深夜2時、東京湾での出来事だった。
廃墟と化した倉庫が建ち並ぶこの一角は、
地元人ですら通りかかる事はまず無い。
昔から人目につかないこの場所は、大陸から流れて来る怪しい連中たちの闇取引に利用されているとの噂であった。
事実、何も知らずに近付いた釣り人が、波に流されて死亡する“事故”が多発しており、其処へ近付かない事、
また其処へ近付く者に話しかけてはいけない事が、暗黙の了解であった。
そんな場所に疑惑の国会議員Kはいた。
Kの黒塗りのベンツから2人の側近が
簀巻きにされた男を抱えて降りてくると、
彼らはその男を真っ黒な夜の海へ投げ入れた。
海へ飲み込まれていく男は、
Kの不明瞭な資金の出処を暴こうとしたルポライターだった。
しかし真実に近付き過ぎた為、
彼もまた今までKの汚職を探った者達と
同じ末路を辿る事となってしまったのだった。
そうやってKは己の財と地位を絶対のものとしてきたのだった。
ルポライターは口を塞がれ、断末魔の叫びも上げる事が出来なかった。
薄れゆく意識の中で、彼は自身が信じていた正義が、この世の何処にも存在しないこと。
そして正直者が馬鹿を見るということを悟った。
彼が最期に見たものは、邪悪な薄ら笑いを浮かべる国家議員Kの顔だった。
簀巻きにされた男がコンクリートの重りと共に
海に飲み込まれて行くのを見届けると、
K達は人目に付く前にその場を去ろうとした。
しかしその時、月明かりも無かった筈の水面が
突然眩く輝いたではないか!
3人が光の中で見たものは、輝く水面に立つ
この世の者とは到底思えないほど美しい女性だった。
右腕には黄金に輝く簀巻きにされたルポライターの像を、
左腕には白銀に輝く簀巻きにされたルポライターの像を抱えた彼女は3人に微笑みかけると、
まるで子守歌のような、優しい口調でK達に問うた。
ーーーーお前が落としたのは金の簀巻きにされたルポライターか?
ーーーーそれとも銀の簀巻きにされたルポライターか?
呆気に取られたKが首を振ると、女神は再びKに微笑みかけた。
ーーーー正直者のお前には、この金の像と銀の像をやろう。
そう言うと女神は彼らに像を渡し、物音一つ立てずに光り輝く海の中へ消えていった。
海はまた元の穏やかさと真っ暗闇に戻ったが、唖然とするKの車の中には、確かに金色に輝く簀巻きにされたルポライターの像と、銀色に輝く簀巻きにされたルポライターの像があった。
後日、疑惑の国会議員Kは、女神からの違法献金受理により逮捕された。