第1話:剣技の世界
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「何処だ、此処って?」
行き成り転移させられ、首を傾げているのは黒髪に黒瞳の少年。
少年の名前は緒方優斗。
様々な戦いを経て、歴戦の勇士と呼んでも差し支えないくらい戦闘を経験し、そこら辺の人外程度であれば瞬殺も可能な程だ。
魔法使いやら神の闘士や悪魔やらと、頭がおかしいのでは? そう思えるくらいそんな輩と殺し合った。
だが、ユートが転移して来たこの世界は平和そのものにしか見えず、戦闘者としての自分が必要だと到底思えない。
近場にあったコンビニで軽食と新聞を購入すると、公園を捜してベンチに落ち着き食事がてら新聞を広げて先ず日付を確かめてみると10月30日。
「ナーヴギア専用、世界初のフルダイブVRMMOをアーガス社より発売か」
デカデカと新聞に載っているという事は、この時代でそれが画期的なモノだと云う事の証左だろう。
ユートもハルケギニアで生きていた時代に、魔法と義妹から齎された科学技術を用いてVRMMOを造って、王候貴族、平民、亜人など身分や種族に拘わりが無く遊べる環境を整えて、GM兼プレイヤーとして遊んだものだった。
勿論、GMの立場があるから余り対等とは云えず、それが故に色々と制約なども有ったりしたが、あれも愉しい想い出だ。
今でも人工精霊をAI代わりに、GMの役割を任せて稼働しているのは確認しており、修行場として仲間内に利用させる事も屡々あった程である。
元々は義妹が転生前に、高倉コーポレーションにて開発してたのがVRMMOシステムだった事もあり、割とスムーズに開発が出来たのだ。
確か義妹が創った世界観は【夢幻王(インフィニット・ドリーム)】だとか。
高倉コーポレーションから出ていたMMO―RPG──【幻想界(インフィニット・ファンタジー)】なら知っていたが、シリーズになって三作目を義妹が手掛けたとは思わなかった。
因みに、二作目は【英雄譚(インフィニット・ブレイバー)】というらしい。
「折角だし、買えるもんなら買ってみるか?」
ユートはゴミを屑籠に放り込み、電気屋だか玩具屋か電気屋に向かってみる。
「とはいえ、初期ロットが僅かに一万本じゃあねぇ、買うのは難しいか?」
予約でしか買えないと、そう言われたら無理だ。
取り敢えずは行くだけ行ってみて、買えたら買おうと考えて店を捜した。
幸いな事に店は直ぐに見付かって、並べば買える状態にある様だ。
何時間待っただろうか? 漸く次にまで順番が回ってきたが、どういう訳なのか黒髪の少年がアタフタして進まない。
「あれ? 財布が……」
どうやら財布を落としでもしたのか、ポケットや鞄を探っているらしく、時間がどんどん過ぎていき後ろの客が焦れてきた。
見知らぬ人間を助けてやる義理立ても無いが、唐突に閃くものがあって少年に声を掛ける。
「君、どうした?」
「え? いや、それが……財布を落としたらしくて、これじゃあ買えない」
「そうか……それなら提案があるんだが、それを呑むなら僕が出そう」
「へ? でも、見ず知らずの人にそんな……」
当然の反応をする少年、ユートは振り向きもしないで右腕を親指を立て、後ろの方を指し示す。
その仕種に首を傾げて、示された方向を見て怯えた表情となり、血の気が引いて青褪める。
「うわぁ……!」
ユートの後ろに居る連中がイライラとして、自分の事を睨み付けている訳で、其処は当然であろう。
「わ、判った。提案を呑むから頼むよ!」
諦めるという選択肢は無かったらしくて、まんまと提案に乗る約束をしてしまった少年に、ユートは一万円札を渡してやった。
お互いにソフトを買い、列から抜け出すと先ずお互いに自己紹介をする。
「僕の名前は緒方優斗」
「俺は桐ヶ谷和人」
「和人……君ね」
「ああ、和人で良いよ? アンタの方が幾らか歳上っぽいしさ」
少年──桐ヶ谷和人は見た目に中学生だし、ユートは肉体的に18歳程度だ、確かに対外的にユートの方が歳上であろう。
「判ったよ和人。僕の方も優斗で構わない」
「ん、了解」
ユートも和人も互いに呼び捨てにする事で同意し、先程の提案というか条件について話し合う。
「先ずは前提条件として訊きたいんだけど、和人ってこのゲームについて詳しいのかな?」
「俺は一応、βテスターだったからそれなりには」
「βテスター? それなら水先案内人にはピッタリな訳だね」
βテスターとは、ゲームの完成一歩手前のβ版というのを、実際にプレイしてみて不具合の有無などを確かめたり、プレイヤーの要望などを聞いたりする為に行う人の事だ。
この手のゲームの場合、一般公募されて数少ない人達が先行してプレイの恩恵に与れる。
「処でこのゲームってさ、ハードは何?」
ズルッ! 思わずコケてしまう和人。
「其処からかよ!?」
よもや、ゲームソフトを買いに来ておきながらハードが何かすら知らない等、誰が思うであろうか?
「いや、新聞にデカデカと載っていたからやってみたくなったんだ」
「行き当たりばったりか。というより、ナーヴギアを知らないなんて思わなかったよ」
どうやらこのゲームを動かすハードは、田舎者でさえ知っているくらいに有名だったらしい。
「えっと、まだ金はある? 若しかして、俺に貸して無くなったとか?」
「大丈夫」
「じゃあ、ナーヴギアを買いに行こうか」
和人に連れられ、玩具屋の方へ再び向かった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
11月6日……
ナーヴギアを手に入れ、一週間はカプセルホテルを利用しつつ、住む場所を捜していたユートだったが、連帯保証人が居ない事などもあり、簡単にはアパートも見付からない。
ゲームの正式サービスが始まる日になって、ユートは桐ヶ谷家にお邪魔した。
ゲーム代金を出す条件、それは住む場所がまだ無いから、見付けるまでゲームする場所を提供する事。
まあ、一週間の内に見付かればそれでも良しと考えていたのだが、一応の保険として頼んでおいたのだ。
和人はその提案を飲む。
余り人慣れしない若干、引き篭り思考のある和人ではあったが、不思議と警戒心が沸かなかったというのが大きい。
待ち合わせをし、ユートは和人の家にお邪魔させて貰う事になった。
家へと帰り着くまでに、取り留めのない会話をしていた2人だったが、ユートは和人に謝らなければならないと思った事が一つ。
とはいえ、事が事だけに謝り様がなかった。
元々βテスターの和人にはゲームの優先購買権が、アーガスより与えられていた筈だったのに、その権利が何故か消失していた上、慌てて買いに出たら財布を落としたとか……
まるで“神の悪戯”だと苦笑いする和人であるが、ユートは頭を抱えた。
明らかにユートの上司──【純白の天魔王】によって干渉を受けた結果だ。
【神の悪戯】は良かったと思う、それはとても皮肉が利いているから。
内心では和人に謝罪しながらもナーヴギアのセットアップをしていき、ユートと和人は簡単な会話をしていた。
【ソードアート・オンライン】……それこそがこのゲームのタイトルで、まるで本物の異世界に降り立つ気分になれるのだという。
【ソードアート】の名が示す通り、基本的に剣を主流に使うゲームで、魔法という概念は完全に排除しているらしい。
「まあ、後は実際にやってみりゃ解るよ」
とは、和人の弁である。
ユートのナーヴギアのセットアップが終了し、時間は午後の12:50。
ソードアート・オンラインの正式サービス開始時間は13:00だから、始まるまであと5分だ。
「お兄ちゃん! 私、部活に行ってくるからね!」
外から元気な女の子の声が響く。
一応は、名前だけは和人から教えて貰っている。
桐ヶ谷直葉。
和人は愛称の“スグ”と呼んでいるらしく、剣道部エースの才女という話だ。
落ち零れた兄と剣の才気溢れる妹の構図──厳しい祖父からの教え……
ユートの嘗て──大元での世界を思い出す。
祖父、緒方優介からの教えを受けたユートと妹である緒方白亜。
後から始めた五歳も下の白亜に剣術で追い抜かれた時の脱力感、それでも救いとなったのは、祖父は厳しくも優しかった事と白亜は強くなってもユートを慕っていてくれた事だろう。
其処は、和人より恵まれていたのかも知れない。
2022年 11月6日 13:00……
「「リンク、スタート」」
この日この時間が桐ヶ谷和人を取り巻く全てが変わる切っ掛けになるなどと、原作を知らないユートには知る由もない事であった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
βテスター時代のデータがアバターのみとはいえ、残されていた和人は直ぐにも【アインクラッド】へと降り立ったのだが、ユートの場合はキャラクター・メイキングから始めていた事もあり、少し遅れて降り立つ事になる。
リアルで培った身体能力やスキルなど、ほぼ全てが使えないゲームは、少し面白いと感じていた。
「あ、来たな」
「ゴメン、遅れたかな?」
「仕方ないさ。キャラクター・メイキングから始めたんだから」
和人のアバターは、実際の素顔に比べて大人っぽく男前な感じだ。
「えーっと、キャラクター・ネームは……キリトか。若しや“桐”ヶ谷和“人”から取った?」
「ま、まあね。そっちは……ってぇ、ユート? そのまんまじゃん!」
「アハハ、此方の方がしっくりくるからね」
ユートの創るアバター、それは出来得る限り本人のリアルと似せたモノに仕上がっている。
完全にその侭ではないにせよ、和人が直ぐにユートだと判るくらいにソックリなアバターだ。
「今日はどうする? 何ならレクチャーするけど」
「いや、ゲームのセットアップとかは兎も角、ゲームそのものは暗中模索というのも面白いし、今日は別々に行動して明日から暫くはパーティを組んで、狩りでもしようか」
「そっか。よし、それじゃ今日は此処で一旦、解散って訳だな」
「ああ!」
同じ部屋に寝ていても、解散とはこれ如何に……と思ったが、取り敢えずは好きに動こうと思った。
和人──キリトが見えなくなってから、ユートは先ず初期装備を良くしようかと考え、迷宮区と呼ばれている場所へ向かう。
ドスン!
「キャア!」
「あ、ゴメン」
「うう、痛いです……」
アブソーブ・ペインによって実際に痛みは感じないのだが、ちょっとした悪寒の様なものは感じる。
「大丈夫か?」
「あ、すみません……」
その人物こそが、ユートの知り合ったキリト以外の“原作組”の1人であったという。
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可成り無理がある展開となったかも……