いつもの放課後。
部室にはいつものようにみんなの姿があった。漫画を読んでいたり(京夜)、一人チェスに興じていたり(紫音さん)、編み物をしていたり(恵ちゃん)、お肉を食べていたり(綺羅々さん)、そして俺はいつものソファに座ってライトノベルを読んでいる。
そのなかで、たった一人部長だけが、妙なことをやっていた。
「んー」
椅子の上に立ちあがり、天井に向かって手を伸ばしている。さらに、つま先立ちになって、ぴょんぴょん跳ね始めた。小学生とも見間違う容姿の部長がやると、とても絵になって可愛いです。俺得です。
「なにやってるんですか。部長」
部長の奇行は、こう言っては失礼だが、いつもの事だ。が、いい加減好奇心を抑えられなくなって、京夜は聞いてしまった。
「見てわかんだろ。蛍光灯を取っ替えようとしてんだよ」
「ああ。なるほど」
見てみれば、部長の真上の一本が切れていた。そして、丸テーブルの上には真新しい蛍光灯が置かれている。
と言っても、分かっていなかったのは京夜一人なのだが。みんなは気付いていた(俺は可愛い部長を眺め続ける為に黙っていた)。
ともかく、京夜も状況を理解したようだ。
「危ないですよ。僕がやりますよ」
椅子の上につま先立ちで、ぐらぐらと揺れ続けていて、京夜は見ているだけでヒヤヒヤするのだろう。だが、俺は声を張り上げて抗議したい。余計な事をするな! だからこそ幼く見えて可愛らしいんだろうが!
なんて、実際に言ったらみんなに白い目でみられ、部長に噛まれることを言うわけもなく、俺は傍観していた。基本的に俺は関わらない。見てるだけでお腹いっぱいです。
京夜が立ちあがって手伝おうとすると(京夜より紫音さんや綺羅々さんの方が背が高いから適任だろうが、男の意地だろう)、
「だめだ」
部長が断りの意思がこもった強い声が頭の上から降ってくる。いつも下から声が聞こえるのに新鮮だなぁ、なんて関係ない事を俺は考えてた。
「これは部長の仕事だ」
「だけど、ぜんぜん届いていないじゃないですか」
さっきも言ったが、部長の背丈は、ひどく小さい。小学校の高学年の方がまだ背が高いだろうと思えるまである。まぁ、そんくらいちっちゃい。
なので当然、椅子に乗ったくらいでは、天井の蛍光灯に手が届かないのだ。
「不可能だそうとなんだろうと! 私がやるったらやるのだ! 部費をぶんどってくるのも、備品の割り当てをぶんどってくるのも、部長の仕事だ。だから蛍光灯を交換するのも、もちろん部長の仕事だ なのだ」
いや意味わからん。
「わけわかんないですってば。あと自分で不可能とか言ってるじゃないですか」
京夜と同じ事を考えていた。そして冷静で的確なツッコミ。
「やらせてやってはくれまいか。先代の部長から任されたから、真央にとって、そこは大事なところなんだ」
黒い駒で白い駒を取りながら、紫音さんが言う。
「こら! シイ! 余計な事をゆーな!」
部長は紫音さんを『シイ』と呼ぶ。そして、紫音さんは部長を『真央』と呼び捨てにする。多分、昔からの女同士の親友なのだろう。
俺と京夜は一つの事が気になってきた。
先代の部長ってどんな人? 男? 女?
ーーーなんて考えてたら、京夜が椅子に戻った。
部長は未だに、椅子の上で右に左に、届くはずもない蛍光灯に手を伸ばし続けている。
「あのー……」
やっぱり見ていられなくなったんだろう。京夜が紫音さんに顔を向けた。俺もそっちを見る。紫音さんは澄ました顔で一人チェスを楽しんでいる。
綺羅々さんは我関せずを貫いている。いつもどおりお肉をパクパク食べ続けている。
恵ちゃんは、ケトルでお湯を沸かしながら、二本の棒を器用に操って編み物をしている。
彼女らは、別に冷たいわけではなくて、きっとみんなが『先代部長』とやらを知っているがゆえなのだろう。そう思いたい。
しかし、だからと言って納得ふる俺でも、京夜でも無かった。
「京夜ーーー変わるのがダメなら、手伝ってあげたらどうだ?」
「そうだね。部長ーーー手伝うんだったら、いいんですよね?」
椅子の上で伸びをしていた部長の両脇に、京夜が手を差し込む。
京夜は腕力に自信がある方ではないので、大丈夫か? と少し不安になったが、焚きつけた手前、黙って見ていることにした。
「えっ? わっ? ちょっーーー」
「できた」
「みたいだな」
京夜は無事、部長を “たかいたかい” のポーズで持ち上げる事ができたようだ。
「できた、じゃないっ! おろせバカ!」
ポカポカと頭を叩かれ、暴れられて、京夜は渋々といった様子でもとの椅子の上に下ろした。
「おまーーー! なんつーことを! 恥を知れ恥を!」
部長は怒っていたぎ、京夜は取り合おうとしなかった。
「手伝うならいいですよね? 僕が部長を持ち上げます。部長が取り換えて下さい」
「人の話を聞けよオマエ」
「手伝わせてくださいよ。手伝いたいんですって。ーーーいいでしょう?」
「いいじゃないですか部長。そうなったらもう、話聞きませんよ、そいつ。変なところで頑固ですから」
俺と京夜で強引に押し通すと、部長は渋々、頷いてOKしてきた。
“たかいたかい” はなぜか禁止になりーーー。
協議の末に、 “肩車” をして手伝う事になった(京夜が)。
蛍光灯は無事に交換出来たが、部長はその日、京夜と口を聞こうとしなかった。
ついでに、俺も噛まれた。ガジガジと。スルメのように何回も。
ーーー家に帰った後、噛み跡が残る腕を妹に見られてひと騒動あったのはご愛嬌。
キャラクター・プロフィール
【天使 真央】①
GJ部の部長。
小学生と見まがうばかりのちっちゃさであるが、これでも高校二年生。
強気かつ強引。いつも無駄に気合いが入っている。
でも意外と寂しがり屋かも?
優太は京夜と同じく遊び道具。
紫音→シイ
綺羅々→綺羅々
京夜→キョロ
優太→ユウ
恵→恵