ユウ、褒められる
NPCを操作したことがあるというジャックの知り合いと会うため、僕たちはフォルテンツィアの酒場に来ていた。指定されたテーブルに向かうと、そこに座っていたのは僕にもなじみのある人物であった。
「リク! ジャックさんの知り合いって!」
「誰かと思ったらユウじゃねえか。なるほどな、こういうのを世界は狭いって言うのか」
座っていたのはヤマモト・リクその人であった。彼とはあの後も何度か会い、ルーレットでおいしい思いをしては一緒に飲んだりしていた。しかしお互いの身の上話をあまりしなかったからか、こういった接点には全く気付かなかった。
「なんだユウ、知り合いだったのか。なら自己紹介せずとも本題に入れるな」
そうだ。今日彼に会いに来たのはいつものようにルーレットをするためではない。僕が気を引き締めてテーブルに着くと、リクが話し始めた。
「大体はジャック、あんたからのメールでわかった。NPCコントローラはとうに役立たずになったと思ってたがな」
「NPCコントローラ?」
「俺が使ってたツールのことさ。ルーレットの解析ツール見せたろ? アレはもともとNPCのシステムをのぞき見するために作ったもんだったんだ」
彼の言う解析ツールはルーレットの次の色がわかるといった程度のものだったが、本来はNPCに向けるものだったようだ。驚きつつもその力を身をもって知っているだけあって、彼ならばできかねないという気分になる。
「ゲーム開始当時は俺はパイロットだったんだが、前にも言ったとおりあまり向いてなくってな。そこで、ビットMSみたいなことができないかと思ったんだよ」
ビットMSとは遠隔操作によって自分の思うままに動かせるMSのことだ。確かにそれが可能ならば自分が弱くても数で対抗できる。しかし肝心の手段が僕にはまだ見えなかった。
「理屈はわかったけど、NPCを解析しても仕組みがわかるだけじゃないか。直接的な捜査の手段にはならないんじゃないか?」
「ガンダムアクエリアス」
「え?」
リクに疑問をぶつけると、その答えはあっさりと返ってきた。
「知ってるか? 周囲にウィルスをばら撒いてMDを無効化するアンチMDシステムを搭載した機体。このゲームにも実装されてんだよ」
MDとは「新機動戦記ガンダムW」に登場した無人MSのことだ。それを再現ということは……。
「NPCを機能停止に陥れられるってほど強力じゃなかったがな。デバフを与えられるようになっていた。それをNPC側にアクセスするためのドアにさせてもらったんだ」
つまりもともとガンダムアクエリアスにあった機能をいじってNPCを操れるようになったということか。
「ただ長くは続かなくってな。ぶっ続けで使い続けてたら運営に見つかっちまってあっという間に修正だ。で、今に至るって訳だな」
「じゃあ今回の事件でも……」
「似たような手口だろうってのが俺の見立てだ。ジャック、あんたはどう思う」
「俺も手段については同意見だ。が、なんでゲオルグさんを襲った? 勢力戦争に加わっているパイロットならともかく彼はスイーパーだ。直接襲われる原因がわからない」
「それは宇宙側から見た理屈だ。地球側にしてみりゃスイーパーなんぞがいなければ基地は勝手に落ちるくらいにしか思わないだろうな。ま、なんにせよそれは犯人に聞いてみなきゃってことだ」
考えたくもないことだが彼の言う通りの可能性もある。早急に対処が必要なのは間違いなさそうだ。
「で、欠点みたいなものはないのか?」
ジャックが肝心の質問をする。攻略をするには弱点を、というのはゲームの基本だ。それを聞きたくて彼のもとを訪ねたのだ。
「いずれ修正される……といいたいところだが、ジャックの話によればもう一月以上使えてるらしい。ってことは常にアップデートすることができてるって訳だ。とりあえず操ってるヤツを撃墜しちまえ」
返ってきたのはなんともあっさりとした答えだった。リクが続ける。
「元々のNPCへのデバフ効果も時間制だったせいでな、戦闘中に何度も操作しなおす必要があるんだ。書き換えてるヤツを倒しちまえば元通りってことよ」
「そんな適当でいいのか?捕まえて入手経路吐かせたりとかは……」
「それは捕まえたヤツのやることだ。そこまで考えてやる義理は俺にはねえよ」
酷いいいようだが彼の言うとおりである。とりあえずは捕まえてみなければわからない。とにかくこれでやるべきことは決まったのだ。僕とジャックはリクに礼と別れを告げると酒場を後にした。
「ユウ、お前の機体はどうなってる」
「あとは細かいマーキングをして完成です」
帰り道、ジャックは僕に言い聞かせるように言った。
「おまえの強みは、どんな状況に置かれてもそれを飲み込み対応できる柔軟さだ。お前ならたとえビルダーであってもパイロットに負けない活躍ができる。いや、ビルダーだからこその戦いができる。負けんなよ?」
「……はい!」
「帰ったら急いで完成させるぞ。俺もアドバイスくらいはしてやる」
こうして僕の出撃前夜は過ぎていった。