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レベルを上げた事により更なる戦力アップをして、ユートとシリカは噴水広場へと来ている。
まあ、戦力アップといっても強化ポイントが+6、HPが約+400前後くらい上がったに過ぎない。
それでもHPの上昇が、リアルの生命に直結している以上、頼もしいという事に変わりはなかった。
「ふむ、ディアベルを含めて四十八人。丁度フルレイドを組める様になったね。悪いなクライン」
「気にすんな。俺もボス戦に出てーとは思っていたんだよ。誘ってくれてありがたいとすら思ってらー」
「そう言ってくれるのならありがたいよ」
「序盤でオメーらにゃあ、色々と教えて貰ったりしたからな。俺らはオメーらとボスを殺りゃ良いんだろ」
「頼むな」
「任せろよ。な?」
サムズアップをしながら仲間に声を掛ける。
クライン一味の恐らくはナンバー2の男、その人物が頷いた。
夕方の五時となり、広場には青髪の青年ディアベルが現れる。
キバオウも近くに陣取っているが、これでは自分がディアベル一味だと言っている様なものだが、きっと昨日の内に仲間入りしたとでも言う心算だろう。
ユートとしてはもう既に判っていた事であるが故、驚きもしないし関心すらもなかった。
現れたディアベルだが、これ見よがしにキリトが背中に背負う剣──アニールブレード+8──を見て、ギョッと目を見張る。
だがすぐに落ち着いた処を見ると、キリトのアニールブレードが未強化品だと思ったのかも知れない。
実はディアベルが昨日までは無かった筈の、腰に佩いたアニールブレード+6よりも強力な剣なのだが、そんな事が判る訳もなくて気を取り直すと会議を始めるべく口を開いた。
「はーい、みんなー注目をしてくれ!」
爽やかな勇者王ボイスがトールバーナの町に響き、四十七人の出席者達が彼へと傾注をした。
「これからボス攻略会議をやり直したいと思う!」
昨日は結局、攻略会議にならなかったと自分でも考えたのだろう。
「えっと、ユートさんは来ているよね?」
「来てるよ」
呼ばれたユートが立ち上がると、前へと出る。
「俺は昨日、キバオウさんと話し合った。その結果、もう過去を──元βテスターだとか新規だとか言わないで、共に攻略をしようという話になったんだ」
「つまり、魔女狩りはやめにした……と?」
「そういう事だよ」
ディアベルがキバオウの方を向くと……
「はん、確かに情報を活かせなかったんは事実やし、また引っ掻き回されても敵わんからな」
腕組みをしてそっぽを向いた侭、キバオウが言う。
「そんかし、第一層のボスの情報は全部吐き出して貰うで!」
「判った」
双方が合意をする事で、ボス攻略会議が本当の意味で始まった。
「先ず、二十階のMobの事だけど、どうやらβ版には出なかったのが湧出してくるみたいだね。予め聞いていたMobも出たけど、確率は他より低めで恐らくレアMobが出る」
「レアMob?」
「そう、ルインコボルド・ナイト、ルインコボルド・ポーン、ルインコボルド・ビショップ、ルインコボルド・ルークだな。数日間でニ〜三体ずつくらいしか現れてないけど、ステータスは第二層迷宮区レベルだと推測される」
アルゴとキリトに報告をした処、そんなMobなどβ版には現れていないし、若しかしたら正式サービスになり、増やしたのかも知れないと結論付けている。
「流石に獲られる経験値やコルも、他のMobよりは多かったし、β版第二層の迷宮区に出るMob並だと言っていたよ」
「成程な、どうやら慌てて二十階に行かなくて正解だったかも知れないね」
ディアベルが顎に手を添えながら唸った。
「何かレアアイテムを落としたんか?」
「レアかどうかは知らないけど多分、レアドロップを一つだけ落としているな。それ以外のアイテムは他と変わりないから」
「レアドロップやと?」
「所謂、リアルラックが良かったんだろう。ルイン・ザ・アクスという斧をドロップした。落としたのは、ルインコボルド・ルークだったからね、若しかしたらルインコボルド・ナイトが片手剣、ルインコボルド・ビショップがメイス、ルインコボルド・ポーンだったらダガーを落としたかも」
「何故、そう思うんだ?」
「ルインコボルド・ルークが手に持っていた武器が、両手斧だったからね。形としては持っている武器を落とすんだと思うよ」
「そういう事か。確かに、有り得そうな話だな」
ユートの説明を聞いて、ディアベルもウンウンと頷きながら肯定をする。
「ひょっとしたらクイーンも居て、細剣か両手剣でもドロップするのかも」
チェスの駒っぽい名前な訳だし、ユートが出会わなかっただけで、クイーンも居た可能性があった。
「威力はどうだい?」
「攻撃力だけ見ればアイアンアクスより三段階上で、強化試行上限数も今までより多い十回だ。アニールブレードより一段階上と見るべきかね」
尤も、ユートは斧なんて使わないから、ストレージを圧迫するだけの武器は、さっさと売るのが吉。
NPCの店に売っても、大した値段は付かない。
強力な武器を欲するのはプレイヤーだし、彼らへと売ればそれなりの儲けになると考えて、少し強化して斧使いに売ったのだ。
相手はエギルだが……
ルイン・ザ・アクス+4(3S1D)を四万コルで、エギルは泣きながら喜んでいた……多分。
元手がドロップのタダ、素材も基本的にドロップ品だから、ユート丸儲け。
エギルとてボス戦で何があるか判らない状況下で、ストレージに数万コルを取って置いても意味が無く、きっと嬉しかったに違いあるまい。
それは兎も角、ユートはMobの情報を伝えた。
ポーン……HPバーを減らすと四分の一くらいで、昇格する。武器は短剣。
ナイト……どのコボルドより速く、片手剣を持ってソードスキル【スラント】や【ホリゾンタル】をよく使ってきた。
ビショップ……使用武器は片手棍で、HPを回復してくるのが厄介。
ルーク……硬い強いと、二拍子が揃っている。然し速さはナイト程ではない。武器は両手斧。
「女王や王は現れなかったけど、元々がレアMob。単に遭遇しなかっただけという可能性もあるから其処は注意が必要だね。それからルークが斧をドロップした事から、レアドロップで武器を落とす可能性大」
「ありがとう、知らずに突っ込んでいたらヤバかったかも知れないな」
何と無くうっすら冷や汗を掻いている気がした。
これが現実世界ならば、実際に汗が流れていたのだろうくらい焦っている。
「さて、次がボスだけど……【ルインコボルド・センチネル】は初回から三匹、四本のHPバーが一本減る毎に三匹ずつ、合計で四回の十二匹分が湧出(ポップ)をする。問題の【イルファング・コボルド・ロード】だけど、このガイドブックの通りのスペックに間違いは無いな」
「変更点は無かったと?」
「いや、スペックは確かにそうだけどね、HPバーが最後の一本になった際に、使ってくる腰に佩いた武器が湾刀(タルワール)じゃなくて刀だった」
「──っ!?」
ディアベルが息を呑み、他にも未知数な武器に驚愕を覚えたプレイヤーが居たのか、緊張感がユートの許に伝わってくる。
「当然ながら曲刀のスキルではなく、刀のスキルだろうソードスキルを繰り出して来たよ。今から実演して見せるから覚えておくと、便利だろう」
「待ちいや、実演って何やねん? アンさん、ソードスキルは使えん筈やろ!」
キバオウが口を挟むと、周囲がざわめく。
「ホントにカバ夫は莫迦なのか?」
「誰がカバ夫やねん!? ワイはキバオウや!」
キバオウの訴えを無視、ユートは説明をする。
「ソードスキルは間違いなく使えないさ。だけどね、システムアシストとそれに伴うダメージブーストを受けないだけで、動きを真似る事くらいは出来るさね。例えば【スラント】や【ホリゾンタル】を真似するのは簡単だろ?」
斜めに斬るだけ、水平に斬るだけのソードスキルなだけに、真似は比較的簡単と云えた。
当たり前だが威力は普通に斬り付けたのと変わらないから、敢えて真似る必要も無いのだが……
然し、もっと上層で出てくるソードスキルならば、真似るのが難しいスキルもあるだろう。
「圏内だからアンチクリミナル・コードでダメージは受けないし、何ならカバ夫が試しに受けてみるか?」
「せやからカバ夫ちゃう、キバオウや! エエでぇ、受けたろうやないか!」
ユートとキバオウは対峙して、ユートは自身の腰に佩いていた大太刀+8を手に持つと駆け出した。
「旋車!」
「おばぁぁぁちゃん!?」
水平で周囲三百六十度の重範囲攻撃、カタナ専用のソードスキルが極った。
ノックバックで吹き飛ばされるキバオウは、まるでコントの如く空を舞うと、頭から墜ちる。
所謂、車田落ちだった。
「次っ!」
「え、ちょい待っ!」
起き上がった処を追撃で放つは……
「浮舟!」
床すれすれの軌道から、高く斬り上げるスキル。
「はーびんじゃーっ!?」
心の骨を折る勢いだが、これで済む筈もない。
何故なら【浮舟】とは、スキルコンボを始める為の開始技で、キバオウが執るべきは足掻かず身体を丸めての最大防御姿勢。
キリトはそう言っていたのだが、カタナスキルなど識らないキバオウにそんな機転が利く筈もなく……
「緋扇!」
下から二連、更に一拍を溜めての突きという三連撃のソードスキル【緋扇】が極ってしまう。
「あばばばば!」
顔から地面に落ちると、ギャグ漫画の一幕でも観ているかの如く、顔が地面に接触をした侭に滑る。
ゲームだから良かった、現実なら顔が酷い事になっていたであろう。
ソードアート・オンラインというゲームには、特殊な【ペイン・アブゾーバ】なるシステムが存在して、それが最大の数値に設定されており、痛みは無く不快感を感じる程度。
それでもポッキリと心の骨を折られたか、キバオウは気絶していた。
「ありゃ、まだ居合い系の【辻風】や【幻月】なんかが在るんだけど、気絶しちゃったか……」
大太刀を手に、反対側の手で頭を掻きながら言う。
「凄いな、あれだけの技を簡単に放つとは……」
「システムアシスト無し、なんちゃって【緋扇】なんだけどね」
「いやいや、充分だよ」
その後、まだ出していなかった居合い系【辻風】、同じ体勢から上下ランダムに発動する【幻月】を見せてお開きとなった。
そして翌日の12月4日の日曜日……
いよいよボス攻略が始まる事となる。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
サクサクと十九階までを踏破し、四十八連結(フルレイド)パーティは第一層の二十階へとやって来た。
湧出(ポップ)するMobはルインコボルド・トルーパーなど、下の階に現れるものと変わらない。
お陰で特に損害を出す事もなく進めている。
マップは提供しているのだが、この階を一週間以上にも亘って狩場としていたユートは、シリカやキリトやクラインやエギルや細剣使いを伴って六人パーティを組んで、レイドを先導していた。
因みに、クライン一味の一人である男は残念ながら別のパーティに組み込まれており、ユートも少し申し訳がなく思う。
刀使い、短剣使い、片手剣使い、曲刀使い、斧使いに細剣使いとバラバラで、別パーティに居るクライン一味の男は片手棍使いだ。
順調に進んでいると……
「うわぁぁぁっ!」
後ろから悲鳴が聞こえ、俄にざわめき始める。
「どうした、ディアベル? 何があった!?」
「強い細剣使いのコボルドが湧出したんだ!」
「チィ、よりによって女王かよ?」
「女王……成程、予想では細剣系武器だと言っていたんだったな!」
「気を付けろ、膂力に速度に堅牢さはそれぞれの駒の名前を冠したコボルド並の筈だ!」
「了解した!」
ディアベル達のパーティだけでなく、他のパーティも戦闘に参加した。
若しもレアドロップ──ルイン・ザ・レイピア──をドロップすれば使えるなら使えば良し、使えなくても売ればそれなりのコルになるだろう。
それを欲してのものだ。
とはいえ、多少の混乱はあってもディアベルが統制しているお陰か、取り敢えず何も損害を受けず斃す事が出来ていた。
まあ、レアドロップの方は出なかった様だが……
ユートの方にもポーンが出たが、此方は危なげ無くポリゴン片へと還した。
【Result】
ルイン・ザ・ダガー
鉄片
古い革
「ありゃ? ルイン・ザ・ダガーか……落とすときゃ落とすんだな」
こればかりはシステム外スキルとも言うべきか? リアルラック次第。
ユートには要らないし、シリカにでも渡せば良いかと思った。
壊さず強化していけば、恐らく第六層までは使えるであろうダガー。
エギルに売った両手斧、ルイン・ザ・アクスもそうだろうから、ひょっとしたらデスゲーム化した茅場がボーナス的に配置したのかも知れない。
第一層から脱落者が出ても面白くないし、アジュカが嘗て言っていた。
『ゲーム開発の醍醐味は、ユーザーが隠し要素や開発者すら思わなかった何かを発見する事にある』
茅場晶彦もそんな考えを持ったのだろうか?
口角を吊り上げてユートは少しだけ笑った。
SAOで最悪のデスゲームを演出した【悪の科学者】にしては、中々に凝った事をする。
茅場晶彦がこのゲームに懸ける情熱は、きっと並大抵のものではないのだ。
それを認められるか否かは別にして……
Mobを全滅させ、安全を確保してユートがディアベルに提案をする。
「ディアベル、大丈夫か? この先に安全地帯が有るから其処で休憩しよう」
「そうだな」
先の戦闘で疲れ果てて、少しダレたレイドパーティを見回すと、ディアベルはその意見に頷いた。
念の為の見張り以外には休憩を申し渡して、順番に休憩を取る事にする。
「ユートさん、何をしてるんですか?」
「ん? アイテムの整理」
見ればユートはアイテムを広げて整理をしており、しかもわざわざオブジェクト化までしていた。
「何故、オブジェクト化をしてるんです?」
「名前の羅列じゃ、ちょい味気無いから」
「は、はぁ……」
隅っこでやっているのは目立たない為、一応は仲間であるキリトとクラインとエギルとクライン一味の男が壁役をしている。
細剣使いも一応は壁役になり体育座りをしていた。
「よし、終わりだな」
形状が地味なダガー以外は全て仕舞う。
残されていたのは先程のルインコボルド・ポーンがドロップしたアイテムで、ルイン・ザ・ダガー。
強化試行上限数は10と多く、素の攻撃力さえ強化されたアイアンダガーよりも優れた武器だ。
「シリカ、アイアンダガー+4からこれに更新しておくと良いよ」
「え? 良いんですか?」
ウィンドウメニューから操作し、シリカの前にアイテムを渡す旨のウィンドウが開く。これでYESを押せば、ルイン・ザ・ダガーはシリカのストレージへと移されるだろう。
「どっち道、ダガーは僕に必要無いし」
「うう、余り返せるものがないのに……ありがとうございます!」
ペコリと頭を下げる。
この子の裏表の無いこういう部分は、ユートも好感が持てると思う。
その後も一時間くらいの休憩して、ディアベルからの号令の許にボス部屋の扉まで辿り着いた。
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