9と戦力差がでているの為、勝負は一気に片付くのだった。
「父上。こちらをご覧下さい」
そう言って、ラ・フォリアは一枚の紙を見せた。
ー養子縁組届ー
「・・・・・・・・・・・・・・・」
ルーカスは固まった。そして...
「ふざけるなーーーーーーーーーーー!!!!!!」
その巨体から、あふれんばかりの声が出た。その声量は隣国諸国に届くほどのものであり、城の中では敵襲と勘違いしたもの、この世の終わりが来たと怯えているものなど、様々だった。ラ・フォリアとポリフォ二アは、あらかじめ用意していたヘッドフォンをして被害を免れたが、一方のルーカスの父は気絶していた。だが、今のルーカスにとっては自分の父の状態など、どうでもよいことだった。
「そんなことが出来る訳がないだろ!!!第一、この国では親が許可を出さない限り、そんなことができるはず・・・が・・・な・・・い・・・」
ラ・フォリアの手に持っている物を見た瞬間、またもルーカスは固まった。
ーラ・フォリア・リハヴァイン、国籍:暁の帝国ー
それは、パスポートだった。
「い、いつの間に取得したのだ?」
ルーカスは声を震わせながら言った。なんで、この子が、それをもっているの。ルーカスの頭の中は、それで一杯だった。
「実をいうと、2年ほど前に取得していました」
笑顔で、そう告げると、更に付け足して言った。
「古城に相談したら、国籍が取得できましたし、それにあちらの法律は日本の方に則ってやっているそうですよ」
ちなみに、日本の養子縁組は誰でも成年に達していれば、たとえ独身であっても養子縁組することができます。また養子になるには、養子になる本人が15才以上なら、本人の意思があれば可能で、15才未満であっても、法定代理人が承諾すれば問題はありません。ただし、届出のときは、成年に達した証人2人の署名と捺印が必要です。 この時のラ・フォリアの年齢は19歳。つまり、ラ・フォリア自身の意思で親を選べるわけである。
「だ、だが、ここに成年に達した証人2人が必要と・・・それに相手の両親の許可も・・・」
最後の抵抗を試みたが、
「そちらの方も問題なく、南宮那月と叶瀬賢生が証人となってくれまし、それに向こうの方も・・・ちょうど、お見えになったみたいですね。こちらの部屋に通してください」
そういうと、一人の人物が部屋に入ってきた。部屋に入ってきたのは、だらしなくシャツを着崩した長身の中年男性だった。
「よ、久しぶりだな。ポリフォ二ア」
「あら、牙城。お久しぶり~。昔と全然変わっていないわね。あなた本当に人間?」
「そういう、お前だって、たえして変わってねーだろ」
久々の再開に楽しんでいるポリフォ二アをよそに、牙城の登場にルーカスは目を丸くしていた。
「何故に、死都帰りがここにいる?!」
「あら、あなた知りませんでしたか?牙城は古城君のお父さんですよ」
「あ~、どうも、暁牙城だ。うちのバカ息子が世話になってます」
ルーカスに挨拶を済ませると、ポリフォ二アの方に顔を向けた。
「ところで話ってのは?」
「ええ、実はね、あなたの家の古城君にうちのラ・フォリアを結婚相手にしてくれないかしら?」
「な、ポリフォ二ア、貴様・・・」
ポリフォ二アは、まるで孫にお小遣いをあげるような感覚で、自分の娘の結婚を持ち出した。
「う~ん、娘が増えることは俺にとっては喜ばしいことなんだが、あの野郎、現在進行形でモテキが来ているみたいで、他の子からも結婚の申し込みが殺到してやがるんだよ、ほら、浅葱ちゃんとか、優麻ちゃんとか」
牙城がそう答えると、ルーカスは心の中でガッツポーズをとった。このまま古城が他の女とくっけば、ラ・フォリアは古城と結婚することはなくなる。ああ、フレイヤの女神よ、あなたに感謝する。この子は、私が一生を掛けて守っていきます。頭の中でかなり、舞い上がっている時だった。
「あら、問題ありませんわ、おじさま」
ラ・フォリアの次の発言によって、この問題は一気に解決した。
「暁の帝国の法律で、一夫多妻制度を取り入れればよろしいのですわ」
「あ、その発想はなかったわ」
「確かに、それなら、すべて丸く治まるし、古城君をとり合う必要性がなくなるわね」
この発言に二人が感心している一方、ルーカスはというと、
「ふざけるな、ラ・フォリア!!!」
このようなことを許すはずがなかった。
「お前は何を言っているのか、わかっているのか!!!」
「私は本気です」
そういって、ルーカスの顔を真っ直ぐ見つめた。ルーカスも彼女の顔を真っ直ぐ見つめた。そして、
「いいだろう、お前が、そこまでの覚悟があるのならば、第四真祖との結婚を認めよう」
古城との結婚を認めたのであった。ここまでの道のりは長いようで、短かった。それがようやく終わったのである。
「ただしだ!もしも、あの小僧が、お前を泣かすようなことがあれば、即座に分かれてもらうぞ」
それを言い残して、その部屋を出て行こうとした。
「あなたったら・・・よく許しましたわね、私はてっきり・・・古城君のことは嫌いなのかと」
「あの子の顔を見てたら、気が変わったのだ。それに、私は、あの小僧ことは別に嫌っているわけではない」
「どこの世の親も、娘には甘いのな」
「ふん!」
再び、部屋を出て行こうと歩み始めるすると、
「お父様・・・・・・大好きです!!!」
「・・・・・・・」
無言のまま、部屋を後にした。彼の顔を涙で溢れかえっていた。
こうして、ルーカスは古城との結婚を認めだのだった。
~おまけ~
ルーカスが古城との結婚を許した時だった。
「なー、ところで、この爺さん、誰?」
牙城が、床に倒れている老人を指さした。
「ち、父上ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」
その人は、前国王だった。すっかり、忘れていたが、先ほどのルーカスの怒鳴り声によって、気絶してしまったのであった。意識を取り戻そうと、前国王を振り続けると、一枚の写真が落ちた。
何かと思い、それを見ると・・・・
沢山の水着姿の女性に囲まれている前国王が写っていた。
「う~ん、サディちゃん、そこはダメだよ~ん。エへへへへ!」
「「「「・・・・・」」」」
その場にいた全員が、言葉を失った。とりあえず、全員がこの時、考えたのは、
ーこいつは、皇太后さまに報告しなくてはだな(ね)(ですわ)ー
である。
その後、この件は王太后、つまり、前国王の奥さんばれ、しばらくの間、前国王は牢屋生活を余儀なくされた。
めでたし、めでたし。
どうも。
優麻の漢字を間違えて、すんませんでした。
とりあえず、次回も暇な時があれば、見て下さい。