ユウ、戦場の異変に気づく
簡単なデブリーフィングの後、ゲオルグは今後の予定について話した。
「あたしたちはこの艦を基地に預けた後、地球のフォルテンツィアに向かうわ」
「フォルテンツィア……休暇ですか?」
思わず間抜けな質問をしてしまうと、ビリーが笑いながら僕の疑問に答えてくれた。
「先ほど言い損ねた私たちの支援者様のもとへ向かうのですわ。私のジェガンの調整とパーツの受け渡しを兼ねて」
「フォルテンツィアにあるギルドって……超大手じゃないですか!魔女の箒ってそんなすごいところからの支援を受けてるんですか」
「すごいといえばすごいんだけど。ちょっとね、事情が特殊なのよ。相手は個人なのよ」
今度はゲオルグが、少しいじわるな笑みを浮かべて答える。
「会ってからのお楽しみ……よ?」
ジュウザブロウも表情こそ変えないが楽しそうに答える。結局誰もこれ以上詳しいことを教えてくれなかったせいで、支援者の正体はジュウザブロウの言う通りお楽しみになってしまった。クラップ級巡洋艦ウェルナーは進路を3つほどエリアを隔てた宇宙側の基地へと執り航行を続けていた。所要時間は2時間ほどとのことで、僕は仮眠をとっていた。昨日からあまりにもいろいろなことが起きて、限界を感じていたのである。使い慣れていない軍艦のベッドであったが、体を預けるとあっという間に意識は闇の中へと沈んだ。
目覚ましのベルは、先ほども聞いたあの警報だった。警報の後、ゲオルグの声が状況を告げる。
『ブロック15のミュータントが定数を大きく超えているわ。このブロックのスイーパーとも連絡が取れない。みんなブリーフィングルームにきて頂戴』
全員がブリーフィングルームに集まると、ゲオルグは険しい顔で話し始めた。
「この基地に近いエリアでのスイーパーの怠慢は許されないわ。まだ対処できない数じゃないけどそれも時間の問題よ」
「ここは『ポーラースターズ』の管轄じゃないの? 連絡がつかないって言ってたけど」
モトナリが声をあげる。
「ええ、気になるわね。とりあえず今は私たちがお掃除をしましょう。少し数が多いけど、減らすだけならなんとかなるはずよ」
「「「了解」」」
「ユウ君はさっきと同じように索敵と艦の直衛を頼むわね」
「り、了解です」
各機が順に発進し、最後に僕のエビル・Sが射出される。ゲオルグは心配だからと僕にゲルググのビーム・スナイパーライフルを持たせたが、今の僕の胸中に不安はなかった。変わった人たちではあるが、みんな戦闘のプロフェッショナルで、たった数機で異常強化された敵と渡り合える凄腕ばかりだ。僕だって役に立って見せる。センサーポッドを射出し、データをゲオルグのゲルググJと同期する。
『10秒後に開始に攻撃開始よ。ビリー、ユウ君をよろしくね』
『お任せあれですわ』
ゲオルグの指定したタイミングで攻撃が始まる。先ほどと同じシークエンスの繰り返しであるが、確実に敵の数を減らしていることがレーダーに映る赤い点により見て取れた。
『今回はさっきと違って敵が分散してるからあまり効率が上がらないのが難点でしてよ』
ビリーが解説をしてくれる。確かに一回のサイクルで減る敵の数は先ほどより少ない。
『一人当たりの負担が大きいこの戦い方において、効率が低いというのは大きな痛手なのですわ。長くは戦えない分減らせる量は少なくなってしまいますもの』
その通りだ。いくら有利に動けてもこちらの限界が来てしまえば退くしかないのだ。それでも彼らは順調に数を減らしていっているように見えた。
5分ほどしたところでモトナリから通信が入る。
『なんだか急に敵さんの攻撃がぬるくなったわん。雑魚の塊が混ざってたみたいね』
『こっちも……相手がロクについてこれてない……』
どうやら思っていたよりも楽に済みそうだという空気が流れだしていたが、それはゲオルグの言葉によって凍り付くこととなる。
『嘘……さっきからあたしの方にくる敵は固くて強いやつばかりよ。間違いなくこいつらはミュータントだわ』
『敵の編成に偏りが出ている、ということでして?』
ビリーが訝しげに問う。
『編成するだけですら時間をかけているAIが私たちのどれかを突破しようなんて考えられるはずがないわ。おそらく不具合か何かじゃないかしら。いったんあたしが前に出るわ』
モトナリのビルゴがゲルググJの前に出て、攻撃を防ぐ。
『何よ……相手がどんどん入れ替わっていくわ。さっき相手してた雑魚ばっかり!』
『ミュータントが……戦術を使っている……?』
誰もが抱き始めていた疑念をジュウザブロウが口にする。僕はセンサーポッドにより拡げられた索敵円で敵の動きを見ていた。モトナリの言う通り敵はまるで既に編成が終わってるかのごとく、三つの群が的確に三人を追いかけていた。そしてもう一つ、敵の動きにおかしなものを見つけた。
「中央の一機、さっきからほとんど動かない……というよりミュータントはあの一機を中心に動いてる?」
僕は目標に向かってビーム・スナイパーライフルを構える。エビル・S本体の光学カメラではその姿をとらえることはできないが、ライフルと同期すればその姿が捉えられるのではないかと考えたのだ。拡大表示されたスコープの画像に移っていたのは白く、小柄なMSであったが、僕はこの機体を知っていた。
「あれは……ダギ・イルス!?」