――それは爬虫類を思わせる生物だった。
暗い緑色に、節々は汚れたベージュがそれに混じりあったほぼツートーンの配色。
だが、二足歩行で二つ腕で武器持ちだ。
《リザードマン》
色合いとこの3つだけならゲーム一般のこいつにイメージは近い。でも、俺にはコイツを何てカテゴリーの生物に分類すればいいか分からない。
なぜなら、蛇腹状のでっぷりとした下腹部を持った二つ脚のそれはとてつもなくデカかったからだ。
鉄柵奧の少し離れた位置にいるため正確には分からないが、俺の縦横の優に5倍以上の大きさがありそうだ。
(……あの腹の奥まで響く足音も納得だ)
大きな特徴として、そいつは頭・肘・脚の付け根・後、胴体(多分背中)の方に沢山のふしくれだった瘤を伸ばしていて、胴体部のネジくれたそれは一対の翼を連想させた。
全体的にデカイのに、下腹部が凄くふくよかなので括れみたいなものができており、腕や脚は武器や自重を支えているのが不思議な程細めだ。
――ソイツと目が合った。
血の様に赤い単色の目で睨み付けられると、身体が萎縮し動かなくなる。ミミックとの死線(笑)を潜り抜けた(www)魔改造された俺(lol)でもこんなこと起こるんだな、と他人事の様に考えてしまっていた。
ソイツは多数の円柱で支えられ、おおよそ等間隔に松明で照らされた広間をこちらに悠然と歩いてくる。
近づくにつれ、顔のディテールも当然はっきりする。
(うへぇっ……)
ソイツには唇がなく歯茎が剥き出しで、醜悪にめくれあがった開口部のきったねぇ味噌っ歯と赤黒い歯茎の間からは絶え間なく涎が垂れていた。
柳眉は口同様つり上がっていて表情は読めないのに、俺には何故だかソイツが笑っているような気がした。
(……なんか腹立つな)
ソイツはもう目の先5メートルもない位置まで近づくと、その両手に持つ武器の柄の先端を地面に突き刺した。
その武器は槍の様にも見えるし、斧の様にも、はたまた杖(じょう)の様にも見えた。
5・6メートルはある節くれだった白樺の木のような木製であろう柄部分。
鍔はなく、ねじくれた柄が俺の身長程もある材質不明の黒い半月の刀身に絡み付いている超特大武器。
今はなき直剣の柄とはまるでスケールが違う。
(間抜けが)
苛立ち混じりに硬直状態の俺は、心の中でそう罵った。
だって、奴は所詮檻の中の見世物(動物)。
対して、俺は檻の外(安全圏)でその生体をじっくり観察するオーディエンス。
チラリ、階段方向に目を向けるとひしゃげた鉄柵。
確かに、奴の牙(武器)はこの鉄の檻を壊すのに足るのだろう。
だが、そこまで。
奴は、その巨体故この石造りの枠を越えられない。
――何故石造りの外壁を壊せないと思ったのかという疑問は近い内に解消されることになる(ゲーム脳恐ろしス)。
(だから見下してんじゃねぇ)
完璧(?)な理論武装を盾に粋がるも事態は無情にも進展を続ける。
奴は武器を持つ左手とは逆のフリーハンドをゆっくりとこちらに向け――
(!?これはヤバいっ)
脳内危険感知センサーがレッドアラートをけたたましく鳴らし始めた俺は硬直をぶち破り、ローリングで元にいた通路に横っ飛びしようとするも時僅かに遅く――瞬間。
[[[ドッゴォーーッン]]]
奴の掌から放たれた赤と白混じりの不思議な衝撃波に吹き飛ばされ、鉄柵とは向かいの石壁に叩きつけられた。
赤い体力バーは当然一吹きでご破算、ご臨終コースまっしぐらであった。
身体も石壁も壊れていないが、奇しくもその壁は最初から壊れていてまるで、
《間抜けが》
と自分の言葉に笑われているように感じた。
(あぁ、そうか……)
この世界独特である死の表現。
身体が溶けゆく間際、武器を構え直し、もう用はないとばかりに体型に見合った巨大な尻尾をフリフリと揺らしながら定位置へと戻る奴を見ながらボンヤリと思ったのは、
(杖(じょう)じゃなくて杖(つえ)なんだな)
割とどうでもいいことだった。
(クソゲー確定)
――それが俺が取り戻した記憶の全てだった。
次話はちょっと前進しそう