ソードアート・オンライン【魔を滅する転生剣】   作:月乃杜

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 タイトルはこうだけど、クリスマスイベントも同時に進行します。





第25話:鍛治師リズベット

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 【リンダース】

 

 第四十八層の主街区へと上がり、【ZoG】の面々は綺麗な景観の街並みを観て回っていた。

 

「うわぁ! 第四十七層の主街区フローリアも良かったですけど、此処も綺麗な所ですね!」

 

 シリカは、キョロキョロと御上りさんの如く辺りを見回している。

 

 このすぐ下の、四十七層主街区であるフローリア、そしてフィールドダンジョンというカテゴリーに入る【想い出の丘】など、綺麗な場所には事欠かなかったのだが、此処も結構観れた場所であった。

 

 そして街中の探索をしていたリズベットが、瞳を煌めかせて見ていたモノ……

 

 それはこじんまりとした水車小屋だった。

 

「こ、こ、此処、良い! この水車小屋! 此処しか無い! 私、此処でお店を開きたい!」

 

 リズベットのフィーリングにビビッ! ときたのだろうか、まるで玩具売場でお気に入りの玩具を見ている子供の様で、ギルドメンバーは苦笑する。

 

 第二十二層でギルドホームを買って以来、誰も言い出さなかった家が欲しいという言葉だったが、此処に来て遂にリズベットが言い出したという訳だ。

 

 問題は特に無い。

 

 第二十二層から武器などは基本的にドロップ品か、若しくはギルド・スミスのリズベットやユートが造っていたし、素材そのものは殆んどがドロップ品で事足りていた。

 

 それに、下層とはいってもギルドホームを買おうとしていた元月夜の黒猫団の運用資金、これも【ZoG】に武具購入の為の資金以外を全額、ギルド資金へと回している。

 

 それ故にお金は有り余っていた。

 

「えっと、御値段は?」

 

 売り地なのは立て看板から判るし、値段もそれに書かれている。

 

 【3000000Cor】とあった。

 

「高っ!」

 

 第二十二層でも良い物件は普通に百万越えしていた訳だし、ギルドホーム近くのもっと小さな物件など、数百万コルだったのだ。

 

 こんな倍以上も上層で、三百万コルなら破格の値段であるとも云える。

 

「あ、あの〜、ユート?」

 

「どうした? リズ」

 

 恐る恐る訊ねてみた。

 

「これ、買っても良い?」

 

 契約上、店を持ちたいのならギルドで資金を貯めて買う事にしており、実際に第二十二層のギルドホームはそれで買ったのだ。

 

 とはいえ、三百万コルは決して御安くはない。

 

 幾ら何でも高値が過ぎると思い、ついつい窺う様な表情で訊ねてしまう。

 

「クックッ! この水車小屋が欲しいんだろ? 構わないよ。資金は充分に貯まっているし、リズベットは基本的にバックアップへと回って貰おうか」

 

「い、良いの!? 凄い高いのよ? 三百万コルよ、三百万!」

 

「大丈夫、武器は無料同然でやって来たし、防具なんかもドロップ品が多かったからね。それにディアベル辺りに売り付けたアレで、資金は充実しているんだ。その水車小屋を買う資金は有るよ」

 

「やったー! 万歳!」

 

 余程、嬉しかったのか、リズベットは万歳をしながらクルクル回る。

 

 バレリーナも斯くやだ。

 

 取り敢えず、ユート達は他人の振りを貫いた。

 

 すぐに購入手続きをし、晴れて水車小屋はリズベットのモノとなる。

 

 リズベット・ハイネマン武具店……

 

 ハイネマンというのは、この水車小屋というか武具店で接客を務めるNPCの名前である。

 

「うわーい! これから、此処が私のお城になるって訳ね!」

 

 未だに何も無い水車小屋の中で、リズベットはこれからの展望に耽った。

 

「それじゃ、バックアップはリズベットに任せるよ」

 

「オッケー! この私が、確り武具のメンテや製作を

承るわよ!」

 

 胸を叩いて自信タップリに言うリズベット。

 

 月夜の黒猫団のメンバーの五人が入り、元々の人数から随分と増えたが故に、そろそろリズベット辺りをバックアップへと回しても大丈夫だろうと考えていたユートは、これを丁度良い区切りと考えていた。

 

 その内にエギルも自分の店を持とうと考えているみたいだし、この二人は基本的にバックアップを任せ、自分達がフォワードとなり攻略の方を進める二段構えで往く心算だ。

 

 ユート、シリカ、キリトが主力となって、リズベットをバックアップ、エギルをバックアップ兼壁役に、ケイタ達を前線や素材収集組としてリズベットの護衛などをして貰う。

 

 取り敢えず今のパーティはユートを前線リーダーとして、キリトをサブリーダーに回し、シリカとエギルとケイタとサチの六人での攻略を行い、リズベットを鍛治師としてバックアップにし、素材収集組にテツオとダッカーとササマル。

 

 四人というのは危険かも知れないが、下の方の階層ならこれでも大丈夫だし、必要なら前線組からキリトを外して、素材収集組でのリーダーにする手もある。

 

 攻略に最大戦力を当てないと、何処ぞの【攻略の鬼】が煩いから余り長々とは外せないが、ギルドメンバーの強化に武器の更新とて必要不可欠。

 

 第一、違うギルドの者が此方の方針に口出しをして欲しくない。

 

 とはいえユートとアスナは険悪だが、リズベットとアスナは割と仲が良くて、偶に武具のメンテナンスを頼みに来る。

 

 また、稀にだがキリトとパーティを組んで探索する事もあるし、エギルも店を持ってはいないが、将来的に店を持つのに備えて売買なんかをしていた。

 

 ユートと仲が余り良くないのは、やはり第三層から第九層までの七層間のボス攻略をしなかったのが原因なのだろう。

 

 その間に十四名が死んでいるし、原因が原因だとはいっても納得はし切れないのかも知れない。

 

 まあ、ユートはギルドのメンバーとは仲良くしているみたいだし、それで良いかと考えていた。

 

 流石にギルドメンバーまで自分が原因で険悪とか、勘弁して欲しいから。

 

 因みに、キリトを誘うのはどうやら攻略以外に何らかの思惑があるみたいだったが、取り敢えずはどうでも良いと判断している。

 

「嗚呼、これで【ベンダーズ・カーペット】を卒業なのね!」

 

 【ベンダーズ・カーペット】とは、鍛治職人が使う簡易的な店の為のアイテムであり、リズベットが持ってたのはネズハ──ナタク──から譲られていたのをユートが与えた物であり、この階層までずっと使って馴染んでいた。

 

「内装はどうしようか? 流石にギルドのお金で内装までは駄目……よね?」

 

 チラッ、チラッと見てくるリズベットに、ユートのみならず全員が苦笑いし、簡単な内装くらいは整えようという話になった。

 

 内装が無ければ店開きも出来ない事だし。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 ユート達が攻略へと出た後で、まだ店開きをしていない【リズベット・ハイネマン武具店】に客が来る。

 

 カランコロンと、来客を報せる鐘の音にリズベットが奥から出て来て……

 

「あ、ごめんなさいねぇ。店開きはまだなんですよ」

 

 ハイネマンも設置していないカウンター、当然ながら商品も飾っていないし、御断りの言葉を言う。

 

「あ、リズ。その、今日は御客じゃなくて御祝いを言いに来たの」

 

「なんだ、アスナじゃん。私が此処にお店を開く事、よく知っていたね?」

 

「キリト君からメッセージが届いてね。それで開店祝いに来たの」

 

「そっか、ありがとうね。にしても……」

 

「な、何よリズ?」

 

 ニヤニヤするリズベットに引き気味なアスナ。

 

「キリトとはマメにメールしてんのね?」

 

「う゛……べ、別に他意はないわよ!」

 

 顔を赤く染めて言っては説得力も無いが、弄り過ぎてもアレなので話題を変える事にする。

 

「けど、此処を買った時期を考えると遅かったよね。若しかしてユートが出るのを待ってた?」

 

「そ、それは……」

 

「アンタ達って、もう少し仲良く出来ないかな〜?」

 

「し、仕方ないじゃない。どうにも合わないのよ!」

 

「聞いた話じゃ、ユートが攻略に出なかったのって、ボス戦に出てたメンバーのマナー違反が悪いんじゃないかな? そんなの度々、受けていたら誰だって腹が立つわよ? ステータスを見せろって、女の子に例えたら裸になれってのと同義だと思うわよ」

 

「ぐっ、例え方がユート君に似てきたわね、リズ」

 

「そりゃね、一年近く一緒のギルドに居れば……さ」

 

 とは言うものの、的確な例えだとも思うアスナ。

 

 ステータスを見せるというのは謂わば、アバターの持つ全てを見せるに等しい行為であり、確かに女の子に裸になれと言うのと同義とは、正にリズベットが言う通りだろう。

 

 しかも自分はそれを見ていながら止めなかったし、直接的にはステータスを見ていなくても、同罪ではないだろうかと考えた。

 

「それに、これはシリカから聞いたんだけどね、そのボス戦を休んでいた間は、強化詐欺教唆をしたプレイヤーを捜してたみたいよ」

 

「え!? 何それ、私は聞いてないわよ?」

 

「見付かるとは思ってなかったし、実際に第十層まで見付けられなかったしね。自分からそれを言っても、単なる言い訳にしか聞こえないと思ったんじゃない? 今も暇を見付けては捜しているみたいよ?」

 

「……彼、いつ寝てるのかしら?」

 

 リズベットから説明をされて、少しばかり思い立ったアスナは、顎に手を添えながら呟く。

 

「うん? 何が?」

 

「確か、ユート君って夜に宿屋でログアウトをして、報告とかしてるのよね?」

 

「そうみたいね。ログアウトが出来るのにSAOを続けてるのは吃驚だけど」

 

「昼間は攻略、更にそんなプレイヤー捜しをしつつ、アルゴさんの攻略本作成の手伝い、夜中にもレベリングをしてるみたいだけど、彼っていつ寝てるの?」

 

「ああ、成程ねぇ……」

 

 忙しくなってきてから、夜にログアウトした際には一時間くらい仮眠を取り、それから再びログインしているのだが、睡眠時間は殆んど取れていない。

 

 勿論、限界がくる前には眠っているのだが……

 

「たまにだけどギルド活動を休みにして、ガッツリと寝てはいるみたいよ?」

 

「そうなの?」

 

「まあ、誰かさんが寝てる処を『また攻略をサボってる!』とか言って、叩き起こしに来てるけどね」

 

「うぐっ!」

 

 心当たりがある誰かさんは胸を押さえて呻く。

 

「因みに、今日は街開きの後の恒例でフィールドに出ているわ」

 

 ユートはボス戦を終え、新しい階層の主街区に来た場合、一通り街を観て回ってからフィールドに出て、レベリングを兼ねた探索を行い、ダンジョンなどを見付けては攻略をしていき、情報をアルゴへと渡す。

 

 常に先へ先へと向かい、誰よりもレベルを上げつつ攻略をしてきたのだ。

 

 レベルは高い為、階層が一つ上がった程度で揺るぐ事はないし、ギルド仲間もそれに合わせる様にレベルが上がっている。

 

 決して無茶ではない。

 

「私はさ、誰が一番、攻略に貢献してるかって訊かれたらユートって答えるよ」

 

 偽らざる、リズベットの正直な気持ちだ。

 

「そ、そうなの?」

 

「そりゃさ、【血盟騎士団】とかも頑張ってるわよ。けど、それでも迷宮区攻略はいつも後塵を拝しているじゃない?」

 

「そうかもね」

 

 ボス攻略後は大抵が一日くらい休むもので、それは【攻略の鬼】と称されているアスナも同じだ。

 

 だが、ユートは誰しもが休む中で先へと攻略を進めている。

 

 それは別に狩り場の独占やらではなく──結果的にそうなるが──迷宮区までの道を捜したり、ダンジョンを攻略したりして情報を得る為だった。

 

「今頃、MPKも真っ青なくらいMobを集めて無双でもしてるんじゃない?」

 

「──は?」

 

「私らのレベルが高いのってね、ユートが持つMobを集めるアイテムで集められるだけ集めて、それを斃しまくってるからなのよ」

 

「そんなアイテム、聞いた事もないんだけど……?」

 

「ユニークアイテムみたいだし、他に手に入れた人は居ないんじゃない?」

 

「だけどそれって、危ないアイテムなんじゃ……」

 

「アイテムを持ってる人は兎も角、他は攻撃を加えない限りアクティブにならないから、危ないのは持ってるユートだけね。それに、使うのはまだ誰もフィールドやダンジョンに入ってない初期だけよ。だから湧出の独占という訳でもない」

 

 特に街開き直後であればフィールドはがら空きで、湧出したMobが勿体無いと言わんばかりに使って、レベリングしている。

 

「ま、アスナが思っているみたいな事は無いわよ」

 

「そう、なんだ……」

 

「さて、話し込んじゃったわね。取り敢えず、今日は開店記念に無料で武器を研いで上げるわ」

 

「え? 悪いわよ。普通は私が御祝いを渡さなきゃ、なんだし」

 

「良いの良いの、これからも【リズベット・ハイネマン武具店】を宜しくねって事で、付け届けよ」

 

「あ、ありがとう」

 

 その後、また少し話してからアスナは帰る。

 

 数日後、ある程度は店内の装いも整い、【リズベット・ハイネマン武具店】を開店するのであった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 十二月に入り、ユート達のギルドはレベリングに励んでいた。

 

 理由は簡単、NPCから十二月二十五日の午前零時にだけ現れるという、限定Mobの情報を得たからである。

 

 クリスマス限定、つまり一年に一度のみのチャンスしか無いこのイベントで、【背教者ニコラス】という限定Mobがとある場所──アルゴも調べ中──に行けば顕れ、斃したら数有るドロップ品の中に死者蘇生のアイテムが出ると噂が立っていたのだ。

 

 ユートがそのアイテムに興味を示し、【ZoG】で最もレベルが高い六人によるパーティを組んで、件の【背教者ニコラス】を斃しに行こうという話になる。

 

 最前線は第四十九層で、主街区ミュージエンを拠点として動いていた。

 

 別に無理して死者蘇生のアイテムを手にする必要性もないが、デスゲームでの蘇生アイテムがどんな物かは興味深い。

 

 使い物にならないクズアイテムと化しているのか、或いはデスゲームに併せて仕様変更がなされているのかが気になるのだ。

 

 本当に必要なプレイヤーが欲したにしても、それを手に入れられなければ意味を為さないし、ユート達が手にしたとて問題無い。

 

 第四十七層のアリ谷は、狩り場として美味しい場所の為、多くねプレイヤーが順番待ち時間制限制で利用をしている。

 

 ユート達【ZoG】は、クライン一味──ギルド【風林火山】と合同でフラグボスを斃すべく、レベリングに励んでいた。

 

 とはいえ、ユートの場合は自身の強化より、ギルドメンバーの強化を最優先にしている。

 

 ユートのレベルは75。

 

 当然ながらこの時点での全プレイヤー中で、最高のレベルを誇っていた。

 

 単純にレベルだけを見たなら、【KoB】の団長であるヒースクリフより僅かに上だ。

 

 彼が現時点で二番目か、若しくは三番目の筈。

 

 シリカが70、キリトが68と僅差となっていた。

 

 エギルが63、リズベットが55、サチがリズベットを抜いて58、ケイタが60、テツオが59、ササマルが58で、ダッカーが59と団栗の背比べ状態。

 

 リズベットが下回るのは仕方がない、ケイタ達が頑張っているのも勿論あるのだが、【リズベット・ハイネマン武具店】で鍛治仕事に熱中しており、鍛治による経験点こそ入ってるが、やはり前線レベルの経験には程遠い。

 

 驚きなのはサチだろう。

 

 以前まで、月夜の黒猫団時代はレベルが最も低かったにも拘らず、今では最前線の安全マージンギリギリにまで上げているのだ。

 

 あと数日もすればフラグボス、【背教者ニコラス】が現れるし、クライン一味と協力して事に当たる。

 

 出現場所に関しては既に見当が付いており、その時になったら動く予定だ。

 

「うぉぉぉぉぉおおっ! 喰らえ、ゲツリンソウハァァァァァァアア!」

 

 クラインが働きアリに囲まれた瞬間、繰り出したのはOSS【ゲツリンソウハ】と呼ばれる技だ。

 

 雑魚に囲まれた場合に使うOSSで、刀を鞘に納刀した状態から抜刀をして、大きく一回転をしながら敵を斬り、元の位置に戻ったら上段斬りを放つ。

 

 ボスクラスに使うには、少々パワー不足の感は否めないが、こうして囲まれるという状況を覆すには最も適していた。

 

 OSSといっても、自身が開発したのではなくて、ユートに依頼をして秘伝書を買ったのである。

 

 威力に欠ける分は割安ではあったが、三十万コルはやはり財布に痛かった。

 

 OSSは五連撃から始まって五十万コル、一撃増える毎に十万コルが足され、十連撃ともなれば百万コルという値段となる。

 

 ディアベルも第二十五層のボス戦前に、ユートからOSSを五十万コルを支払って買っており、あの時にキリトと共に初御披露目をした。爾来、強敵を討つのによく使用している様だ。

 

 無論、お金を払いたくない……払えないというなら自分でOSSを開発するより他には無い。

 

 だけどユートみたいに、武術の一端を極めている者がアインクラッドに居る筈もなく、今までにOSSを成功させた事例は、ユート以外だと【閃光】のアスナくらいだという。

 

「ふう、どうするよ?」

 

「うん?」

 

「今日の処はもう時間的におせーし、帰らねーか?」

 

「そうだな、みんなはどうする?」

 

 クラインの提案を受け、キリト達に訊ねた。

 

「そうだな、まだ数日くらいはあるんだし、こんな所で無茶しても……な」

 

 キリトが頷きながら言って周りを見遣ると、シリカとサチとケイタとエギルも一様に頷く。

 

 引き返してから翌日に、ユート達は再びアリ谷へとやって来て戦った。

 

 それから数日が経って、第三十五層の主街区であるミーシェに移動する。

 

 この層の【迷いの森】のとある位置、其処に存在する捻くれた巨大な樅の木。

 

 意味ありげな感じだったから、みんなで検証をしてみたものだが、クエストが始まるでもなく何も見付けられなかった。

 

 然し、クリスマスイベントを知った際、キリトが思い出したかの様に気付く。

 

 キリトの家には樅の木が杉の木と一緒にあり、だから【迷いの森】の巨木こそクリスマスイベントの為の樅の木だと判ったのだ。

 

 ミーシェでクライン一味と合流し、【迷いの森】へと移動を開始する。

 

 レベルは多分、大丈夫だと思われる。

 

 ユートは変わらないが、数日で全員が1ずつ上がっているし、罷り間違ってもソロで挑む訳ではない。

 

 他のギルド、取り分けて【聖竜連合】もクリスマスイベントを狙っているらしいし、【追跡】や尾行には充分に注意をして集合したから、他のプレイヤー達と搗ち合う事もなく樅の木まで辿り着いた。

 

 【ZoG】のメンバーはユート、シリカ、キリト、エギル、ケイタ、サチによる六人パーティだ。

 

 これはレベルが高い者から数えており、他の選外なメンバーは別のギルドが来たら足留めをするべく森の外で、木々に隠れて見張っている。

 

「それじゃ、たったニパーティによるレイドだけど、【背教者ニコラス】討伐を行う訳だが、基本的に獲られたアイテムはドロップした者が貰うって事で」

 

「応、それで恨みっこ無しにしようぜ!」

 

 ギルドマスターのユートとクラインで最後の確認、そして二十四時……時間となった。

 

「よし、征こうか!」

 

『『『『『応!』』』』』

 

 十二人は先にある樅の木へと一斉に駆け出す。

 

 捻れた樅の巨木。

 

 シャンシャンシャン! 鈴の音が辺りに鳴り響き、上空には馴鹿が引く橇が飛んでおり、その刹那……

 

 ズドォォォォオオン!

 

 巨大な赤いサンタ服に身を包む、数メートルはあろうかという背丈の狂人が落ちて来た。

 

 異常なまでの長さの腕、その手には右に斧、左には白い頭陀袋を持っている。

 

『メリークリスマスゥゥ! 今日まで生き抜いてきた諸君に、プレゼントを上げよう。諸君に上げるのは、苦痛と絶望と死だぁぁ!』

 

 クエストに沿った科白を言った赤服の狂人。

 

 緑色のHPバーが伸び、其処には名前がある。

 

 【Nicholas the renegade】

 

 背教者ニコラスという、まんまな名前だった。

 

「レネゲイドか、背教者……ね。全員、戦闘開始!」

 

 ユートは村雨+35を構えると、全員を鼓舞するかの如く叫んだ。

 

 村雨はモンスタードロップ系の魔剣であり、ユートやリズベットが打った物ではなかったが、使い勝手も良いので強化試行上限まで鍛えて使っている。

 

 中々に素材と根気が要ったが、それに見合うだけの働きはしてくれていた。

 

 ニコラスはあろう事か、本来なら子供達の夢(よくぼう)が詰まっているであろう、担いだ白い袋を使って攻撃をしてくる。

 

「チィッ! バイオレンスなサンタクロースだな!」

 

 全員が範囲攻撃なそれを躱し、ユートはすぐ体勢を立て直すと斬り付ける。

 

「喰らっとけ!」

 

 斬っ! 斬っ! 斬っ!

 

 三回連続で、ニコラスのド頭に斬り付けてやると、苦しそうに仰け反った。

 

 そんな機会を見逃す様な柔なパーティではないし、キリトが中距離から一気に詰め寄り、赤いライトエフェクトを纏いながら攻撃をする重攻撃のソードスキル──【ヴォーパル・ストライク】を放って、ニコラスの腹の辺りに突き刺す。

 

 片手直剣系のスキルで、熟練度が950を越えた頃スキル欄に現れた技。

 

 使い勝手も良く、アリ谷の働きアリを相手にして、便利に使っていた。

 

「おりゃぁぁっ!」

 

 クラインも、ランダムに上下攻撃をした後で突きを放つ三連続技【緋扇】で、ニコラスを攻撃。

 

「サチ、スイッチだ!」

 

「判った!」

 

 ケイタがニコラスの袋を弾いて一旦下がり、サチが前に出て両手長槍系単発重攻撃【フェイタル・スラスト】を放つ。

 

 エギルは仲間に攻撃が往かない様に壁として盾になりながらも、自らの装備する両手斧を揮う。

 

「でやぁぁぁああっ!」

 

 単発重攻撃【スマッシュ】を唐竹に放ち、ニコラスをノックバックさせた。

 

 クライン一味もそれぞれが役割を果たし、ニコラスのHPバーを削っていく。

 

「ハァァァァアアッ!」

 

 シリカによるOSS──上下からの連続斬りを三回放つ六連撃【レッコウランブ】が極って、ニコラスは残り一本のHPバーが赤く染まった。

 

 ユートが何事かメニューを操作して、ニコラスへの最後の攻撃を仕掛ける。

 

「緒方逸真流──【崩呀尖刀】っっ!」

 

 筋力値と俊敏値を最大限にまで利用し、システム外スキル【オーバーブースト】まで使い、一時に十二回の突きを放ってニコラスのHPバーを全損させた。

 

『うぐ、ゴゴゴゴッッ……メリィィィィ・クリスマァァァァァァスゥゥ!』

 

 断末魔こ叫びを上げて、【背教者ニコラス】は爆発四散し、蒼白いポリゴン片へと還ってしまう。

 

 暫くの静寂……

 

「や、やったぁぁあっ!」

 

 サチの喜びの声に漸く、三十分にも及ぶニコラスとの戦いが終わった事を自覚して、【オーバーブースト】の疲労からユートは雪の布団に座り込む。

 

「ふぃぃ!」

 

 一息吐いて、リザルトメニューを見てみると流石はサンタクロースの姿が伊達ではないのか、沢山のアイテムがメニュー内を埋め尽くしていた。

 

 結晶系アイテムや金属鋳塊(インゴット)系アイテムに素材や換金アイテムに、そして──【還魂の聖晶石】という如何にも死者蘇生っぽい名前のアイテム。

 

「だぁぁぁあっ! 此方はドロップしてねーっっ! キリトよぅ、オメーの方はどうだ?」

 

「いや、此方も無いな」

 

 クラインとキリトが確認をし合っている。

 

「ユート、どう? 私達もドロップしてないんだ」

 

 サチとシリカが近付いてサチが訊ねて来た。

 

「あったよ、【還魂の聖晶石】……これだろうね」

 

 その言葉に全員がユートに注目する。

 

 メニューを操作すると、オブジェクト化してアイテムの説明文を読む。

 

「何々? 『プレイヤーのHPが0になって十秒以内にプレイヤー名+アイテム名と叫べば蘇生する』……十秒、確か死んでからアバターが四散するまでの時間だったな。つまり、脳味噌がチンされるまでに使えって事か? 今までに死んだ人間には使えない……か」

 

 其処まで都合の良い物ではないが、いざという時の保険程度にはなりそうだ。

 

「初めっからデスゲームを目論んでいた筈だからな、アイテムのこれは手に入る時期を鑑みて、説明文なんか変更無しだろう。逆説的にだけどね」

 

「そうなんですねぇ」

 

 少し残念そうなシリカ。

 

 このアイテムの説明文、ある意味でこれがデスゲームの証明とも云える。

 

 まあ、この場のメンバーは基本的にはデスゲームが本物だと、ユートから聞かされて知っているが……

 

「この先で万が一の保険に使うか、それともプレイヤーに高値で売るか……」

 

 アイテムはドロップした者が手に入れる。

 

 どうするかはパーティやギルドではなく、ユートが個人で判断して良い。

 

 そういう取り決めだ。

 

「よー、終わったんだし、さっさと帰ろうぜ。俺ゃ、腹減っちまったぜ」

 

 クラインがぼやく。

 

 【還魂の聖晶石】こそ手に入らなかったが、それなりに良いアイテムをドロップして機嫌は良い。

 

「そうだなぁ、クリスマスケーキも用意しているし、帰ってニコラス討伐記念&クリスマスパーティーでもやるか!」

 

『『『『応!』』』』

 

 こうして一つのイベントクエストが終わった。

 

 

.




 戦闘はピックアップ型だから短い……



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