ソードアート・オンライン【魔を滅する転生剣】   作:月乃杜

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 変わらない流れ、新たな支流……





第24話:消える黒猫団

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 七人──それが第二十五層のボス戦に於ける死亡者の人数だった。

 

 クォーターポイントは、今までの意地の悪いβからの改変や、トラップなどから相当な強さではないか?

 

 その様にアルゴやユートは予測して、攻略本に記載しておいた訳だが、流石にそれを読んで無謀な真似をするギルドもプレイヤーも居なかったものの、結局は壁役が三人、攻撃役が四人もポリゴンの塵に還った。

 

 彼らはSAO内部のみならず、現実からも脳を焼かれてログアウトしたのだ。

 

 とはいえ、基本的に感覚を遮断されているのだし、彼らはきっと痛いと思う間も無く逝った筈。

 

 本来の世界線で【アインクラッド解放〝軍〟】が壊滅していた事を鑑みれば、驚く程に犠牲者は少なかったとも云える。

 

 そんな事は当事者達に、何の救いにもならないのだろうが……

 

「大丈夫だったかね?」

 

「あ、はい。助けて貰ってありがとうございます」

 

 余程怖かったのだろう、目尻に涙を浮かべながらも助けてくれた人物に頭を下げてお礼を言う。

 

「いやいや、君程のプレイヤーを死なせるのは忍びなくてね。攻略に追い付いたと思ったらあんな場面だ、助けられて良かった」

 

 ユートには本音を言っている様に聞こえるが、何処か違和感を感じる。

 

 だけど僅かな違和感は、すぐにも消えた。

 

 気のせいかと頭を振り、心身の疲れに嘆息する。

 

「なあ、アンタ」

 

「何かね?」

 

 リンド──アインクラッド解放隊のサブリーダー──が男に話し掛ける。

 

「さっきの何なんだよ? 【双頭】の攻撃を喰らって殆んどHPが減ってない。何かのスキルか?」

 

 やはり気になったのか、全員が男に注視した。

 

「ふむ、確かに私のスキルによるものだ。スキル名は【神聖剣】と云い、効力は盾による攻撃判定と、高い防御力といった処だな」

 

「しゅ、取得条件は?」

 

「さてな? 私もいつの間にか得ていてね」

 

 SAOのスキルは初めから選択可能なモノと、条件を満たして選択出来る様になるモノがある。

 

 例えば、片手剣を使っていれば両手剣や細剣を使える様になるし、曲刀を使っていれば刀を使える様になって、短槍を使い続ければ長槍を使える様になる等、基本武器から派生武器を使えるスキルが顕れる訳だ。

 

 短剣の様な派生武器スキルが出ないモノもあるし、一概には言えないが……

 

 他にも幾つかのスキルを取得し、それを鍛えていく事により顕れるスキルというのも存在するらしいし、武器の中には複数のスキルが無ければ使えないなんてモノも在る。

 

 第二層のレアドロップ、チャクラムがそれだ。

 

 あの武器は、【投剣】のスキルと【体術】のスキルを取得しないと使えない。

 

 だとすれば、彼のスキル構成が【神聖剣】とやらの発現に合致したのだろう。

 

「スキル構成を教えろよ、そしたら判るだろう?」

 

「やれやれ、こんな階層まで来て未だにマナーを守れないプレイヤーが居るか。嘆かわしいな」

 

「な、何だと!?」

 

「よすんだ!」

 

 激昂するリンドの肩を掴むディアベル。

 

「ディアベルさん……だけどこいつが!」

 

「第二層でのミスを繰り返す気か?」

 

「うっ!」

 

 ふと見れば、ユートが睨んでいるのが判る。

 

「理解して貰えた様だな。私の名はヒースクリフ……ギルド【血盟騎士団】ではギルドマスターをしている者だ」

 

 この日から【血盟騎士団】──通称【KoB(ナイト・オブ・ザ・ブラッド)】は名を上げていく。

 

 そして、ヒースクリフの攻略の意志に感銘を受け、アスナが【KoB】に入団を果たした。

 

 第二十六層への有効化(アクティベート)も済み、ユート達は解散する。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 第十一層主街区タフト。

 

 ボス戦も終わり、現在はユートとサチの模擬戦が繰り広げられていた。

 

 ユートが使うのは以前にダッカーが使っていた長槍であり、同じ武器での戦闘を行っている。

 

 武器装備のスキルを持たずに装備しても、エラーとなってソードスキルが使えなくなってしまうという、SAOに於いては致命的なまでのペナルティが発生するのだが、ユートは元よりソードスキルを使えない。

 

 従って、装備フィギアに入れて装備をするだけなら問題は無かった。

 

 両手で長柄を持ち、高速で槍を攻撃や防御に使い、サチは全くユートに攻撃が出来ていない。

 

 【圏内】とはいえ、武器をぶつけられるのは怖いと思うサチだったが、これでも当初に比べれば大分良くなっていた。

 

「サチ、長柄を利用しての円運動を心掛けろ!」

 

「う、うん!」

 

 足運び、槍捌き、それらの基本は円運動にある。

 

 現にユートは左脚を軸として、その場から一歩足りとも移動せずにコンパスの様な円運動で動いており、槍も振り回す形は円を描いていた。

 

 無論、基本の円運動さえ出来ていれば移動して構わないのだが、サチの実力でユートを動かす事は無理という事なのだろう。

 

「やあぁぁぁぁっ!」

 

 長槍系のソードスキル、二連突きの【ダブルスラスト】を放つサチだったが、二連攻撃を穂先で裁き防御したら次の一撃を胸部に極めると……

 

「キャァァァァッ!」

 

 悲鳴と共にノックバックで後ろへとばされたサチ、その侭ゴロゴロと地面を転がっていく。

 

 痛みは感じないのだが、ノックバックの際の衝撃は受けてしまい、これが慣れないというか結構キツい。

 

 素のレベルやソードスキルの強さなど、全ての要素によってこれらの現象は強くなる。

 

 ユートはソードスキルを使えないが故に、まだしもマシなのだが……

 

 それでも激しい音や光、ノックバックがキツかったりする。

 

 戦いの心得や戦術など、【月夜の黒猫団】のメンツが習い初めて随分と経つ。

 

 ユートは迷宮攻略と月夜の黒猫団の訓練、二足の草鞋を続けていた。

 

 まだレベルが二十代という事もあり、黒猫団が攻略組に名を連ねる事は無く、有名な攻略組ギルドとしては【聖竜連合】【アインクラッド解放隊】【女神の十二宮団】【血盟騎士団】が名を上げていた。

 

 最近、ここ暫くユートはギルドホームに帰ってない事が多く、キリト達は月夜の黒猫団に関わっている事を知っているから何も言ってこないが、【血盟騎士団】に入団したアスナが更に煩くなっている。

 

 【ZoG】の一員ではなかったが故に、アスナは彼らをよく知らない。

 

 キリトやエギルはケイタ達を鍛えるべく、模擬戦を繰り返したりクエストをしたりと仲を深めていたし、シリカやリズベットも一緒にパーティを組み、上層の迷宮区でレベリングしていみたり、傷付いてしまった武器をメンテナンスをしたりと、何だかんだで深く関わりを持っていたのだが、アスナはキリトとコンビを組む事はあれ、【月夜の黒猫団】と関わる事は全く無かったのだ。

 

 どうやらアスナは彼らを攻略の足を引っ張るお荷物ギルド、その程度にしか考えていないらしい。

 

 まあ、そんなアスナの二つ名は【狂乱細剣(バーサークフェンサー)】だ。

 

 兎に角、攻略の鬼であり妥協を許さない方向性。

 

 ユートの様な名実共に、トッププレイヤーが弱小なギルドにかかずらうのが、面白くないのだろう。

 

 トッププレイヤーの義務がどうのと言ってる辺り、選民主義者にしか見えないアスナの態度は、ユートも不快感を持つ。

 

 何処ぞの選民主義者連中を思い出すからだ。

 

 ボス戦には出ているし、迷宮区攻略も率先しているというのに、まるで休暇の自由も有り得ないと言わんばかりだ。

 

 【KoB】に入団してからはそれが顕著になる。

 

 とはいえ、ユートは団員でも何でもないのだから、アスナに命令をされる謂われなどありはしない。

 

 というよりも、現段階では【KoB】のどの団員より攻略に貢献している。

 

 マップ未踏破エリアへの積極的な侵入、クエストの発見及び攻略法の発表等、情報屋のアルゴと組んでの一般プレイヤーへの流布。

 

 攻略組も当然ながらその恩恵を受けていた。

 

 現在のユートのレベルは56である。

 

 このレベルにはアスナは疎か、ヒースクリフでさえ追い付いてはいないが故、攻略の速度という意味ではユートに敵うべくもない。

 

 ユートが一ヶ月か其処らを無駄にしてたとしても、追い越す処か追い付くのも困難を窮める。

 

 結局、模擬戦で勝った方の意見を優先する事に……結果は一顧だにせずユートがアスナを降して勝った。

 

 こうしてユートは束縛を振り切り、月夜の黒猫団の鍛練を続けている。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 攻略最前線が第二十八層に移った頃、何故かユートはサチと同じベッドに寝ていたりするのだが、こうなった経緯を考えつつユートは少し嘆息した。

 

 SAOに閉じ込められた事を嘆くサチ、ケイタ達には──否、ケイタ達だからこそ言えない悩み。

 

 それは潜在的に大抵の者が持つ原初の恐怖。

 

『死にたくない!』

 

 これを感じない存在は、生物として壊れているか、完全に乗り越えてしまったか……いずれにせよ歪んだモノだとも云える。

 

 だから恐怖を感じるのは恥じ入る事ではない。

 

 鍵も掛けないで、宿屋の部屋の片隅に体育座りをしながら俯くサチを見付け、ユートが話を聞いた。

 

 再度言うが、世界には流れと云うものがあり、その流れに沿って時間は動いて世界が運営をされていく。

 

 世界線と呼ばれる流れを線に例える場合もあるが、例えばユートが干渉しない世界線──その中でも謂わば〝最良解世界線〟というものが存在し、それを原典世界(ワールド・ザ・オリジン)と呼んでいる。

 

 ユートは知らない事ではあるが、サチのこれはその世界の流れに沿った行動であり、サチの中の根本的なナニかを変えなければ必ず起きる、ゲームで云うなら不可避のイベントだ。

 

 勿論、幾つかの相違点があるのだから少しは改善が成されているのだろうが、〝イベントの進行者〟が変わっても起きたという事。

 

 唯それだけでしかない。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「ねえ、ユート」

 

「どうした?」

 

「何で私達、ログアウトが出来ないのかな?」

 

「ログアウトボタンが無いからだろ」

 

 正論で返す。

 

「どうしてゲームなのに、本当に死ななきゃならないの?」

 

「HPがゼロになったら、ナーヴギアがレンジ代わりに頭を焼くからだな」

 

 理詰めで返した。

 

 因みに一度は外してしまったからか、ユートのナーヴギアはもう誰かの頭を焼く事は無い。

 

「茅場晶彦って、どうしてこんな事をしたの?」

 

「僕は茅場の知り合いでもなければ、況んや茅場本人でもないから解らないな。とはいえ、彼はデスゲーム初日で目的は達したと言っていたし、其処から推測は可能だろうけどね」

 

「推測?」

 

 サチが顔を上げてユートの方を見る。

 

「SAOには様々な存在が居るよね? モンスター、NPC、プレイヤー」

 

「うん」

 

「だけどSAOがサービスを始める前、その時に決して足りないモノが在った」

 

「足りないモノ?」

 

「意思を持った存在だ……即ち、プレイヤー」

 

「──?」

 

 サチは首を傾げた。

 

 言っている意味を推し量れず、理解が出来ないから戸惑っているのであろう。

 

「彼の目的、それはアダムとイヴが住まう世界の構築そのものにあった。自身がアダムになる気は無くて、NPCのイヴで遊ぶ気も全く無かったんだよ。彼は、世界の創造主──聖書の神に成りたかったのさ」

 

「神様……に?」

 

「神ってのは大抵、身勝手で気侭で我侭で人間の都合なんて考えもしないんだ。SAOの創造主・茅場晶彦も御多分に洩れず、自分の都合を最優先にした」

 

「それって……」

 

「アダムとイヴ──人間を自分の世界に閉じ込める。これにより、生ある存在の無かった無機質なこの世界には、命の輝きが満ちた」

 

「それって、まさか?」

 

「茅場晶彦が欲したのは、生命の輝きと生命が足掻く際の煌めき。彼はそれを、現実世界ではなく虚構なる世界に求めたんだ」

 

 世界──生命の受け皿は時間こそ掛かったが割かし容易く完成した。

 

 だが然し、彼は月や金星を創りたかった訳でなく、地球を創りたかったのだ。

 

 NPCやモンスターでは彼の要求は満たせないし、仮想世界(ヴァーチャル)に意思を持つ生命体を産み出すには、更なる時間と研究が必要となる。

 

 だからこそ、既に存在している場所から掻っ浚ってきたという訳だ。

 

「酷いよ、そんなの……」

 

「言ったろ? 神は人間の都合なんて知らないって。それにこれは飽く迄も想像でしかないんだ」

 

 当然ながら間違っている可能性が無きにしも非ず。

 

 結局、大真面目に話したからかサチも落ち込むのが莫迦みたいに思った様で、『話、聞いてくれてありがとう。嬉しかったよ』と言って微笑んだ。

 

 その日からユートが一緒に居る場合は、枕を持って部屋に押し掛けて来ると、『ユートの生命の煌めき、教えて欲しいな』などと嘯きながら同じベッドに眠る様になった。

 

 こうなると中々、ギルドホームに帰れない。

 

 ログアウトは眠っている内にすれば良いから問題は無いが、ここ暫くホームには戻ってないのだ。

 

 因みに、ユートは正式にログアウトをしているのではなく、延髄の辺りで止められている五感を無理にでも動かして、ナーヴギアを外す形の為にアバターが消えたりはしない。

 

 寝落ちしたのと同じで、アバターが動かなくなるだけだったりする。

 

 故に、ログアウトは宿屋以外で決して出来ない。

 

 睡眠(ログアウト)をした後は、現実の御飯を食べて菊岡や桐ヶ谷家の二人──父親は海外出張中──へとSAOでの出来事を備(つぶさ)に報告をしている。

 

 特に一週間から十日置きに行われるボス戦、これで死んだプレイヤーネームを伝え、アーガス社が保有していたプレイヤーの情報と照らし合わせ、更に死んだと報告されたSAOプレイヤーの情報と擦り合わせ、忙しい毎日を菊岡は送っているそうな。

 

『もう私、完全に夜型人間ですねぇ……アハハ』

 

 なんて、苦笑いをしながら言っていた。

 

 乞われて直葉とは剣道の打ち合いをする事もあり、身体が鈍るのをある程度は緩和出来ている。

 

 直葉もユートとの試合で少しずつ腕を上げていた。

 

 ユートがログインして、直葉は眠るユートとポッド内の和人を見ながら思う、彼らが見ている世界はどんなモノなのか……と。

 

 そんな思いは、半年後に第二世代機アミュスフィアが発売された時、強く結実する事となる。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 目を覚ますと同じベッドに寝ていたが、少し離れた位置だった筈のサチがいつの間にかユートに抱き付いて眠っていた。

 

 これは単なるアバター、本物の肉体ではない。

 

 それでも、モンスターやNPCとは違う生命を宿す意志在る者。

 

 この仮想体(アバター)の消失とは、即ち彼女という意志の消失と同義。

 

 ユートはサチの小さな手を握り、溜息を吐きながら起き上がってステータスを確認し始めた。

 

 もうすぐ、第三十層でのボス戦が始まるし、これは必要な作業だ。

 

 

 

名前:ユート

レベル:60

スキルスロット:8

HP:11260

筋力値:90+3

俊敏値:107

 

【装備】

夕霧+20

Bレザーアーマー+12

スケイルマント

レザーベルト

Bレザーグリーブ+8

Bレザーグラブ+8

へヴィリング(筋力値+3)

 

【装備スキル】

刀装備

片手武器作成

金属装備修理

体術

料理

両手武器作成

戦闘時回復

武器防御

 

 

 

 武器以外は第二十五層から変化は無い。

 

 両手武器作成スキルを取ったから、武器に関しては自作した夕霧を最大限まで鍛えているがそれだけだ。

 

 因みに、リズベットから自分のアイデンティティーが何ちゃらとか言われて、怒られてしまった。

 

 ユートは武器を造る為のスキルしか上げてないし、それ以外はリズベット任せなのだが、やはり鍛治職人としては気になるらしい。

 

 それから数日後、ユートは第三十層のボス戦に参戦をする為、月夜の黒猫団は資金や経験値稼ぎを迷宮区でやっていた。

 

 そして遂にギルドホームを買える程の資金を得て、ケイタは【はじまりの街】で購入の手続きをするべく向かう。

 

 彼らはすっかり舞い上がっていたのだろう、ユートから言われていた事を忘れたかの如く話を始めた。

 

「なあ、ケイタが戻ってくるまでに一稼ぎしないか」

 

「お、良いねぇ」

 

 テツオの提案する言葉に頷いたダッカー。

 

「あ、家具を買って驚かすんだね?」

 

 サチの言葉に我が意を得たりと笑顔を浮かべた。

 

 第二十七層の迷宮区……

 

 既に攻略されている場所だとはいえ、この層は未だに完全踏破されていない。

 

 しかも平均レベル的に、月夜の黒猫団のメンバーは33程度であり、この層の安全マージンには届いてはいなかった。

 

 サチは稼ぐのに賛成はしたが、よもや上の階層にまで行くとは思わず少し困ってしまう。

 

 

 決して相手が出来ない訳でもなかったが、言われていた安全マージンは階層の数字+10、つまりこの層を行くならレベル37はないと危険な場所。

 

 然し、舞い上がっていた上に今まで上手くいき過ぎていたのが奢りを生んだ。

 

「見ろよ、隠し部屋だぜ」

 

 ダッカーが見付けた部屋には宝箱が一つ、Mobも居ないから見付けた宝箱に飛び付く。

 

「ヒャッホー! トレジャーボックスだぁああ!」

 

 攻略未踏破エリア、その隠し部屋のトレジャーボックスなら正真正銘、自分達が初めて開ける物だ。

 

 テンションが上がっていたダッカーは、鍵明けスキルを用いてトレジャーボックスを開く。

 

「さあて、御宝、御宝♪」

 

 ガチャガチャとダッカーが宝箱を開くと……

 

 ビーッ! ビーッ! ビーッ! ビーッ! ビーッ! ビーッ! ビーッ!

 

「な、何だ?」

 

 赤いエフェクトが点滅を繰り返しながら、アラームが鳴り響いた。

 

 ガシャン! ガシャン!

 

 壁が開くと、ドワーフ・ファイターらしきモンスターが顕れ、他にもロック・ゴーレムやボーン・ソルジャーなどが通路や部屋を埋め尽くす勢いで、床が競り上がって顕れたり湧出(ポップ)したりしてくる。

 

 正にモンスターハウスな状態で、Mobのレベルも同等か下手すればそれ以上らしくて、カーソルの色が薄いMobは居ない。

 

 これが単体ならば対処も可能なのだが、この数ではすぐにも呑まれる。

 

「みんな、逃げよう!」

 

「わ、判った!」

 

 サチの言葉にダッカーがポシェットから青い結晶を取り出し、高らかに頭上へと掲げると叫ぶ。

 

「転移、タフト!」

 

 だが何も起きない。

 

「? 転移、タフト!」

 

 やはり無情にも何も起きなかった。

 

 転移結晶はその名の通りテレポートが可能な結晶系アイテムであり、その階層の主街区に戻れる物だ。

 

 それが発動しないという事は即ち……

 

「嘘、結晶無効化空間?」

 

 結晶無効化空間は数あるトラップの一つ、其処では結晶と名の付くアイテムが使用出来なくなるのだ。

 

 回復系の結晶も使えなくなる為、そんな場所で囲まれては終わりだろう。

 

「う、うわ……」

 

「慌てちゃダメ!」

 

 恐慌を来したダッカーが叫ぼうとするのを一喝したのは、何と一番恐慌を来しそうなサチだった。

 

「兎に角、四人で円陣を組んで背中を狙われない様にしよう! ユートからの教えの通りだよ!」

 

「お、応!」

 

 サチの言葉に従って動くテツオ。

 

 それに合わせ、ダッカーとササマルも四人で背中合わせとなり、互いの背後を護る陣形を執った。

 

 囲まれた場合の戦い方を教わっていた事もあって、すぐに三人は反応出来たという訳だ。

 

 それに、テツオには解ってしまったから、サチが震えているのが。

 

 本当は恐くて早く逃げ出したいだろうに、そんな思いを振り切って指示を出してきたのだ、此処で慌てて震えていては格好付かないにも程がある。

 

「死なない、死んでなんてあげない、死んで……堪るもんかぁぁぁぁああっ!」

 

 涙を溢しながらサチは、自らが持つ長槍を揮った。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 時は少し遡り……

 

 第三十層のボスを無事に斃したレイドパーティは、第三十一層へと向かう扉を開いて、主街区にある転移門の有効化(アクティベート)に向かった。

 

 ユートが主街区に辿り着くと、メッセージが着ているのに気付く。

 

「ケイタから?」

 

 メッセージをタップして開いてみると、その内容にギョッと目を見開いた。

 

 ケイタが【はじまりの街】でギルドホームを買う為に留守にした間に、テツオ達が第二十七層の迷宮区に向かう旨をサチがメールを飛ばして来たのだと。

 

 恐らく少し稼ごうと話したは良いが、場所が上層であった事を知ったサチが、メッセージを出したのだろうとケイタは予測した。

 

 パーティを組んでいるのならまだ何とかなるのだろうが、ケイタが一人で向かっても二重遭難をするのが関の山だ。

 

 メッセージを見たら助けに行って欲しいとある。

 

「チッ、あのおバカ共! ケイタは良い判断だな」

 

 ケイタが単独で行っても途中で死ぬか、サチ達の所に着いても役に立たないで心中するかのいずれかだ。

 

「キリト、シリカ、リズ、エギル! 悪いんだが来てくれ!」

 

 【ZoG】のメンバーを集めると、事情の説明をして第二十七層の迷宮区へと向かう事にする。

 

 壁役のエギルと攻撃役のキリトを連れ、リズベットとシリカには各方面に連絡をする役目を頼んだ。

 

 直ぐ、第二十七層の主街区へと転移門から戻ると、迷宮区に向かって走る。

 

 サチ達がトラップに引っ掛かった頃に、ユート達は迷宮区の入口に着いた。

 

「急ぐぞ!」

 

「応っ!」

 

「了解だ!」

 

 ユートを先頭にキリトとエギルが続く。

 

 場所は判らないが、それ程に遠くでもあるまい。

 

「何処に行ったか判るか? 万が一にも未踏破エリアに行っていたら拙いぞ」

 

「それだ、エギル!」

 

「うぉっ! どうした?」

 

「あいつらは、取り分けてダッカーは好奇心が強い。未踏破エリアが有ったら、間違いなく行きそうだ!」

 

 シーフは伊達ではない。

 

 SAOにジョブシステムは存在しないが、装備品やスキルによりそのジョブを名乗る者も居た。

 

 鍛冶屋のリズベットなど最たるものだし、ディアベルが『気持ち的にナイトやってまーす!』というのもその類いだと云えよう。

 

 ダッカーはスキル構成や武器や防具からしてシーフと呼ぶに相応しく、好奇心もどうやら旺盛らしい。

 

 ユート達は未踏破エリアへと侵入して走った。

 

「死なない、死んでなんてあげない、死んで……堪るもんかぁぁぁぁああっ!」

 少女の声が谺する。

 

 どうやらサチの様だが、最悪だと中のプレイヤーが全滅するまで開かない扉の向こうだったが、声がしたなら其処まで底意地の悪いトラップではなさそうだ。

 

「サチ、テツオ、ダッカーにササマル! 無事か?」

 

「ユ、ユート!」

 

 サチは涙を溢しながら、ユートの姿を見て笑顔を浮かべた。

 

「エギル、壁になって皆を護ってくれ!」

 

「任せろ!」

 

「キリトは僕とモンスターを掃討だ! トラップらしきトレジャーボックス破壊を最優先でっ!」

 

「判った!」

 

 ユートの指示を受けて、HPバーが注意域(イエローゾーン)に入っていた、月夜の黒猫団のメンバーを護る様に動くエギルが黒猫団のみんなに、ポット──ハイポーション──を渡して回復を促す。

 

 キリトはトレジャーボックスを破壊するべく動き、周りの骨や石人形や短足を蹴散らして進んだ。

 

 二十分も経っただろう、漸くモンスターを殲滅したユート達は、すぐにも結晶無効化エリアを抜けて転移結晶でタフトに戻る。

 

 莫迦な事を仕出かしてくれた四人は、コッテリと叱られる羽目になった。

 

「ユート、キリト、エギル……皆を救ってくれて本当にありがとう!」

 

 ケイタは三人に頭を下げて御礼を言う。

 

「いや、無事で良かった。もう少し遅かったらヤバかったからね」

 

 教えを守って戦術を組んでいたのは評価出来るが、それならそもそもマージンの取れてない場所に行かないで欲しかったものだ。

 

「それで、折り入って頼みたい事があるんだ」

 

「うん? 何だ?」

 

「今日を以て月夜の黒猫団は解散しようと思うんだ」

 

「はぁ?」

 

 ユートばかりかサチ達も驚愕している。

 

「ちょ、リーダー。どうしてなんだよ?」

 

「そうだ! 折角、ギルドホームを買ったのに!」

 

 ダッカーとテツオが文句を言うが、ケイタは頭を振ると……

 

「ホームはまだ買っていないんだ。サチからのメッセを受けて、買わずに飛び出して連絡したからな」

 

「──え?」

 

 サチが驚く。

 

「じゃあ、頼みというのはつまり……」

 

「そう、ギルド【ZoG】に入れて貰いたいんだ!」

 

「「「「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」」」」

 

 サチ達四人が声を揃えて絶叫した。

 

「この侭、いつまでも手を煩わせるくらいならいっその事、僕らがユートの居るギルドに入った方が良いと思うんだ」

 

「随分と思い切った決断をしたな?」

 

「そうかな?」

 

「まあ、歓迎するけどね。四人は良いのか?」

 

 顔を見合わせると四人共が肯定の意を示す。

 

「これからも宜しくね? ユート」

 

 握手するサチとユート。

 

 この日を限りに、ギルド【月夜の黒猫団】は消滅したのであった。

 

 

.




 ギルド【月夜の黒猫団】は消滅しました。メンバーは生き残ってるけど……


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