艦隊これくしょん~鶴の慟哭~   作:エーデリカ

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冬イベ編と言いながら、潜水艦のセの字も出てきません。

さて本日より登場し始めた青葉特務官。そしてその上司。
オーバードライヴ様の『艦隊これくしょん―啓開の鏑矢―』より、
高峰春斗少佐をお招きしています。この場を借りてお礼申し上げます!

こんな私の駄文にまで付き合って下さる読者の方なら、もうご存知でしょうが、
艦隊これくしょん―啓開の鏑矢―、是非是非読んで下さい!
既に74万字を超える長編です。世界観の深さ(そして74万字の文章の波)に引き込まれますよ!

追記:7/31改稿終了


二章-3 The phantom

「そういえば“この件は私で止まってる”なんて分かりやすい嘘だよな。一瞬目を細めただろ」

「……さすが白鴉ですね。“人の内側を見るのだけ”は一人前ですね」

 

 それは絶対に褒めて無いだろう。青葉の態度に辟易しつつも、改めて向きなおる。

 

「そりゃどーも。で、お前の飼い主は元気か?」

「元気も何も、この件を“まだ”穏便に済ましてるのはうちの司令官ですよ」

 

 だろうな。旧友の情報収集能力をもってすれば、簡単にばれるだろう事は最初から分かっていた。おまけにお偉いさん方の反応を見るに、まだ手配はされていない事も。

 

「青葉。お前はやっぱり昔と変わったな。こういうのを見逃す奴じゃなかったろうに」

「……誰から聞いたんです?」

「酒の席で、お前の飼い主から。惚れた腫れたの無駄話の一つだよ。詳しくは聞いてない」

「何やってんですか、うちの司令官は」

 

 頭を抱える青葉。それでも、少し複雑な表情を見せたのを見逃さなかった。やっぱりそういう気はあるのかお前。

 

「司令官をとっちめる為の情報提供、感謝致します」

 

 追及されたくないとばかりに、話題を切り替えた青葉が視線を投げる。

 

「それで、連行はいつだ? わざわざお前を寄越したんだ。早急に済ませたい理由があるんだろう?」

「…………先日ウェーク島が陥落したのはご存じですか?」

「……なぜそんな話になる」

 

 東郷の問いに対しても、青葉は伏し目がちに返すだけだった。

 

「南方戦線の維持には限界が来ています。昼間の輸送隊を見たでしょう。複数の戦艦レ級によって、壊滅したエニウェトクをはじめとした各部隊が本土への帰還命令が出ているのは、貴方も御存じのはずだ」

「……ならばなおの事、承服できない。ショートランドやブルネイが干上がるのが加速するだけだ。トラック泊地を預かる一士官として、貴官の忠告には応じられない」

 

 工作艦明石が所属するトラック泊地は、まさしく南方海域の生命線だ。僻地であるがゆえに敵に利用されやすい立地ではないが、撤退した事によるデメリットは決して小さいものではない。

 

 クウェゼリン、マジュロ、マーカス。今は敵の攻撃目標が分散しているからこそ、進行を押し留めているのであって、綻びが生じた途端にデッドラインが崩壊するのは火を見るより明らかだ。

 

「このままあなた方を見捨てろと言うんですか!? 脅威はすぐそこまで迫ってきているんですよ!?」

「俺達は軍人だ。何時でも死ぬ覚悟で僻地にいる。だが泊地の維持には、民間の協力も不可欠だ。現に多くの商船を抱えているのも事実だ。だから今回、泊地を捨てる覚悟で無理にでも同伴させて離脱させた。だが俺達はとうに心中する準備は出来ている」

「相変わらず馬鹿ですね。東郷中佐。貴方は本当に何も変わっていない」

 

 呆れ声。そして憐みを含んだ声色には、肩を竦めて返すしかない。部下には申し訳ない事をするが、一軍人の務めとして割り切るしかない。

 

「本当に変わっていない……馬鹿馬鹿しいくらいに。だから、私がここに来たんですけどね」

 

 一束の紙媒体(ハードコピー)。それを見て、口の端が歪んだのを慌てて戒める。公私混同しないようなアイツに限って、俺にこんな連絡をするなんていうのが珍しい。

 

「うちの司令官から二つ伝言がありますね。一つは“今回の件はいったん保留だ”だそうです。もう一つは……もう分かってるどろうが、上層部がまたキナ臭くなってきた。このままじゃトラックが落ちるのも時間の問題だ……だそうですよ」

 

 わざと上司の声真似をして嗤う青葉には、こちらも笑い返す他はない。

 

「それじゃあ、御託はいいから電脳会議といきますか。コールはこちらからか?」

「準備は私が。特調の方で専用に回線を確保しています。セキュリティに最善は尽くしますし、ボディの方はお任せください」

 

 ヘッドギアを被り、自分の意識を飛ばし、似姿を再現したアバターが電脳世界へと降り立った。

 

 

 

 

 

 南国の昼下がりをイメージした東屋の下。テーブルの向こうには既に、良く知った顔が座っていた。

 

『さて、改めて貴官の所属から尋ねようか』

 

 オールバックにメタルフレーム。端から見たらヤの付きそうな、鋭い眼光の持ち主が声をかける。

 

「自分は国連海軍第53中部太平洋艦隊司令部第一作戦群司令部第一分遣隊所属。提督代行を務める東郷駈中佐であります」

『……久しぶりだな、委員長』

「変わってないようで何よりだ、高峰中佐」

 

 国連海軍極東方面隊特設調査部第六課、高峰春斗中佐。防衛大時代に、よくトラブルに巻き込まれる(巻き込んできた)事が多かった同輩だ。

 

「それで……高峰中佐は、青葉をわざわざ寄越して何を聞きたいんだ?」

『まず始めに聞きたい。呉工廠の爆破事件。お前がやったのか?』

「俺が、そんな面倒な事をやると思うか?」

『……だろうな。お前は良くも悪くも表向きには、正攻法しか使わない。まずお前なら他人の弱みを握って、そこから逃げ道を塞ぐタイプだからな』

 

 交渉はともかく、味方の拠点を爆破するようなタイプじゃないと評される。お前の評価は少し偏り過ぎていないかと、口の中で言葉を転がす。

 

『呉に強力なバックアップがない時点で、お前のやり方じゃ無い事は分かった。担当直入だが、こうなることが分かっていて運んだのか?』

「まさか。タイミングが重なったのもあるけどね。まさか上層部が、爆破してまで痕跡を隠すとまでは思っていなかったんだが」

『巻き込まれた飯田大尉は気の毒だが、結果的に艤装は盗まれた。そのおかげで、艤装が助かったというのが皮肉な話だが』

 

 呉の艤装にはあらかじめ目をつけていた。勿論自分の艦隊で運用出来る事があればと思っていたのは事実だ。そして偶々、息のかかった同期とコンタクトをとって回収できた幸運に過ぎない。

 

『こっちが取れた裏付けは、艤装の廃棄予定の延長申請、これは俺らの同期がやった件だな。本人からの証言だ。だが特筆した怪しい動きでもないし、おかしな事じゃない」

 

 折角の艤装を処分する前に、別の利用法を探る事は当然でもある。その過程を飛ばしたのは、明らかな焦りが目に見えるのもまた事実である。

 

『問題はその後だ、お前の所の艦娘が呉に定期連絡で入港。時期から見て艤装を動かしたのはこの時だな』

 

 情報のリークは艤装の交渉を頼んだ飯田大尉からだった。凍結決定からの艤装解体までの時間が余りに短すぎる。結局バラバラにされた状態で発見されたものを、龍驤が報告。トラック泊地まで運びだし再構築した艤装が、現在に至る訳だが。

 

『艤装廃棄庫の監視設備が5秒間接続を返していない。そして十二分後監視カメラの映像が一瞬だが、わずかに不自然な繋ぎになっている。丁度点検中で似たような状態は他にもあったが、5秒間も接続を返さなかったのはこれだけだった。状況的に黒だな。何か質問は?』

 

 明らかに自分のクラックではない。誤魔化した時間と用途が違うし、何よりも面倒な手筈を踏む性質でもない。

 

「よく、わざわざそこまで調べたな」

『長い付き合いだからな。お前が見境なくしたらこれ位の事は、躊躇なく地雷を踏み抜くくらいなのは知ってるが、疑われた同期の白を証明するのも大事な仕事だ』

 

 とりあえず、その件は置いておく。お前の供述もとれたといい。左手で何かのジェスチャーをする。おそらく青葉への合図だろうか。

 

『話題を変えるぞ。ここ最近妙に本土の工廠が活発になっている。Namedの艦載機やら、試製51cm連想砲だか、杉田あたりが聞いたら喜びそうな装備もな」

 

 何がどうしてそんな話題を振るんだ? というアイコンタクトに対して、まぁ黙って聞けと返してくる。

 

『改マル5計画の一部=改大鳳型5隻の建造を凍結した上層部は、雲竜型の建造にゴーサインを出した。つい二週間前の事だ』

 

 雲龍型も改マル5計画の一つであるが、景鶴の艤装も含めて上層部は諦めがどうも悪かったらしい。

 

『問題はこれからだ。明らかに不自然なんだよ。“工廠は活発なのに気持ち悪いくらいに資源の流れが平時と変わってない”』

「」

『それと本土への召還命令が出ているとはいえ、中部・南方の拠点から複数の船団が本土の母港に入港している。おまけに少将以上の将官クラスが、次々に本土へ帰投してるって状況だ。それも、お前のいるチューク諸島周辺の提督がだ』

 

 今日まで停泊していた船団もその一つである。

 

『事故に見せかけた艤装の処分と雲竜型の建造、将校達の本土への帰還、あとは分かるな?』

「資源を手土産に、俺らの知らない所で媚を売っている訳だ」

『ご明察』

 

 最近どうも輸送艇が活発だとは思ったが、そういう裏か? ウェーク島を含めた陥落は建前に過ぎないと思っていたが、一筋縄ではいかないらしい。

 

「上層部からすれば、開発失敗の隠滅と雲龍型の建造、過剰に消費した資源の補填。将官からしてみれば、上の席と雲龍型配備の交渉って訳だ」

『竣工予定は一番艦の雲龍と、二番艦の天城。スペック上は二航戦の一次改装レベルの代物らしいな』

 

 現在運用されている大型空母は赤城、加賀、蒼龍、飛龍、大鳳。翔鶴と瑞鶴の後釜が横須賀に再配備されたのは、つい先日の事らしい。観測射撃が主流の現在、空母による制空権の確保は、各地の提督にとって最優先課題である。

 

『確かに大型空母は運用したくなるだろうよ……でどうだ。改大鳳型を運用してみた感想は?』

 

 お前、その艤装の件で俺を問いただしているんじゃないのか? このタイミングで訊く話じゃないだろ普通。

 

「……明石がやらかしたのもあるけど、龍驤しかいなかった時と比べて、戦術の幅が広がったな」

『負けない戦術に限っては、お前の右に出る者はいないからな。結局俺らも卒業まで、お前に将棋だけは勝てなかった』

 

 次席の俺が勝てねぇんだ。月刀くらいじゃねぇか? お前とまともな対局になるの―と呟く。

 

「その月刀には、航空戦じゃボコボコを通り越して散々な目にあっているがな」

 

 今でも忘れない。模擬戦で機銃や高角砲装備の駆逐隊に対して、海面すれすれで来る戦闘機の群れ。トラウマ以外の何物でもない。

 

『後は、お前をそうまでさせた、件の景鶴については、あらかた調べ終わってる。調べれば調べる程、黒い案件だよ。お前の景鶴は』




あちらも新章が開始しております『艦隊これくしょん―啓開の鏑矢―』
にて、こちらからも東郷中佐が出張する話があるような、ないような(笑

うちの景鶴は改大鳳型の艤装を背負う変わり者ですが、一体どうなる事でしょうか……。
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