魔法少年ロジックなお   作:SIERU空の友人

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ずいぶんと改訂に時間がかかってしまいました。その割に大した修正もされて無いのが恥ずかしいです・・・


第3話

 ウェントスは驚愕し狼狽していた。時空管理局本局のネットワークに接続できないのだ。

 

『マスタ、起きて下さいマスタ』

 

 まだ朝の3時だが、起こさざるを得ない。さすがにこの事態は危険過ぎる。

 

「うぅ・・・あと30万と10の7乗ミリ秒・・・」

 

 寝ぼけてるためか、凄まじく長い時間を指定してきた。そもそも、いったい何年間寝てるつもりだ。

 

『長すぎます!はやく起きてください!』

「ふあ・・・なになに・・・。どうしたのウェントス・・・?」

 

 寝ぼけ眼をさすりながら直は目を覚ました。

 

『マスタ、緊急事態です。早急に対策を練らないと・・・』

「どうしたの?」

 

 神妙な声色で、ウェントスが宣告する。

 

『ミッドチルダが大規模テロの標的になっています』

 

―――爆弾を投下した

 

 

 

 

 

『本局及び、ミッドチルダへのネットワークが繋がりません。一番近い管理世界からも情報を取得するだけで送ることはできません』

 

「どうする・・・」

 

 直は瞳を閉じ顎に手を当てて思案する。今この瞬間にも直とウェントスの思考回路はフル回転している。

 

 落ち着いて考えて、父さんが前に言っていた事はなんだっけ?

 

「父さんたち、今はミッドでしょう・・・?大丈夫なのかな・・・」

 

『問題ないでしょう、あの二人なら。S-1TとSG-2Tというそれぞれ愛機も持って行ってるんです』

「それでも心配は心配だよ」

 

 

『それに通信が繋がらないのはテロリストが撃った”不発”の次元震動弾による次元空間の不安定化が原因という情報もあります。そこまで心配しなくても大丈夫だと思われます。

早く学校に行ってこのことを昨夜のメンバーに伝えないと』

 

 次元震動弾。意図的に次元震を起こすことで大規模破壊を起こす魔導兵器。大規模空間湾曲魔導砲アルカンシェルとの競合に負けたモノである。なぜそんなモノを一塊のテロリストが。という疑問を抱く前に直は胸をなでおろした。

 

 まず直がやるべきことは情報の共有と、今後の打開策を練ることだ。そして互いの意思確認。これをしなければ始まらないのだから。

 それにしても、と考える。昨日の夜は疲れはてて考えるのをやめていたが、イサムが魔導師だったというのは驚きだ。

 あののバカみたいな体力と、先を見れる思考回路があればかなり強い魔導師になるんじゃないかと直は思う。少なくとも直よりずっと魔力が大きかったという事実がある。

 なのはだってそうだ。あれってどう考えても初めて魔法を使ってた。だけど最大魔力値といい、瞬間放出量といい、凄い。

 それを受け止められるあの金色のデバイスもすごく高性能だろうし、絶対に、なのはは才能がある。

 リンカーコアは一度魔法を使って活性化させないと、よほど探査系に優れてないとチラ見程度ではその存在の有無すら分からないから、あんな魔力にも気づかなかった。

 

 

「うん、わかったよ。とりあえず、朝ごはん・・・」

 

『あのマスタ・・・朝ごはんの材料、昨日買ってくるはずでは・・・?』

 

 電撃走る。直は頭を抱え「あっ!?」っと奇声を上げる。

 現在時刻、早朝3:30。こんな時間に開いてる店舗など存在・・・する。コンビニだ。 

 

「こんなに早い時間に1人で行ったら、危ないどころの話じゃ」

 

 直は小学3年生である。 確かに、コンビニは開いているがこんな夜であるとも言える時間に行くのは危険なのは常識である。

 直はさらに頭を抱えてしまう。考えることが多すぎる。マルチタスクも起き抜けで上手く働かないし、どうするべきなのだ。

 

 

 だが、直の言葉を聞き、ウェントスは今、非常に不機嫌だった。

 

『マスタ、"1人"ではないでしょう?。私が居ます』

「それもそうか・・・。大丈夫だよね」

『私が居るんです。多少の無茶は効きますよ』

 

 そうかもしれない。と直は思考する。危険な状態に陥っても、あくまで管理外世界で魔法を認知させたらいけないのであって、身体強化や思考加速等の目にみえないもので窮地を脱するのがダメなわけではない。

 緊急事態の場合、相手からすれば、火事場のクソ力と思われるだけで済むだろう。

 

 善は急げだ。直は買い物の準備をせっせと始めたのであった。

 

 

 

 

 

 無事 朝ごはんにありつけた直は、朝の日課をこなして学校に登校した。

 

『なるほど、ミッドチルダがそんなことになってたら、管理局に任せるのはできないかもしれないな・・・。まったく面倒極まりない』

 

 授業中だが、それ以前に緊急事態である。

 早急に直は、イサムとなのは、そして高町家に"ただのフェレット"として厄介になっているユーノに状況説明を行った。

 なのははまだ念話を使いこなせないので、レイジングハートが思考から伝えたい事だけを抽出して念話に乗せている。

 

『じゃあ、私達だけでどうにかしないといけないっていうことなんだよね』

 

 なのはは、早速習得したマルチタスクを使いこなし、表面上はなんのことはない表情でしっかりと黒板に書かれたものをノートへと書き写しているが、その内心は、あたふたしまくりであった。

 

 直はなのはの言葉に肯定の意を反し、言葉を紡ぐ。

 

『それが問題なんだよ。放っておけば今この瞬間にも発動して暴れまわるかもしれない爆弾が海鳴市にばら撒かれてるんだもん。

それなのに普段なら本局のデータベースにアクセスして封印用のデバイスドライバを取得するけど、今は空間が不安定でアクセスできない。

そして、他人にはできるだけ頼りたくないんだ。下手に魔法のことがバレたら大変なことになっちゃうから・・・』

 

 つまり、と直は言った。

 

『ジュエルシードを封印できるのは、封印用魔法の使えるデバイス、そのレイジングハートを持ったなのはだけなんだよ』

 

 理由はわからないが、レイジングハートはなのはにしか全機能を解放しようとしない。性格や性能特性などは至ってまともなデバイスなのだが、コレに関しては黙りを決め込んでいた。

 なんでも、スクライア族が遺跡で発見したデバイスということなので、それを聞いた直はどんなブラックボックスがあっても不思議ではないと納得した。

 そしてレイジングハートに搭載されている封印魔法は専用のものとして構築されており、ウェントスへの流用は不可能な可能性が高いため、直は端から断念した。

 

『オレのブレイカーも戦闘ならできるけど、封印なんて細かいことはできないからな。ちっくしょ、ブレイカーが完全な稼動状態なら・・・』

 

 イサムはソードブレイカーをブレイカーと略して呼ぶ。ざっとみたところよくわからないデバイスだった。ミッド式のような、そうで無いよな。不思議な技術体系とも言える。

 それとは別として、イサムの唯一の肉親である父親も、ミッドチルダに出掛けてしまっているそうで、今、家に誰もいないというのだ。

 家にだれもいないのは直も同じはずだが、ウェントスのコアを一つ残してある。 人型にこそなれないが、常に警戒はできるし情報収集もしなければならない。

 

 

 退屈そうに鳴り響くチャイムの音。それは聞くものによって違った意味を持つ。安眠の妨げであったりすれば、至福の時間の始まりでもある。中には授業の終わりを残念に思う者もいるだろう。

 

「それじゃ、終わりにしましょうか」

 

 先生の言葉に呼応して号令係の生徒が待ってましたとばかりに号令をかける。

 

「きりーつ、れーい」

 

 

 

『あのね、わたし頑張る。戦うのは怖いけど・・・。なにか出来るのに、何かを出来る力があるのに何もしないで誰かが傷付くつのはもっと怖いし・・・嫌だから』

 なのはの声はどんな感情が込められたのか判断計り知れないほどの強い意志がこもっていた。その言葉に直とイサムは心のなかで強く頷く。その気持ちは皆同じだった。

 

 そしてなのはは申し訳なさそうに、怯えつつも二人に問う。

 

『だから直くん、イサムくん。手伝ってくれる?』

 

『勿論。一緒に頑張って海鳴に平和を取りもどそうよ。じゃなきゃ夜も怖くて寝れないもん。ね、イサム?』

『女の子一人に頑張らせるわけにはいかないだろ。バーンと任せろ』

 ただ深く頷く直、そしてイサムは右の拳で心臓の位置をドンドンと力強く叩きそのままなのはを指差す。茶目っ気のあるウィンクもおまけに付けてだ。

 

 

 

 

 

「よし、できた!」

 

 直は自室で、さきほどまで食い入るように見つめていたディスプレイから目を話し鼻の上あたりを押さえ目をほぐしたあとに、先ほどまでせわしなくキーボードを叩いていた右手をマウスの隣においてある物体へと伸ばす。

 プログラマーへの接続を解除した、クリスタルをあしらったペンダント―待機状態のデバイス―を手のひらに載せる。

 プログラマーとは、デバイスの調整に使用されるコードの付いたマウスとキーボードのようなもので正式名称をプログラマブル・ルーンライターという。かつてはデバイスマイスター及びデバイスの調整をできる人間にとっては必需品と言っても過言ではなかったのだが、最近は技術革新で整備性向上やデバイス自体に整備用システムが内蔵されるようになり使用されることもなくなってきた。

 事実「ルーンライター」などというオカルトじみた名称は、数万年前に最初に名付けられたものを続けて使用しているだけで、すでに現在ではオカルト系のルーンは使用せず、確立されたプログラム言語を使用していたりと、実際のところ地球製のパソコンでも代用できてしまうのだ。だが小型ゆえに持ち運びしやすく直は3歳の誕生日に両親に買ってもらった物を愛用している

 

『今回のは重心設定はそのままに、本体構造維持に回す魔力量を増やしていますよね。これではプロセッサの基準魔力を下回ります。射撃魔法の効率が著しく低下しますよ。イサムに使わせるんですか?』

 

 ウェントスの疑問はもっともだった。今回調整したデバイスはウェントスではない。

 直が常日頃、自らのデバイスマイスターとしてのスキルアップのために改造している刀剣型デバイス「S-1b」を急拵えながら、実戦仕様のセッティングを施したものだった。

 武器型であることが表しているように、耐久性の問題で、演算器が衝撃を考慮されて内蔵されており演算性能はあまり高いとはいえない。

 元々は一部ロストテクノロジーと化している古代ベルカの技術を使用せずに、ミッドチルダ式デバイス用パーツで構成された試作機を直の父である正也が使用していたのを、

 その戦果が認められ、少数量産だが制式採用されたうちの一機である。

 

 そして直の戦術は射撃メインで、格闘や近接白兵戦はあくまで補助的なものでしかない。あきらかに近接オンリーでの戦いを強要するこのデバイスは使い道がなかった。

 

「イサムはだいぶあのデバイス、ソードブレイカーに思い入れがあるみたいだけど、整備中に戦わなきゃならなくなった時には代わりのデバイスが必要でしょ? せめて予備にでも使ってもらうんだ」

『それで家にある練習用デバイスを全機実戦仕様に急遽改修ですか・・・。あまり根詰めると体が音を上げますよ?』

「そこそこにしておくよ」

 

 念を押すように繰り返し言い聞かせてくるウェントスに、直は苦笑するしかない。一般論ではこれほどマスターに苦言を呈するデバイスは邪魔なだけとされるが、この二人の場合はコレが『普通』なのだ。

 お互いがお互いを支え、それぞれのエラーを訂正する。寄り添う2つの実行プログラムは永遠にミスをしない。まるでそれが本来の姿であるようにこの二人の関係は存在している。

 事実として、ウェントスは直に対して父親や兄のように慕う心も持ち合わせ、姉や母のように優しく見守る意思を持っている。

 

 とりあえずの調整完了をもってして、直はジュエルシード探索を開始するため席を立とうとした所でウェントスが警告を放った。

 

『マスタ、魔力反応です! 波形パターン、ジュエルシードと思われます!』

「なんだって!?」

 

 

 

 

 

 

--------------------------------

 

 

 

 

 

 

 

 

 長い石階段を駆け上がる。見上げるだけでも嫌になるくらいの長さだが今はそうも言ってられない。全身を使って、オーバーにも見える挙動で走り続ける。

 

「ウェントス、なのはとイサムが来るにはどのくらいかかる?」

 

 S-1bの調整も終わり一息つけると思った途端に、ジュエルシードの発動を検知したのだ。発動場所は高台にある神社だ。たまに遭遇する子狐が可愛いのでよく印象に残っている。

 そして最も近くに居たのが直だった。そのため直は全力で家を飛び出したのだ。その手にS-1bを握りしめたまま。

 

『最速でも7分かかると思われます。広範囲認識阻害用の魔法をインストールしていないため徒歩で行くしかありません』

 

 ウェントスの言葉に直は思考を巡らせる。その間一人で暴走体をどこにも行かないように食い止めなければいけないのだ。

 直自身は、広い空間で高い魔力演算効率を生かした無尽蔵の魔力弾を飛び交わす空中戦が得意だが、体力作りはこの年齢とランクの魔導師としては最低レベルしかしておらず、狭い空間での体全体を使ったドックファイトは苦手としている。

 そして石階段こそ長いが、この神社の境内はそれほど広いとはいえない。結界を展開すれば周囲を気にせず戦闘できるが、結界の展開範囲はそれほど広くなく、現着してから2分ほどかけて展開しなければ満足の行くものは用意できない。

 

『マスタ、境内で魔法を使用する反応がありました。余波波形を高速解析・・・使用魔法はラウンドシールドと思われます』

 

「ええっ!?」

 

 ラウンドシールド。ミッドチルダ式の一般的な防御魔法で身の丈に合わせ調整された、体ひとつ隠しきれる程度の魔法陣で身を守る代物だ。耐久力は各個人の魔力量と魔力使用効率・魔力演算効率によって変動する。

 

 

 

 私はどうしようもなく焦っていた。いつものように神社の境内で木刀での素振りをしていたら、突如として狼のような怪物が現れて牙を向き飛びかかってきたのだ。

 持っていた木刀は怪物の攻撃を防ぐのに使い、かなり負荷がかかったので、下手したら折れるかもしれない。そして気になるのはあの怪物はとても大きな魔力を放っている。

 

「ラウンドシールド!」

 

 茜・リンクスが翳した左掌から魔法陣が一瞬で広がり、それに向かって怪物が頭を叩きつける。

 持っている木刀は外から見れば一見何事もないように見えたが、中に致命的な罅が入っている。扱い慣れている茜はそれを認識していた。

 そして彼女が冷静になっていれば、怪物がロストロギアであることに勘付いたかもしれないし、境内に向けて石段を駆け上がってくる少年にも気づいたかもしれない。

 

 怪物はさらに頭突きを続け、ついにはラウンドシールドを突き破る。その反動で茜はバランスを崩しその隙を怪物は見逃してはくれなかった。

 

「き、きゃぁああ!?」

 

 咄嗟に振りかざした木刀は力なく噛み付かれ、その強靭な牙に砕かれてしまった。 怪物は叩き折った木刀を吐き捨てふたたびこちらに牙を剥く。木刀はすでになく、ラウンドシールドは間に合わない。

 あぁ、私ここで死ぬんだ。別にいいかな・・・。死んだらお父さんのところに行くんだし、ね。

 

 だが生きることを諦めかけても、救いの手はすぐそばにあった。

 

「当たってぇえええ!!」

 

 ウィングスタッフ出力全開。無誘導での速度重視、着弾時の衝撃を最大レベルに設定された、デバイスの自壊すら厭わないウィングシューターが放たれる。

 放たれた矢は光の如き素早さでその獲物を違うことなく撃ちぬく。

 

――ゆおぉおおおおおおぉぉぉぉおお・・・

 

 胃がよじれるような不快感すらする慟哭。今にも茜をその毒牙にかけようとしていた怪物は弾体に付与されていた高精度指向性衝撃波術式によって実に数メートルを飛ばされていた。

 

 

「茜、大丈夫だった!?」

 

 直は暴走体から目を外さずに茜の近くに駆け寄り、無事であることを確認し胸をなでおろす。その表情には心からの安堵があった。

 

「え、ええ・・・。風原さん、魔導師・・・だったんで、すね?」

 

 驚きのあまり目は点に、言葉は切れ切れになってしまい端から見れば口をパクパクと開閉しているようにすら見える茜に、直は「うん」と肯定の頷きを返してから、聞き返す。

 

「まさか茜まで魔導師なの・・・?」

 

 まだ暴走体は衝撃で目を回したのが原因なのか、うずくまりながら頭を振り回し唸っている。あと数十秒は大丈夫だろう。魔力弾の狙いを犬や猫の弱点の顎下を狙って撃ったのが効いているようだ。

 

 しめたとばかりに直はどういうふうに行動するか思考回路を回す。慌ててウィングシューターを撃ってしまったが、どうやら大きな問題にはならなそうだ。

 そもそも、彼女がラウンドシールドを使用したのをウェントスが感知することで、直が足を早めなければ茜は物言わぬ「ただのタンパク質の塊」になっていたかもしれないのだ。

 

「えぇ、まぁ一応は」

「やっぱり・・・どうなってるのか俺にはもうわからないよウェントス」

『仕方ないでしょうね。私はもう何が起きても驚きませんよ。それにしても、やはり高速無誘導弾は正解でしたね』

 

 アクティブな誘導弾は術者が誘導することを考えられており、もともとの弾体速度が低めに設定されているし、誘導関係の術式でリソースが食われ発動まで時間が掛かる。

 故に今回、直は無誘導の直進弾を使った。どうやらその判断は正しかったようだ。

 

 しかし油断している暇はない。直は懐から先ほど整備を終わらせたS-1bを取り出し、茜に手渡す。

 

「これは、デバイスですね?」

「うん、あの怪物を倒せるだけの力は俺に無いんだ。だからせめて“それ”で自分の分は守ってくれるとずっと楽なんだ。木刀使ってたからデバイスは持ってないでしょう?それはS-1b。刀剣型だけど剣術やってる茜なら使えるはずだよね?」

 

 直の不安げな問いに茜は力強く頷き、肯定の意を返す。

 

「問題はありませんね。起動パスワードは?」

 

 直は首を振り、言葉でパスワードを設定していないことを伝えると、茜は一瞬で展開命令を送る。

 その姿が光に包まれバリアジャケットが展開される。聖祥の制服に似たシルエットで白を基調としている。そこに赤の細いラインが入ることにより全体を引き締めつつゆったりとした印象も与えていた。

 静と動を兼ね備えた武道である剣術を修めている茜にはそれはとても似合っていた。

 手に現れたデバイスは全く装飾のない、直線を思わせるフォルムをした片刃の直剣で、格納されている数種類のブレードの中から選ばれたモノの刃渡りは茜の身長に合わせ50cmから60cmほどしかない。一切の塗装も施されておらず露出した鈍い金属色がそのスマートな形状と裏腹に無骨な印象を与えていた。

 茜は暴走体を見据えて構えの準備をする。

 

「これは・・・重心がいい感じですね。なかなか振りやすそうです」

 

 茜は視線は暴走体に向けつつ唐竹、袈裟斬りと突きの動きでS-1bを振って感触を確かめ、満足そうに頷く。

 

「うん、その調整は父さんのお墨付きだからね。あ、俺の父さん剣術の師範代なのは知ってる?」

 

 そこまで言ったところでいよいよ暴走体が体制を立てなおしていた。とはいえ、直と茜とてただ会話に謹んでいたわけではない。

 

「気をつけて、様子がどう見ても変だから」

 

「見ればわかります」

 

 暴走体は自らの腹を食い破るような雄叫びを上げる。するとどういうことだろう。前足の方に当たる左右の骨がまるで盛り上がるように膨らみ、たちまち肉を突き破る。

 そのまま骨は膨らみ、それまでの単純な造形とは似ても似つかなくなっていく。出来れば見たくない光景だが、相手は何をしてくるかわからないしどうみても自壊しているようには見えない。警戒を解くわけには行かなかった

 その相貌はまるで、自らの本質を変革させるかのようにすら思える様相だった。

 

「・・・あれは、顔の骨?」

 

 左右に狗の頭を思わせる白い構造体が出来上がった。それを先程突き破られ顕になった肉が覆い隠していく。肉が覆い尽くせば、今度は紫色の外皮が包み込む。

 目も、口も、鼻もある。見紛うことなき狼の頭が左右に生えたのだ。

 

 ウェントスはその姿がデータベースに存在する空想上の獣に酷似していることに気づく。

 

『差し詰め、かの神話に出てくるケルベロスといったところでしょうか。対象の敵暴走体を今後、ケルベロスと呼称するよう設定します』

 

「頭が3つ、気持ち悪い・・・」

 

 アニメなどで出てくるケロベロスはかっこ良くアレンジされているが、実際に目にするとなんとも気持ち悪いものであった。

 

 そして、両者は戦闘態勢に入る。直はしっかりとグリップを握りしめた射撃形態のライフルエッジの銃口をまっすぐケルベロスに向け、茜は剣の刃の先端を右横一文字に顔の正面で構える不思議な構えで。

 対するケルベロスは右前足をしっかりと踏みしめ、左前足をまるで距離を測るかのように少しずつ、ずらしながら・・・

 

―るぉおおっ・・・・!

 

 咆哮を上げ、右方向からケルベロスが突撃する。こちらは結界を展開する隙がないため、あまり高度を上げると魔法の存在が周囲に発覚する危険性があり、低空でのドックファイトにならざるをえない。

 

 しかし、だ。実戦は二度目だが、我ながら少しは動きがましになった、と直は思う。

 事実として、直自身の経験値はともかく、ウェントスが実戦で得た情報は膨大で極めて有益である。

 戦闘を重ねるほどに、各魔力消費系統のバランスやパーセンテージ調整。そして身体強化、思考加速を用いた場合の直の負担を最大限軽減できるようになる。これによって、初陣に比べれば大きく戦闘能力や継戦能力は変わってくる。

 なにより直自身のモーション補正さえもウェントスは行なっている。これにより戦闘能力はかなりの補正がかかる。

 

 そう、これによって直は致命打を与えられずとも回避で時間稼ぎができる。ケルベロスの突撃を側転で躱し攻撃準備としてライフルエッジがガキンと音を立てて近接形態に変形する。

 

『アクセル』

 

 ウェントスが部分的に直の肉体に加速をかけライフルエッジを振り下ろす。鈍い金属色を放つ刃がケルベロスに喰らいつくが、その斬撃を食らっても暴走体は好機とばかりに牙を向き飛びかかってくる。

 直はバックステップでは間に合わぬと判断し、慌ててフライアーウィングを展開、出力を全開にして後退する。

 ライフルエッジが設計データそのままの刀剣状ではなく、直の身長に合わせ刃渡り45cmほどであり持ち手が全体の3分の1を占めるため、獲物に振り回されている感こそ無いが一連の動きは決して洗練されているとは言いがたく、子供がアニメに憧れて玩具を振り回しているようにも見える。

 

 暴走体はその有り余るパワーを振り回し、確実に直のスタミナを削りつ付ける。同年代の普通の子供より分があるとはいえ、魔導師としては中堅から低位の体力しか持たない直には、自らの敗北が目の前に迫りくる壁のように感じられた。

 だが、その苦行も長くは続かない。

 

 救いの手はかならず現れる。直はそれを前もって知っていたから、これを「無謀な戦い」などとは思わなかったのだ。

 

 ケロベロスに桜色をした魔力弾が突き刺さるように殺到する。続いて怯んだ化物に、魔力光を纏った「閃光」とも形容できる疾走するヒトガタ。

 

 

 

 すこし時間は巻き戻る。

 

 境内へと続く階段は終りが近い。なのはの肩に乗ったユーノが口を開く。

 

「なのは。レイジングハートを起動しておいたほうがいいよ」

「あぁそうだな、はやいとこ起動しとけ」

 

 イサムはすでに展開したブレイカーのブレード部分が後ろを走るなのはに当たらないように気をつけながら、神社の階段を、一段とばしで駆け上がりながらなのはに視線を向ける。この少年には「一段とばしに失敗して転ぶ」という懸念はまったく無いようだ。

 それに対しなのはは、はっと気づきあたまをぶんぶんと左右にふる。

 

「え、えと。たしか起動呪文って・・・」

 

 慌てて頭の中の語彙をなのはは漁る。なにしろ前回に起動したときはユーノが言ったものを復唱するだけだったゆえに忘れてしまったのだ。 

 

「我、使命を受けし者なり。ではじまる詠唱だよ!」

 

 頭をひねるなのはにユーノがすこしでも思い出せるように助言する。

 

「あ、そうか!れ、レイジングハート、いくよ?」

 

 ユーノの一言で全文を思い出したなのはの表情が、パッと明るくなった。

 なのはは優しい少女故に、人格を持ったレイジングハートに一声かける。

 直がやっているのを真似してみた部分もある。どうやらなのはには、初めて見たモノである直とウェントスのような寄り添い合う、主従関係とも相棒ともつかない関係が「デバイスとマスターの関係性」だとインプットされたようだ。

 

『いえ、詠唱の必要はありません。前回の全文詠唱でマスターの声紋データが十分に確保できました。これより以後は一言私に呼びかけてくれればプロテクトを解除します』

 

 レイジングハートは自らの本体である真紅の宝玉を明滅させ、なんとも頼り甲斐のある答えを返した。イサムなどは「そんなことはとっとと言えよ」と喉まで上がってきた声を引っ込めたのだが。

 

「うん、わかった。レイジングハート、お願い!」

 

 なのはを桜色をした優しい魔力光が包み込む。イサムはその光景を見て、ひゅうと一つ口笛を吹く。

 中々になのはの人格をよく顕した色合いをしているのだ。決して相手を傷つけることの無く、しかし様々な色が集まってもしっかりと自己主張が出来る、優しい色合い。

 イサムはそれに対して、素直に一種の感動を覚えたのだ。なのはの個性的な色合いに対して、イサムの魔力光は発現頻度の比較的多い赤色をしている。

 別に珍しい色合いだからといって確固たるレアリティがあるわけではないが、なんとなく悔しい。

 

「直のはあいつによく似合う蒼だったなぁ」

 イサムはひとりごちる。

 あえて言うならSFアニメで出てくる、青色とも白とも付かないレーザーが一番近い色合いだった。現実において、蒼の縁取りがされた白い光などというものをお目にかかるとは思わなかったものだ。

 

 すでに階段は後、4段を残して終わりだ。だんだんと見えてくる神社の境内。そこで行われているのは壮絶な子供二人と、化物との生死をかけた戦い。

 

 すぐさまにでも援護が必要だと判断したイサムは、なのはに大声で指示を出す。

 

「なのは、誘導弾を5発!あの三つ首の化物に!!」

 

 

 

 

 

 

 疾走するヒトガタは油断なくケルベロスへの距離を詰める。

 

 飛び込んできた白の魔力光を放つのは、ソードブレイカーを手前で交差させて構えたイサムである。

 

 イサムはケルベロスの懐に潜り込んだと思えば、目にも留まらぬ素早さで膝蹴りを鳩尾に叩きこみ、そのままカチ上げ、自らも右足に力をかけ空中へと飛び上がる。

 

「ブレイクっ!」

 

 飛行魔法で姿勢制御し空中で縦方向に回転。ケルベロスの喉元に踵落しを打ち込む。

 

 地面に叩きつけられるように堕ちていくケルベロス。その先にはS-1bを構えた茜が悠然と立っている。

 その瞳はとても澄んで目の前の敵に一瞬の隙も与えない覚悟を持っていた。

 

「ディミヌエンド!」

 

 単純な切り上げ。だがただ斬りつけるわけではなく魔力を込められた一撃は再びケルベロスを空中へと打ち上げる。

 すでにダメージは蓄積し、封印できるほどにケルベロスは弱っていた。

 いまこそチャンスである。

 

「なのは、やれ!」

 

 振り向きながらイサムが叫ぶ。その視線の先にはすでにバリアジャケットを展開し、ケルベロスを真正面に見据えたなのはが立っている。

 

「リリカル、マジカル!」

 

 桜色の魔力が爆発するかのような勢いで猛る。それはあまりにも神々しく、美しかった。

 

 

 

 

「ふう。綺麗に終わったか」

 ソードブレイカーを格納し、胸の奥からイサムは息をつく。さすがに全力疾走はつかれたのだ。空はすでに夕暮れ。高台の神社からは紅色に染まった青空がなんとも綺麗に見える。少し湿った風が吹き抜ける。なんとも心地よく、言葉には表せない清々しさを感じる。

 右前方に視線を向ければおなじくS-1bを閉まった茜が夕日を眺めていた。

 すると彼女はくるり回りと顔を神社側に座った各々に向き直る。

 

「皆さん、ありがとうございます。あのままでは死んでました」

 ぺこりと頭を下げる。夕日を背にしたその艶やかな黒髪は良く映える。

 

 暴走していたのは、あんなバケモノとは似ても似つかない可愛らしい柴犬の子供だった。気絶していた飼い主がすでに抱きかかえて家に帰っていったのを見届けた。どうやら子犬に怪我も無く皆して胸を撫で下ろした。

 

「たいしたこたーねぇよ。大事にならずに良かった良かった。下手すりゃこの街がぶっ飛ぶもんなぁ。難儀なものだ」

 右手を腰に当ててニヒルにイサムは笑い飛ばす。彼にとってはこの程度人助けのうちにすらならないのかもしれない。

 

「そうだね。ほんとに良かった」

 

 直も笑顔で返す。安心したのと同時に、やはり少々の疲れもある。

 

「そういえば、ちゃんと説明してもらってないんですけど、さっきのバケモノ。何ですかアレ?」

 

 茜が気づいてほしくないことに気づいてしまった。勿論、ここまで巻き込まれたのだ、しっかり説明しなければならないのは当然である。

 直はしどろもどろになりつつも説明をした。説明する分量が多くて、それだけで気疲れをしてしまったと、後に直は語っている。

 

「まぁ、そういうことならお手伝いします。私も、危険な状態で誰かが傷つくのを放っては置けませんし」

 致し方がない、といった様子で茜が溜息をつく。その姿に申し訳なくなったのか、石畳の上で座り込んでいたユーノが平謝りを始める。

 

「すみません。ボクがしっかり管理しておけば・・・」

 謝罪を始めるユーノだが、それは長くは続かない。すぐさましゃがんだ茜が人差し指を立ててユーノの口を封じてしまったからだ。

 

「貴方は、自分の与えられた仕事をこなして、運送業者に頼んだだけでしょう? それをわざわざ私達に危険が及ばないように回収しに来てくれた。事故を起こした運送業者が費用を出してくれたわけでもないのに、です。礼は言っても怒ったりしませんよ」

 茜は悪戯っぽい笑みを浮かべ、ユーノを抱え上げる。神社の境内から見えるのは壮大な夕焼けだ

 

「私は、この街が好きなんです。だから、曲がりなりにもこの街を助けてくれた貴方には感謝してるんです」

 

 

 夕焼けに照らされる茜の横顔は、どこか寂しそうだった。

 

 

 

 

 

 




1年ぶりの投稿になります。とはいってもArcadia時代の文の修正版なのですが・・・。
最近はめっきりSS執筆に使う時間が減ってしまっています
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