ソードアート・オンライン【魔を滅する転生剣】   作:月乃杜

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 書き直し乱舞……





第37話:最速で最短で

.

 第七四層。

 

 ユートは単身で迷宮区の探索をしていた。

 

 偶には一人で心行くまでMobの虐殺を……という訳ではないが、経験値稼ぎや迷宮区の攻略も兼ねているのは間違いない。

 

「うりゃりゃりゃりゃ!」

 

 現れたMob現れたMobを引き連れ、集めてから一気に撃破をしていく様はMobの大量虐殺者と呼ばれそうな勢いである。

 

 ピチュン!

 

「あれ?」

 

 斃したMobの中に見知りながら、今まで斃した覚えの無い薄い茶灰色な兎の姿を見付けた。

 

 知識的には存在するが、確かに出逢った記憶は無いから斃していない筈。

 

 リザルト画面に表れていたのは【ラグー・ラビットの肉】であり、【ラグー・ラビットの爪】だ。

 

「ラグー・ラビットか……しかもS級食材ドロップ」

 

 【ラグー・ラビットの爪】の価値は知らないけど、コイツの肉はS級食材だけあり高価且つ美味いとか。

 

 そんな噂が階層解放時、何故か行き成り情報が出回ったのを覚えている。

 

「さて、前は取っていたが使わないから捨てたよな。料理のスキルって……」

 

 取った事はあるのだが、ユートはそもそも家事炊事が好きではない。

 

 というより、二〇歳までの一八年間は家で母親から面倒を見て貰い、以後での二年間の死ぬまでには白亜を始めとする緒方の女の子が何故か――今は理由も知っているけど――面倒を見てくれていたから基本的に家事は出来るが、やった事など数える程度。

 

 二度目の人生、ハルケギニア時代は貴族様に生まれたから、メイドさんが家の事はしてくれていた。

 

 現在、やはりシエスタに頼ったり木乃香に頼ったりなど、家事をしていない。

 

 結果として、家事をやらない男になってしまった。

 

 好きではないから他者に任せる訳で、そういう意味では献身的なシエスタとかアーシアとか、内助の功的な万里谷裕理とか、或いは酒場の娘だったジェシカだとかは丁度良い人材だ。

 

 結局料理スキルも殆んど上げない侭、違うスキルに取って変わられてしまうから何とも云えないし。

 

 まあ、この世界というかSAO内でも料理スキル持ちも何人か居て、ユートが美味しいものを食べたい時はそんな人物に頼む。

 

「そういや、サチが料理をコンプリートしたとか言っていたな。アスナと色々な研究もしていたし」

 

 勿論、アスナもスキルはコンプリート済みらしい。

 

 因みに、シュル・シャガナ――というか調だけど、実は料理スキルを取っているのだと聞いた。

 

 尤も、大した熟練度ではないから【ラグー・ラビットの肉】も無駄にしてしまうだろう。

 

「折角だしサチに料理して貰うか」

 

 コルや武装には困っていないし、売って新しい武器や防具を買う必要性も無かったユートは、普通に食べるという選択肢となる。

 

「うーん、もう一つ二つも有ればギルドホームで皆を集めてパーティーとか良さそうだけどな」

 

 とはいえ、元が小さな兎の肉なのだから二〜三匹分でもパーティーには足らないだろうし、メインにするにしても他の食材など集めての大掛かりなパーティーになるだろうが……

 

「よし、捜すか!」

 

 ラグーラビットもう一度とばかりに捜し歩き始め、幸運というか豪運で二匹目を狩り、肉もゲットしてしまうユートであった。

 

 但し、時間は掛かったりしたのだが……

 

 第五〇層 主街区【アルゲード】に降りたユート、自分のホームが第二二層なのだから、場所的には中間に位置している。

 

 少し大きめの建物に入ると其処にはユートみたいな黒ずくめ――酒の名前とかアバターネームにしてないけど――の少年が、褐色肌にガチムチなスキンヘッドの男と何やら話し込んでいる様子だ。

 

「よう、キリトにエギル」

 

「応、ユートか」

 

「よう、いらっしゃい」

 

 それぞれがユートを認識して挨拶を口にする。

 

「珍しいな、一人か?」

 

「僕だって常に誰かを連れ回してないよ、エギル」

 

「いや、あんたの場合だと常に色んな女を連れているイメージだぜ?」

 

「な、んだと……!?」

 

 エギルの言葉には色々と驚愕のユートであった。

 

「で、ユートはまたこの店に何の用だ? アンタ謹製の武具の売却なら勿論だが歓迎するぜ」

 

 ユートが打った武具――それはとても素晴らしい、現最大階層より遥かに高い性能を持たされたモノ。

 

 唯のロングソードにしか見えない剣を一つ見ても、例えば階層相当なモノなら切れ味が一〇〇〇だったとして、ユートが打ったモノなら二五〇〇だったとしてもおかしくない。

 

 そんな武具ならば多少は高値でも買う、何しろ事は生命に直結するのだから。

 

 SAO内で死んだなら、脳をまるで電子レンジにてチンッ! するみたいに焼かれてしまい、その生命を現実世界(リアルワールド)からもログアウトされる。

 

 とはいえ、ユートにだって予定は幾らでも在るし、武器や防具ばかりを打つ訳にもいかないのだ。

 

 何故ならユート本人こそ攻略組の最前線で、本当の意味でのトッププレイヤーというやつだからである。

 

 未だに誰も到達してないレベル一〇〇越え、これを唯一達成しているが故に。

 

 まあ、キリトやシリカやアスナ辺りはそろそろ達成に近付いているが……

 

 タイタンズ・ハンドとの戦闘から実に、レベル的に八を越えて上がっている。

 

 尚、タイタンズ・ハンドを潰した際に持っていた刀――羅刹王は今現在であれば【SGS】の刀使いへと譲渡され、今でも現役として活躍中だとか。

 

 ユートが懇意にしている攻略組の一角、団長であるエリスに渡した後で刀を扱うプレイヤーに渡された。

 

 早い内に更新しており、現在の【景光】までで既に二回は更新している訳で、前回の【兼光】はクラインに売却、前々回の【一文字】はエギルに売っている。

 

 それに【景光】にしてもいずれ新たな武器を打ったならば、また誰かしら譲渡をする事になるだろう。

 

 とはいえ、この【景光】とは可成りの高性能だから今暫くは使い続ける筈。

 

 第一、まだ【村正】だとか【正宗】だとかを打てる素材も無いし。

 

「取り敢えず幾つか数打ちを持って来てるよ」

 

「おお! 数打ちとか言っても性能は折紙付きだぜ。問題はねーよ!」

 

 現在の最前線たる七四層では、魔剣レベルですらも今のユートが持ち合わせる数打ちにすら及ばない。

 

 匹敵するのはキリトが持つ二振り――【エリュシデータ+40】と【ダークリパルサー+40】くらい。

 

 それにしたって+をこれだけ付けたリズベットの腕が良かったのと、最大試行限度数50の武器その物の性能が在るからだし。

 

 数個の武器と二個の防具を渡すと、エギルはスキルの【鑑定】で性能を視てから『ヒューッ』と口笛を吹きながら少し呆れた。

 

「ほんっと、相変わらずの高性能な武具だぜ。数打ちの癖に最前線クラスを越えるって何だよ?」

 

 販売の情報が流れたら、その瞬間には売り切れるとか最早、人気アイドルとかのライブチケット並な売れ筋となっているらしい。

 

 基本的にエギルへと売却をした場合だと、総売上の三〇%がユートに支払われてお題となる。

 

 一二〇〇〇〇〇〇コルだったなら、三六〇〇〇〇〇コルがユートの懐な訳だ。

 

 エギルとの話し合いで、ユートの武具の分け前による内訳は――ユートが三〇%でエギルが四〇%を手にして、残りの三〇%は中層クラスのプレイヤーを鍛えるのに使っていると云う。

 

 だからこんな内訳で納得をしたのである。

 

 エギルのやる事を知った者の中で口さがない奴は、大金を投じてそんな連中を鍛える意味が無いと批判していたが、デッド・オア・アライブな世界で生き残る為の投資だと理解をして、エギルを少しだけだが手伝っているのだ。

 

『まあ、偽善かもだけど』

 

 とか宣ったら……

 

『偽善者と吐いた言葉は合っているの?』

 

 紅い刃が口ずさみつつ、蹲っていたけど……

 

 まあ、ぶっちゃけてこの恩恵はSGSも受けているのだと、エリスからも聞いていたからこそ手伝っているのだと考えると。

 

 実は意外な人物が恩恵を受けている事は、ユートも知らない事実だったり。

 

「それとだな……そろそろ最後のクォーターポイントの七五層になるだろ?」

 

「……だな」

 

 エギルだけでなくキリトも難しい表情となるのは、最初のクォーターポイントの二五層、次のクォーターポイントの五〇層と犠牲者も結構、出したポイントとなっているからだ。

 

 概算で二五層分は実力が上のボス、普通じゃあない性能でプレイヤーを殺す。

 

「その前にパーティーでも開かないか?」

 

「パーティーだと?」

 

「場所は、グランザムでも此処――アルゲードでも構わないんだが、折角なんだし知り合いを集めてやってみないか?」

 

「まあ、士気は高まるか」

 

「だろう?」

 

「けど、パーティーするなら料理は……」

 

「ウチのギルドのサチが、【KoB】のアスナと一緒に料理スキルをコンプしたって云うし、任せるのが吉だと思うんだ。メインディッシュには僕がS級食材を提供しよう」

 

「――え?」

 

 何故かキリトが反応。

 

「どうした、キリト?」

 

「う、それは……」

 

 様子がおかしいキリト、問い詰めてゲロさせた。

 

 何と、キリトもユートと同じくS級食材の【ラグー・ラビットの肉】を手に入れていたらしい。

 

 当然、提供をさせた。

 

「トホホ……売ろうかと思ってたのにな」

 

 ガックリと項垂れた。

 

「食えば良いだろうに? S級だけあって、味覚再生エンジンに最高の旨味を与えてくれるだろうし、今は三つも有るけど本来ならば滅多矢鱈と手に入らないんだからさ」

 

「そりゃそうだが……」

 

「ウチのサチと、それからアスナにもシェフ役を頼んでクォーターポイント前のパーティーだ。【風林火山】や【SGS】や【KoB】からも知り合いを呼ぶ。ディアベルも呼ぼうか」

 

「けどよ、パーティーは良いけど流石に三つだけじゃ足りなくないか?」

 

 ラグー・ラビットの肉が三つもあるとは言っても、大勢を呼べば幾ら何でも足りないだろうと心配をするエギルだったが、ユートもそれは考えている。

 

「ラグー・ラビットの【ラグー】って煮込むって意味なんだが、三つ共をシチューにして出せば良いよ」

 

「シチューなぁ」

 

「それ以外にも食材を持ち寄れば、腹にも溜まるだろうから問題も無いさ」

 

「まあ、それなら確かに」

 

「それなりに人数も集まるからエギル、今から食材を集めてくれないか? 人を使って大々的に。パーティーに参加予定の連中だけで動かせる人数も可成りになるだろう?」

 

「判った、任せろよ」

 

 上手くやれれば美味しい料理が食えるとあっては、エギルとしても張り切りざるを得ない。

 

「キリトはアスナを……」

 

 カランコロン。

 

 言っているとアスナが、護衛らしき長身に額が広く不健康そうな顔をした男と共に入ってきた。

 

「アスナ!」

 

「久し振りねキリト君……ユート君も。前回の攻略戦以来かしら?」

 

「そうだね」

 

「エギルさんもお久し振りになりますね」

 

「俺は前回、攻略には出ていないからな」

 

 エギルは商売を兼任している為、必ずしも攻略戦に参加する訳ではない。

 

 前回も丁度、急ぎの用事が出来たから攻略に参加をしていなかったのだ。

 

 そうなると、一ヶ月くらい会わないなんてざらにもなってしまう。

 

 そんな風に楽しく会話をしていると、護衛らしき男が睨み付けてきた。

 

 まあ、知った事でもないからユートは完全無視を決め込んでいる。

 

 少なくとも口出ししてくりまでは、自分から関わりたいとも思えなかったし。

 

「アスナ、丁度良かった。今さっき連絡をしようと思っていたんだよ」

 

「え、連絡って?」

 

「実はクォーターポイント前の懇親パーティーを開こうと思ってね、アスナにはコックとして動いて欲しかったんだ。ウチのサチとは料理仲間なんだろ?」

 

「へぇ、パーティーかぁ」

 

「ああ、主だった攻略組で第七五層に向かう連中と、【ZoG】と【レリック】の主催でさ。良い食材が手に入ったからね」

 

「良いわよ。それじゃあ、連絡網はどうするの?」

 

「攻略組の主だったギルドはアスナに任せる。此方は親交の深い【風林火山】や【SGS】に声を掛ける」

 

「ん、了解」

 

 一時期に比べて仲は良くなった方か、アスナも此方へにこやかに応じた。

 

 攻略の鬼とサボリ魔では仲違いも已むを得ないが、ユートのサボリがラフコフを捜す為のもの、延いてはレッドの駆逐をして攻略を進め易くする為だと理解を示し、アスナの態度も改まったという訳だ。

 

 まあ、ラフコフとの決着が着いてから関係に変化が起きたのはアスナだけではなく、未来との関係が+に動いていたし響はその未来に引っ張られて、訳も解らない侭に朝チュンしてしまって以来、割と積極的――ハマったらしい――に関係をしていたりする。

 

 基本は三人で……だ。

 

 それは兎も角、アスナは二つ返事で了承をしたが、それが不服だという人間も居たりする。

 

「アスナ様!」

 

「……クラディール、いったい何ですか?」

 

 クラディールと呼ばれた【KoB】団員らしき男、神経質なのか表情が歪んでいる辺り気色が悪い。

 

 ユートの見立てでは偏見も込み込みではあるけど、【血盟騎士団】よりも寧ろオンラインギルドの方こそお似合いだろうと考える。

 

 こいつの気配……それはあのPoHに比べるべくもないが、ラフコフのモブ共――名前を知らないプレイヤー――と似たネチャつく汚ならしいものだった。

 

「いつも私が言っていますでしょう、あの様な得体の知れない連中と付き合うのはお止め下さいと!」

 

「プッ!」

 

 アスナが真っ赤になって怒る前に、ユートが思わずといった感じに吹き出す。

 

「な、何がおかしい?」

 

「いやいや、ロールプレイ乙……ってねぇ?」

 

「なっ!?」

 

 寧ろ、アスナではなくてクラディールが真っ赤になって怒りを露わにした。

 

 全然、萌えないけど。

 

「得体の知れないってさ、此処が何処だか理解しての言葉だろうな?」

 

「SAOだろう、それが何だと云うんだ!?」

 

 苛立たし気なクラディールだが、ユートからの問いに律儀な回答をする。

 

「そう、SAOだ。そしてこのゲームはVRといった要素を抜いても、MMOと呼ばれるジャンルだな?」

 

「それがどうした!?」

 

「MMORPGとはつまりネットワーク上で不特定多数がプレイするゲームで、簡単に言えば僕やキリトやエギルは疎か、アスナにせよお前にせよ誰しもが正体の判らない誰かなんだよ」

 

「っ!?」

 

 そろそろ言いたい事が解ってきたのか、クラディールが目を見開きながら睨み付けてきた。

 

「とはいえ、僕はそもそもキリトとはリアルな知り合いだし、それ処かキリトの家でログインしたからね。それにエギルもリアルネームも含めて知っているし、アスナもそれは同じだな。寧ろ僕からすればこの場に於いて、不審者は何処の誰とも知れないお前なんだよクラディールとやら」

 

「き、貴様ぁぁっ!」

 

 不審者呼ばわりに怒る。

 

 アスナはといえばやはり素性がもろバレな辺りで、どうしても口元が引き攣ってしまう。

 

 エギルの場合は話してあるのもそうだが、ポッドを格安で使わせて貰えているから澄まし顔だ。

 

 行く度に奥さんの淹れた珈琲に、軽食を食べさせて貰う約束を取り付けている訳だから。

 

 使っている間中だから、SAOをクリアするまでは奢りで一食という。

 

 キリトの場合実質的に、一緒にプレイをしているのだからしたり顔だ。

 

「序でだから訊くんだが、アスナ……」

 

「何かしら?」

 

「クラディールとやらは、ストーカーか?」

 

「いえ、一応は護衛よ」

 

 まあ、憑かれているにも等しいからストーカーというなも強ち間違いでなく、だからアスナも――一応と付けていたり。

 

「フッ、護衛対象より弱い護衛とか」

 

 ビキリ! クラディールの額に青筋が浮かぶ。

 

「何が言いたい貴様!」

 

「別に……クラディールのレベルは?」

 

 笑いながら〝アスナ〟に訊ねるユート。

 

「確か、七二よ」

 

「へぇ? 六十台くらいかと思ったが……」

 

 ちょっと吃驚。

 

「で、アスナは?」

 

「九三ね」

 

「だろうな。僕の周囲から無茶と言われるレベリングに幾度と無く付き合ってきたからね。そのくらいにはなっているだろう」

 

 最早、クラディールの顔は蛸にも似た赤さ。

 

 攻略組の上位プレイヤーは既に九十台。

 

 低くとも八十台後半にはなっているのだ。

 

「己れぇ」

 

 プライドだけは一人前、既にクラディールの怒りは絶頂だった。

 

「決闘だ! この私が……アスナ様の護衛だと判らせてくれるわ!」

 

 怒鳴り散らすかの如く、クラディールがデュエルを申し込んできた。

 

 そんな彼を、ユートだけではなくアスナもキリトもエギルまで、呆然と見つめてしまうのは無理もない。

 

 ユートは意外とデュエル経験が無かった。

 

 理由はユートのデュエルの仕方にあり……

 

「良いだろう」

 

 ユートの方がデュエルを申し込む形で、クラディールの方にウィンドウが開かれたのだが、其処にあった表示にギョッとなる。

 

「完全決着だと!?」

 

 デュエルには三種類存在する――初撃決着、半減決着、完全決着だ。

 

 初撃決着モードは最初にダメージを与えた方が勝者となり、半減決着モードは相手にHPの半分までダメージをあたえたら勝利。

 

 そして完全決着モードは言わずもがな、相手のHPを全損させたら勝利だ。

 

 SAOは現状、デスゲームだからこの完全決着モードは使われない。

 

 決着する=どちらかの死なのだから当然だろう。

 

 そして、ユートは挑まれたデュエルは基本的にこの完全決着モードでのみ行う事から、デュエルを申し込むプレイヤーが居ない。

 

 ギルドの発足した当初、綺麗所な少女が多く所属するというやっかみからか、デュエルを挑む莫迦も多く居たのだが、ユートが完全決着モードのみしかしないから軈て、デュエルは申し込まなくなった。

 

 デュエル自体は行われていたが、基本的にもう一つの決着で終わる。

 

 つまりはリザイン。

 

 誰だってデスゲーム中にHP全損は嫌だろうし。

 

「愉しい愉しいデュエル、さぁ……始めようか」

 

「うっ!?」

 

 YESを押せばデュエルが始まる。

 

 だが、クラディールには躊躇いがあった。

 

 やはり、全損での決着はやりたくないのだろう。

 

「くっ!」

 

「因みに……私のレベルは百越えです」

 

 ビクッ!

 

 何処ぞの宇宙の帝王様が自分の戦闘力を自慢するかの如く、ユートは自らの持つ今のレベルを軽く明かしてみせた。

 

「どうした? 自分から申し込んだデュエルだろう。それとも……逃げるか?」

 

「誰が!」

 

 その挑発に乗ったのか、クラディールはYESを押してしまう。

 

 余りにも莫迦だった。

 

 デュエルの成立により、二人は武器を出す。

 

 クラディールは大剣を手に取っており、ユートはといえば当然ながらも刀――である。

 

 クラディールの大剣とて一線級の武器なのだろう、だがユートの【景光】であれば一線級処の話では決してなく、武器の格ですらも激しく負けていた。

 

 【景光】でさえ……だ。

 

「き、貴様? その刀は……いったい何なんだ!」

 

「【正宗】だ。影打ちに過ぎないけどな」

 

 満足がいかないから未だに影打ちがやっとだけど、実は一応【正宗】の名前を持つ刀が存在する。

 

 その威力は満足いかないまでも【景光】を越えて、間違いなく現SAOに於ける最強の刀。

 

 待機時間の六〇秒が経過して、デュエルスタートのウィンドウが出現。

 

 瞬間、ユートのスピードは有り得ないものとなり、【正宗・影打ち】の切っ先がクラディールの首元に突き付けられて……

 

 斬!

 

「ウギャァァァッ!」

 

 血を撒き散らすエフェクトが上がり、悲鳴を上げてのた打ち回るクラディールの姿が見える。

 

「ああ、やっぱり」

 

 アスナが頭を抱えた。

 

 通常、痛みはペインアブソーバにより斬られたとしても不快感を受ける程度、だけどユートがクエストで獲たアクセサリーを使う事により、そのシステムすら越えてダメージを与える。

 

 システム権限アイテム、通常のゲームにもある程度は存在しているモノ。

 

 ユートの持つアイテムは度を越しているが……

 

 茅場晶彦が何を思って作ったアイテムか解らない、だけどこれは正に血闘の為のアイテムだった。

 

 ペインアブソーバを越えて痛みを与えるが、それは装備者たるユートにも適用されるから、ユートが装備中にダメージを受けたなら当然、リアルな痛みを受ける事となるのだから。

 

 

「どうした? デュエルの最中なんだから立てよ」

 

 チャキッ! 【正宗・影打ち】をこれ見よがしに突き付けて言う。

 

「アギャァァァッ!」

 

 然しながらクラディールは絶叫を上げ、無様に転げ回るのみだった。

 

「チッ、面白くも無いな」

 

 ザクッ!

 

「ギィィィィィッ!」

 

 太股に刃を突き刺され、クラディールは悲鳴にもならない悲鳴を上げる。

 

「HPはレッドゾーンか。僅か手加減の二撃でこれとはね、弱いなこの自称護衛さんは……」

 

 尚、突き刺した侭な為に継続ダメージが入り続け、ジワジワとHPバーが減り続けていた。

 

「そこまでよ、ユート君」

 

 ゼロになる前にアスナが止めに入り、ユートも素直に【正宗・影打ち】を引き抜いてやると、クラディールのHP減少が……

 

「嗚呼アア?」

 

 止まらない。

 

 出血のデバフによって、血が流れ続けていると判断されており、その結果としてHPが先程よりはやんわりとだが、確実にHPは減っていくのだ。

 

 圏内でありながらHPが減少するのは、デュエルによるダメージのみ。

 

 圏内で死亡するのなら、それは完全決着モードによるデュエルでのみ。

 

 クラディールは今正に、死に向かって一直線。

 

「ハイポーションだ。死にたくなければ使え」

 

 投げたハイポーションが地面に落ちる。

 

 早く拾わなければこの手の消費アイテムは、寿命が可成り短いから暫く経つと青白いポリゴン片に変わって消滅してしまう。

 

 クラディールは涙を滂沱の如く流しながら、地面のハイポーションを〝取得〟してから使用した。

 

 出血のデバフは消えて、HPバーも少しずつだけど回復し始める。

 

 回復結晶なばらあっという間にHPが回復するが、ポーションの類いは回復に時間が掛かる為、ここまで上層になると余り使われたりはしない。

 

 ユートにしても、これが残り物に過ぎないから与えただけなのだ。

 

「精々、生命の有り難さを痛感するんだな? なあ、ラフコフの残党さん」

 

「「「え?」」」

 

 その場に居たキリト達が目を見開いてクラディールの方を見遣り、ユートの顔を見てから再びクラディールに目を向ける。

 

「こいつの気配、ラフコフの雑魚プレイヤー共と同じ粘ったく気色悪いものだ。間違いなくラフコフ残党、何処かに偽装したギルド印を刻んでる筈だ」

 

 ラフコフのメンバーから尋問した結果、ラフコフのマークは偽装し隠している者が普通のギルドに入り込んでいるケースがあると、それを聞いていた。

 

 それの解除方法も。

 

 案の定、腕に偽装されて隠れていたギルド印が現れており、当然クラディールは黒鉄宮逝きとなった。

 

 後でリアルの身体も確保する様に、SAO対策委員会に伝えねばなるまい。

 

「さて、それじゃ余興も終わったし本題に入ろうか」

 

 最早、リーダーと幹部を喪ったラフコフに求心力は存在しないし、ユートにとって余興でしかなかった。

 

 数日後、素晴らしいまでにパーティーは催される。

 

 S級食材のシチューは、何とか全員に行き渡った訳だけど、やはり美味しいものだったのは云うまでも無い事柄であろう。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 SAOは基本的に六人が一組で最大限のパーティ、ユートはメンバーを募って第七四層の探索に出た。

 

 一パーティの六名で。

 

 ユート、シリカ、サチ、響、未来、キリト。

 

 正確にはパーティメンバーではないアスナも含め、七人での探索だったが……

 

「何でアスナが憑いてきたんだ?」

 

「人を幽霊みたく言わないで欲しいんですけど……」

 

「いや、だってな。キリトに憑いてきたんだろ?」

 

「アスナ……」

 

「キリト君、微妙な表情で見ないでよ!?」

 

 真っ赤なアスナに対し、密かに萌えるキリト。

 

 可成りの美少女なだけに羞恥に朱くなると可愛い。

 

「それにパーティも組まずに来てどうする? そりゃ多少のフォローくらい出来るけど、パーティを組んだ方が戦闘は効率的だって、アスナなら解るだろう?」

 

「だ、大丈夫! そろそろ来てくれる頃だから!」

 

「ギルメンでも呼んでいたのか?」

 

 アスナがソワソワしていたのは、恐らくギルメンか誰かを待っていたのだろうと当たりを付ける。

 

「来たよ」

 

「デース!」

 

 違った。

 

 滅茶苦茶、ユートの方の同盟ギルドメンバーだ。

 

「何をしてるんだ君らは」

 

「ちょっとしたお手伝い」

 

「なのデスよ」

 

 月読 調と暁 切歌に+、何故かササマルとテツオの二人が現れる。

 

「五人パーティか。まあ、フルメンバーじゃないけど危険性は低くなったかな」

 

 ササオとテツマルは流石に一線級とは云えない装備だったが、それでも可成り頑張ったレベルである。

 

 調と切歌はユートから買ったシンフォギア装備で、超一線級のものだけど。

 

 装者だからあってかよく似合っており、誉めてあげたら頬を朱に染めてはにかんできた。

 

「さてと、もうこの七四層の攻略は殆んど済んでる。此処からマッピングされてないこの道、真っ直ぐみたいだけど進めば恐らく」

 

「ボス部屋……か」

 

「ああ」

 

 クォーターポイントではなくとも第七四層であり、強敵なのは間違いない。

 

「それにどんな罠が待ち構えているか」

 

「罠?」

 

「ボス部屋だけにそろそろ結晶無効化エリアとか?」

 

「げっ!」

 

 今まででも単なる部屋に結晶無効化エリアは存在していたし、ボス部屋にとて在っておかしくなかった。

 

「下手したら扉が閉まって出られなくなったりな」

 

『『『『怖っ!』』』』

 

 余りに怖い最悪な想像。

 

 偵察戦すら許されないというのは、つまり情報を得る事すら叶わず戦いに挑まねばならないという事。

 

「兎に角、此処はもう!」

 

「最速で最短で真っ直ぐに一直線に?」

 

「へう!?」

 

 続きを言われてしまった響は真っ赤になる。

 

「所謂、ヒビキッシュだ。最速で! 最短で! 真っ直ぐに! 一直線に! 胸の響きを……この想いを伝える為にぃぃぃぃっっ! ってな具合にね」

 

「はう……」

 

 響の『へいきへっちゃら』のレベルで有名な科白、正しくハートの全部で往く響らしいもの。

 

「ま、確かに一直線だな」

 

 真っ直ぐ一直線な道なりに進むと――

 

「扉!」

 

 鉄の扉が鎮座する。

 

 響はガングニールの手甲をガチガチと鳴らす。

 

「取り敢えず開けようか」

 

 そうしないと始まらない訳で、ユートが扉に手を当てるといつも通り――ギギギギギ! と重苦しいSEを響かせながら扉が開く。

 

 その向こう側は真っ暗な闇の支配する空間。

 

「さあ、何が出てくるか」

 

 足を踏み入れて一歩二歩と進むと――

 

 ボッ! ボッ! ボッ!

 

 部屋には篝火が灯されて闇が開かれた。

 

『グオオオオオオッッ!』

 

「青い……悪魔……?」

 

 アスナが驚く。

 

「ザ・グリーム・アイズ」

 

 ユートが読み上げるのはボスの名前。

 

 その顔は愉しそうだ。

 

 戦闘民族との接触以来、少しばかりユートは戦闘好きになっていた。

 

 だから……

 

『『『『うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!』』』』

 

 ザ・グリーム・アイズの威容に逃げ出した仲間達は目に入らず、手にしている【正宗・影打ち】を振り上げて駆け出した。

 

 

正宗・影打ち:カタナ/両手剣 レンジ:ショート 攻撃力:3500-4000 重さ:100 タイプ:斬撃 耐久値:4600 要求値:90 敏捷性:+100 腕力:+80 防御:+20

 

 

 超超一線級の武器を手に闘うまでである。

 

 

.

 




 漸く原作ラスト近くに。


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