ユウ、決心する
「待たせたなアール。こいつが俺の力作、『ゲルググ・ヘンカー』だ」
モニターに映し出されたのは「機動戦士ガンダム」に登場したMS、ゲルググの改造機であった。くすんだ赤紫で塗装された機体の中でもひときわ目を引くのは胸部に増設されたダクトと、仮面のような頭部のモノアイカメラ全体を覆い隠すようになったパーツだ。その他にもいくつかの改修が加えられているようで、よく知られているゲルググのシルエットとは少し違っていた。
「まずは要望にあった出力面の調整だが、関節部の強化とジェネレーターの追加によって従来の34%増まで引き上げた」
ジャックが端末を操作するとモニターのゲルググの関節と胸部ダクトが拡大される。関節にはシリンダーが追加され純粋なパワーアップ、ダクトはジェネレーターの追加による者らしい。
「機体重量が微妙に増してるからな、肩部と脚部にスラスターを追加だ」
モニターの表示が変わり両部位のスラスターが映る。同時に表示された出力のグラフを見て僕は驚愕した。
「これ、いくらなんでもやりすぎじゃないですか! 踏み込んでる途中に吹っ飛んでいっちゃいますよ!」
途中から跳ね上がっているグラフを指さして抗議する。可変機など直線的な機動を行う機体ではこのようなピーキーな調整もみられるが、ただのMSにする調整ではこんなものは見たことがない。僕の指摘にジャックとアールは苦笑で返してきた。
「確かに普通の機体にしてやるような調整じゃあないんだが、出向く場所が場所だからな」
「サンダーボルト宙域。たくさんの残骸と放電現象に大挙して押し寄せるミュータント、普通の出力調整でお手本のような回避行動をしているとあっというまにミュータントに囲まれちゃうんだよ」
そこまでしないと生き残ることすらできないのか。改めて知らされる現実に僕は愕然とした。
「続きいくぜ。次は武装に関してだ」
モニターの表示が変わり武器が並んだ画像に切り替わる。
「まずは固定武装からだ。腰部にサーベルラックを追加した。サーベルは出力可変式で、本体にケーブルで接続してあるからやろうと思えば基部が溶けるまで出力を上げることも可能だぜ」
もちろんそんなことをすれば二度と使い物にはならなくなるしおそらくその前にサーベルの発振器が焼き切れてしまうだろうが、強力な武装であることは間違いない。
「次に飛び道具だ。まずはビーム・ライフルだが、これはいつも通りにメンテナンスだけだ」
そういうとモニターには変わった形のライフルが表示される。どうやら前の機体から継続して使っているもののようだが、僕には気になるものがあった。
「銃口のこれ……銃剣?」
通常のゲルググのライフルよりも厚みの増された銃身の下にナイフのようなものがついていた。ザクⅢやヴェルデバスターのように銃剣を持っている機体がいないことはないが、あまりポピュラーな武装ではないだろう。
「これはアールの趣味らしい。だよな?」
ジャックの問いかけにアールが答える。
「これが有ると無いとじゃだいぶ違うんだよ。ライフルでとっさに受けられるのは案外便利なもんだよ?」
これがパイロットのこだわりというやつだろう。こういうところを調整していくのもビルダーの仕事なのである。
「そうだな、ユウもいるし他の武装もちゃんと説明していくか。サンダーボルト宙域に出撃するにはいくつか縛りがあってな」
ジャックが解説を始める。
「アールはほとんど受けないんだが、唯一『四種の神器』の装備が義務付けられている」
「『四種の神器』?」
「実弾、ビーム兵器、シールド、サーベルだ。どんな状況にも対応しなきゃならないからな」
そう言いながらモニターには4種類の武器が映し出される。
「これがゲルググ・ヘンカーの四種の神器だ。シールド・ミサイル、ビーム・ライフル、シールド、ビーム・サーベルだな」
映し出されたシールドは、通常のゲルググのシールドから片側の先端が一部切り落とされたような形になっており、そこからミサイルの発射口が覗いていた。
「これで大体説明は終わったが……何か質問はあるか?」
「あの……その頭部はいったい?」
僕はずっと気になっていた疑問をぶつけた。ジオン公国系のMSの特徴でもあるモノアイをふさいでいる仮面のようなパーツについてだ。
「おっと大事なものを忘れてたな。頭部の改修点についてだ」
そういうとモニターには頭部の拡大画像が表示される。
「アールの要望通りセンサー系をよりいいものに交換したはいいんだが、どれも繊細なものばかりでな。サンダーボルト宙域で使うには……って感じだったんだ。そこでこれ、センサーバイザーを装着することにした」
「なんか見た目の印象もだいぶ変わりましたね。それでヘンカーなのか」
アールが納得したように頷く。
「ヘンカーってどういう意味なんですか?」
「Henker、死刑執行人だ。マスクしてるように見えるだろ?」
ジャックが得意げに答える。なるほど、確かにそう見えなくもない。一通り説明が終わると、外はもう真っ暗になっていた。
「どうする、このまま一杯飲みに行くか?」
ジャックはジョッキをあおる仕草をしアールを誘ったが、彼は首を振った。
「いや、僕はもう戻ります。サングレ・アスルもそんな長くは待ってくれないですしね」
「そうか……上の戦況はどうだ?」
真面目な顔になったジャックが問う。
「いいとは言えませんけどね。ムーア師団やリビング・デッド師団も頑張ってくれてます。なんとかしてみせますよ」
アールはそう言い残すと、この家を後にした。
「ジャックさん」
「なんだ、ユウ? お前は飲みに行きたかったのか?」
いつもの笑顔になったジャックがおどけて聞いてくる。僕は彼に教わらなければならないことがたくさんある。さっきのゲルググ・ヘンカーを見てそう思った。
「僕を、ビルダーとして、弟子にしてください」