小説が二章に入るまで、あと二、三話は書きたい。
そんなこんなで、今回から明石の暴走が始まります。
4/17追記:一章-9に一部を移動。伏宮の出番を追加しました。
「ねぇ、提督さん。暇なんだけど」
「まぁ、待機している所に悪いけれど、横須賀に送り返したから君には艤装がないからな」
「むぅ。ふてくされるぞー」
「分かった、分かったから。午後は工廠に行こう」
景鶴が予想以上に早く、新泊地生活に馴染んできたらしい。その分、出撃出来ない事が相当ストレスの原因らしく、こうして毎日執務室に突撃してくるのだが。
最初のうちは泊地の資料室に籠っていたらしいが、一週間したら『内容を全部覚えた』との事。本を私に読ませろ―とばかりに騒ぐので、執務室にあった持ち込んだ私物を解放した。それでも三日と持たなかったのだが……。
まぁ、そろそろ本土に遠征に出した朝雲と龍驤が戻る頃合いだし、丁度良いのかもしれない。
景鶴の意志を海岸で聞いた後、海軍大時代の人脈を使い、技術工廠に勤務する友人にちょこっと資材をちょろまかしてくれるよう頼んだ。
『まぁ、委員長には世話になったしな。俺が無事働けている礼もあるし、何とか交渉してみるわ』
そうして泊地の工廠に届いた艤装。ラベルには『改マル5計画凍結品』と書かれている。
そもそも大戦時には建造出来なかった、改マル5計画の一つである改大鳳型航空母艦。上層部が深海棲艦の勢力拡大に合わせて、艦娘の増員を画策したようだ。
しかし、魂の定着は行えたものの、大戦時には実際に建造されなかった船。簡単に言うと意志を持つ段階に至っていない、赤子のような艤装が完成した。
一般人を対象とした、適合試験の結果は“誰にでも反応はするが、兵器関係のレスポンスが一切返ってこない。艤装=兵器として機能しない”という烙印を押された。
計画はもちろん凍結。戦う事を知らない艤装を背負った、戦えない艦娘を造る余裕も流石になかった。
かといって、未完成の艤装に新たな経験を積ませるという方法にはいかなかった。既に運用している艦娘達だって。相棒を使い続けたいだろう。そこらへんを、うちのВерныйは割り切ったらしいが。
つまり実戦経験を積んだ、練度の高い艦娘が赤子の艤装に戦闘を覚え込ませればいいのだろう――という仮定で取り寄せてみた。
実に適する被検体がいるじゃないか。と視線を例の艦娘に向けると……。
――――こっちがドン引きする位に、実に目を輝かせていた。
「ちょっと艤装自体が重たいですね。腰部に装着するにしても、大鳳型と同じようには行かなそうですね。」
明石がうーんと唸る。新しいおもちゃを手に入れたように飛びついたが、開発と運用は別の問題らしい。
目の前にあるのは、取り寄せた飛行甲板とボウガンタイプの発艦機。
「いっそ小型化した主機だけ背部に背負いませんか?サブアームを展開して副砲や機銃の運用が出来れば、射程と火力はともかく航空戦艦のような扱いで行けると思うんですけど」
「金剛型の一次改装ユニットみたいなものか」
確かに金剛型の艤装は扱いやすいとの評判だったな。比叡を使ったこともあるが、あれはあれで戦艦として完成されたデザインだと思う。
「ねぇ、明石さん。これどうやって艦載機を飛ばすの?」
景鶴が持ってきたのは、大鳳型の艤装であり基本装備であるボウガンの改良機だ。砲身自体を最小限に抑えた代わりに、飛行甲板を模した鉄板が、バヨネットのように伸びている。
「その甲板自体が天龍型の刀身の派生らしいですよ。発艦時に刀身から甲板へ、展開するそうですね」
おっ動いた。ウィーン、ウィーンと遊び始める。
「あはは、面白い」
「ですよね! 浪漫ですよね! 格好良いですよね!」
「もうお前ら勝手にしろ」
そのうち左手に『装甲甲板シールド!』だとかで遊び始めそうだ。命を預ける艤装なのにそれで良いのか!? お前ら。
しかし、そんな遊びの時間も長くは続かなかった。恨めしそうな視線で過程を一瞥した作業服姿の男が一人。
「馬鹿野郎! なに職務を放り出して遊んでやがるんだ? 明石」
トラック基地第一工廠で主に、修理と補給の担当をしている伏宮扇少佐だった。元々、機械遊びが好きなのが祟って、出撃の少ないこの泊地では整備を預かって貰っている。
どうも明石が熱中し始めると、何をやらかすかは分からないのは身に染みているらしい。明石の首根っこを掴んで、第一工廠まで引っ張っていく
「伏宮しょうさー。新しい艤装を早く造りた――――い」
「黙って技術屋は仕事を終わらせろ。どうしてもやりたいなら、残業上等でやるか死ぬ気で平常業務を終わらせるかどっちかにしろ」
柱にしがみつかれた為に、諦めて明石を放置した伏宮。溜息と共に今度は東郷に声がかけられる。
「……
「既存の4連装酸素魚雷の発射管は、まだストックがあったよな? それでどうにか回せないか? どの道、この泊地が攻勢に出る事はない。魚雷がこの先に必須になる場面は、トラック基地自体が殴り込みをかけられる時くらいだろう」
「という事は、出撃がない限りはしばらく修理・補給担当の出番はないと」
伏宮が右手の上で、スパナを転ばせながら呟く。
「そりゃぁ戦闘なんかない方が、平和で暮らせるから良いんじゃないか? だが司令補佐の役割にしかり、整備の役割しかり俺って今は給料泥棒じゃないか?」
仕方ない、景鶴を借りるぞ――そう言って義手と義足のチェックをし始める伏宮。
「お前って生体技工は副専攻でとったんだっけか?」
「そりゃぁ生体科学と技工は、篠華の領分だろ? 可愛い女の子に目を付ける百合野郎じゃなかったら、もっと前線で活躍できるだろうに」
可愛い女の子どころか、男の子の尻すら追いかける同期を思い浮かべて苦笑する。海軍大時代には、本当に色んな奴がいた。今話題に上がっている生体技工士や、目の前にいる馬鹿の付くメカニックの伏宮だってその同期だった仲間だ。
「バイタルは正常だな……触覚や痛覚は?」
「えーと……紙で指を切ると、痛いかも」
「なら、接続障害は起きてないな。明石、3番格納庫からチューナー持ってきてくれ。あと演習用の副砲あたりが2つ欲しい。左右の重量バランスの均等化を済ませるぞ」
伏宮の一声で妖精達も動き出す。試験接続用のハンガー=通称たい焼き機とでも言われる、文字通り両手を横に伸ばした景鶴に艤装が装着されていく。
「左腕は川内型の14cm単装砲でどうだ? 弓と違って片腕がフリーになるが」
「でも左目の件もありますし、死角に迎撃用艤装を装着するのも危険ですね」
明石と伏宮の二人が目を付けたのは、背面のラッチがフリーな事だった。
「よし、背面から陽炎型のフレキシブル・アームを使って高角砲を撃たせるか。迎撃用のスクリプトを組むから、しばらくフィッティングは任せるぞ」
「了解しました、伏宮司令補」
慌ただしく作業が進められ、武装が使えるか使えないかに関わらず装備の設置が行われていく。何をやっているか分からない当事者である景鶴は、目を白黒させるばかりである。
「やはり、陽炎型ら駆逐のパーツだと重量的には無理なのか? 金剛型の一次改装フレームならどうだ? 耐久性なら問題ないと思うが」
「……あー、一応ストックが残ってましたね。持ってきますよ。後日また、修理用のスペアは本土に申請しておきますね」
トラック泊地は、その立地が主戦場である南方海域と本土の中継地点にある為、補給や整備で立ち寄る部隊も多い。その為に、泊地の工廠には所属艦娘以外の艤装も多く倉庫に積まれている。
だからこそ、このトラック基地第二工廠――――明石の城だの言われるこの設備は、横須賀の艤装研究所に引けをとらない開発を日々行っている。
『本土の夕張、南方の明石』とは、その現状を皮肉を込めて作られたのだかなんだかである。だからこそ、多少の無理が利く。
武装の博物館じゃないかと思われるような、莫大な空間と吊るされた装備。ストックを含めて、各艦種が5隻程度なら応急修理が間に合う程度の規模を誇っている。
艤装の開発とは、完全新規で作るのはともかく流用や改装を行うことで成り立つのがほとんどだ。今回の場合は大鳳型という前提の艤装があり、その改良型を景鶴にフィッティングさせる作業だ。
ここで、技術屋の腕の見せ所である。最良で最高のスペックを叩き出すまでは妥協しない。特に防衛大の同期である伏宮はその傾向が強い男だ。
『決まってるだろ? ベストじゃない装備で出撃させました――で沈んだらどうするつもりだ。整備をやってた俺らは、後悔しきれないんだよ。そんな事をしたら』
――――好きなだけ、艤装をぶっ壊して貰っても構わない。何度でも何度でも修理して、最善の状態で出撃して貰うのが俺らの仕事だから。
本人はカッコよく言ったつもりなのだろうが、一言だけ言いたい――お前の本職は
片方は本来指揮官であるのだが、結局メカニック2人が熱を上げ始めたために、穏便に済ませたかった東郷としては頭を抱えるのだった。
ミリタリー関係は、そこまで詳しい訳ではないです。
間違った部分があれば指摘して頂けると助かります。
改大鳳型航空母艦を艤装として選んだのは
・大鳳自体が翔鶴型をベースとした事
・計画のみで起工すら出来なかった事
から選びました。
実際には大鳳のバリスタの甲板部分。
長くしたら近接戦闘出来るじゃん―という安易な発想。
提督の一人称がころころ変わってしまうのは、
彼自身が白い表面と腹黒い本性を使い分けてきた事に起因します。
彼自身どちらが本物か分からなくなってきているんでしょうね。
自分を演じる事に疲れてしまった。そんな感じです。