あと、毎週日曜更新がまちきれない(僕が)ので、不定期の出来たら更新にしたいと思います!
「わたし、思うんですけど」
のんびりと響く恵ちゃんの声に、京夜は読んでいた本から顔をあげた。俺はそのまま、もはや定位置となっているいつものソファで、ライトノベルを読み続けていた。
「四ノ宮君って、いいひとですよね」
「えっ?」
いきなりそんなことを言われて、京夜は面食らっている。
顔が赤くなっているけど、多分そういう意味ではないんだろう。
部長、紫音さん、綺羅々さん。GJ部には上級生が三人いる。俺、京夜、めんどいちゃんは同じ学年だ。恵ちゃんだけクラスが違うが、同じ一年生どうしなので、俺も京夜も親近感を持っている。
「はい。お茶どうぞ。アッサムです。お勧めはミルクティーなんですけど、入れていいですか?」
「あ。うん」
京夜の目の前で、恵ちゃんの手が紅茶のなかにミルクを注ぐ。
白い渦がカップの中で丸く踊って、ふわりと広がった匂いが鼻の奥を甘くさせる。……ん? なんで見えないのにそんなに細かく描写できるかって?
それは簡単だ。確かに俺の座っているソファから、京夜の目の前の丸テーブルは見えないが……俺の目の前に全く同じ物があるからだ。
当然、恵ちゃんが淹れたものである。京夜とは違い、聞かれもせずに、いつの間にか置かれていた。まだ湯気が立っているので、そんな前ではないのだろう。
恵ちゃんは、様々な種類の紅茶を魔法の様に出してくる。俺もそこそこ紅茶には詳しいが、時々名前が分からないものがある。
京夜は紅茶について素人だが、毎日毎日恵ちゃんの紅茶を飲んでいるのだ。香りや味がどれも違うということがらなんとなく分かってきたらしい。
立ち働く恵ちゃんの背中を、俺と京夜はボンヤリと見つめる。彼女は誰かの世話をするのが大変好きな人である。いま部室には俺と京夜と恵ちゃんしかいないので、俺たちで恵ちゃんを独占できる。
といっても、大抵京夜が話し相手になるのだが。前も言ったと思うが、俺は基本的に傍観者である。
『可愛い絶対主義』である俺が厳しく見ても、恵ちゃんは美少女と言っても過言ではないと断言できる。
控えめに見ても、客観的に見ても、恵ちゃんはかなり可愛い。
「いいひと……、なのかな。ぼくって」
「はい。そうですよ」
恵ちゃんは肩越しに、京夜に向かって大きくうなずき、請け合った。まぁ、俺は京夜と小学生からかれこれ一緒にいて10年目だが、京夜ほど『いいやつ』といえるやつを知らない。
心の底から優しいのだ。本人には決して言わないがな。
「お姉ちゃんが噛み付いても怒りませんし」
そっちですか。
俺と京夜の心が一つになった瞬間であった。
京夜はガックシと肩を落とした。あれはなんか期待してたな。
恵ちゃんが天使の心ーーー比喩でも誇張でも無いーーーを持つ少女だということは、俺たち二人がこのGJ部に入部ーーーもとい、捕獲され、強制見学させられた初日に思い知らされたことである。それはもう、嫌というほどに。
穢れがない彼女の心には、ありとあらゆることが美談に映ってしまうのだ。
よく、ライトノベルや漫画でありがちな、お金持ちのお嬢様がおおらかな心を持っているーーー。なんて、普通のレベルではなく、もっと途方も無い、地球的なおおらかさである……。
このGJ部では『天使アイ』と呼ばれている。
そして、天使の心を持つ彼女が人を嫌う事はない。
俺も京夜も直接聞いたことは無いーーーもしかしたら、部長や紫音さん、綺羅々さんもかもしれないーーーが、もし、「嫌いな人はいますか?」などと尋ねたら、「全人類みんな好きですよ」と即答するであろう。
恵ちゃんに曇りのない笑顔を向けられると、男と女の事を考えている自分のことが恥ずかしくなってくるレベルである。
俺も前に、「この子を『可愛い』などという既存の枠に閉じ込めて良いのだろうか?」などと考え、その日の夜、ベットで悶えた事がある(何考えてんだ俺、と)。……え? 考える事がおかしい? 何をいまさら。
「知ってますか? お姉ちゃんって。最近人のこと噛まなくなったんです」
いえ噛みますけど。
「四ノ宮君と、園井君だけですよねー。噛んでるの」
そうだね。俺は一ヶ月に五回ペースで。京夜は二日に一度はそれはもうガジガジと。
「なぜぼくだけが噛まれるのでしょう?」
「それは、四ノ宮君か怒らないからです」
「えーと……」
「いいひとだからです」
「はぁ」
いやおかしいだろう。
「なら、俺はなんでだ?」
「園井君は、コミュニケーションですよ」
「はい?」
「お姉ちゃんと、一年生の中で一番仲が良いからです」
はた迷惑だな。仲が良かったら噛まれるって、なんだそりゃ。
まぁ、俺は納得しないが。単に京夜の場合は意気地がないだけだろう。
「紫音さんも。四ノ宮君のこと、よくからかったりしますよね」
俺と一緒にね。
「遊ばれている気がします」
「気に入られてますよねー」
「そうなんですか」
まぁ。紫音さんと仲良く男子が話しているのは見たことないしな。紫音さんにとっては貴重なんだろう、俺たちは。
「あと綺羅々さんも、四ノ宮君のこと、すごく気に入ってますよ」
「そうなんでしょうか」
自信なさ気に京夜が聞く。あの大きなお姉さんが何を考えているのか、GJ部メンバーの中で一番分かりにくいからな。
「だって、綺羅々さんからお肉を貰えているのって、四ノ宮君だけですから」
確かに。
「悪くない気がします」
「園井君もですよ」
「え?」
「お姉ちゃんが噛み付いたり、紫音さんとゲームをしたり、綺羅々さんが匂いをよく嗅いだり」
「……そういう、ことなのかな?」
「そうですよ。わたしも、二人がいてくれて、喜んでいるんですよ。お茶の淹れがいがありまして」
えへへと、恵ちゃんは可愛く微笑んだ。
話している間に、次の紅茶の準備ができていた。
俺と京夜のカップは空いている。
これで四杯目。次が五杯目。
家に帰ったら、直ぐにトイレに行こう。俺はタプタプするお腹をさすりながら、そう考えた。
キャラクター・プロフィール
【天使 恵】①
おっとりのんびりおしとやか。
みんなの世話をするのが楽しくて仕方がないという、GJ部の世話焼き担当。
天使の心を持つ少女。
あらゆる出来事は彼女の目には全て美談として映る。
京夜→四ノ宮君
優太→園井君
真央→お姉ちゃん
紫音→紫音さん
綺羅々→綺羅々さん