ソードアート・オンライン【魔を滅する転生剣】   作:月乃杜

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第6話:行ってらっしゃい

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「僕はもう一度ログアウトして、キリトの家族と話をしようと思うから、その後でクエストなんかをやっていこうか?」

 

「そうだな。ってか、まだウチの家族と話す事が?」

 

「出来たら君の家に宿泊したいんだよ。正直、カプホでインするのはあれだし、アパートかホテルを捜すのにも時間が少ないし」

 

 本当なら今日明日くらいをキリトの家で遊びつつ、カプセルホテルからインをして、アパートを捜す予定だったのだが、デスゲームをクリアするには余計な時間は取りたくない。

 

 ゲームだけであるのならまだしも、リアルでやる事が別にある。

 

「そうそう、妹さんから宜しく言って欲しいと伝言を受けたから」

 

「! そっか、スグが」

 

 直葉と上手くいっていた訳ではなく、かといっても決して仲が悪かった訳でもない微妙な間柄、戻れたらもう少し向き合おうと思うキリトだった。

 

「それで、何かクエストはある?」

 

「このホルンカで請けられるクエストが丁度あるな。アニールブレードって片手剣をクリア報酬に貰える」

 

「そっか、楽しみだね」

 

 そう言うとユートは再び目を閉じる。ナーヴギアを外してリアルへと……

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 ユートが起き上がったのを見た直葉は……

 

「あっ!」

 

 思わず声を上げる。

 

 そんな彼女に、ユートは直ぐ様確認を取った。

 

「直葉ちゃん、お母さんは帰ってきた?」

 

「う、はい。直ぐに呼んで来ますね」

 

 パタパタと和人の部屋から出て、母親が居るであろう居間へと向かうと、数分しない内に母親らしき女性を伴って戻ってくる。

 

 桐ヶ谷和人と桐ヶ谷直葉の母親、桐ヶ谷 翠は部屋に入って来るとユートに頭を下げた。

 

「初めまして、和人の母の桐ヶ谷 翠です」

 

「ご丁寧に、緒方優斗といいます」

 

 ユートは現状のゲーム内での状況を説明する。

 

 茅場晶彦のデスゲームの開始宣言後、直ぐに次の村である【ホルンカ】に移動して、一時的にログアウトを無理矢理に敢行、直葉と話した後に再びログインをして、和人達との話の後でまたログアウト。

 

 和人はホルンカ村の宿屋で仲間と状況待ちであり、少なくとも直ぐ生命の危険などは無いという事を。

 

「それで翠さんに頼みたい事があります」

 

「何でしょう?」

 

「出来たら、ゲームクリアまでこの家に置いて貰えませんか?」

 

 難しいのは理解出来る、何しろ和人が起きて来なければ現在は女所帯。

 

 況してや、年頃の娘が居る中で同じくらいの年齢の男を泊めるなど、何処ぞの二次創作のTAKAMACHI家でもなれば、有ろう筈がない。

 

 やはりと言うか、翠女史は難しい顔となる。

 

 戸惑いと申し訳なさが綯い交ぜとなった表情には、少なくとも嫌悪の色は見えなかった。

 

「その、出来たらそうして貰ってもいいのだけれど、流石に夫も帰ってませんから……」

 

「まあ、そうでしょうね。仕方ないか、こうなったら政府を脅して……」

 

「え゛?」

 

「寧ろ政府から情報を餌に豪華なマンションでも買わせて、リラクゼーションルームで優雅に……」

 

「ちょっ!」

 

「国民の血税を使い潰す勢いで贅沢するか?」

 

「お母さん、何だか物凄く悪い事を考えてるよ?」

 

 ぶつぶつと呟く言葉は、物騒窮まるモノや、ヤバい事が多分に含まれている。

 

「よし、今すぐに政府へと連絡を取ろう!」

 

「「ストーップ!」」

 

 本気で計画を実行に移そうとするユートを、直葉も翠も慌てて止めた。

 

「うん?」

 

「ま、まあ、大変でしょうから家でゆっくりゲームのクリアを目指して下さい」

 

「は?」

 

 先程と打って変わって、意見を翻した翠に首を傾げてしまうユート。何故であろうか? 笑みが引き攣っている様な気がする。

 

「良いんですか? 旦那さんに相談も無しに」

 

 首を傾げつつ訊くと……

 

「ええ、和人のお友達を放り出せないし、ご飯も家で用意しますから」

 

 破格の条件でご宿泊決定と相成る。

 

「まあ、助かりますけど。脅さなくて済むし……」

 

 ボソリと言った心算であろうが、バッチリと聴こえていた翠は苦笑いした。

 

「さてそれじゃ、ちゃっちゃとやるべき事をやってしまうかな」

 

「やるべき事って?」

 

「あ、少し外で待機しててくれる? 兄といっても、男の裸を視たいなら構わないけど」

 

「へ?」

 

 直葉は硬直してしまう。

 

 取り敢えず、母親と一緒に部屋の外に出て10分くらいすると再び入る。

 

 其処には見慣れない機器が鎮座しており、ベッドに寝ていた筈の和人の姿が無くなっていた。

 

「え? お兄ちゃんは?」

 

「この中」

 

 機器を指差すユートに促されて覗くと、ナーヴギアを被った和人が機器の中で眠っている。

 

「これは?」

 

「医療用ポッド【somnus o resurrectio vorago】」

 

「え、と……?」

 

「ラテン語で深淵なる眠りという意味。このポッドで眠れば約10年、何もしなくても生きられる」

 

「10年……っていうか、こんなの何処から持ってきたの!?」

 

「それは……」

 

「それは?」

 

 一拍置いて、茶目っ気をたっぷりにウィンクをしながら……

 

「秘密です♪」

 

 ズルッ!

 

 茶目っ気をたっぷりに、ウィンクしながら何処ぞの獣神官の如く言ったものだった。

 

 直葉は、一拍置かれたからかずっこけてしまう。

 

 これで和人=キリトの身は保証された。

 

「次だな」

 

「次って?」

 

「ああ、僕がパーティ組んでる子の家に行ってポッドに放り込むんだよ」

 

「そうなんだ」

 

 ユートは直葉と翠に早目に帰る事を約束し、シリカのリアルの家に向かう。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「綾野……此処だな」

 

 ピンポーン……

 

「はい」

 

 パタパタと玄関に近付く足音が聴こえてきた、扉が開くと女性が姿を見せる。

 

「どちら様でしょう?」

 

 瞳が赤い、恐らくは娘の事で泣いていたのだろう。

 

「初めまして……綾野珪子ちゃんの友人で緒方優斗といいます」

 

「珪子の?」

 

「はい、今も娘さんを捉える【ソードアート・オンライン】でパーティを組んでいます」

 

 そう言うと、女性は表情を怒りに染めて怒鳴る。

 

「ふ、巫山戯ないでっ! あの中に居たのなら出られる訳が無いでしょう?」

 

「マイクロ波を出来得る限り遮断し、直ぐに再生すれば死ななくてもログアウトは出来ますよ。但し、彼女がそれをしても即死するでしょうが……」

 

「……何のご用ですか?」

 

「彼方側でシリカ……珪子ちゃんからリアルの実家を教えて貰って、本体の保全をする事になったので」

 

 ユートが指差す先には、人間大の巨大な包みが鎮座してある。

 

「珪子ちゃんもログアウト出来ない間に、筋肉が衰えたり、下の世話をされたりは勘弁願いたいそうだし、パーティの誼でお世話になってる家の子と同じ処置を申し出たら、是非にと頼まれたんですよ」

 

 やっぱり胡散臭げな目で見られているが、ユートは仲間に対しては優しい。

 

 何とかしてシリカの身体を保全したいと思う。

 

「シリカというのは?」

 

「アインクラッドで名乗ってる、キャラクターネームの事ですよ。茅場晶彦による画策で今はリアルと同じ姿で、今はツインテールにしていますね」

 

「……少なくとも、娘の顔を知ってはいるのですね」

 

 娘がどんな姿でゲームをしているかを知る母親は、珪子の容姿を当てたユートが顔を知っていると判断。

 

 苦渋の決断だろう、瞑目して再び開けると……

 

「信じます、どうぞ」

 

 ユートを招き入れた。

 

 珪子の部屋に通されて、ユートは持って来たポッドを出し、セットアップ作業を始める。次々と空中に浮かんだインターフェースを弄ると、セットアップ作業が完了した。

 

「準備が終わりました……珪子ちゃんの着ている物をナーヴギア以外、全て脱がしてポッドに入れて、このスイッチを押して下さい。僕は外に出ているので」

 

 そう言い残し、さっさと部屋から退去する。幼さが残るとはいえ、よもや裸を見る訳にもいかないから。

 

 ユートが部屋の外に出たのを確認して、珪子の服を脱がせてしまうと抱き上げてポッドに入れた。

 

 言われた通りスイッチを押すと、蓋が閉まって機能が動き始める。

 

 コンセントを通す為の、スリットが有るから引っ掛かる事もなく、蓋は確りと閉められた。

 

「終わりました」

 

「そうですか。それじゃ、僕は帰ってゲームに復帰しますので。それと、政府の人間が訪ねて来たら此処へ来る様に言って下さいね。ポッドは弄らせない様に、不具合を起こしたら責任は持てません」

 

「わ、判りました」

 

 政府とて人1人殺してまでポッドを召し上げまい。ポッドの持ち主を怒らせてしまっても、良い事は何も有りはしないのだから。

 

「珪子ちゃんとはパーティを組んでいます。ずっとではありませんが、組んでいる間は死なない様、留意はします」

 

「娘をお願いします」

 

 頭を下げる珪子の母に、ユートは手を振りながら帰っていく。近い内に政府の者が現れるだろう、その時の立ち回り方を考えつつ、誰も居ない場所に移動をすると……

 

「転移呪文(ルーラ)!」

 

 転移呪文で跳んだ。

 

 桐ヶ谷家に戻ってきて、家に入ると直葉が迎え入れてくれる。

 

「お帰りなさい」

 

「え? と、ただいま?」

 

 挨拶もそこそこに引っ張られて来たのはダイニングであり、テーブルには温かいご飯が用意されていた。

 

「これは?」

 

「あっちで食べてもお腹は膨れないし、あ……膨れはするんだっけ? でも栄養は摂れないよね。だからね毎日、出来る限りご飯を食べにログアウトしてきて」

 

「それは助かるけど……」

 

「その代わり、知っている限りの情報を頂戴。お兄ちゃんと常に一緒じゃないだろうけど、色んな事を」

 

 切実な瞳、きっと和人の事が心配なのだろう。

 

「了解。食事代くらいには頑張りましょう」

 

 ついつい、妹や義妹達を相手にする様に頭をポンポンと軽く叩き、直葉に笑顔を浮かべて言った。

 

 食事終了後、お茶を飲んで再びナーヴギアを被る。

 

 「じゃあ。直葉ちゃん、翠さん、行ってきます」

 

「行ってらっしゃい」

 

 ユートはまるで家族の様な挨拶と共にダイブした。

 

 

 

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