The Sweepers   作:インノケ

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事件の顛末

ユウ、泣く


17話

 目を覚ますと、そこはコックピットではなくウェルナーの自室だった。上半身を起こすとズキズキと頭が痛み、思わず顔をしかめた。何があったのか、まだ意識がはっきりしないのか思い出せない。思い出そうとしても頭が痛くてそれどころではない。枕元に水のボトルがあったので、キャップを開けてあおる。こういう時は深呼吸をして落ち着くものだ。数回繰り返すと頭痛こそひかなかったものの、意識ははっきりとしてきた。たしか最後におぼえているのは作戦の成功を告げたあと、ジュウザブロウと話していたところだ。そのあとシートから投げ出されて、までは思い出せるがその先が思い出せない。頭が痛いのを考えると思いっきり打ったのだろう。後ろにはザクレロがいたし、おそらく急発進したザクレロに追突されて今に至るのだ。大体の状況整理を終えてから、僕は艦橋に向かった。責任者がいつまでもベッドで寝ているわけにはいかないし、それにジュウザブロウに文句の一つでも言ってやろうと思ったのだ。艦橋に入ると、ゲオルグがグレゴリアス艦長、ユウキ艦長と話していた。

『む、ミヤナガ君。気が付いたかね』

『それでは私たちはこれで。ありがとうございました』

モニターが切れ、ゲオルグがこちらに向きなおる。

「ユウ君……。具合はどう?」

少し疲れたような顔のゲオルグが笑いかけてくる。僕の戦闘中、外縁個体と戦っていた部隊の指揮を執っていたのは彼なのだ。いくらゲオルグとはいえ、憔悴していても不思議はない。

「はい、多少痛みますが大丈夫です。ご迷惑をおかけしました」

「よかった……大丈夫そうね」

必要以上に安心するゲオルグの様子を不審に思い、思わず尋ねてみる。

「作戦は、成功したんですよね? やり遂げましたよね?」

「ええ……、あなたはしっかりとやり遂げたわ。さすがユウ君よ」

どうやらうまくやったらしい。実はまだアクエリアスがいました、なんてことになっていたらどうしようと思っていたのだ。シャレにならないが、そういうことを考え対策をするのも指揮官なのだ。

「皆さんのお役に立ててよかったです。これで返せたとは思ってないですけど、皆さんに拾ってもらったご恩に報いれればと思います」

そのために今僕はここに、スイーパーの一人として立っているのだ。いつか彼らのようになる。その日が来るまで戦う覚悟が僕にはできたのだから。

「そういえば他のみんなはどこにいるか分かりますか?僕、最後にジュウザブロウさんに追突されて気を失ったんですよ。一言くらい言っておきたくて」

今まで黙って僕の話を聞いていたゲオルグだったが、僕の質問にやっとその口を開いた。

「ジュウちゃんは、死んだわ」

「え?」

「アクエリアスの自爆に巻き込まれて、PKされたのよ。だからもう、何も言ってあげられないわ」

ゲオルグの言葉に思い出せなかった最後の瞬間がフラッシュバックする。ジュウザブロウが帰ろうと言ったとき、ザクレロはアクエリアスをけん引していて、コンピューターで再現された爆音が聞こえて。

「あ……、ああ……。あああああ」

手が震えだす。なぜ一回でもパイロットが機体を自爆させる可能性を思いつかなかったのか。なぜ安全を確認してからのけん引を指示しなかったのか。なぜ、なぜ、なぜ。足に力が入らなくなり、その場に座り込んでしまう。そういうシャレにならないことまで考えるのが指揮官なんじゃなかったのか。いや、そんなことよりも。

「ジュウザブロウさんが、死んだ? PK?」

あんなに気をかけてくれたジュウザブロウが。ダギ・イルスをくれ、出撃前にも励ましてくれて、最後に声を交わしたあのジュウザブロウが。クールな見た目に反して可愛げがあって、面倒見がよくて、こうなりたいと思ったジュウザブロウが死んだ。このゲームでのPKは現実世界での死を意味する。つまり本物の死だ。二度と返ってくることはない。 僕が死なせたのだ。あそこでそのままアクエリアスを撃墜して引き上げていればこんなことは起きなかった。撃墜せずともライを引きずり出して逃げていれば。回らない口とは裏腹に思考だけはぐるぐると、ああしていればよかったのにと繰り返している。視界が曇りだし、頬に暖かさを感じる。深みへとはまっていきかけていた思考は止まり、泣いているんだということだけを認識できた。ゲオルグが隣に座り、そっと抱きかかえてくれた。僕は、声をあげて泣いた。

 

 しばらく泣いて、次第に泣いているのに涙が出なくなって、そのうち泣き止んだ。ゲオルグは、風貌こそ完全に父親だが、まるで母親のように寄り添ってくれた。おかげで思考もはっきりし、何が起きたかを理解できた。どうやらウェルナーは僕が寝ている間に基地へと戻ってきていたらしい。報告も報酬の支払いもゲオルグさんがしてくれていたらしく、艦橋に入った時に見た通信は別れの挨拶をしていたところだったようだ。大きな損害はなく、各機体も多少のダメージこそあれパイロットは無事らしい。ビルダーとは思えない戦いぶりだったと賞賛の通信が入っていたことも教えてもらった。端末にはジャックからのメールもあり、一度戻ってくるといいいといった内容だった。彼もゲオルグから状況は知らされているのだろう。他の魔女の箒のメンバーは、みんなで一晩泣いた後お酒を飲んでからジュウザブロウのファッションセンスをこき下ろして、弔いをしたらしい。これが戦死者の多いスイーパー流の、いや、魔女流の弔い方だとゲオルグが教えてくれた。生前の彼の所有物は既にフォルテンツィアの教会におくり、埋葬してもらったという。ゲーム内でもそんなことをやってくれる人がいるのかとも驚いたが、こんなゲーム内だからこそ必要とされたのだろうと納得もできた。結局僕は、ジャックの言いつけ通りフォルテンツィアに戻ることにした。エアプレーンに乗る時は魔女の箒のメンバーが、これでよくジュウザブロウのファッションセンスを馬鹿に出来たものだと思うようなあの本気の衣装で見送ってくれた。もちろんあの時のように周りから奇異の視線は向けられたものの、それはもう居心地の悪いものではなかった。彼らの仲間として、それは誇りともいえるものになっていた。

「困ったことがあったらいつでもウェルナーに戻ってきなさい。あなたももう魔女の一員なんだからね」

「ありがとうございました。魔女の魂、しかと心に刻みましたよ」

言ってからなんだか呪いのような響きだと思ったものの、悪い気はしなかった。こうして、僕は地球へと戻ったのだった。

 

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