でも明日艦これはメンテか……なら書けるな(錯乱
予告通り月刀大佐らのターンです。
ちなみに作中のネタは、啓開の鏑矢の逆輸入となっています。
それではどうぞ。
アンツ環礁に向けて電達がウェークから出撃して、実に6時間以上が経過している。輸送機の速度からして今頃交戦している最中だろうか。本土から送られてくる助っ人を待ちながら、送り出した電達と、旧友の安否の確認すら出来ない現状に月刀大佐は歯噛みしていた。
「司令官。来たみたいだ」
平時の艤装に加えて、脚部にスラスターを搭載した長靴を履いた響がこちらに向かってくる。
STARDUSTシステムには大きく分けて三つの機能がある。一つは艦娘と指揮官の同調率の向上。残りの二つは被弾しない為の追加装備。機動力を得る為のスラスターと、自律機動も可能な機動防盾。これらで構成された海域掌握用戦略システムだ。
環礁棲鬼のジャミングの程度が不明だが、近距離通信程度なら問題が少ないと仮定すると、チューク海域に向かう事が最善だ。鷹の目の使用には本土の大型コンピュータに演算補佐をさせねばならない。しかし通信妨害されている現状では、トラック泊地にあるサブコンピュータに直接アクセスするしかない。
艦娘部隊の輸送と強襲されている泊地に乗りこんで演算装置を確保する事。それが大和型の投入と言う切り札を使い、形勢を逆転させる為の最後の手段であった。
だからこそ、杉田には直接出向いて貰い、月刀自身もSTARDUSTシステムを使う響のサポートの為に同乗するつもりだった。
「辛気臭い顔してるな、月刀」
シートに体を固定した所で、同期の杉田が月刀に声をかける。
「そんなに電嬢達が心配か?」
「それもある。だが既に壊滅してるかもしれないトラック泊地に飛び込むのは、自殺行為だと思っただけだ」
「死にたくない――なんて死にたがっていたゾンビーと、同じ人間が言った言葉だとは思えないな」
杉田は苦笑して、かつての月刀の言動を指摘する。
「もう少し電嬢を信じてやれ。あの娘らはお前なしでも上手くやれるさ。過保護な上司は、部下に嫌われるぞ」
前にも“電の指揮から外れろ”って言ったっけか。クツクツと笑う杉田をよそに、月刀はキーボードを走らせる。
「なぁ杉田」
「なんだ今さら。お前とのお見合いだけは、勘弁して欲しいと思ってるが」
「そんな軽口を叩き合いたい訳じゃない。東郷ならどうする」
「どうするってこの状況をか?どうせ消耗戦でジリ貧になっておじゃんだ。例の演習でも、委員長は司令室に籠城しただろ?グレネードで一網打尽にされてエンドって前例がある」
今頃空襲にでもあって、トラックは焼け野原だろうさ――そう言う杉田にも同期の無事は楽観視出来ないと、表情から見て取れた。
「演習で籠城?何の話だい?」
「あれ、響嬢は知らなかったか?」
興味津々といって、目をキラキラさせた響。
一方その話を他のやつらにはしたのか!?と頭を抱える月刀。
響嬢はあの時横須賀にはいなかったからな――と意に介さず杉田は続ける。
「簡単に言うと防衛大時代に、訓練主任を俺らがボコボコにした事があってだな。委員長の班も粘ったんだが、グレネード一個で全滅したっていう悲しい実話だ。その時以来爆発と酒はアイツのトラウマになったらしい」
チョコレートもだっけか?とおどける杉田。あれは主に高峰と笹原のせいだ――と月刀。
「爆発は――まぁ分かるよ。でも東郷中佐は、何でお酒がダメなんだい?」
「その時に高額な酒代を払う羽目になった事があったって言うのもあるが、飲み会の席だと高峰や渡井がからかい続けてな。委員長なんて言われるもんだから、いつも幹事でアイツだけ飲めない訳。あげくの果てには酔っぱらった笹原が、ハニートラップを仕掛け始めるもんだから周りが大爆笑。今でも絶対に俺らの事恨んでるだろうな」
「その時以降、東郷に酒の話をする時は“相当危険だ”って隠語になったくらいだからな」
思い出し笑いをする男二人を見て、首を傾げる響。同期と言うのはこんなものなのかい?
ティルトローターに揺られながら、どれ位経っただろう。
唐突に月刀と杉田の端末に着信音が鳴る。
「通信が阻害されている環境だぞ、一体誰からだ?」
「おまけに軍の端末じゃなくて私的な方に寄越すなんてな――って委員長かよ!?」
件名は文字化けしており、読み取れるアルファベットは “I B k rrow”。本文に内容はなく添付ファイルが一件だけ。送り先は月刀、高峰、杉田、渡井、笹原。5期の黒烏宛てという事で真剣な面持ちで二人は内容を確認する。
トラックへの救援要請か?そもそもどうしてメールを送る事が出来た?
「件名のI B k rrowってなんだ?be crowならカラスになるが……」
打ち間違えたとも思えないがカラスと言われても、こちらが反応が困るのだが……。何かを引っかけたいのか?
しかしウイルスチェックが済んだ添付画像を展開すると、予想外の内容に男二人は噴き出した。
「なんでこんな非常時に、委員長はコレを送ってくるんだ!?」
「心配してる俺らが損してるわ!」
響が月刀の端末を覗き込むと映っていたのは、彼らの飲み会の写真だろうか。響の良く知るメンツに絡まれている、知らない男性――彼が東郷中佐だろうか。
何でこんな物を――と頭にクエスチョンマークが浮かんでいる提督勢。そんな彼らに、単純に響は分からない事の質問をする。
「これって、そんなに高いお酒なのかい?」
響が指差したのはテーブルで横倒しになった所で、その誰かが慌てて支えようとしている酒瓶だ。
「それか?特別に高いって訳じゃないな。呉鶴って言って海軍ご用達だった事もあって、有名なものだが……」
「倒れかけた酒ビンじゃ何が何だかな……」
「……これって鶴が倒れかけてるのを、表しているんじゃないのかい?確かトラックには……」
引っかかっていた、もやが晴れる。それなら酒の話をする時は“相当危険だ”という意味も通じる。
「瑞鶴って言うのはそういう事か!」
「まだ倒れていないってか!?とんだ救難信号だなオイ」
I request covering "BroKen aRROW"=全力打撃支援を要請する。そういや委員長は英語力がゼロだったな……。
東郷が発信出来た一枚だけの写真。それでもトラック泊地が陥落していない事は確認出来た。後は電達のジャミング解除が間に合うのが先か、自分達がトラック泊地に乗りこむのが先か――トラックが落ちるのが先かの時間勝負になる。
出撃前ではあるが、響にとって東郷中佐が何者かが気になる。そんな響が聞いてみる。
「ちなみに東郷中佐の専門って何だい?電から防衛戦とかが得意って聞いてるけど」
「戦術的な面で言えば、確かに防衛戦・撤退戦が天職だろうな」
「委員長が特化してるのは、相手の行動を誘う事……か?デコイの使い方とかは巧いな」
「あと、形勢を引っ繰り返せる戦場作りも評価出来る」
単語の羅列に首を傾げる響。
「すまない、もっと分かりやすく言ってくれないかな」
「噛み砕くと相手戦力の頭数を減らす事、それと敵を分断・各個撃破する事に長けてる」
「そうだな……。俺も艦娘の航空戦が本業じゃないんだが……例えばだ、相手が倍の航空戦力でも勝てる場合がある。どんな時だと思う?響嬢」
「……一機の自機が落ちる前に、二機以上の敵機を落とせば良いんじゃないかい?」
「それが、難しい事は響も分かっているだろう?」
まぁそう思う。月刀が助け船を出す。
「以外と簡単な事だ、空母本体を落とせれば勝ちだ」
「でも制空が劣勢なら厳しいんじゃないのかい?」
響の問いに対して、杉田が解説する。
「敵を攪乱して直掩隊を本体から引き離せば、委員長のペースにのせられてる。負けているのを演じるのも得意なんだアイツは。こちらがあと少しだと思って、一気に畳み掛けようと防御を疎かにすると、手痛い反撃を与えてくる。それで体勢が崩れた艦隊を伏兵が闇討ちする――と。アウトレンジが本業の空母本体がインファイトを仕掛けてくるなんて――が日常だからな」
「だから敵に回したくもないし、味方としても協力しにくい。呼吸があってないと、委員長が何を求めているかが理解出来ない」
「艦隊指揮の演習で、委員長とまともな殴り合いが出来るのが高峰だけだしな」
「アレのどこが、まともだっていうんだ?索敵のエキスパートVS騙しに長けた詐欺師みたいな、見てるこっちが面白いカードだぞ?」
想像でしかないが、やってる本人らはたまったもんじゃないね――と響は思う。
「ちなみに司令官と杉田中佐は、東郷中佐と何勝何敗って感じなのかな?」
「「俺が勝率100%」」
口を揃える上位組。
「……つまり東郷中佐って結構弱い?」
「正直言うと弱くはないって程度だ。防衛は出来るが、攻撃は全然だめだ」
「弱いと言うよりも、同調リンク中の艦砲射撃が下手だな。おまけに艦功艦爆の扱いがおかしい。攻撃隊が戦闘機に守られていないとか、セオリー通りの戦い方をしない。アレは良い的だぞ本当に」
「その油断して放置した艦功隊に死角から雷撃撃たれて、被弾させたのはどこのどいつだ?」
「あの時の演習は俺が勝ったから問題ないだろ」
まぁ、頭は回るが体が追い付かない頭脳派だな。机上論にしないでチャレンジしてる姿勢は優秀なんだろうが――と杉田。
夜戦でもレーダーをあてにせずに、爆撃機を飛ばせるから筋は良いんだろうけどな――と月刀。
「ずいぶん酷評されてるね」
「思想が殲滅戦じゃなくて、要所撃破の電撃戦タイプだからな。総力戦とかが苦手なんだ。少数精鋭で攪乱出来る実力と、戦場を俯瞰出来る目。あと委員長に意気投合出来る部下がいれば……か」
人には向き不向きがあるように、使い方次第では化けるという事だ――と月刀。
少なくとも私は、杉田中佐の鷹の目に付き合わされなくて良かったよ――と思う響であった。
唐突に輸送機の警報が鳴る。
「っクソ、砲撃だと!?まだ作戦海域からは遠いはずだろ?」
モニターに映る深海棲艦を見て、提督達は絶句する。
オーラを纏うその美しくも禍々しさ。その姿はまさしく姫の名にふさわしい身なりをしている。
ナンドデモ……シズメテ…アゲル……
スピーカー越しに語りかけられた言葉が、脳裏に反響する。
「戦艦棲姫……何でこんな所に!?」
チューク海域に一体何が起こっている?姫クラスが随伴艦もつけずに単独で仕掛けてくる事自体が、レアケースである。既に行われている攻撃は、別の姫クラスが部隊を率いている可能性が高い、コイツは囮だ。足止めの為だけにラスボスクラスが出張しているような物だ。
『――――司令官、出撃するよ。ハッチを開けて欲しい』
荷室に駆け込んだ響からの通信。既に艤装を身につけ、モニターを覗き込んでいる。
『――――waitネ、響!ここで戦力を分散させたら、それこそ泊地へのhelpが間に合わないデース。カズキからも止めて下サイ!』
『――――司令官達を泊地に届けるのが最優先だろう。大丈夫、足止めだけだよ。必ず追いつくから』
輸送機に同乗していた金剛の制止を振り切る響。
『――――ここでアレを野放しには出来ない。そんな事をすれば、輸送機が落とされる。それに、姫クラスをこれ以上泊地に近づけさせちゃダメだ。司令官が一番分かっているだろう』
今回の作戦はチューク艦隊の支援が最終目標だ。その障害になるものは最大限排除する必要がある。
しかしそれは、戦力が十分な状況に限っての話だ。主力部隊である金剛や大和達をココに投入する訳にはいかない。だとすれば単騎で突入し一番生還確率が高いのは、STARDUSTを装備した響だ。
この場で足止めを喰らう事。チューク艦隊が危険に晒される時間、そして勿論響の生還を天秤にかける。
だからお願いだ。出撃命令を――。響の要請に対して月刀の判断は……。
「響……。必ず追いつけ。トラック泊地に着いたらSTARDUSTを使う、それまで持ちこたえろ」
『――――恩に着るよ司令官。駆逐艦響、出撃する』
既に日の落ちた戦場に飛び降りていく部下を思う。この行動が犠牲だとは思わない。必ず生きて帰す――提督しての使命は、彼女らを率いて全員が生き残る事なのだから。
今回の参戦確定は月刀LOVEな金剛さん。
というか駆逐艦単艦VS戦艦棲姫って中破にすら持っていけない気が……。
響の活躍に期待です(作者が投げてどうする!