ユウ、立つ
フォルテンツィアのジャックの下に来てから1か月。僕は彼からビルドの技術だけでなく、戦い方も学んでいった。このGBWFにはビルダーでありながら戦場に出るプレイヤーもいるという。パイロットのスキル補正を受けずにビルダーとしての知識や観察眼で戦う彼らのことを知り、僕の戦い方を知った気がした。そして今、僕は最後の仕上げに取り掛かっている。魔女の箒を去る際にジュウザブロウにもらったダギ・イルス。これをこの一か月の間に手に入れたもので、僕だけのビルダーモデルにするのだ。ここに来てからジャックやアール、ナオミやリクの他にもたくさんの人に出会った。地球側のクエストクリアに尽力する人、コロッセオをMFで頂点を目指そうとする人、戦いで大事な人を失いフォルテンツィアにやってきた人。それぞれのがそれぞれの戦場で戦っていることを痛感し、自分もまた戦いに赴かなければならないのだと知ることができた。それらの集大成としても完成させなければならない。僕はそう強く感じたのであった。手を加えるのは武装面とセンサー類、それにバックパックだ。武装はより広い範囲をカバーできるものに、センサーは戦闘に耐えうる強度を保ちながらこちらも広範囲を精密に観測できるものへと変える。バックパックは機体の重心を考えてバランスをとれるように注意するのだ。こうして少しずつ、着実に機体の作成は進んでいった。
その知らせが飛び込んできたのは、機体が70%ほどまで完成した夜のことだった。僕の作業を見ていたジャックの端末にメッセージが届いたようだ。読み終えたジャックの表情は、今までに見たことがないほど険しいものであった。
「どうしたんです、ジャックさん?」
さすがに不審に思ったので、思わず尋ねてみた。いい知らせではないのだろうとは思っていたが、ジャックの返答は想像をはるかに上回ったものだった。
「ゲオルグさんがやられた」
空気が凍り付くのがわかった。心の中でどこか無条件に彼らの無事を信じていたが、彼らはスイーパーだ。
「……殺されたんですか?」
「いや、撃墜判定を受けただけだ。無事ではあるが……」
とりあえず無事らしい。ほっと胸を撫で下ろすが、ジャックはまだ何か言いたげだ。
「ゲオルグさんは、戦闘中に明らかに挙動のおかしいミュータントにやられたそうだ」
「……! また出たんですか!」
手元のダギ・イルスを見る。あの時も編成に偏りがあったりとおかしな点はあったが、バグか何かだと思って深くは考えなかったのだ。
「ジャックさん。僕、宇宙にいきます。ウェルナーは基地に戻ってるんでしょう?」
それは前から決めていたことでもあった。自分の機体を作るということは、自分自身が戦場に出るということだ。ただ、その時期が少し早くなっただけなのだ。ジャックもそのことはわかっていたらしい。ため息を一つ着くと、険しい顔がやれやれというような優しいものへと変わった。
「今回の報告を受けて確信を持てたよ」
ジャックはいつもの大きなモニターを引っ張り出して端末を操作し始めた。
「ゲオルグさんたちはあるミュータントの塊を処理している最中だった。そんな中、まったく別の場所にいたミュータントが突然、ゲオルグさんに突っ込んでいったのが目撃されたそうだ」
本当ならば不自然もいいところである。AIはたとえ視界内にいたとしても、索敵値から算出される索敵円に入らなければ攻撃はおろかこちらを向きすらしない。その逆もしかりだ。つまり今回の挙動は、「見えてもいないゲオルグを突然追いかけ始めた」ということになる。これはとてもバグなどとは言えないだろう。
「端的に言おう。このミュータントは操作されている。」
「操作? ミュータントを操ったやつがいるってことですか?」
確かにつじつまが合う説明ではあるが、もっと根本的な問題がある。そもそもミュータントが操作できるものならばスイーパーなどいらないはずだ。
「このGBWF開始初期に、NPCを操作した事例があったんだ。もちろんあっという間に運営に気づかれて修正されたはずだったんだが」
つまり、その修正をかいくぐって同じことを起こしたやつがいるということだ。
「実はな、これをやったのは俺の知り合いなんだ。都合のいいことにこのフォルテンツィアにいる、な。そいつから話を聞いた方が早いだろう」
ジャックは端末を素早く操作しメッセージを送る。数瞬の後、メッセージが返ってくる。
「アポが取れた。ユウ、酒場へ行くぞ」
メッセージを読んだジャックが立ち上がり僕を促す。こうして僕はそのジャックの知り合いの下へと向かうことになった。
フォルテンツィアでのユウの他の出会いは、また別の場所で