The Sweepers   作:インノケ

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GBFの非公式ジョブ「スイーパー」。

不運なビルダーミヤナガ・ユウは彼らと出会い、終わりなき戦いを見る。


魔女の箒編
1話


 僕の見るモニターには巨人が映し出されていた。もちろん現実に巨人なんているわけがないが、なにしろここは非現実だ。ガンダムの設定が再現されたインターネット上に存在する仮想世界、「ガンダムバトルワールドフロンティア」。巨人はガンダムの世界に登場する機動兵器、MSだ。コンピューターの異変によってデスゲームと化してしまった脱出不能のオンラインゲーム内の宇宙エリアを僕のいるクラップ級巡洋艦「ウェルナー」は航行中だ。

「どれも見たことのないタイプのカスタマイズだ……。役割に特化させているのか? 」

思わず口に出してしまう。僕が眺めていた巨人はこの艦を使っているクラン「魔女の箒(ウィッチズブルーム)」の機体だ。ビルダーという職業柄機体を見るとまずセッティングを確認するのが癖になってしまっている。

「なーに? あたしのゲルググに見とれてたのかしら?」

可愛い口調とはあまりにも不釣り合いな低く落ち着いた男性の声がかけられ振り返ると、整えた髭の印象的な壮年の男性が現れる。彼がこのクランの隊長にして僕、ミヤナガ・ユウを“拾った”張本人、ゲオルグ・ローレンツである。

「変わってるでしょ、あたし達の機体。オーダーメイド品なんだから!」

「はい……でもなんでこんな仕様なんです? このゲルググはともかく奥のビルゴなんか攻撃のことロクに考えてないじゃないですか。他の機体だって……これじゃ戦闘になったら一機ずつ落とされて終わりじゃないですか!」

「あたし達の敵はすこーし変わっててね」

ゲオルグさんは少し考えた素振りを見せてから、口を開いた。

「ねぇ、スイーパーって知ってるかしら?」

 

 僕がこの艦に乗っているのはちょっとした事情がある。そもそも僕は地球に居を構えるビルダーであり、つい20時間ほど前も地球の自分の工房にいたはずだった。事の発端はそこからさらに遡り2日前、ある制作依頼を受けたことから始まった。内容は「地上仕様のグフを宇宙でも動かせるようにして欲しい」というGBFではごくありふれたものであり、断る理由などどこにもなかったのだ。無事作業を終え納品したのがちょうど23時間前、そして問題のクライアントからの電話が来たのがその2時間後である。

「実際に使えるか、機体の実地テストをしたい」

クライアントはそういって、僕の立ち合いを求めてきた。普段自分の手がけた機体を実地で見る機会はないため興味の湧いた僕はクライアントの指定した宇宙エリアに自分のMSで向かった。当時僕が搭乗していた機体は僕自身がカスタマイズしたジム・コマンドでセンサーをツインアイに変えるなど改修をしたものだったが、クライアントの狙いはこれだったのだろう。指定ポイントに着くとそこには宇宙でも動けるようにフレキシブルバインダーを装備したグフとネモの2機が待っていた。

「さっそくテストを始めてくれ。要望通りの旋回速度かどうかのチェックもな。」

そう声をかけ距離をとろうとした瞬間グフとネモが動いた。グフはヒートロッドを射出しジム・コマンドの右腕を拘束、ネモは後ろに回り込んでコックピットのちょうど真後ろにライフルを突き付けてきたのだ。唖然としている僕だったがグフからの通信に我に返った。

『その機体から降りろ。10秒以内だ』

「降りろって……ここは宇宙だぞ!? それになんで!」

『10秒だ。9、8、7』

彼らの狙いは最初から飛び込んできたビルダーから機体を奪うことだったのだ。僕のジム・コマンドに限らずビルダー自身の機体となればその辺の量産機とは一線を画す性能を持つ。僕はいいカモとなっていたのだ。この世界での死は現実でもまた死を意味する。僕は悔しさに涙を浮かべながら機体のハッチを開き飛び出した。不幸中の幸いか、彼らも命は奪いたくなかったようで両側から僕のジム・コマンドを抱えるとあっという間に飛び去ってしまった。これが19時間前の出来事である。その後移動手段を失い漂流していたところを通りかかった魔女の箒によって拾われ、今に至るのだ。

 

あてがわれた自室にて、さっきのゲオルグの言葉を思い出す。

『NPCが異常強化されてしまったこと知っているかしら?』

『私たちは常にその強化NPC、ミュータントの脅威に晒されてるのよ』

『そこで、あらかじめ湧いたタイミングでソイツらをお掃除しようってのがあたし達スイーパー』

『だからあたし達の機体はそれ用にカスタマイズされたものなのよ』

地球側、しかも非戦闘員であった僕はこの戦いの世界の中ですら聞きというものをあまり感じたことがなかった。つい数時間前に直面した本物の死の恐怖、そして今も行動を共にしている彼ら魔女の箒の置かれている過酷な状況。それらは僕を巨大な不安で覆うには十分すぎるものであった。このまま基地まで送ってもらってプレイヤーホームに帰ればまた今まで通りの生活に戻るだろうか? いや、きっとまたいつ訪れるかわからない死の恐怖への不安におびえることになるだろう。このままでいいのか? 深みへとはまっていく僕を救ったのはまたも可愛い口調とは裏腹に低く、なんとも男らしい声であった。

「ご飯あるわよん? あんたも一緒にどうかしら?」

強面の中年男性がそう言ってドアから顔をのぞかせていた。

「あ、あの、お名前を……?」

「あたしはタケモト・モトナリ。でもフラウって呼んでもらった方が嬉しいかも。」

強面はそう言いにっこりと笑った。まさかこのクランこんな人ばかりなんじゃないだろうか。そんなことを考えてるうちにモトナリはすぐ目の前に迫っており、その見た目通りの剛腕によって僕は半ば引きずられる形で食堂へと向かったのであった。

 

 クラップ級はガンダムにおいてはなかなか名の知れた艦である。OVA「機動戦士ガンダム逆襲のシャア」に登場する地球連邦軍の艦だ。ラー・カイラム級より小型とはいえ乗員数は優に100人を超えるようなものであり、それらを収容するはずであった食堂は5人で使うにはあまりにも広かった。机を挟んで向かい側にモトナリ、少し奥のテーブルにゲオルグと黒人の男性、そして僕のすぐ右隣に整った顔立ちではあるが目つきの鋭い青年が座っていた。

「本当に運がいいわねぇあんた。ゲーム内で飢え死にとかシャレになんないわよ?」

モトナリがハンバーグをほおばりながら話しかけてくる。拾われた際に経緯の説明をしたため状況は知られているらしい。軽く笑って返すがそれよりも隣の青年がどうにも気になってしまう。座席間の距離は一定のはずだが彼との間だけ心なしか狭い気がするのだ。モトナリも気がついたらしく彼に声をかける。

「ちょっとジュウちゃん何すり寄ってんのよ! 彼困ってるじゃない」

「ジュウちゃん……?」

隣を見るとまるで睨んでいるようなきつい目と目が合う。

「……キノシタ・ジュウザブロウ。でもあなたがそう呼びたいならジュウちゃんでいいわ」

「会って早々色目使ってんじゃないわよ! もっと困らせてるじゃない!」

どうやら彼もそうらしい。おそらく向こうの黒人の男性もそうなのであろう。驚きはしたものの気が合う仲間で結成されるのがクランである。そういうクランもあるのだろうと自分に言い聞かせることで置かれている状況もはっきりしてきた。思わぬ形で落ち着きを取り戻した僕は、抱えていたもやもやの中で生まれかけていたある一つの答えを持って、席を立ちゲオルグのもとへ向かった。

「ゲオルグさん」

「あら、ユウ君。ジュウちゃんにもう気に入られたのね? どうかしたのかしら?」

軽く息を吸ってから、その答えを吐き出した。

「僕を魔女の箒に入れてもらえませんか」

 

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