ソードアート・オンライン【魔を滅する転生剣】   作:月乃杜

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第8話:二人のエゴイスト

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「待って、待って!」

 

 ホールドアップの侭で、少年はゆっくり歩く。

 

「何者かな? つけてきたって感じじゃないけど……身を隠して様子を窺うのは在らぬ疑いを掛けられる」

 

「そう、つけてきた訳じゃなくてさ、僕の方が先に来ていたんだよ。だけど君達が来ちゃったから思わず隠れたんだ……!」

 

 少年は慌てて弁明する。

 

「どう思う、ユート?」

 

「嘘ではなさそうだ」

 

 キリトからの質問を聴いて答えるユート。

 

「君達もやってるんだろ、【森の秘薬】クエをさ」

 

「俺も片手剣を使う。3層まで【アニールブレード】は使えるからな」

 

 キリトは答える。

 

 見た目こそいまいちだと思っているが、改造せずとも一層では充分だし、3層から最大で4層までは改造すれば充分に使えるのだ。

 

 だからこそキリトはこのクエストを請けた。

 

 序盤に限れば【アニールブレード】は強力な片手剣という訳である。

 

「あ、あのさ……良ければこのクエストを一緒にやらないかい?」

 

「え? けどこのクエストって……」

 

「判ってるよ。どちらにしても胚珠は人数分が必要になるんだって事は。けど、花付きはノーマルを斃していけば出現率も上がるし、4人で乱獲すれば効率も上がると思うんだ」

 

 少年の情報が本当なら、確かに人数が増えれば胚珠も効率良く見付けられるという可能性が高い。

 

「キリトさん、ユートさん……どうしますか?」

 

「此処で争っても意味は無いだろうし、協力が可能ならやった方が良い」

 

 シリカの問いに答えて、ユートと頷き合い少年に向き合う。

 

「判った、協力しよう」

 

「えっと? 見た処、他の2人は曲刀と短剣みたいなんだけど、君らも胚珠狙いなの?」

 

 キリトから色良い答えを聞けた少年は、武器が片手剣ではないユートとシリカを見つめて訊ねてきた。

 

 曲刀でなく刀なのだが、それをいちいち訂正する事もあるまい。

 

 刀だと知られたらあの時に茅場と交渉したプレイヤーだと、わざわざ喧伝する様なものだ。

 

「僕らは手に入るならって感じだし、入り用な奴に優先して譲るさ」

 

「そっか……じゃあ、暫く宜しくね。僕はコペル」

 

「キリトだ」

 

「ユート」

 

「シリカです」

 

 お互いに名乗り合うと、コペルが何かに気が付いた様な表情で言う。

 

「キリト? それって何処かで……」

 

「人違いだろ。さあ、ガンガン征こうぜ! 他の連中が来る前に胚珠を最低でも2つ、手に入れなきゃいけないんだからな」

 

「ああ、そうだね。頑張んなきゃ」

 

 若干、コミュ症なきらいのあるキリトだったけど、ユートとの遠慮の無い付き合いのお陰か、これだけの事が言えてリーダーシップも執れる様になっていた。

 

 そんなキリトにコペルが答え、森の深奥を目指して進み出す。

 

 リトルネペントが数匹、此方に向かってきているのを見遣り、武器を構えると4人は一斉に駆け出した。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 あれから結構な時間を狩りに当てたが、花付きと呼ばれるリトルネペントは、全く湧出(ポップ)しない。

 

 可成りの数を乱獲したにも拘わらず、花付きが出ない事に訝しむキリト。

 

 コペルも一息吐いて辺りを見回しながら言う。

 

「出ないね。若しかして、βの時と出現率が変わっているのかな?」

 

「そう……かもな……」

 

 キリトはコペルが自身と同様、元βテスターであると踏んでいたが、会話からそれが確定だと考える。

 

 恐らくコペルもキリトと同じ考えだったのだろう、自然とβテスター時代の話が出た。

 

 唯でさえ出現率が低いというのに、更に出現率が下がっているらしい。

 

 或いは、キリト達のリアルラックが悪いのか……

 

 一時間以上が経過して、百を越えるリトルネペントを狩り、キリトのレベルも上がっているが、そろそろ武器の耐久値がヤバい。

 

 若し、β時代の知識無しで挑んでいたら、ホルンカのブロンズソードに替えていたかもと思うとゾッとしない話だ。

 

 威力的にはブロンズソードの方が高いが、如何せん耐久度の消耗が初期装備のスモールソードより早く、植物系モンスターの放ってくる腐蝕液にも弱い。

 

 数を狩りたいなら今の侭の装備の方が良かった。

 

 まあ、一応はユートからの奨めもあって、ブロンズソードを購入してある。

 

 これは飽く迄も保険で、ストレージを圧迫するけど万が一、今の武器が壊れた場合に備えていた。

 

「レベルは上がったけど、本当に出ないな」

 

 嘆息するキリト。

 

 キリトのレベルが3に、シリカは5になっているがユートのレベルは流石に、上がってはいない。

 

 尤も、この勢いの侭で狩っていればクエスト終了の時に貰えるボーナス経験値により、ユートのレベルも7に上がりそうだが……

 

「どうするキリト? 武器の耐久を考えると一度は戻った方が賢明だけど」

 

 ユートはまだ良い、予備武器が豊富に有るのだし、新しいのに替えれば済む。

 

 一応シリカも予備としてもう一振り用意している。

 

 キリトも予備のブロンズソードは持っているけど、保険用の武器など使わなければ使わないに越した事はない。

 

 要らなくなれば売ってしまえば良いのだし……

 

 其処へ、粗いポリゴンブロックが組み合わされて、形をなそうとするナニか。

 

 最早、見慣れた光景……湧出(ポップ)だった。

 

 新たなリトルネペントが動き始める。

 

「あれは……」

 

「花付きか!」

 

 キリトとコペルが同時に気が付くが、同時にキリトは花付きの奥に居る存在にも気が付いてしまう。

 

 それは実付き。

 

 リトルネペントの実付きというのは、言ってみれば罠Mobである。

 

 若しあのパンパンに脹れ上がった実を壊してしまったなら、異臭を周囲へと撒き散らして其処ら中に生息するリトルネペントを呼び込んでしまう。

 

 それこそ、クエスト達成処か離脱すらも不可能なくらいに囲まれる。

 

 普通ならデスペナルティを払い、【はじまりの街】の黒鉄宮からもう一度直せるが、デスゲームと化した【ソードアート・オンライン】ではそうもいかない。

 

 ゲームでの死はリアルでの死と同義、死の危険を犯す訳にもいかないのなら、やはり退くしかなかった。

 

 だけどキリトはβ時代、一つの噂を聞いている。

 

 花付きのリトルネペントは時間経過と共に、実付きとなる……と。

 

 妙にリアリティーを追求したゲームだけに、花付きの花弁が散っていき実付きが二匹になる可能性は決して無い話とは云えない。

 

「どうするべきだ?」

 

 キリトの呟きを聞くと、ユートが意見を言った。

 

「花付きと実付きを離してから狩ろう」

 

「それは誰か囮になって、実付きのタゲを取っている内に、花付きを斃すって事なのか?」

 

「そう、素早く花付きを狩れば後は一旦、退いてしまうのも手だからね」

 

 そんなデスゲームを何とも思わない意見に……

 

「じゃあ、僕が実付きからタゲを取るから、キリト達は花付きを狩ってくれ」

 

 コペルが自ら、囮役を引き受けた。そして返事など待たずに駆け出す。

 

 正しく賽は投げられたと形容するのが相応しい。

 

「わ、判った!」

 

 キリトも駆け出し、それにユートとシリカも続く。

 

「キリトが花付きを斃せ。僕とシリカは他のネペントに邪魔されない様に潰す」

 

「ああ、頼んだユート!」

 

 レアなモンスターである花付きは、ノーマルに比べて多少は攻撃力と防御力が高いと聞いていたキリトだったが、レベル3となった今なら誤差の範囲だ。

 

 コペルをターゲットに取り続けていた花付きの隙を突き、キリトは一気呵成に肉薄する。

 

 蔓による攻撃を受け流したり、躱す事でダメージを抑えてスモールソードでの攻撃を加えていく。

 

 みるみる花付きのHPが減っていき、あっという間に危険域(イエロー)にまで落ち込んだ。

 

「今だ!」

 

 キリトが特定の動きを執ると、システムアシストが仮想体(アバター)を自動で動かし、スモールソードにライト・エフェクトが灯って単発水平斬り──【ホリゾンタル】を発動……

 

「せやぁっ!」

 

 ザクンとリトルネペントの花付きを斬り裂き、HPバーを空にした。

 

 パリーン! という軽快なSEを響かせて、花付きは硝子の如くポリゴンを撒き散らして消えていく。

 

 花弁を散らしたリトルネペントは、コロコロと仄かな輝きを放つ球を転がして逝った。

 

 アイテム【リトルネペントの胚珠】を拾い上げて、腰のベルトポーチに放り込むと、キリトは実付きからタゲを取り続けている筈のコペルを見やる。

 

 ふと見れば、ユート達も既に他のリトルネペントを屑った後の様だ。

 

「コペル、待たせ……?」

 

 不意に脚を止めたキリトはコペルの目付きに戦慄を覚え、蹈鞴を踏んだ。

 

「ごめんね」

 

「コペル……お前、それ」

 

 目を見開きながら呟く。

 

 青いライト・エフェクトを放ち、コペルが実付きのリトルネペントに放つ技、それは単発垂直斬り──【バーチカル】……

 

 リトルネペントの弱点たる茎の上部が頑丈な補食器に隠されており、故に縦斬りが効き難いという理由もあるが、何よりも周囲から仲間を呼び寄せる実を持つ実付きに縦斬りを放てば、当然ながら……

 

 パーン!

 

 けたたましい音を響かせながら、実付きが頭に付けていた身が割れた。

 

 声も出ないキリト。

 

 明らかにわざと割った様にしか見えない。

 

 すわ、みんなを巻き込んで自殺かと思ったが、直ぐに気が付いた。

 

「そういう事なのか?」

 

 MMO時代から存在する用語に、PK(プレイヤーキラー)というのが有る。

 

 他のプレイヤーを攻撃、殺すという行為だ。コペルがやったのはMPKと呼ばれるモノで、プレイヤーにわざと引き連れたモンスターを押し付けて殺す悪質なPK方法。

 

 端から見れば、プレイヤーが単にモンスターに囲まれている様にしか見えないのだから。

 

 コペルの姿が消えた。

 

 転移結晶が無い第1層で転移だとは思えないから、恐らくは【隠蔽(ハイディング)】で姿を消したのであろう。

 

 キリトは隠れたコペルに対し、静かに呟いた。

 

「そっか、コペルは【隠蔽】を取るのは初めてだったんだな……」

 

 【隠蔽】のスキルは便利だが、視覚に頼らないタイプのモンスターには実は、効き難い。

 

 だけど、そもそもキリトも知らなかった。

 

 コペルの行為がユートに対しては、完全無欠に悪手であるという事を。

 

 キリトの死角から観ていたコペルは、行き成り背中を蹴られる感触を覚えて、リトルネペントの集まっている中心に押しやられた。

 

「……え?」

 

「自分のやらかした事だ、てめえで始末を付けろ」

 

 驚愕に目を見開いて背後を見れば、其処にはユートが居る。つまり押しやった犯人は……

 

 【隠蔽】で姿を隠している筈のコペルは、リトルネペントのターゲットとなって攻撃を受け始めた。

 

 この侭、ダメージを受け続ければ死ぬ。だが完全に囲まれたコペルに逃走するという選択肢は、初めから与えられてはいない。

 

 堪らず姿を現して、少し前に居るキリトに手を伸ばして助けを求める。

 

「キ、キリト、助け……」

 

 声に振り向いたキリトとシリカは、行き成りコペルが襲われている事実に驚愕を禁じ得ない。

 

 放っておくのは後味が悪いキリトは、助けるべく剣を手にして……

 

「ヤバい、躱せコペル!」

 

 コペルの背後を見やり、声の有らん限り叫んだ。

 

「へ?」

 

 ガブリ!

 

「いやぁぁぁぁぁっ!」

 

「コペルゥゥーーッ!」

 

「はりゃ?」

 

 絶叫を上げて目を逸らすシリカと、手を伸ばしながら叫ぶキリト。

 

 コペルは、間抜けな声を出しながら顎から上が無くなった首を傾げた。

 

 リトルネペントの補食器により、顎から上の頭部分を喰われたのだ。

 

 コペルのアバターが仰向けに倒れ、そんなコペルに殺到するリトルネペント。

 

 助ける暇も無く、コペルのHPバーは空になって、カシャーン! と軽快な音を響かせてポリゴン片と化して消滅する。

 

 ユートはそんなコペルの様子を静かに、絶対零度も斯くやの視線で見つめるのだった。

 

 

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