それはある日のこと。京夜と俺のあだ名が決まった日のことだ。
「やっぱ。あだ名が必要だよな」
ーーーと。部長が急にそう言ったのが始まりだった。
「そうかもしれないね」
紫音さんが同意する。
「いいですねー」
「るる」
恵ちゃんも頷き、キララも、なんか変な声で同意をしめした……声か……?
「誰のですか?」
京夜がそう聞いた。
いまいち話についていけてないのだろう。だが、俺は何となく予想がついている……というか、この中であだ名をつける相手になりそうなのは……
「オマエのに決まってんだろ!」
やっぱりな。あとたぶん俺もだ……というか、この流れで俺につけてくれなかったら悲しすぎる。
「いたい! 痛い! 痛いです部長っ!」
部長に噛み付かれた京夜が悲鳴をあげる。手首と肘の間をみごとに食われている。
紫音さんたちが部長の足を引っ張ってようやく離れた部長……俺はやらないのかって? セクハラになるってのが分かんないのか?
「あーもう。がぶがぶ噛まないでくださいよ……。ほら、歯形付いちゃってる」
「人があだ名を決めてやろうっていうのに、ひとごとみたいに言ってるからだ」
「部長って、歯並びいいですよね」
京夜が腕に残った歯形を見ながら言う。すると。
「るさい! また噛むぞ!」
「なんでですかー!」
「言ったことを聞かないやつと、聞いていないやつは、噛まなきゃわからんだろーが!」
「それどっちも同じなんじゃないですか」
「ムガー!」
京夜がまた噛まれた。
紫音さんたちは、さっきは外したのに、今度は外そうとしない。
「だいたいあだ名ってなんですか。名前ならありますよ、京夜ですよ」
京夜が、二重に歯形のついた腕をさすりながら言う。
「却下。立派すぎ」
「愛称って大事ですよねー」
手のひらを合わせながら恵ちゃんが言う。
「こういうのって、やっぱり印象で決まると思うんです。ーーー皆さん、どうでしょう?」
まるで天使のような彼女、恵ちゃんだが、こういう時の助けを期待してはいけない。天使の目には、いまの京夜の状況も美談に見えているからだ。皆が “あだ名” と言っているのに対し、恵ちゃんは “愛称” と言っているのがその証拠である。
「印象ねぇ……」
と部長が腕組みをする。ただし、その顔には満面の笑みが浮かんでいる。
「白ごはん」
紫音さんがボソッと呟く。
「そのこころは?」
「なんにでも合うところ。彼の無個性をどう表現すればいいか考えてみたのだが」
「うーん」
部長は難しい顔になる。
「すまない……。面白くなかったかもしれない。ジョークは苦手で」
紫音さんは真剣に次のジョークを考え始めた。「プレーンヨーグルト?」とか口の中で呟いているようだ。……紫音さんにその手のセンスが無いことが判明した。
「キララ。おい。なんかねーのか?」
部長がキララに話題を振った。京夜がキララの神秘的な目に見つめられている。おいそこかわれ。
京夜がきょろきょろと視線をさまよわせ始めると。
「うまそう?」
キララがいきなり変な事を言い出した。そのこころは……いい匂いがするから。とかだろうか?
「よし。うまそうな白ごはんで決定」
部長が膝を叩いて喜んでいる。
「決定しないでください! あと合体させないでください!」
「キョロさんって、どうでしょう?」
ずっと考え込んでいた恵ちゃんが、このタイミングでそう言った。
「京夜さんの名前と、あとはさっきキョロキョロしていたのとを掛けまして」
「ああ。そういやよくキョドってるしなー。よしそれで決定!」
京夜は黙っていた。何か言って、「うまそうな白ごはん」に戻ってはたまんないからだろう。
京夜のあだ名はこうして決まり、俺は一言も話さないまま、今日の部活動が終わった。
…………あれ、俺は?
その日の帰り道。
「じゃーなユウ」
「それじゃあね、ユウ君」
あ、もう決まってたんですね。
キャラクター・プロフィール
【四ノ宮 京夜】しのみや きょうや
こだわらない。争わない。のんびり平和主義者。
得意なこともなければ苦手なこともないという、無個性を絵に描いたような原作主人公。