やはり俺の受難は続くようだ 作:だるだる
事件の翌日のことである。
放課後、空き教室にて
夕日が差し込み、まるで学園ドラマのラストシーンを飾るにふさわしい舞台に彼と彼女は立っていた。ある程度埃が残っている教室に光が差し込むことによって、光は反射し、より一層雰囲気醸し出してくる。
一方は、頬笑みというよりはにやけていると形容した方が相応しいであろう笑みを顔に浮かべながら。さらに言えば小悪魔的笑みであろうか。
もう一方は、ポケットに手を突っ込みながら猫背のまま、めんどくさそうに相手の方向を見つめながら。――といっても直視しているわけではないのだが。
それもそのはず、その相手の彼女は三つ編みのおさげに赤く縁取られたごく一般的な眼鏡にプロポーションも貧相でなくかつ豪華でもない”ごく一般”の委員長タイプの女性が足を組んで白い肢体を露わにしているのである。普通とはいえども顔立ちは端正であり、美少女の部類には入るだろう。
何故、彼――比企谷 八幡は彼女と対面しているのだろうか、話は少し前に遡ることになる。
数日前、間宮あかりと出会う前、つまり依頼を受ける前のことである。八幡はある依頼主と会っていた。
――雪ノ下 陽乃
雪ノ下 雪乃の姉であり、もっとも優れたもの”最優”とまで呼ばれる武偵である。荒事はもちろんのこと、学術、容姿、交友関係その他諸々を含め、当時の東京武偵高においてトップクラスでなく、頂点であり続けた武偵である。
「比企谷くん、待った~? ごめんね~、待たせちゃって。」
まるで恋人かのように依頼を受けることになっている喫茶店にやってきた。極めて自然な振る舞いで。
「あ、好きなもの頼んでいいよ。ここは奢るからさ。」
「いえ、自分で払います。」
そう短く返す。八幡としては手早くことを終わらせてしまいたいのである。武偵というのは大物であればあるほど曲者なのである。恐れているのは武力でなくそれ以外のもの――つまり、彼女の持つ情報網にしろ、対人関係にしろ厄介なことこの上ないのである。
軽く一息をついた後、彼女はぶっきらぼうに
「今、業界でうわさの怪盗さんがいるじゃない?ほら、誰にでも化けられるとかいう。あれの正体を暴いてほしんだよね~。何か目的?ううん、ないない、ただの知的好奇心ってやつかな?」
と彼女は普通の男性ならばすぐにでも惚れてしまいそうな笑いをニコと浮かべながらこちらの言葉を封じてくる。
「何で俺なんすか。自分で捕まえればいいじゃないですか。そちらの方が確実ですよね。」
当然のことを聞いてみると。すぐに
「お姉さんにちょーっとばかし忙しいんだよね。ただの暇つぶしだしSランクの君に頼んでみようかなーって。場は提供するからさ。」
もちろん、受ける気などない。そんなことをしたら、ラブリーマイエンジェルこと我が妹、小町と一緒にいる時間が減ってしまうからな。
「その話は……
受けられませんすいませんと言おうとすると、
「比企谷 小町 3月3日生まれのO型で学校では生徒会に入っていて周りからの評判も悪くない明るい性格のようだね。今は武偵高校付属中学に居て、来年から東京武偵高校に通う予定。諜報科を目指しているけれども、教師の話では尋問科としての素質もありっと。写真を見る感じかわいいね。もしかしたらCVRにも入れるかもね。」
最愛の妹の情報が淡々と述べられていく、これはいわゆる脅しというやつだ。受けなくてもいいが、受けなきゃわかってるなという類の。このレベルの武偵になると自らが関わった証拠を一つも出すことなく、消しさることが可能なのである。ここで断れるはずもなく。
「分かりました。受けりゃいいんでしょ。」
そういうと準備してあるらしく。報酬やターゲットなど必要な情報が詳細に書かれた書類をこちらに差し出してきて。
「そうそう、素直な男の子は好感もてるな。じゃあ、これ読んどいてくれるかな。大体はこれで分かると思うから。支払いはしとくからゆっくりしてっていいよ。私これから用事があるから。」
そう言ってこちらに話しかけるタイミングを一切与えずに彼女は店を出て行った。
受け取った書類を見ると、こちらで追加の調査の必要が無いほどの情報量がびっしり書かれていてまるで、すでに正体が暴いているのではないかと思うほどだ。
しばらくして、彼が店出たときまるで、緊張の糸が切れたのと同じように安堵感が彼の体に押し寄せてくる。恐らくは彼が最初に彼女に会ったときに会った違和感――いや、恐怖感といってもいいもののせいであろうことは確かであった。
――――彼女はただの一度も笑っていなかったのだ。
表面上だけ見れば、頬の硬直など全く見られない自然な笑み。まるで、一般人かのような仕草。目の動かし方から飲み物の飲み方どこをとっても自然な動作なのである。一般人いや、多くの人は気にしないであろう一挙手一投足であったのは確かである。
しかしながら、八幡は――感じるべきでなかった――その冷たい視線、こっちを向いているのに向いていない視線を感じてしまった。それゆえ彼は恐怖感を植えつけられてしまった。現に八幡はヘビに睨まれてカエルが窮地から脱したが如くの状態である。
武偵にとって恐怖感を定着させられるのは致命傷である。それは再び会ったときに恐怖によるトリガーの引きの遅れ、銃のブレが致命傷になるからである。
そして八幡はもう会いたくないと思いながらも依頼の書類に目を通したのだった。
その依頼とは、万面相の正体を暴けといったものであり、捕えることを目的としたものではなかった。
そして時は現在へと少し前へと帰ってくる。
八幡は空き教室呼び出した女子生徒――遠藤 吉乃――同学年である2年の探偵科である彼女と対面していた。
そうして彼女は彼を見て
「すいません、その、あの、お断りさせていただきます。」
え、何で俺が振られたみたいになってんの。俺の中の幼女もなんでかなーって首かしげてるぞおい。俺が放課後忘れ物して教室に戻ったら、クラスのカースト上位層のギャルに『いや、ほんと無理。ふざけんな。』とか言われたの思い出すだろ。
「呼び出された理由分かっているだろ。昨日のやつだよ。」
と追いめてみる。
「ストーカーですか、警察呼びますよ。」
おいおい、武偵が警察とか何言ってんだとおもいつつ、相手はシラを切り続けるので、
「まず、なぜお前だと辿り着いたかだが。」
そう話を切り出していく、謎解きタイムの始まりだ!とアッカンベーとしたくなるのを抑えつつ。
「まず、呼び方。由比ヶ浜は昼休みにはヒッキーと呼んでいたのになぜあの場では比企谷君だったのか。これはあくまで個人を特定する切り札にはならない。変装かという疑いを持つにすぎない。」
軽く咳き込んで次の話に続ける。
「次に、あの昼休み以前に由比ヶ浜と知り合った記憶が無い。恐らくお前も俺たちが来ることを予測していなかっただろう。普通、初対面だと名前を聞くか苗字で呼ぶだろう。そこがお前にとって落とし穴だったんだな。由比ヶ浜は初対面にも関わらず、ヒッキーと呼んだんだ。」
彼女は動揺とすることなく淡々と話を聞いている。
「だが、昼休みお前は居たはずなんだ俺と由比ヶ浜が見える位置でなおかつ由比ヶ浜の口元が見えない場所でそこから絞り込んでいくとどんどん絞り込めていくもんだ。」
彼女は痺れを切らしたように
「まず、なんの容疑がかけられているのかも分かりません。それと推理にも穴が多すぎます。何故、その人が昼休みにその位置にいたかを証明できていません。本当にSランクの探偵科なんですか?」
「調べたところ、学校の由比ヶ浜が閉じ込められていた更衣室のロッカーが午前までは空だったとの証言が得られている。午後の授業では同じクラスのやつが教室にいたと証言しているし、教室の外に出てもいない。さらに放課後は雪ノ下がべったりだったはずだ。よって昼休みが入れ替わりの機会であろうと考えられる。あとはその時間と位置から絞り出したのが一人だったというわけだ。」
QED証明終了としたいところだが、
「とここまでが予測だ。ここでちょっとした話をするが、目は口ほどにものを言うというのはよくいったもので俺は視線によってある程度のことを識別することができるんだ。昼休み、昨日の夜、そして今と視線が同一なんだ怪盗さん。」
とあくまで推理の何の足しにもならないことを口に出しておく。
すると、彼女はさっきまでと一転して、
「やっぱり、最高だね君は♪」
――――そういって彼女は小悪魔のように笑い、現在へといたるのであった。
文章量のご指摘がありましたので少しだけ文章量を増やさせていただきました。
ご感想、ご指摘をお待ちしています。できるだけ返事もします。