ソードアート・オンライン【魔を滅する転生剣】   作:月乃杜

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第3話:Not ソードスキル

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「此処は……」

 

「転移門前広場。ログインの時に始めに訪れた場所だろうね」

 

 誰に言うでもなかったのであろうシリカの呟きに、ユートは律儀にも回答をしてやる。

 

 第一層フロアの最北端にある迷宮区に居た筈だが、先程の転移によって【はじまりの街】に戻されたという事であろう。

 

 走って行くだけでそれなりに時間を掛けたのだが、転移であっという間に戻されては脱力感に襲われる。

 

 実際、ユートとシリカは迷宮区に行く際に、フィールドでポップしたモンスターを斃して一つレベルを上げていた。

 

「けど、どうして?」

 

「流石にそれは判らない。オープニングイベントでもする気なのか?」

 

 よくよく見れば、下手をするとプレイヤー全員が集まっているのでは? そう思わせる人数だ。

 

 歩いていると、どうにも無視出来ない会話がチラホラと耳に入ってくる。

 

「ログアウトが出来ない、どうなってんだ?」

 

「GM出てこい!」

 

 騒ぐプレイヤーの怨嗟の如く声は、シリカを不安にさせるのに充分であった。

 

 ユートの服の裾を握り、辺りを見回している。

 

「シリカ、不安なら手を繋いでいようか?」

 

「あ……はい!」

 

 何が起きたのか、起きるのかも判らない状況下で、決して独りではないという証の様に、ユートはシリカの手を繋ぐ。その温もりを感じて、やっと少しだけでも小さな胸を撫で下ろす。

 

 そんな2人を嘲笑うかの如く、空に血の様に真紅のフォントで文字が浮かぶ。

 

【Warning】

 

【System Announcement】

 

 この英文が、交互に表示されていた。

 

「ワーニング? システムアナウンスメント? 運営が言い訳でもする気か?」

 

 ログアウト出来ないと言っていたが、若しかしたらシステムの不具合……バグでも発生したのかも知れないと考えたユート、たけど事態はそんな簡単なモノでは無いと実感させるには、充分だと云えるもの。

 

 パターン化された真紅の空から、まるで血液の様な塊がヌルリと落ち、それがローブを纏う人型を執る。

 

 ローブにフードと魔導師の様な姿だが、フードには中身──顔が無い。

 

 ユートは所謂、ニュービーというヤツであり、知識も全く無いからあの赤い色のローブがGMなのか何なのか理解が出来なかった。

 

 その赤ローブは高らかに宣言するのだ……

 

「プレイヤーの諸君、私の世界へようこそ」

 

 私の世界と言った。

 

 彼がGM(ゲームマスター)だと云うなら、確かにこのソードアート・オンラインのアインクラッドに於いては、正に神の如く存在とも云えるから、その言葉の意味には沿うだろうが、赤ローブは更に信じ難い事を宣ってくれる。

 

「私の名前は茅場晶彦……今やこの世界をコントロール出来る唯一の人間だ」

 

 と言われても、ユートには茅場晶彦の知識が微塵も無いので、コメントなどはしようがない。

 

 判るのは、彼がGMとしてこのソードアート・オンラインを支配出来る権限を持つ事と、彼がゲームデザイナーだという事くらい。

 

 茅場晶彦は、この世界のルールを伝えてきた。

 

 先ず、彼の目的は世界の完成にあり、故に目的は既に果たされたらしい。

 

 ログアウトボタンは消滅しており、プレイヤー達はログアウトによるゲームの脱出は不可能。

 

 試しにメニューを呼び出してみると、確かに少し前──15:20頃には存在していた筈の、ログアウトボタンが見当たらない。

 

 そしてこれは、動作不良などのバグではなくソードアート・オンラインの正式サービスの仕様らしい。

 

 初めからこの心算だったという事だ。

 

 更には、外部からナーヴギアの停止も有り得ない。

 

 万が一にもナーヴギアの強制的な停止などが為された場合、本体の信号素子から発するマイクロ波により脳を破壊すると言う。

 

  高出力バッテリーセルを内蔵したナーヴギアは、それが可能である。

 

 茅場晶彦は言う、具体的には10分間の外部電源の遮断、2時間に亘るネットワークからの回線の切断、ナーヴギアへの過度な干渉の試み……これらを行った場合に脳破壊が実行に移される様だ。

 

 そしてこの事は各種メディアを通じて通告をしてあるが、既に213人のプレイヤーがアインクラッドからも現実からも永久に退場……端的に言えば死んでいるのだと言った。

 

 プレイヤーがゲームから解放される条件は一つ……アインクラッド最上部たる第百層まで辿り着き所謂、ラスボスを斃してゲームをクリアする事。

 

 ゲームクリアの瞬間に、生き残ったプレイヤー達は全員ログアウト出来る。

 

 茅場晶彦の目的は身代金だとかではなく、飽く迄もこのアインクラッドの完成にあり、それを鑑賞する事であるという。

 

 彼は最後に贈り物をしたから、アイテムストレージを見る様に促す。其処には【手鏡】という見慣れないアイテムが納まっていた。

 

 シリカも意図の判らないアイテムに首を傾げる。

 

「何でしょう、これ?」

 

「さてね、鏡か。取り敢えずは見てみるか」

 

「そうですね」

 

 オブジェクト化すると、2人が手にした【手鏡】が行き成り輝きを放った。

 

「チィ! 何だ?」

 

「キャッ! 眩し……」

 

 光が収まり再び【手鏡】を見てみると、其処には見慣れた顔が……

 

「これは、僕……だと?」

 

 キャラクターメイキングに於いて、ユートは出来得る限り元の自分の姿に似せてアバターを作った心算だったが、どうしたって全く同じにはならなかったが、今現在に【手鏡】に映るのはユート自身の容貌。

 

「はっ! シリカ?」

 

 はたと気付き、シリカの方を見やれば……

 

「あうう、何だったんですか今のは」

 

 全体的には変化が無いのだが、明らかに縮んで髪の色も栗毛色となった少女がユートと繋いだ反対側の手で目を擦っていた。

 

 手が繋がれているという事はつまり、この義妹と同じくらいにしか見えない、ミニマムな少女こそシリカだという事になる。

 

 自身がリアルの容姿になっている訳だから、この姿こそシリカのリアルな容姿なのだろう。

 

 ユートの義妹の様に成長の見込みがまるっきり無い合法ロリでないなら、彼女は小学生か或いは中学校に上がったばかりという事。

 

 漸く視力が回復したのかシリカが此方を見て……

 

「え? だ、誰ですか?」

 

 驚愕と共に叫んだ。

 

「落ち着け、多少は変化しているとはいえ、判らない程には変わってないだろ」

 

「その声、ユートさん?」

 

 そう言って未だに繋がれている手を見て、その温もりが変わらないのを確認、ホッと胸を撫で下ろす。

 

 まあ、仮想体(アバター)に温もりも何も無いが……

 

「【手鏡】で自分を見てみると良い」

 

「……え?」

 

 指摘をされ、慌てて未だ手にした【手鏡】を覗いてみると、髪の毛や瞳の色と身長などが明らかにリアルと同じな自分が映った。

 

「な、何で?」

 

「恐らくはこれが現実だと知らしめす為、アバターをリアルに変化させたんだ」

 

「そ、そんな……」

 

 広場は真の姿を晒したが故に、何処かのコスプレ会場も斯くやだ。

 

 どうやらチュートリアルが終わったらしく、茅場はそう宣言する。

 

「待て、茅場晶彦!」

 

 これは一種の賭けだ。

 

 上手くいけば御慰み程度の事でしかない。

 

「何かね?」

 

 返事をしたという事は、あれがインタラクティブに会話が出来る本人の可能性が高いと踏む。

 

「今の侭だと通常攻撃が弱いんだ。ソードスキル前提だから仕方ないけど、これではゲームとして面白味に欠けるんだよね」

 

「ほう?」

 

「だから、通常攻撃であってもコンボ……連撃を極めたら一撃毎に10%ずつ、ダメージが増えていく様にアップデート出来ない?」

 

「つまり与えるダメージが100なら、コンボを極めると110、120と与えられる様にか?」

 

「そうだよ」

 

 即ち、10回のコンボを極めればダメージが2倍となる訳だ。

 

 茅場晶彦はソードスキルを使う事を前提に、ゲームをデザインした。

 

 それはシステムアシスト無しでは、幾ら何でも戦えないと考えたからに他ならない。だが、この提案をしてきた少年はこう言っているのである。

 

『ソードスキルのシステムアシスト無しで同じ事をしてやる、だから通常攻撃の扱いを佳くしろ』

 

 素直に面白いと思った。

 

 ゲームデザイナーの自分へこの状態で挑戦しよう、そう言うのだから。

 

「良いだろう、システムアシスト無しで何処までやれるか、見せて貰おうか」

 

 賭けには勝った、ゲームをしていて不満に思ったのがソードスキル前提という事だったが、これでユートは十全とはいかない迄も、戦い易くなる。

 

「序でに要望があれば聞くぞ?」

 

「このゲーム、刀は無いのかな?」

 

「条件さえ満たせば使える仕様だが、何故かね?」

 

 どうやら、何らかの方法で出てくるものらしい。

 

「別に、僕の得意な武器は刀だってだけだよ」

 

「ふむ、ならば何か代償を支払えばこの場に限って、使える様にしようか」

 

 興が乗ったのか、デザイナーとしては有り得ない事を宣う。ユートはチャンスを活かすべく言った。

 

「ソードスキルと引き換えに刀を扱うスキルと、初期装備に刀を貰える?」

 

「! それは要するに……このゲームで最大の力たるソードスキルを破棄するという事かね?」

 

「当たり」

 

「クックック……」

 

 茅場晶彦は笑う、余りにも愉快で思わず笑みが零れてしまう。

 

「ハハハハハハハハッ! 良かろう、君のソードスキルを全て消去し、エクストラスキル:刀を与えよう」

 

 ピコン! 何かが変わったらしく、作業を終えた事を示す音が響く。

 

「他の者も、ソードスキルと引き換えに、この処置を施そう……公平にな」

 

 茅場晶彦は言うが、誰も声を上げる者は居ない。

 

 ソードスキルと引き換えてもメリットは無いのだ、当然だろう。そして、今度こそチュートリアルは終了した。

 

 茅場晶彦が消えた後で、ユートは混乱する転移門広場からシリカを連れて直ぐに離れる。

 

「私達、どうなっちゃうんでしょうか?」

 

「さてね、茅場晶彦という名の神が思う通りだろ」

 

 涙ぐむシリカに、ユートも元気付けたい処ではあったが、流石に現状では大した慰めも出来ない。

 

 そういえば、何だか茶髪の少女がヘタリ込んでいたみたいだが、あの娘は大丈夫なのだろうか?

 

 また逢う事があったら、今度は声でも掛けてみようと思った。勿論、変な意味ではなくてだ。

 

 ユートには茅場の目的は未だに判らないが兎に角、早目早目に強くならねばなるまい、シリカを引っ張りながらプランを考える。

 

 この手のゲームは謂わばリソースの奪い合い、早く良いポジションを得なければ出遅れてしまうのだ。

 

「あれは!」

 

 黒髪の少年、桐ヶ谷和人が赤毛にバンダナの男と話しをしていた。

 

「キリト!」

 

「ユート!?」

 

 こうして、取り敢えずはキリトとの合流は果たされた訳だが、どうにもこんな事態では素直に喜べない。

 

 故に、合流と同時に溜息を吐くのであった。

 

 

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 本当は時限式の録音みたいなモノかも知れないし、有り得ない可能性もあるけどインタラクティブに話せたという事で……


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