ある件と、冬イベと集中講義のせいで進まなかったんですね(汗
今回は、皆さん大好きパパラッチ=青葉が登場します!
11/14追記:改訂用の書き直しが終了しました。
二章-1 Info. warfare
「……なぁ、どう思う青葉?」
『――――どうもこうも、真っ黒じゃあないんですか?』
机の上にある印刷された紙の束。全てが電子化されるような技術の進歩があったとしても、その秘匿性を重視するには紙媒体とは便利なツールであった。調査報告にしてはあまりに薄すぎる分量。経過だけを抜粋したものだけなのだから少なくとも当然なのだ――――しかしあまりにも問題なしという文章が踊る紙面には、椅子に腰かけた男もまた眉を顰める。
散らばっている書類には、ここ数ヶ月の各拠点、遠征先の資源の動きといった内容が書かれている。遠征関係では不穏な動きはない。せいぜい、ブーゲンビル島沖でタンカーが強襲くらいだろうか。
オセアニアから極東への貢物といえば聞こえが良いだろうか? 文字通り東の海において、最後の防波堤ともいえる国連海軍極東方面隊。無論、艦娘の運用にしかり資源の確保と同時に消費の桁が違うのも認知されている。
男の職務は、艦娘の運用だけでなく諜報といった分野も含まれている。大事件に発展する前に綻びを洗い出し、公になる前に未然に処理する。他軍だけでなく自軍の行為さえも疑わねばならないために、情報とは常に最新であり正確であるかも求められていた。資源の動き一つにしかり。通常の輸送なのかほどよく偽装されたものなのかを判断するのだって、日常茶飯事のようなものだ。
取り上げた資料の中で、目に留まった問題は『改マル5計画凍結案件について及び一部の処分について』という表題。艦娘の製造に関しての困難さを知っているからこそ、妙な引っ掛かりを感じた。
「サルベージした船霊をリリースした上での廃棄だって? そんな馬鹿な話があるか」
ただでさえ一隻分の艤装を造るのに多くの資源と時間、試行回数が必要だ。いくら役に立たなかった艤装とはいえ、あまりに雑な扱い方ではないのか?いくら海軍の防衛活動といえど、その資金源は国民の税金である。文字通り国民の血税で賄って造った兵器が役に立たないと分かれば当然、批判の対象になる。だからこそ
一ヶ月前に呉海軍工廠にて起きた小規模な爆発事故。表向きには『運搬用タンクローリーの整備溶接中に爆発、隣接した艤装保管庫より凍結艤装を消失』となっているが、あまりに都合が良すぎる。失敗した改マル5計画の艤装を処分する隠れ蓑に使われたのではないか。よっぽど上層部としては、まったく役に立たなかった艤装はとっとと処分したかったらしい。隠蔽された資源の流れは、この消費を穴埋めするためと見るのが妥当だろうか。
「そこでこの報告書か……」
資料の報告者には見覚えのある名前。一次改装型から二次改装型の艤装へ船霊をサルベージ。複製、定着に成功したという事例についてだ。前例では響とВерный、雪風と丹陽などがある。
疲れを感じてか、眼鏡を外し目元を抑える。特筆事項はなし。問題はこの件が正しいかどうかが分かればいい。
そして今回の場合は状況が特殊なのだが。トラック泊地改修工廠にて、試製艤装の適合に成功とある。鉄屑にだって、艦艇の遺失物が含まれていれば船霊は精製できる。航空母艦の増産は急務ではあるが、適合者同士で艤装情報の移譲を経由させることでの実験とは恐れ入る。
おそらく元適合者を媒介にフィッティングを行ったのだろうが……だとしてもあまりにタイミングが合致している。裏付けを進める必要があるが、この件は呉の凍結艤装が絡んでいる可能性が否めない。
「お前は俺に捕まえて欲しいのかよ――――委員長」
同輩の困り顔を脳裏に浮かべつつ、男もまた打つべき手を考える。
「青葉……巡業中の所を悪いが、トラック泊地に寄港してくれ。幸い永野大佐もいる。あの人の前なら、さすがにアイツも抵抗はしないだろう」
『――――了解です。中佐も裏付けの方、ちゃんと取っておいてくださいよ?』
「お前に指摘されるまでもないがな」
やっぱり、お前も手の掛かる面倒な奴だ。男は盛大にため息をついた
出港まであと僅かとなった港内を見渡して、景鶴もまた積荷の積み下ろしを手伝っていた。何でも南方のお偉いさん方が、一斉に本土へ向かうらしい。その道中にあるトラック泊地には船団が停泊している。12隻二個小隊による水雷戦隊の護衛。間宮、伊良子となかなかの規模である。乗員の中には各泊地を転々とし、各地の監査まで行っているとかなんとか。艤装の件もあって、怪しまれるような行動は控えておけ――と言うのが、提督さんの談である。
しかし手よりも、艤装の恩恵に預かれる女手の方が重たい荷物を運べるとは微妙な気分になる。
補給の間、将校との接待や雑務は司令官一人で足りるものではなく、勿論景鶴を始めとした艦娘達も駆り出されていた。汗をぬぐいつつ、今までの経過を思い出し顔を顰める。
「あぁーもー。あいつら爆撃されたいの!? 思い出しただけで腹が立つ」
将校たちのセクハラに対して、怒りが具現化しそうな景鶴。ドスドスと地を鳴らして歩いていると霞色の髪を後ろで束ねた少女に声を掛けられた。
「―――どうもー特設調査部所属の青葉ですっ! 景鶴さんですね?」
「えーっと、確かに私は景鶴だけど……。何か用事?」
青葉型重巡洋艦一番艦青葉ですっ。という敬礼に対して景鶴も返礼する。
「まぁまぁ、お近づきの印に握手でも。これから前線に立つ仲間とは、友好的にやっていきたいですよね」
人懐っこい笑みと、すっと出された右手にとりあえず対応する。こういう明るいタイプの人間は、私も嫌いじゃない。よろしくと一言と共に握り返す。
一呼吸をおいて、青葉の目がチラリと視線を右手に向ける。そして握った右手に違和感。
「もうちょっと警戒されると思ったんですけどね。東郷中佐ならまず警告してるはずなんですがねぇ……もし私が毒針でも仕込んでたらどうします?」
と、冗談でもない事を。こちらがギョッとすると、何事もなかったように笑って返してきた。むしろ提督さんについて話していたのは何故なのか。懐疑の視線を向けると、逃げるように少女は身を翻していた。
「それでは、私はこれで。また会う機会があると良いですね~」
振り向きざまに大袈裟な一礼。彼女はそういって、風のように去って行った。
一体何だったんだろう。残ったのは私の右手の違和感―――くしゃくしゃの紙のメモ。
『ヒトヨン・フタマル A棟通信準備室にて 盗み聞きに興味はありますか?』
接待だけでも気が滅入るし、何よりここでは最高責任者。気の休まる所がない。トラック泊地の司令官は今日も今日とて、職務に忙殺されるのであった。
「いつもの威勢はどうしました? 東郷中佐」
「本土からいらしている貴方たちの前で、猫かぶりをやめろ――とおっしゃいますか? 永野教官」
階級章は大佐。パチンと和扇を畳みつつ制帽を深く被り直す男の態度に、東郷は溜息をついていた。気心知れているとはいえ、上官の案内をわざわざするのは面倒に他ならない。
その仕草が、50を前にした優男の風貌を若めに見せる。東郷の目の前にいる男――――永野誠大佐は、教え子の偵察がてらに護衛で上陸したらしい。江田島の海軍大では教官でもあり戦術論の師である彼には、東郷も邪険に扱う訳にはいかなかった。
「規範を順守するのは、君の特長なんじゃなかったけ?」
「規律を守るのと、息抜きをするのは違います。少なくともお偉いさんの前で堅苦しくスピーチをしたり、宿舎の案内をしたりっていうのは苦手な方ですけれどね」
「つれないねぇ。ここまで出世できる技能を教え込んだ相手に、その態度は……」
どちらかというと表で対応するよりも、裏方を駈けづりまわったり書類仕事に精を出すのが天職だとは思っている。目の前の男には感謝すれども、気遣う必要はないと考えていた。
「君の手腕は、こういう所で発揮されるものだと思いますが」
「お褒め預かって光栄ですが、それは私の研修時代を皮肉ってますよね?」
苦笑して受け流されるが、目の前の男は防衛大の数々の騒動を思い返して笑っているに違いない。
それに反応する自分を見て、また楽しんでいるのだからしようがない。
「ヒトサン・サンマル。補給物資も十分ですし、お暇の頃合いですか」
永野大佐は首から下げた、古びた懐中時計で時刻を確認しているようだ。お偉いさん方は、貸し切った食堂での昼食が終わった頃だろう。何事もなければ、船団は日暮れまでにエニウェトクに着くはずだ。
「……そろそろ出港の時刻ですね。そういえば、特調の番犬にはもう会いましたか?」
「特設調査部もなにも……永野教官だって、今は前線じゃなくて諜報分野の仕事でしたよね?」
思い出したかのような口調に、こちらも困惑する。
同じ海軍内であっても。前線の指揮官が対深海棲艦を担うなら、海軍特設調査部は対人間を専門にしている。普段は飄々としているが、彼だって電子戦といった部分では活躍している……はずだ。少なくとも自分が呉でやらかした件なんか、調べようと思えばいくらでもボロが出てくるだろう。
いや……問題なのは『会いましたか?』だ。前線に余裕があるとは言えないので、所属している艦娘は巡洋艦か軽空母クラス。そんな子はいた覚えがない。護衛をしていたのは、水雷戦隊が二個小隊のはずだ。
永野の台詞に首を傾げつつ。視線を動かすと聞き覚えのある、そして聞きたくないあの声がする。木陰からひょっこり顔を出した紫髪の艦娘が、メモ帳で口元を覆って微笑んでいた。
「――――どうもー。特設調査部所属の青葉ですっ! 一言お願いしますっ!」
「ちょっと待てっ。なんでお前が此処にいるんだよ!?」
面識のある、(自称)広報だの新聞屋だのの重巡洋艦――青葉がニコニコしながら立っていた。
「では、あとは頼んだよ。青葉特務官」
「了解です、永野大佐。さて。ちょーと、お話良いですか? 東郷中佐」
用は済んだとばかりに踵を返す恩師を、視界の端で捉える。その先に立ち塞がるようにいる青葉。どうやら一筋縄ではいかないらしい。彼女の目が笑っていない。この笑顔は完全に人払いが必要なパターンだ。
「さて、久しぶりの再会を喜び合うべきなのだろうが……説教か? 取調べか?」
「まぁ電波暗室でおいおい、女の子と二人っきりでおしゃべりしませんか?」
皮肉っぽく笑う少女には、こちらも肩を竦めるだけだった。
いよいよ年貢の納め時か――そう呟きつつ、促されるように歩を宿舎に向けるのだった。
最初に出てくる青葉の上司。詳しく言えませんが、他作者様の許可を頂いてのゲスト出演になります。
物語が進んでから、正体を明かしたいと思います。
ヒント1:サブタイトルのInfo. warfare
ヒント2:特設調査部所属