ソードアート・オンライン【魔を滅する転生剣】   作:月乃杜

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 前半が黒猫団、後半には第二十五層のボス戦。





第23話:月夜の黒猫団

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 世界には流れと云うものがあり、その流れに沿って時間は動いて世界が運営をされていく。

 

 世界線と呼ばれる流れを線に例える場合もあるが、例えばユートが干渉しない世界線──その中でも謂わば最良解世界線というものが存在し、それを原典世界(ワールド・ザ・オリジン)と呼んでいる。

 

 原典世界、即ちイレギュラーの干渉しないユート達が〝原作〟と云う世界。

 

 そしてその原作を基に、世界構築されたのがユートの移動する派生世界。

 

 ハルケギニア時代に移動した、とある世界線の地球に於いて六千五百万年前に遡ったユートが、ちょっとした目印気分でクトゥルーの神氣を用いて穿ったのは五大神獣。

 

 応龍、麒麟、鳳凰、霊亀の四霊に加えて黄龍を生み出して置いた。

 

 東西南北中央で、基点が設定された事によってそれは平行世界を繋ぐゲートとして作用する。

 

 そのゲートを通りユートは平行世界間を移動して、こうしてユートの世界でのライトノベルやアニメなどの世界へ行っていた。

 

 とはいえ、何故かユートの記憶が呼び寄せる世界の基点の筈が、ユートの知らない噺まで混じっている。

 

 この世界の事もユートはよく識らない。

 

 ソードアート・オンラインというVRMMOが存在して、主人公っぽい少年と接触した事から、漠然とだが【ソードアート・オンライン】の世界と呼んでいるだけであった。

 

 さて、最良解世界線ではこの時期にキリトは十層も下の階に素材を採りに来ていたが、その際にピンチに陥るパーティと出逢う。

 

 その出逢いが最悪の別れと共に、キリトへと楔を穿つ事になった訳だ。

 

 だがその流れを識らないユートが、キリトをギルド【ZoG(ゾディアック・オブ・ザ・ゴッデス)】に入れてしまい、素材などの汎用アイテムの確保をしていた事により、キリトは下の階層に降りなかった。

 

 よって第十一層の迷宮区で戦ってた【月夜の黒猫団】というギルドメンバー、彼らはキリトという救世主が現れない侭、大ピンチに陥ってしまっている。

 

 全員のレベルがまだ十代であり、この階層のMobには安全マージンが充分に取れておらず、言ってみればこのピンチは自業自得というものだ。

 

 然し先にも記述した通り世界には流れが存在して、つまる処が修正力というものが働く。

 

 別名、世界意思。

 

 これにより、ユート自身がキリトの代わりを果たす事になってしまう。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 久方振りに第十一層へと降りてきたユート。

 

 既に最前線は二十三層にまで上がっており、ユートのレベルも50だった。

 

 第十一層でレベリングをしていた頃がレベル35、それから十二層掛けて15ものレベルを上げたという訳だが、初期のペースからみると減速している。

 

 まだしもキリトは常識の範囲で、現在はレベル43程度だった。

 

 それでも原作よりかは、ハイペースだろう。

 

 そして……

 

 2023年4月8日

 

 この日、ユートはギルド【月夜の黒猫団】と逢う。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 第十一層主街区タフト、その宿屋の一角ではギルド【月夜の黒猫団】がユートと共に乾杯をしていた。

 

 助けて貰った御礼をする為に、ギルドリーダーであるケイタが誘ったのだ。

 

『『『乾杯!』』』

 

 ケイタによる乾杯の音頭でグラスを掲げると、全員が一気に中身のジュースを煽り笑顔で会話を始める。

 

「いやぁ、助かったよ」

 

「ホント、ホント」

 

「ユートが来てくれなきゃマジ、サチがヤバかった」

 

 テツオ、ダッカー、ササマルが口々に言う。

 

「ありがとう、本当に恐かったから……助けてくれて嬉しかったの。本当にありがとう」

 

 おずおずという感じで、ギルドの紅一点のサチが薄い笑みを浮かべ、感謝の意を示した。

 

 ケイタの率いるギルド【月夜の黒猫団】は、元々がリアルでは高校のパソコン研究会で一緒だったメンバーがSAOでも一緒に活動しているらしくて、五人だけの小さなギルドの様だ。

 

 クォータースタッフという棍使いのケイタ。

 

 盾持ちのメイサーであるテツオ。

 

 短剣を装備したシーフ的スキル──鍵開け、罠解除など──持ちのダッカー。

 

 長槍使いのササマル。

 

 同じく長槍使いのサチ。

 

 だが前衛を出来るのが、テツオだけという事もありサチを盾持ちの片手剣使いに転向させようと考えた。

 

 確かにバランスが悪い。

 

 そんなパーティが第十三層の迷宮区でMobに追われているのを見付け、助太刀をしたのが切っ掛けだ。

 

 ユートはいつもの通り、刀──夕霧+20──を手に構えると、彼らを狩り立てるMobを屠っていき、時々は後ろに合図を出してダメージを負ったMobをスルーし、彼らにも狩らせていった。

 

 助けたとはいえ、元来は彼らの獲物だった訳だし、今更この層のMobを潰してもレベルに影響を及ぼさないから、殊更に斃す事を注視しなくても良いのだ、だったら助けた序でに彼らの経験値稼ぎに付き合っても良かろうと考えたのだ。

 

 その結果、ギルドリーダーのケイタが感謝をして、打ち上げをしようという事になり、懐かしい第十一層の主街区タフトに来る。

 

 現在の最前線は二十三層だし、この層は倉橋医師との会談した頃以来だ。

 

「なあ、ユート。マナー違反は承知だけど、レベルって今、幾つくらい?」

 

 宿屋のオープンスペース故に、ギルドメンバー以外にも周囲にプレイヤーが居るのを考慮してか、ケイタが耳打ち加減に訊ねた。

 

「レベル? こないだ50になったばかりだよ」

 

『『『ごっ!?』』』

 

 全員が驚愕する。

 

 SAOの安全マージンは本来だとその層の数字と=だったが、デスゲームと化した今はプラス10は必要だと云われていた。

 

 ならば、最前線の階層に10ならば33で事足りるのだろうし、40なんてのも居るとはいえ50は上がり過ぎている。

 

「デスゲームになる前に、スタートダッシュで迷宮区に篭って、レベリングに励んだら周りが1か2程度だった時に、僕はレベル5にまでなっていたからね」

 

「スタートダッシュ……」

 

 ケイタが呆れた。

 

「まあ、結果的に大正解だった訳だけど」

 

 安全マージンというが、そもそもそれはフィールドを歩くのに必要なマージンであり、ボス戦は更に上である必要がある。

 

「あのさ、ユートはギルドに入ってるんだよな?」

 

「ああ、僕は最前線組……今は攻略組と呼ばれている面子に居て、ギルド【ZoG】のマスターをしてる」

 

「ああ、知っているよ! 確か【アインクラッド解放隊】や【聖竜連合】なんかに小規模ながらも比肩するギルドだって。そんな所のマスターなのか!」

 

 小規模ギルドは幾つもの数が存在するが、【ZoG】はその中でも異彩を放っていた。

 

 僅か数人で二つ名持ちが三人も居るのだから、有名にならない訳がない。

 

「う〜ん、だとしたらこんな事は頼めないかな……」

 

「こんな事?」

 

「サチを盾持ちの片手剣士にって、そう考えてるのは話したと思う」

 

 ユートは首肯する。

 

 今でこそ両手長槍を使って後ろから攻撃してるが、実質的に前衛が出来るのは盾持ち片手槌使いのテツオだけで、スキル構成にしてもバランスに欠くのは解っていたらしく、長槍持ちが二人で中衛をさせるより、一人を盾持ち片手剣使いに転向させ、前衛に出そうと考えていた。

 

 その考えは最初に聞いていたし、サチのスキル熟練度がまだ低いから転向するのはサチと決まったのも、やはり聞いている。

 

「でさ、ユートさえ良ければサチをコーチして貰えたらと思ってさ」

 

「僕は片手剣使いじゃなく刀使いだぞ?」

 

「前衛のいろはは僕らより心得てるだろう?」

 

「……まぁね」

 

「だけどさ、攻略組な上にギルドマスターってんじゃ無理は言えないなって」

 

 それでも短期間くらいはとの思いからか、ケイタはチラチラと見てきた。

 

「まあ、攻略の兼ね合いもあるけど……取り敢えずは一週間を目処に鍛える分には問題無いか。ウチは小規模ギルドだからノルマってのも無いしね」

 

「ほ、本当かい?」

 

「ああ、但し……」

 

「但し?」

 

「その間は僕の指示に従って貰うよ? サチだけじゃなくて、ケイタ達にも」

 

「へ? 僕らも?」

 

 吃驚した顔で自分を右の人差し指で差し、間抜けた声で訊ねるとユートが当然と言わんばかりに頷く。

 

「サチが訓練中、ケイタ達はどうするんだ? 言っておくけど未熟者を行き成り矢面に立たせたりしない。前にそれをやって散々だったからね」

 

 つまり、実戦で鍛えるのではなく安全な圏内で先ずは片手剣のいろはを教えようと、ユートはそう言っているのだ。

 

 何しろ以前、シリカ相手にそれをやったら恐慌を来して、現実なら惨殺現場と変わらない様相だった。

 

「サチを預かる間、経験値やコルを稼ぐのはクエストで行って貰う。唯でさえ、バランスの悪いパーティが人数を減らした状態だし、格下Mob相手に後れを取りかねないからね」

 

「う、解った。任せる」

 

「な〜に、敵を斃す虐殺(スローター)系や討伐系のクエストでさえなければ、もっと上層の主街区で効率良く稼げる。第二十三層の主街区のクエストに幾つか丁度良いのがあるし、何なら第二十二層の南西エリア南岸にギルドホームがあるから、其処の【ZoG】のメンバーに助力を求めるのも良い。彼処はフィールドMobが出ないから行くのは不可能じゃない」

 

「りょ、了解した」

 

 第二十二層はアインクラッドでも珍しい層であり、その大部分が常緑樹の森林と点在する湖で占められており、主街区であるコラルも小さな村に過ぎない。

 

 フィールドMobは出現しないし、迷宮区の難易度は窮めて低く、ユート率いる【ZoG】があっという間に攻略し、さっさと次の第二十三層に上がった。

 

 フィールドMobが存在せず、人も殆んど居ないという環境をユートが気に入った事もあり、幾つか売りに出されていたログハウスをギルドホームとして購入したのだ。

 

 御値段は何と千五百K、一Kが千の単位を表すからつまり百五十万コル。

 

 こじんまりした物件では流石に狭い為、中でも一番大きいのを購入している。

 

 余談だが、原典に於いてキリトとアスナが結婚時に買ったログハウスが、割と近場──といっても十分ばかり歩く──に在った。

 

 ユートが購入したログハウスはそれより規模が大きくて、部屋もリビングを含めて八部屋在り、すぐ近くには小さな湖がある。

 

 こうしてサチは第十一層のタフトで、ケイタ達は上の第二十三層でそれぞれが動く事となった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「じゃあ、サチ」

 

「は、はい!」

 

「最初に君にやって貰いたいのは、【倫理コード解除設定】というものだ」

 

「? 何、それ?」

 

「SAOでは基本的に接触行為に対し、ハラスメントコードが働く。プレイヤー同士ならセクハラをされたプレイヤーが倫理コードを発動する事で、第一層にある黒鉄宮の奥、監獄エリアに送られる」

 

 サチは頷く。

 

 当然ながら基本的な知識故に知っていたからだ。

 

「で、この【倫理コード解除設定】を行うと、ハラスメントコードが出なくなるんだよ」

 

「──へ? それって……つまり?」

 

 ユートの言葉の意味を、サチは素早く脳内で咀嚼をすると、理解がまるで全身を満たすかの如く駆け巡ると真っ赤になってしまい、両頬を手で挟み頭から湯気を出す。

 

「サチが想像した通りで、色々と出来てしまう。それこそR18な世界へようこそ的な……」

 

「え、と……」

 

 ズリズリと両腕で身体を庇いながら、後ろへと下がっていくサチ。

 

「後退るな、後退るな」

 

 ユートは苦笑いしながらパタパタと手を振る。

 

「フォームを直したりするのに触れないといけない。いちいち、ハラスメントコードがピーピー鳴っても煩わしいしね」

 

 そんな訳で、サチは【倫理コード解除設定】を行って後、ユートから剣術を習う事となる。

 

 他の【月夜の黒猫団】のメンバーは、第二十二層にあるというユートのギルドホームに向かい、キリトと出会ってクエストを熟す。

 

 一週間後、レベルが幾つか上がった黒猫団。

 

 だけど、残念ながらサチの修業は上手くいかなかったらしく、結局は長槍を使う事で同意した。

 

 第二十三層が攻略され、続いて第二十四層も攻略が成されて、現在は第二十五層を探索している。

 

 ユートのレベルも52にまで上がり、この探索に加わりながらも黒猫団との関わりを続けていた。

 

「ナーヴギアの働きってのが人間の脳に信号を送り、それで擬似的なシナプスを形成して、ネットワークにに意識を反映する。大雑把な言い方をすれば集合無意識の中で、みんなが同じ夢を視ているみたいなもの」

 

 サチのSAOというのは何なのか、フルダイブ技術とは何なのかという質問に答えたのだが、嘗てユーキ──義妹──に教わった事を話してみる。

 

「それならレベル制MMOでなければ身体能力の反映も可能な筈なんだ。とはいっても、人間の身体能力ではフレンジーボア──スライム相当だけどな──でさえ武器を持ってすら斃すのは困難だよ。このSAOがレベル制なのはその為だと思うんだ」

 

「どういう事?」

 

「例えば、サチは第一層のコボルドが実際に……というか、そうだな……普通の猪の方が解り易いかな? 現実世界で荒ぶる猪と会ったとして、長槍を一本持って戦える?」

 

「無理、ムリムリ!」

 

 サチはブンブンと首と腕を振って否定する。

 

 当然と言えば当然。

 

 現実のサチは非力な少女に過ぎないし、このSAOでさえ恐怖で縮こまっているのだから。

 

「でも、レベルを上げているサチはパラメーターも上がっているから、フレンジーボアくらいなら斃せる。そうだろう?」

 

「う、うん……」

 

「僕はその逆」

 

「逆?」

 

「現実世界で巨大な熊に襲われても斃す自信がある」

 

「──へ?」

 

「SAOでは非力で碌すっぽ戦闘経験の無いプレイヤーの為、レベルによる補正と武器と……ソードスキルが存在している。僕にとってはレベルアップは強くなる行為じゃなく、現実世界での身体能力を取り戻すという事なんだ」

 

 もやしっ子のキリトも、SAOでレベルを上げれば伝説の怪物さえ斃せる剣士になるが、ユートの場合は元々の能力が抑え込まれている感じだ。

 

「逆説的に、少し無理をしてやれば本来の能力を出す事も出来る。パラメーターと関係なく……ね」

 

 これこそ、ユートがボスを独力でも斃せる理由で、システム外スキル【クロックアップ】なんて、SAOでは有り得ないスキルを使える秘密でもあった。

 

 ユートが人知れず使っているシステム外スキル……【オーバーブースト】というのが在り、一時的にしろ身体パラメーターをニ倍にまで引き上げていて、それはユートの本来の身体能力をシナプスを介し、SAOのアバターに僅かな時間、反映しているのだ。

 

 勿論デメリットも在り、この【オーバーブースト】を使用したら、時間切れと共に身体能力パラメーターが半減してしまう。

 

 見た目の数値は変わらないのだが、明らかに動きが悪くなっていたし、与えるダメージも低くなっていたから間違いない。

 

 一時間近くはこの状態が続くから、滅多矢鱈と使う事が出来ないモノだ。

 

 これは鈍い頭痛が起きる【クロックアップ】も同様であり、ユートがこれらをボス戦以外で使う事は決して無かった。

 

 ユートはこのデメリットが起きる理由に、レベルがアバターの能力数値を受け止める謂わば、キャパシティを表しているからだと、そう推測している。

 

 ユートのシステム外スキルはそのキャパシティ限界を越え、過剰なまでに数値を増幅させてしまうから、不具合が出ていると云う事なのだろう。

 

 といっても、数値その物が改竄されてるチートという訳でなく、茅場晶彦が思いもよらなかった現実世界で怪物と闘える存在だったが故のバグという他無い。

 

 正しくSAOという世界の中では、バグキャラという訳である。

 

 茅場晶彦はユートのこれに気付いている筈。

 

 なのに排除しないのは、茅場晶彦が求めているのが正にユートみたいな存在だったからだろう。

 

 その身と武器のみを以て鉄の城に挑む命の煌めき、だけど現代人にそれは望むべくもなく、代替案としてレベルによる数値補正と、ソードスキルを与えた。

 

 茅場晶彦が云う、十個に+αの特別なスキルとやらも特に秀でた何かの持ち主に与える所謂、勇者の証といった処か。

 

 閑話休題……

 

 再び集まって、ケイタ達と話し合うユート。

 

「結局さ、サチは前に出て戦うには余り向かないみたいだし、長槍で前衛レベルの戦いをさせるべきかな」

 

「う〜ん、それじゃ前衛が足りないのは解決にならないんだけど……」

 

「ケイタが盾持ちの前衛に転向するか、ササマルが槍を止めるかどちらかを推奨するよ?」

 

 元々は、サチが盾持ちの片手剣使いに転向する理由が熟練度の低さからだし、それなら少し時間を掛けてでもケイタかササマルが前に出た方が寧ろ、早く熟練度を上げる事が出来るのではないかと考えた。

 

 今のサチでは熟練度を上げるのに時間が掛かり過ぎてしまい、結局は攻略組への加入が遅れてしまう。

 

「何より、怯える女の子を前に出して、自分達は後ろからってのもアレだろ?」

 

 ユートが指摘をすると、ばつの悪そうな表情になり顔を見合わせて頷く。

 

「今一度、スキル構成から見直してやり直した方が、時間短縮になると思う」

 

「判った、考えてみるよ」

 

 結局、サチは長槍の侭でササマルが槍から盾持ちの片手剣使いに転向した。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 第二十五層の迷宮区。

 

 先日、遂に二十階までが攻略された。

 

 ボスの間の前の金属扉、重々しい雰囲気を放つそれが聳え、安全地帯とボスの間を隔てている。

 

 【月夜の黒猫団】からは一時的に離れて、ユートも今回のボス戦に参加をする事になっていた。

 

 当然ながら【ZoG】のメンバーも参加する。

 

 ギルドでパーティを組めばヒールなどは付かないまでも、僅かながら戦闘力に上昇補正が掛かるのだ。

 

 故に、【月夜の黒猫団】も単なるパーティでなく、ギルドを組んでいる。

 

 ギギギギギギギ……

 

 無駄にリアリティー溢れる重たい音を響かせつつ、金属扉が両側に開く。

 

 巨体……それは第二層のアステリオス王すら越える巨躯の持ち主で、二つの顔を持った魔人だった。

 

 武器は両手で持たねばならないくらい長い柄の斧、そんな武器を軽々と振り回している辺り、その腕力たるや相当なものだろう。

 

 流石に一撃で死んだり、危険域に達したりはしないと思うが、あれを見て攻撃を受けたいなんて思う奴が居れば、その人物は間違いなくMだ。

 

「征くぞ!」

 

『『『『応っ!』』』』

 

 レイドリーダーを務めるのは、毎度毎度お馴染みのディアベルだった。

 

 第一層の時からずっと、彼がレイドを率いている。

 

 最近では【聖竜連合】というギルドがアイテム分配など口出しをしてくるが、そのカリスマ性は健在だし何よりも、第一層から皆を引っ張ってきた実績もあるからか、強くは言ってこれないらしい。

 

 プレイヤー達が近づくとボスが動き、HPバーが浮かび上がってくる。

 

 六段のHPバーの下に、名前が書かれていた。

 

 【The Twinhead】

 

 まんま【双頭】らしい。

 

「壁役(タンク)がボスの攻撃を受けつつ、ディレイした瞬間に攻撃役(ダメージディーラー)にスイッチ! 掛かれぇぇぇええっ!」

 

 堅実な作戦だ。

 

 第一層からの基本的戦術であり、それが故に殆んどの層で通用する。

 

 だが、今回ばかりは相手が悪かった。

 

 事前にクォーターポイントのボスが、今までのボスを凌駕する可能性について話していた。

 

 底意地の悪い改変をしていた茅場晶彦の事だから、間違いないとみんな思っていたのだ。

 

 やはりクォーターポイントの第二十五層のボスは、他の階層のボスとは比べ物にならないくらい強い。

 

 壁役(タンク)がアッサリ【双頭】の斧によるソードスキルで吹き飛ばされて、攻撃役(ダメージディーラー)まで一緒に飛ばされてしまった。

 

 エギル達、タンクのHPがごっそりと減っており、あの一撃で……単なる周囲攻撃に過ぎない【ワールウィンド】でこれだ。

 

 それも筋力値に極振り、防御力を高める為のスキル構成と装備をした壁役が、僅か一撃を喰らっただけでHPを半分以下にされた。

 

「思った通りだが、これは……五十層クラスなんじゃないか?」

 

 ユートの洩らした言葉を聞き、全員の血の気が引き顔を青褪めさせてしまう。

 

 ひょっとしたらクォーターポイントのボスは、その階層に+二十五層分の能力パラメーターを与えられているのかも知れない。

 

 そうでもなければ壁役のHPが減り過ぎている。

 

 防御に徹した壁役なら、ユートでさえ真っ正面からだと微々たるダメージしか与えられない。

 

「チィッ! ディアベル、僕がタゲを取る。壁役達のHPを早く回復させろ!」

 

「わ、判った! みんな、ユートがツインヘッドからタゲを取って、引き付けている間に壁役達にポットを使って回復させるんだ!」

 

 ディアベルからの指示を受け、エギルを含む壁役に対してハイポーションなどの回復アイテムを使用し、HPを徐々に回復させる。

 

 回復結晶など、結晶でなければ一瞬で回復はしないから、多少の時間は掛かるだろうが、取り巻きが居ないからボスのタゲさえ誰かが取れば何とか回復可能。

 

「わ、私も往きます!」

 

「俺もだ!」

 

「私も行くわ!」

 

「俺もだぜ!」

 

 シリカが攻撃に出る旨を伝えると、キリトとアスナとクラインも立ち上がり、各々に武器を構えた。

 

 リズベットはエギル達を治療するのに忙しい上に、決して単独で前衛を張れるスキル構成ではない。

 

 ユートはツインヘッドの斧を躱し、背後へと廻ると無防備な背中を斬り付け、憎悪値(ヘイト)を稼ぐ。

 

 これはアステリオス王や他のボスにも通用し、同じく【双頭】にも通用した。

 

 問題なのは巨体過ぎて、背中を攻撃するには可成り上空へと跳ばねばならず、ユートは背後の壁を蹴り付けると、次には【双頭】の脚を蹴り付けて、また壁、【双頭】と交互に蹴っては登り、背中が見えたら連続で斬り付けてやった。

 

 更には落ちる際に刃を、【双頭】の背中に突き立てる事で、背中から腰に掛けて斬り裂いてやる。

 

 それによるダメージか、一センチばかり【双頭】のHPが減っていた。

 

 【双頭】の動きに変化を見て取り、その動きがあるモンスターに似ているのに気付いたユートが叫ぶ。

 

「ブレスが来るぞ! 退避しろぉぉおおっ!」

 

 その絶叫に驚いた攻撃していたプレイヤー達、すぐに全速力で逃げ出した。

 

 【双頭】が大きく息を吸い込み、吐き出したブレスは片方が氷結、片方が火炎のブレス。

 

 この分では追い詰めた後の変化がどうなるか、全員が恐怖を抱いた。

 

 それでもユートが必死にタゲを取り、隙を見せたらキリト達が攻撃を当てるという戦術で壁役も復活し、戦線を建て直す。

 

 少しずつHPを減らし、ラスト一本になった時こそユートがシステム外スキル【オーバーブースト】を使って、本来の身体能力からフィードバックした動きで攻撃を加えた。

 

「【双頭】が斧を振り降ろしたら、奴の武器を伝って跳んでソードスキルをぶつけろ! 僕が【山彦返し】で受け流した瞬間、スキル・ディレイが発生する!」

 

 機会はそう何度も無い。

 

 緒方逸真流【山彦返し】は敵の振り降ろした武器を下に受け流し、地面に叩き付けさせる事により動きを封じて、その刹那に攻撃をぶつける技。

 

 だが、流石に【オーバーブースト】を使っても尚、攻撃にまで転じるのは無理だと判断し、キリト達に任せる事にした。

 

 その作戦は確かに当たったものの、退避に失敗したアスナが空中で停滞をしてしまい、再び攻撃に転じた【双頭】の巨大な斧が身体を引き裂かんと、横薙ぎに揮われる。

 

 死……

 

 ユートから聞いてアスナは知っていた。

 

 HPがゼロになってしまったSAOプレイヤーは、間違いなく現実の世界にて死亡しているのだと。

 

『嫌だ!』

 

 そう思ってもアスナは声が出せない。

 

 脳が死を認識しており、刹那の刻を思考が加速して揺ったりした時間を過ごしている故に、アスナは肉体を動かせないのだ。

 

 この状態で動ける様になるのが、緒方逸真流の奥義の一つ【颯眞刀】であり、システム外スキル【クロックアップ】……

 

 ゆっくり、ゆっくりと、【双頭】の斧がアスナへと近付いてくる。

 

 それは正に死の恐怖。

 

 ──死んだ!

 

 目を閉じた瞬間……

 

 ガキィィィィンッ!

 

 甲高い金属同士がぶつかる嫌な音がフロア全体に鳴り響き、アスナはナニかにぶつかって吹き飛んだ。

 

「キャァァアアッ!」

 

 その衝撃は、決して斧により真っ二つにされたものなどではなく、誰かしらが自分にぶつかってきたものだとすぐに理解した。

 

「大丈夫だったかね?」

 

 アッシュブロンドの髪をオールバックにした髪型、赤い鎧に盾と片手剣という騎士みたいな出で立ち。

 

 それでいてディアベルともまた違う。

 

「ふむ、私の【神聖剣】でなければ真っ二つにされていたかも知れんな」

 

 聞いた事もないスキル。

 

 だが然し、禍が転じて福というヤツだろう、必勝を期して【双頭】が放ったであろうソードスキルが防がれた事で、完全に無防備な状態となっていた。

 

 ブレイク状態だ。

 

「い・ま・だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああっっ!」

 

 ユートの合図とも取れる絶叫に応えると、キリトがOSS【テンソウレッパ】を放ち、ディアベルもまた五連撃OSS【コウガゴセン】を放ち……

 

『グォォォォォォォォォォォォォオオオオッ!』

 

 HPが全損した【双頭】は蒼白いポリゴンに還り、完全に爆発四散した。

 

 

 

.

 




 サチが云々は次回……


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