少しずつ書いてはいたのですが、予定にもう少しの部分で詰まってその侭に。
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ザ・グリーム・アイズなる青い悪魔の余りの威容に驚愕し、思わず全員で逃走してしまったキリト達。
「ハァァ、吃驚した」
アスナが大きな溜息を吐いて吐露する。
「あんなんと戦うのか」
とはいえキリトも少しばかり弱気な発言だ。
「驚き桃の木山椒の木……デース!」
「ブリキに狸に洗濯機って……切ちゃん、大巨神でも喚ぶ気なの?」
何故か可〜成〜り古い、何処ぞのアニメの召喚文言を呟いた二人、切歌と調もどうやら少しばかりテンパっているらしい。
「あれ?」
「どうしたの、響?」
「ユート君が居ない……」
『『『『え?』』』』
響の言葉に全員が辺りを見回すと、確かにユートの姿がこの場に無かった。
「ひょっとして……」
「ああ、ですね」
サチとシリカは心当たりがあるらしく呟く。
特にシリカは第一層での最初の最初からパーティを組んだ
「二人共、心当たりが?」
「はい、キリトさん。恐らくは私達が逃走した後で、普通に武器を手にしてボスと対戦を〝楽しんで〟いるんじゃないでしょうか」
「ああ……」
キリトもシリカより遅かったが、それでも第一層からの付き合いだから何と無く理解が出来た。
ユートは戦闘狂ではないと自称するが、間違いなくその気はあるんじゃないかと思えたから。
「はぁ、仕方がない。俺達もパーティを組んでる手前として無視は出来ないな」
「本当は偵察だけの心算だったんだけどなぁ」
諦め気味なキリトと同じくシリカも溜息、他の面子も座り込む前に『行こうか』という雰囲気だが……
「うん?」
はたと気付くキリト。
目の前に趣味の良くないバンダナを着けた野武士、更には数人の男共がやって来たのである。
「クライン!」
「お、キリトじゃねーか。お前も来てたのかよ」
「まあな。そうだ!」
「ん?」
「実は――斯々然々で!」
一気にクラインへ現状を説明するキリト。
「な、何だってぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」
そして内容に驚愕をするクラインは絶叫した。
「あ、あんの莫迦はっ! 一人でボス戦とか、何を考えてやがる!」
「第一〇層でもソロでボス――カガチ・ザ・サムライロードを斃しましたが」
「んな低層のボスとじゃ、強さが違うだろうがよ!」
シリカの呟きにクラインは唾を飛ばす勢いだ。
悪態を吐いてはいるが、基本的に面倒見が良い謂わば兄貴的ポジなクラインなだけに、ユートを心配して叫んでいるのだ。
「んで、雁首揃えてどうする心算なんだ?」
「勿論、行くさ」
「は、流石はキリの字! ならサクサク行こうぜ?」
クラインの激にすっかりやる気を起こし、全員で動こうとしたその時……
「待て、その前にお客さんみたいだぜ」
キリトが先程、クライン達のパーティが現れた方を見遣りながら言う。
現れたのは画一的な鎧兜に身を包む一団。
「ありゃ、軍じゃねーか」
「ああ、【アインクラッド解放軍】――【アインクラッド解放隊】のやり方を温いと言った連中が寄り集まって出来たギルドだな」
【アインクラッド解放隊】――シンカーという人物が興したギルド【MTD】とディアベルの興したギルドが一つになり、規模の大きなギルドへと発展をしたは良かったが、そのやり方に不満を持つ連中が離反して新たに興したギルドというのが【アインクラッド解放軍】で、通称は【軍】。
とはいえ、【軍】はそもそも【アインクラッド解放隊】の理念を掲げながら、その実態は単なる893と何ら変わらない。
しかも任侠とかでなく、単なる暴力団である。
物資などリソースの均等化と分配、共産主義みたいな理念を掲げているけど、最近では何の権限も持たない癖に【はじまりの街】で税金を徴収、これを払わなければ嫌がらせに
最終的には暴力にも訴える始末で、当然ながら二つのギルドは仲が悪かった。
しかも今は碌な戦力にもならない連中が、何故だかこんな最前線まで来る。
「全隊、停まれ!」
一番前の偉そうな奴が、隊に号令を掛けると一斉に足を停めた。
皆が疲れ気味らしくて、草臥れた息を吐いている。
何と云おうか温度差が激しすぎるきらいがあって、先頭の部隊長らしい指揮者のオッサンはテンションがフォルテッシモなのだが、部隊員は勘弁してくれと謂わんばかりだ。
「私は【アインクラッド解放軍】のコーバッツ中佐」
「キリト――ギルド【ZoG】の副団長だ」
代表として互いに名乗り合うキリトとコーバッツ。
中佐なんて名乗ったが、勿論の事ながらそんな階級のシステムは存在しない。
ディアベルの――『気持ち的にナイトやってます』みたいな自称である。
「君達はこの先も攻略はしているのか?」
「ああ、ボス部屋まで既にマッピングもしてある」
「ふむ、ではそのマップデータを提供して貰おう」
余りに横柄でしかも横暴な物言い。
「んなっ! タダで提供しろだと? てめえ、マッピングする苦労ってのを解って言ってんのか!?」
そんなコーバッツにキレたのはクラインだ。
「我々は情報と資源を平等に分配し、秩序を維持するのと共にぃ! 一刻も早くこの世界から全プレイヤーを解放する為に戦っているのだ! 故に、我々に諸君らが協力するのは当然の義務であるっ!」
激昂するクラインに対しコーバッツも、そのダミ声を張り上げて叫んだ。
「よせ、クライン。どうせ街に戻ったら公開する心算のデータ、構わないよ」
「おいおい、キリトよぅ……そりゃ人が好過ぎるぜ」
「別にマップデータで商売する気は無いさ。ユートもそうやる心算だしな」
キリトは答えながらも、マップデータをコーバッツの方へ送信する。
「協力を感謝する」
協力を当然と主張してるコーバッツであるだけに、とても感謝には程遠い声色であったと云う。
正直、【軍】に協力する謂われはなかったのだが、意味も無く対立するというのも莫迦らしいとキリトは考え、大人しく自分の持つマップデータを渡した。
マップデータを手にしたコーバッツは、部下を叱り付けながら行ってしまう。
「キリトよぉ、あいつらはボスに挑む気か?」
「判らないな。とはいえ、ボス部屋にはユートが居る筈だから滅多な事は起きないだろうさ」
クラインの言葉にキリトは返答をした。
「あ、急がないとユート君が危ないよ!」
響が言う。
「大丈夫だろ。ソロであっても時間は掛かるが戦えるユートだ。死んだりはしないと思うし」
そこら辺は信頼しているキリト、兎に角コーバッツ達を追い掛ける形で一同は再びボス部屋へと向かう。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ザ・グリーム・アイズ――青い悪魔が猛威を振るう中で、ユートは笑みを浮かべながら闘っていた。
コンボを極めてダメージを増すプログラムは確りと働いており、十発も剣撃を入れると元の倍にダメージが増えている。
例えば最初のダメージが一〇だったなら、十発目には二〇になっている訳だ。
勿論、その間に一割二割と増していくダメージ蓄積もあるから、十発目を喰らわせた頃にはもっとダメージを入れていた。
ザ・グリーム・アイズのの攻撃に関しては、向こうがソードスキルだった場合は受け流し、通常攻撃なら受け止めつつも脇へ逸らしてからダメージを入れに動くという、いつもの通りの闘いを愉しんでいる。
仲間が居ないから出来る完全にソロ専用の闘い。
自分の身を担保にして、生と死の狭間にて思う夢は一つだけ……
「ねばぁぎぶあっぷ・ふぁいてぃんぐ!」
ソードスキルが売りであるSAOで、自らのそれを無くしてまで欲した刀。
疾っくの疾うに熟練度は一〇〇〇に達し、これ以上は無い到達点を極めた。
元々がEXスキルな為、条件解放で刀スキルを獲たクラインなどは、未まだに五〇〇を越えたくらいだと聞いている。
因みに、解放の為の条件は曲刀スキルを一定以上に上げる事らしい。
ユートの場合はデスゲームが始まった最初っから、このEXスキルを手にしているからこその熟練度。
尚、熟練度を幾ら上げてもソードスキルは覚えないのだが、熟練度の向上とは武器を扱う技能が上がっているという事で、システムの上で命中率やダメージに補正が入るから、熟練度の上昇は決して無駄ではないという話だ。
「甘い!」
ザ・グリーム・アイズの大剣用ソードスキルが発動をするが、ユートはそれを無理せず刀――正宗で受けると、直ぐ様に身体の打点ずらして躱すと大剣自体はその侭、地面に向かう様に誘導をしてやる。
基本的にソードスキルを通常の攻撃では防いだり、パリィみたいに跳ね上げたりといった行動は不可能。
それだけソードスキルは茅場晶彦により優遇され、だからこそ強力なる必殺技足り得るのだ。
ソードスキルを防御するならソードスキルが一番、それがこのSAOをプレイする者の常識。
それ以外は最早、何とか避けてHPの損耗を少しでも減らすしか無い。
まともに受けた日には、グリーンゾーンから一気にイエローになりかねなかったし、下手をしたらレッドゾーンにまで下がる危険性も有り得た。
事実、ユートが識らない原典ではディアベルを簡単に殺していたし。
一番恐いのが即死攻撃を受ける事だろう。
受けたが最後、満タンであってもHPバーは全損をしてしまうのだから。
とはいえ、ソードスキルを受ける方法がソードスキルしか無い訳でもない。
実際、吹き飛ばされてしまいノックバックとすらも云えないレベルで壁にぶつかるが、剣を盾代わりにして直接的なダメージを受けなかったりもする。
そこら辺が現実とも変わらないのは、茅場晶彦の拘りなのかも知れなかった。
その拘りがユートとしても助かるというか、お陰で物理法則なんかを利用して防御などを行える。
ゲームとはいえHPが無くなれば真実、死んでしまうデスゲームであるが故にユートはギリギリの限界を見極め、生命の力を感じる事で闘士としての勘を働かせる事が出来た。
だけど愉しい時間を邪魔する者は居るもので……
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
キリトやアスナ達が軍に遅れてボス部屋にまで戻ってみれば、入口で背中を預けながら腕組みをして部屋を視ているユートの姿。
「ユート君!」
アスナが声を掛けると、つまらなそうな顔で振り返って溜息を一つ。
「【軍】の連中が此方にまで来なかったか?」
キリトが訊ねるとユートは首をしゃくり上げると、部屋の方を見ろと謂わんばかりに視線を向ける。
急ぎ皆でボス部屋の中を覗くと、【軍】の装備に身を包んだ連中が青い悪魔と戦って……
「ウギャァァァッ!」
いるというより一方的に嬲られていた。
「こ、これは?」
「見ての通りだよ響。連中は好き勝手に入ってきて、戦いを始めた。連携も何も取れない連中とは戦えないからね、僕はこうやって視ているという訳さ」
【軍】はコーバッツ中佐とやらを中心に、果敢とも云える戦いをしている……心算だろうが、実はHPは1ドット足りとも減らしてはいない。
グリーム・アイズのHPが半分――イエローゾーンにまで減っているのは偏にユートが減らしたからだ。
間違っても【軍】の連中はザ・グリーム・アイズを相手取り、戦いの趨勢へと寄与なぞしてはいない。
その癖に……
「奴のHPはイエローだ! もうすぐ、もうすぐ奴を斃せるぞ! 奮起せよ!」
まるで自分達の手柄だと謂わんばかりの激励をしている辺り、恥知らずにも程というものがあるだろう。
まあ、雑兵連中は理解もしているのか応える声など皆無に等しい。
というより、グリームアイズが余りにも強過ぎて、返事なぞする余裕が彼らには無かった。
今までに外の世界で怪物クラス……或いは怪物そのものと闘ったユートなれば一人でグリームアイズ相手に闘えたが、中途半端に過ぎるレベルのコーバッツや雑兵では、何人で束になろうと勝てる筈もない。
「ウワァァッ!」
「ヒィッ!」
「ギャァァァァッ!」
グリームアイズの武器がクリティカルにヒットし、まだグリーンだったHPが一気にレッドになり、更にはエンプティしてポリゴン片となり砕け散る。
「あ、ああ……」
響は消え逝く命に声も出ないらしい。
「ど、どうして助けて上げないの!?」
「理由が無いし義務が無いし義理も無い。総じて助ける意味が無いな」
「理由?」
「人助けが趣味と言い切る響なら理由は要らないな」
「義務?」
「MMO−RPGではね、他パーティの獲物を頼まれもしないのに横取りって、
「義理?」
「そもそも連中は僕が闘っていたのを勝手に横入り、しかも連携が取れないからと追い出したんだ。それで義理が有る……とでも?」
「意味って?」
「連中の言葉に〝僕がイエローまで減らした〟HP、あれをまるで自分達の手柄の如く叫んでいた。それを鑑みれば勝手に入って闘ったら逆に経験値泥棒やら、資金泥棒やら、アイテム泥棒に仕立て上げられる可能性があるからね」
つまり、救いなぞ要らないというより救い様が無い連中という訳だ。
「そんな……」
今にも全滅しそうな勢いの【軍】だが、ユートの瞳は冷やかで温もりなぞ一片も感じられない。
正に絶対零度の視線。
「チィ、早く転移結晶を使って脱出しろ!」
敵の強さに腰が引けているのか、クラインが外から【軍】の連中に叫ぶ。
「回復結晶が使えなかったから、恐らく結晶禁止区域って罠ゾーンだろうね」
「なっ!?」
いつかは有り得るのではないか? 真しやかに語られていた罠……ボス部屋の結晶禁止区域。
遂に出たのだ。
ブオンッ!
グリーム・アイズによる痛恨撃、一人のプレイヤーが吹き飛んで入口に倒れ、割れた仮面から覗く素顔より涙を流す。
「あ、有り得ない……」
「充分に有り得た話だよ。さよならコーバッツ中佐」
皮肉気に……薄く嗤いながら言ってやると、HPが無くなって十秒が過ぎたらしくパリンとポリゴン片となって散った。
「ダメ、ダメだよ……」
イヤイヤするみたいに、アスナが首を横に振りながら呟いている。
響は……
「だったら【軍】の人達を助けてなんて言いません」
顔を伏せて呟く。
「ユートさんとね、閨を伴にした私を助けて下さい」
「な、なにぃ!?」
そう言って響がボス部屋へと飛び込んだ。
「もうすぐ助かる、私は私に出来る事をするから……だから、生きるのを諦めないでっっ!」
意味は無かった。
このゲーム内のガングニールは飽く迄も、ユートが造った武装に過ぎない。
だけど、覚悟を口にするという意味から……
「へいき、へっちゃら!」
そう叫んで絶唱を詠う。
「まったく、あの御莫迦! 仕方がないか……助けるのは飽く迄も響だ!」
正宗を抜刀。
「キリト、此方で抑えているからアレを使え!」
「アレをか?」
「今が使い時だろ」
「……了解だ、団長!」
そしてユートを……否、響を先頭に闘いを開始。
全く以て抱いた女に甘いのはいつも通りか。
響が持つのは槍。
天羽 奏が使っていた際のアームド・ギア。
勿論、単なる槍――ガングニール・スピアだから、奏の必殺技は使えない。
だけど槍のソードスキルは使用可能である。
響が何故か『スピア・ザ・グングニル!』だとか、『クラッシュ・イントルード!』だとか叫びながら、普通に投擲したり突っ込んで往ったりするが……
前者はユートにもよく解らないのだけど、後者は確か【宇宙の騎士テッカマンブレード】の技だった筈。
実際には出せてないし、『ボルテッカァァァッ!』なんてやってたから間違いないだろう。
勿論、そんな対消滅物質なんて発射されない。
見られていたのに気付いた響が、恥ずかしそうに顔を真っ赤にして逃げた辺り自覚はあった様だ。
「せやっ!」
槍系のソードスキルに加えて、ユートが造ったというガングニール・スピアの威力は中々なものであり、揮う毎にHPバーが五ドット程度は減っていた。
とはいえ、やはりボスなだけに硬いし強い。
サポートに未来が入り、更にユート達が響を助けるべく攻撃開始、ユートにはソードスキルが無いけれど通常攻撃によるコンボは、僅かずつながらダメージを蓄積させていく。
更に同じ槍使いとして、サチが響をサポート。
切歌と調はシンフォギアを纏った時と同じ、二人によるユニゾンアタック……モドキで戦う。
アスナやクラインも奮起しているし、シリカだってOSSでザ・グリーム・アイズをザクザクと斬った。
キリトがステイタスを開いて装備を片手剣に加え、背中にも片手剣を出す。
五〇層のボスのラストアッタクボーナス……漆黒の刃……エリュシデータ。
リスベットがクリスタライト・インゴットから造った闇祓う白き刃……ダークリパルサー。
それを引き抜いた状態で叫んだ。
「準備オッケーだ!」
ザ・グリーム・アイズのHPバーは既に危険域たるレッドゾーン、しかも残るは殆んど十数ドット程度。
全員が離れる。
「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!」
二刀流というスキル。
片手剣を両手に装備し、二刀流専用ソードスキルを放つ事が可能。
これは一六連斬のソードスキル……
「スターバースト……ストリィィィームッ!」
斬っ! 斬っ! 斬っ! 斬っ! 斬っ! 斬っ! 斬っ! 斬っ! 斬っ! 斬っ! 斬っ! 斬っ! 斬っ! 斬っ! 斬っ!
最後の一撃を、ザ・グリーム・アイズの大剣を躱しながら放つキリト。
斬っっ!
これによりザ・グリーム・アイズのHPバーは全損をしてしまい、パリン! という軽快な音を鳴り響かせつつポリゴン片になる。
危なげ無く勝てたという程でもないが、元よりHPがユートにより減っていたからこその勝利。
『Congratulations!』
その証が浮かぶ。
ユートが居なければきっとキリトのHPは、一ドットくらいしか残らない死闘となっていた事だろう。
「おいおい、キリトよぉ。何なんだよ今の? 見た事が無〜ぞあんなのは」
「クライン、ああ……言わなきゃ駄目か?」
「ったりめーだ!」
キリトがふとユートの方を見遣ると、厳粛に受け止めて頷いて見せた。
周りを見れば期待をする感じで視線が突き刺さる。
「はぁ」
溜息を吐き観念したか、キリトが口を開いた。
「EXスキル【二刀流】」
「二刀流!?」
【軍】の連中も『おお!』と唸り声を上げる。
「だ、出し方は?」
「判らない、知っていたら既に上げてるよ。ある日、突然にスキルウインドウへ名前が出てたんだ」
そして欲したのは五〇層のボスのラストアッタクボーナス並、つまり魔剣級の片手剣という訳である。
それがあの白竜――ゼーファン・ザ・ホワイトウィルムのンコから造った剣、ダークリパルサーだった。
ンコから造ったとなるとちょっとアレだろうけど、何をどう言い繕おうとンコなのは変わらない。
尚、仲間は既にユートが鍛えた強力な武器を持っている中、キリトだけは強化をする事で此処まで使い続けていたりする。
+四〇ともなると素材もコルもバカにならないが、拘りというのかもう執念をすら感じてしまう程。
「ユートはこのスキルを知っていたのかよ?」
「相談されたからな」
「そうなのか?」
「これでもギルドの団長、相談を受ける事もあるさ。キリトの【二刀流】って、ユニークスキルの可能性が高いから、他には内緒にしとけとアドバイスした」
「ああ、ネットゲーマーは嫉妬深いからなぁ」
キリトがユニークスキルなんて獲たのを知ったら、果たして何を言ってくるか判らない。
単なるEXスキルなら、獲得方法さえ確立してしまえば他のプレイヤーも入手可能だが、ユニークスキルともなると唯一のモノだ。
平等ではなくとも公平でなければ成り立たない筈のネットゲーム、それなのに出現の条件があるとはいえ特定プレイヤーしか手に入れられないナニか。
それを持つ者が居れば?
ユートはキリトに決してスキルを公言しない様に、念を押して言い含めた。
キリト本人も元よりその心算だったらしく、すぐに頷いてくれたのは助かる。
この世界は【戦姫絶唱シンフォギア】と混ざっているが故に、人間のレベルが低いと考えていた。
理由は簡単。
唯一、といえる四年前のツヴァイ・ウイングのライブで起きたノイズ発生による生き残り、立花 響への虐めやバッシングといった人として最低な行為を平然とやれる人間が居るから。
そんな世界観なだけに、ユニークスキルを獲てしまったキリトが、他のプレイヤーからどんな目で視られるか判らない。
クラインの言葉の通り、ネットゲーマーの嫉妬深さを鑑みても、公開させるのは躊躇われたのである。
とはいえ、そもそも便利なスキルを封印した侭では何の為のものか判らない。
次はラストクォーターポイント、第七五層となるのもあるからボス相手の謂わば試金石とした。
雑魚を相手にチマチマと熟練度を上げ、キリトからの報告では最近になって漸く【ジ・イクリプス】という最強のソードスキルを得られたのだと云う。
クォーターポイント最後の第七五層までに、ボス戦を経験させておきたかったというのもあり、フィールドボスを捜して貰っていたのだが、手間が省けたと思えば正解だろう。
ザ・グリーム・アイズを相手に使った【スターバースト・ストリーム】とは、【ジ・イクリプス】の一段階前のソードスキルだ。
一六連斬なスターバースト・ストリームに対して、キリトが言うにはジ・イクリプスは二七連斬だとか。
「そういや、スターバースト・ストリームは初めて見たんだっけ」
ジ・イクリプスにしても話に聞いていただけでしかないから、実際に見た事は無かったりする。
「ふむ……」
【軍】は任務の失敗と、コーバッツの死を報告するべく【はじまりの街】へと戻り、ユート達も第七五層の転移門をアクティベートしてホームに戻った。
翌朝にはキリトのユニークスキル――【二刀流】の噂が流れていたと云う。
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