ソードアート・オンライン【魔を滅する転生剣】   作:月乃杜

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 リリなのに集中していた事もあり、此方が遅くなってしまいました。





第39話:直葉との一時

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 ユートはキリトをぶん殴りたくてぶん殴りたくて、本当に抑えるのに苦労をしてしまう。

 

 否、マジに殴り掛かろうとしたのをシリカやサチに止められたのだ。

 

『今夜、サービスしちゃいますから!』

 

『わ、私も一杯、気持ち良くして上げる!』

 

 聞いていたキリトが真っ赤になってしまう科白で、仕方がないとユートも取り敢えずは収めた。

 

 高校生なサチは兎も角、シリカともヤっている訳だけど一応、彼女もリアルでは一四歳だから守備範囲。

 

 貴族として生きた前世、寧ろ一〇歳以下を勧めてくるバカ貴族も居たし、ある意味で麻痺した結果か?

 

 勿論、一二歳を越えなければ手出しなどはしない……数えで。

 

 なのでアバターの見た目は変わらないが、割と最近になってユートが女の子と関係を持った事を知って、VRのアバターという本体ではない気安さも手伝い、一夜を伴にしたのである。

 

「もう一度訊くがキリト、何でそんな事になった?」

 

「えーっと、それはその……何と言いますか……」

 

 しどろもどろな口調で、目を逸らしながら呟く様な物言いにて、キリトは事の詳細をユートに語る。

 

 それは【軍】の暴走にも似た七四層へのアタック、その際に居合わせたユートらのパーティでボスを屠った翌日の事。

 

 ユートはいつも通りに、ホームで酒池は無いが肉林を愉しんでいたが、キリトはちょっとしたロマンスに足を突っ込んでいた。

 

 ユートの識らない原典、【黒の剣士】と【閃光】が結ばれた切っ掛け、それは勿論ながら少しずつ接近をしていたのも有ったけど、一番のそれはクラディール関連の出来事。

 

 その後は【KoB】団長のヒースクリフとの決闘、敗北後に【KoB】に入団をして訓練、クラディールが本性を顕してキリト殺害を敢行、そしてキリトによるクラディールへのPK。

 

 ギルドへの不審を理由に退団後、結婚して今現在では【ZoG】のホームとなっている家で新婚生活と、そんな流れであった。

 

 とはいえ、クラディールに関しては既に決着もしているし、これでは決闘とかも起きないと思われたが、何故かキリトはユートまで巻き込んだ決闘騒ぎを起こしてくれていたのである。

 

 正に主人公体質。

 

 更にはユートを巻き込む辺り、ぶん殴りたくなっても仕方がないだろう。

 

「つまり、ヒースクリフの口車に乗ってキリトだけでなく僕も決闘に、二人が敗けたらギルドを解体して、全員が【KoB】に入団しろと? そういう事か?」

 

「は、はい……」

 

「そりゃ、お前が勝ったらアスナを自分のモノに出来るからウハウハだろうが、僕に何のメリットがある? アスナを夜に貸してくれでもするのか?」

 

「だ、駄目に決まっているだろ!」

 

 慌てて拒否するキリト。

 

 想い通じ合って結ばれ、初めての夜を迎えたばかりで他の男になんて、キリトでなくとも許容出来まい。

 

「じゃあ、僕にメリットを示さないと……な」

 

「うぐぐっ!」

 

 キリトに示せるユートのメリットなんて無い。

 

「仕方がない、貸し一だ。必ず回収させて貰うぞ?」

 

「お、応!」

 

 ホッと胸を撫で下ろす。

 

「キリトが勝てば問題も無いしな」

 

 貸し一なのはキリトが敗けた場合の話。

 

 勝ったらユートが出たりする必要も無く、貸しにもならないという事だ。

 

 取り敢えず情報を調べてみると、新聞に『黒の剣士VS聖騎士』とか見出しが書かれており、ユニークスキル同士の決闘として派手に載せられていた。

 

 ユートも記事になってはいるが、ユニークスキルを持たないだけに扱いは至極小さめなものである。

 

 別に構わない。

 

 只でさえ目立って仕方ないユートだが、目立ちたかった訳ではないからだ。

 

(ヒースクリフとの決闘後は目立ちそうだけどね)

 

 キリトが敗北を喫したらユートが勝つ。

 

 其処に一切の油断は無かったし、侮りも皆無だというのに“勝つ”と決まっているみたいに考えていた。

 

 ゲームであり肉体的にはアシストされているが故、キリトみたいな現実で強い訳ではないタイプであれ、SAOでは【黒の剣士】と呼ばれる一流プレイヤーにカテゴライズをされるが、ユートは寧ろ現実の方こそ強いタイプであり、経験値もキリトやヒースクリフに比べて多いのだ。

 

 現実での力は使えない、それでも単純に剣術という意味なら仮令、キリトだろうがヒースクリフだろうが敗ける心算は更々無い。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 現実世界でユートは黒髪ショートボブな美少女――桐ヶ谷直葉と道場にて稽古をしていた。

 

 直葉は剣道着に防具姿、ユートはラフな服装。

 

 端から見ると剣道小町な直葉を虚仮にしている格好だが、この二年間でユートは一度たりとも土を付けられてはいない。

 

 何よりユートが選択した武器は竹刀でも木刀でも無くて、何と何の仕掛けも無い扇子だったりする。

 

 直葉は竹刀だから単なる扇子で充分らしい。

 

 否、そうは説明したけど実際には直葉の腕前程度、仮にそれが正宗とか村正とか虎徹とかの名刀であれ、単なる扇子で充分である。

 

 直葉の腕が悪いとかでは決して無く、飽く迄も相手がユートだからだ。

 

 実戦経験も肉体的な能力もユートが上、しかも目は視る事に特化をした魔眼であり、更にメティスという【まつろわぬ神】から権能を簒奪した結果、【叡智の瞳(ウィズダム・アイ)】は上位互換の【神秘の瞳(ミスティック・アイ)】へと進化までしている。

 

 それにサルバトーレ・ドニみたいなのが持つ【心眼之法訣】も普通に体得し、直葉からの攻撃なぞ正しく止まって見えていた。

 

 これでは直葉に勝ち目がある筈もない。

 

「――――あ!?」

 

 結局はいつもユートからあしらわれて終わる。

 

 今回も扇子で竹刀を受けた瞬間、ユートが扇子を引いて誘導をしたら返す刀でポン! と頭を叩いた。

 

 それだけの簡単な御仕事である。

 

「むう、やっぱり勝てなかったよ〜」

 

 初めての試合から二年、何とか頑張ってみたものの直葉は未だ勝てない処か、一度もまともに打ち合ってすらいない。

 

 打ち合わせて貰えない。

 

 あしらわれて終わりと、果たして自分は上達しているのか否か? はっきりと自信を持てなかった。

 

「僕も打ち合いくらいなら出来たけど、数分も掛からず妹に打ちのめされていたからね。気持ちは解らないでもないんだよ」

 

「妹さんに?」

 

「名前は緒方白亜。ウチは長男に優を、長女に白の字を入れる慣習があってね。だから宗家分家を含めて、長女は全員が白○って感じの名前になる。因みにだけど双子の場合はどちらも同じく優や白の名前になる。僕は双子の予定だったから緒方優雅という長男が居て次男ながら、優斗と名付けられたんだよ」

 

「へぇ?」

 

「話を戻すが、白亜は謂わば“天才”ってやつでね。【緒方逸真流宗家刀舞術】を僅か一二歳でマスター、一五歳で印可を得る程だ」

 

「印可? 免許皆伝すっ飛ばして!?」

 

「一二歳で免許皆伝だよ」

 

「あ、マスターってそういう事なんだ!」

 

 免許皆伝とは武芸などに於いて、全ての……奥義に至るまで修得した事を意味している。

 

 印可とは印定許可の事であり、一種の卒業した事を意味するもの。

 

 違いは前者が知るべきを全てマスターしただけで、未だに修業中の身であるのに対して、後者だと新たに自身が弟子を取る事も可能な卒業証書を貰った扱いだという事か?

 

 ○○流の新しい師匠を名乗れます的な。

 

 修業中の身に弟子を取るなど一〇年早いと怒鳴られるが、印可状を与えられたら卒業だから許される。

 

 それだけ白亜は強くて、ユートは弱かったのだ。

 

 とはいっても、勘違いをしてはならないのがユートは分家筋の誰とやり合っても勝てる腕前で、分家から言われている程に無能だった訳ではない。

 

 単に白亜に勝てないというだけである。

 

「さて、それじゃあいつものをヤろうか?」

 

「うっ!」

 

 ニッコリと笑いながら言ってやると、直葉は苦笑いを押し殺す表情となりつつ僅かに身を退いた。

 

 いつもの……試合をしてユートが勝った場合の謂わば御褒美だ。

 

 因みに直葉が勝ったら、緒方逸真流を教える約束となっている。

 

 ハルケギニア時代に於ける放浪期後、白亜を連れて元の世界に一時的に帰った際の事、元祖父と試合をして勝利をしたユートは彼から印可状を受け取った。

 

 つまり、ユートは弟子を取る資格を有している。

 

「あ、あん!」

 

 甘い声が道場に響いた。

 

 ユートが直葉のおっぱいに顔を埋めながら、あちこちを触れているからだ。

 

 ヤっている事は間違いなくセクハラだが、約束したからにはユートは合法的にヤれている。

 

 最後まではヤらないが、それ以外はオッケーという約束なのだから。

 

 ヴァーチャルリアリティーも悪くはないが、やはり数日に一夜くらいは本物を味わいたい。

 

 とはいっても、ユートの知り合いでヤらせてくれる娘はそう居なかった。

 

 一応、生き返らせ冥闘士にした天羽 奏、セレナ・カデンツァヴナ・イヴは、そういうのもアリとは言ってくれるが、奏の場合だと後で翼にアメノハバキリで追い回されそうだったし、セレナはマリアがベッタリな上に一三歳の享年時で生き返っていたから、マリアが反対をしていた。

 

『じゃあ、マリア姉さんが御相手をする?』

 

 そんな風にセレナに訊ねられて、割と悪くない反応を返してきたのはやっぱりセレナと再び会えたから……だろうか?

 

 まあ、そんな訳で直葉との賭けは悪くなかった。

 

 勿論、桐ヶ谷の両親とかキリトには内緒の関係。

 

 嘗て、【カンピオーネ!】な世界では万里谷祐理とヤっていたイケナイ遊び、後には草薙静花ともヤった愉しい遊びだ。

 

 羞恥心に悶えながら自分で触らねばならないので、毎回毎回で顔を真っ赤に染めてヤってくれる。

 

 ただ、嫌悪感は無い。

 

 あるのは好奇心と羞恥心であろうか?

 

 自分とは違う身体の作りに興味津々、直葉の表情からはそれが窺えた。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 桐ヶ谷直葉。

 

 キリト――桐ヶ谷和人の従妹であり、現在は義妹という形に収まっている。

 

 とはいえ、キリトが養子となったのは随分と昔であった為に、直葉もキリトがSAOに囚われて両親から真実を聞かされるまで実妹だと信じていた。

 

 だからか? キリトへの想いが深まった感じだが、最近はちょっと違う。

 

 今までにも多少なりとも影響はあったけど、直葉にとって一番の影響だったのが“あんな”出来事。

 

 それは遅くまでゲームをしていて、改めてシャワーを浴びていた時だ。

 

 そう、ゲーム。

 

 直葉はナーヴギアに代わり新たに発売された機器、【アミュスフィア】を使うVRMMO−RPGにハマっていた。

 

 未だ義兄がSAOに囚われてる状況だと云うのに、端から視れば不謹慎の極みでしかないだろう。

 

 とはいえ直葉にも言い分というものがあった。

 

 大好きな兄がのめり込むゲーム、そんな世界を一度くらい体験してみたい。

 

 尚、ユートのアミュスフィアとゲームソフトも実は買われており、一応の環境整備だけはしてある。

 

 その内に一緒に遊んでみようという約束だ。

 

 ソフトの名前は【アルヴヘイム・オンライン】で、通称が【ALO】と呼ばれているVRMMO−RPGである。

 

 火妖精(サラマンダー)水妖精(ウンディーネ)風妖精(シルフ)土妖精(ノーム)闇妖精(インプ)影妖精(スプリガン)猫妖精(ケットシー)工匠妖精(レプラコーン)音楽妖精(プーカ)という九種の妖精が生きる世界観だ。

 

 直葉は風妖精を選んで、金髪ポニーテールに碧眼で巨乳な美少女キャラ。

 

 スクリーンショットを見せて貰ったから知ってる。

 

 活き活きと空を翔んでいるらしい。

 

 このALOは翔べるのがウリのゲームだとか。

 

 本来の目的は兄の世界を知りたいとかだったけど、それはそれとしてすっかり翔ぶのにハマってる様で、最近は毎日の様にログインをしていた。

 

 そしてまだログイン自体はしてないが、キャラだけは一応ながら作ってある。

 

 種族は闇妖精(インプ)、ユートの真属性が闇なだけにこれを選んだ。

 

 名前もSAOと同じくでユートと名付けた。

 

 SAOが終われば約束の通りに遊ぶ心算だ。

 

 そんな毎日の中で直葉はユートも和人も居ないし、両親すら居ない家の中での生活、既に慣れてしまっていたのが間違いか?

 

 シャワーを浴びるのに、鍵を掛けていなかった。

 

 ガチャリと背後で音がして吃驚しながら振り返り、『ヒッ!』と喉を鳴らしながら息を呑んだ。

 

 其処には素っ裸なユートが居り、下半身で普段ならぶら下がっている分身が、ガチガチに硬くなって屹立をしていたからだ。

 

 所謂、勃起状態。

 

 真っ赤になったと同時に戦慄を覚えた。

 

 普段のユートは当然だが服を着ており、だからこそ気付けなかった事実が一つ――凄まじい筋肉。

 

 見た目は細くてヒョロい様な感じで、下手をしたらそこら辺のチンピラにカモられそうだった筈なのに、裸になったユートの全身を見てそれが間違いだと直葉には理解が出来た。

 

 確かに細い。

 

 とはいえ、女の直葉程に細くはないのだが……

 

 その細さは極限にまでも絞り込まれた筋肉であり、恐らく触れば正に鋼鉄とか称せる硬さ。

 

 何処ぞの哲学する柔術家と同じくという訳だ。

 

 きっと直葉では竹刀とか木刀が有っても勝てない。

 

 そんなユートの下半身、股座に付いている分身……以前に小説で『臍まで反り返る』なんて表現が在ったのを見ているが、義兄のを小さい頃とはいえ見た事がある直葉は、誇張表現にも程があると思ったものだ。

 

 小さくて皮かむりな分身をぶら下げていたのが義兄の和人で、あれを基準にしていたからこその思考。

 

 だけど違う。

 

 ユートのそれは間違いなくその表現が相応しい。

 

 文字通り臍まで反り返りつつ、先っぽに皮なんてのは存在してなかった。

 

 あんなの入る訳が無い、直葉はそう思う。

 

 いつの間にか挿入される事を前提に考えていた。

 

 お兄ちゃんはどうした? とか思うかも知れないだろうが、この頃の直葉にとって和人とは大好きだけど距離感が掴めない感じ。

 

 だから普段は割と素っ気なくしている。

 

 其処に現れたのが兄とは違う男の子、しかも桐ヶ谷の家の為に色々としてくれているし、兄の動向を教えてくれる情報源。

 

 顔立ちも整っているし、剣の腕は直葉より上。

 

 気にならない筈もない。

 

 特にまだキリトが目覚めていない今、直葉の心の中には“和人”は居ないし。

 

 とはいえど、幾ら何でもまだ処女を散らすには早いと思うし、何よりあんなのが入る筈も無いと思った。

 

 実際には入る。

 

 そもそもユートの分身よりデカイのが出てくる道、ならばユートの分身が入らぬ道理はあるまい。

 

 狭いバスルームでは後退りなんてした処で、やった意味は全く以てなかった。

 

 ドンッ!

 

(所謂、壁ドン!?)

 

 もうダメ!

 

 目を閉じながら次の瞬間に備えたが、シャワーの音が響く以外は特に何も無いからソッと目を開けると、ユートは普通にシャワーを浴びていた。

 

「……へ?」

 

 処女喪失も覚悟したのに全くスルーされ、シャワーを浴びるとか何が何やら?

 

 よく見ればユートの目はさっきから開いてない。

 

「まさか……ね、寝惚けてるの?」

 

 さっきまでの行動が寝惚けての事、安堵か落胆かは判然としないけど兎に角、ズルズルと背中を預けていた壁を伝って座り込む。

 

 ならばあの屹立した分身というのも、寝起きに近いから……謂わば朝勃ちみたいなものだろうか?

 

 直葉の肢体に興奮をしたという訳ではなく。

 

 ホッと胸を撫で下ろしたと同時に恥ずかしくなり、顔を上げたら目の前に屹立したユートの分身が……

 

「っ!?」

 

 まるで漫画やゲームの如く大袈裟な表現が成されたみたく、ビクンビクンッと脈打つ余りにもグロテスクなそれが、後一歩を進めばぶつかる程の目前にある。

 

 思春期な女の子からしたら凄まじい状況だった。

 

 一〇分か其処らが経ち、シャワーが終わったらしいユートがバスルームを出て行き、漸く息を吐ける直葉だったが然しながら未だにユートの気配があるみたいで落ち着かない。

 

「す、凄かった……」

 

 思えば直葉はこの時期からユートの事を強く、性的な意味で意識をし始めていたのだろう。

 

 あの賭けにしても顔を赤くしながら、然し何処かしら期待した目で受けた。

 

 流石にまだアレを胎内に受け容れる勇気は無いが、ユートのを触れている際の直葉は、瞳が蕩けて本当に嬉しそうに扱いているし。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「え、決闘? 違うギルドの団長さんと?」

 

「キリトの所為でね」

 

 夕飯を食べながら会話、内容は件の決闘騒ぎだ。

 

「ヒースクリフって奴で、現状ではユニークスキルを持つ二人の内の一人」

 

「もう一人は?」

 

「キリト」

 

「お兄ちゃんかぁ」

 

「【神聖剣】のヒースクリフか【二刀流】のキリトかってさ、僕は全くプレイヤーからスルーされてるね」

 

 これでも正真正銘トッププレイヤーなのだが……

 

「それで、賭け?」

 

「そ、ヒースクリフが勝ったらギルドを解体して僕らは【KoB】に入団だよ」

 

「優斗君かお兄ちゃんが勝った場合は?」

 

「さて、交渉したのがそもそもキリトだからね」

 

 ユートは何も聞いてない状態である。

 

 本来ならユートは自分が向こうの賭けるモノを聞くまで、こんな賭けなんかに興じる気など無い。

 

 だけど今回は交渉人となったのがキリトだけだし、ユートの意志なんて関わってすらなかった。

 

「本当にお兄ちゃんは……もう!」

 

 兄の不甲斐なさに頭を抱えてしまう直葉。

 

「それで、ヒースクリフって強いの?」

 

「少なくとも、対ボス戦でHPバーがイエローゾーンに落ちた事は無いな」

 

「それって滅茶苦茶な強さなんじゃないの?」

 

「自慢じゃないが、僕だってイエローゾーンに落ちた事なんて無いぞ」

 

「そ、そうなんだ……」

 

 確かに自慢したい訳ではないが、取り敢えずユートが受けたダメージは間違いなくイエローゾーンにまで逝ってない。

 

(とはいえど、計算上で云うとヒースクリフは何度かイエローまで逝った筈だ。それがブルーで停まっていたってのは……ね)

 

 堅さがウリの【神聖剣】とはいっても、だからといってまさか不死身では有り得ないだろう。

 

 幾らか検証はしたけど、ユートにとってはもう確定した事態、ヒースクリフの正体は間違いなく……

 

(そうだよな。他人がやってるRPGを傍から眺めている程つまらないものはないもんな)

 

 ある意味で絶大なチートと云っても良い筈なのを、ユートは何故か告発しようとはしなかった。

 

(愉しみたいなら愉しめ。自分自身でデザインをしたアインクラッドを……な)

 

 いつか誰かが気付くかも知れない、だからそれまではユートも何を言う心算もないのである。

 

「ま、決闘に臨む剣士にはお姫様なり女神様なり祝福が欲しいな」

 

「――へ?」

 

 一瞬、何を言っているのか理解が追い付かなくて、呆然となり間抜けた声を上げた直葉ではあるものの、すぐにどういう意味か理解した為に真っ赤になった。

 

「バ、バ、バカじゃない? そんな……そんなの!」

 

 視線を彷徨わせながら、然し時折はユートの唇へと向かわせ、直葉は更に真っ赤になってしまう。

 

「も、もう! したげる、だから勝ってよね!」

 

「了解」

 

 恥ずかしそうに目を閉じながら、直葉はユートに近付いてソッとその唇へ自らの唇を重ねたのだと云う。

 

 

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