スイーパーを学ぶ。
「僕を魔女の箒に入れてもらえませんか」
GBFがデスゲームになって以来知らない間に募っていた不安はもはや無視できないものになっており、これ以上不安を抱えて過ごしていくことなんて、とてもできなかった。ならばいっそ踏み込んで立ち向かってしまえ。それが僕の出した答えだった。
「戦力にはならないかもしれないけど……艦の砲座代わりくらいならできます。それにぼくはビルダーだ。皆さんの機体のカスタマイズくらいなら……」
「ダメよ」
ゲオルグの声にはっとなる。彼の灰色のやさしい目がこちらを見つめていた。
「スイーパーっていうのはね、あなたが思っているよりもずっと過酷なの。倒せど倒せど湧いてくる情けも容赦もないミュータント共の相手をするのよ。必要なのは戦闘の腕だけじゃないわ。経験もそうだけど、何よりも折れない心が必要なのよ。思い付きで飛び込んでいいようなところじゃないわ」
「あ……」
当たり前の返答であった。二つ返事で許可してもらえるようなお願いではない。そう頭では分かっていても、ただでさえ不安に押しつぶされそうになっていた僕には厳しい返事であった。しかし、思わぬところから助け船は出た。
「私が面倒を見てあげてもよろしくてよ?」
ゲオルグの前、黒人のすらりと背の高いまるでバスケットボール選手のような青年がゲオルグに提案する。
「ビリー、あなた……」
「どうせ私は新しい機体に慣れるまで戦線には出れませんわ。二人で艦の護衛に付いていれば良いのではなくって?」
ビリーと呼ばれた彼はこちらにウインクを飛ばしてくる。
「……いいでしょう。じゃあユウ君はビリーについていってあたし達の戦いを見学なさい。今からあなたは魔女見習いよ」
こうして僕は、魔女の箒の一員となったのであった。
「あなたには魔女の基本を学んでもらいますわ」
僕は世話を買って出てくれた彼、ビリー・ウォーカーの自室にてスイーパーについての講義を受けていた。
「ミュータント、異常強化されたNPCは普通のNPCに比べ情報の伝達速度が極端に早いのが特徴でしてよ。これはすなわち戦闘エリア中の全ミュータントが連携して襲ってくるということですわ」
ビリーは魔女の箒の中でも断トツに言葉遣いがおかしい。外国語は自動翻訳されているはずであるが、いったいどんな英語を話せばこんな風に翻訳されるのだろうか。
「彼らが認識するのは私たちの配置、射角、攻撃力、防御力、機動力。それらを総合的に判断し、脅威度を設定していましてよ。攻撃力の高い高機動MSなどで迂闊に飛び込めば最上位目標としてあっという間にハチの巣にされてしまいますわ」
だからこの部隊の機体はどれも偏ったカスタマイズなのかと納得していると、彼のほうからも解説が付け加えられた。
「私たちの機体は少数でも渡り合えるように役割分けを行いサイクル戦を行えるようになっていましてよ。防御のモトナリのビルゴ、機動のジュウちゃんのザクレロ、そして攻撃の私のスタークジェガン、支援とサイクルの指示のゲオルグのゲルググJ。そうやってできるだけミュータントの数を減らすのがスイーパーの仕事ですわ」
「減らす? 殲滅はしないんですか? 」
「しないのではなく、できないのですわ。ミュータントは元はただのNPCの雑魚、一定のポイントから一定間隔ごとに現れましてよ。そんなものをどうやって殲滅するのでして?」
その通りだった。本来はNPCはレベル上げやパーツドロップのために絶えず湧いてくるものなのだ。
「続けますわよ。スイーパーは過去に有志によって立ち上げられたジョブですわ。私たちのほかにもいくつかありましてよ。有名なものといえば、ビルダーだったのであれば『ブッホのジャンク屋』なんかはご存じではなくって?」
ブッホのジャンク屋といえば大手のビルダー・マーチャントギルド「ブッホ・コンツェルン」お抱えのクランだったはずだ。彼らもスイーパーだったようだ。
「スイーパーは戦闘で得たドロップ品を提供することで、ブッホのジャンク屋とブッホ・コンツェルンのようにギルドから支援を受けていましてよ。私たち魔女の箒が小規模なクランながらも巡洋艦なんてものを使えるのも支援者様のおかげですわ。」
「魔女の箒はどこのギルドからの支援を受けているんです?」
「ギルドではありませんわ。私たちの支援者は……」
ビリーが言いかけたところで艦中にけたたましいアラートが鳴り響く。
「座学はいったん中止でしてよ」
「何が起きたんです!? 」
「時間、私たちのお掃除当番の時間ですわ」