とりあえず二章最終話の下書きまで終わり、加筆し始めている今日この頃。
思えば遠くに来たものです。
書き終わって気付く事。「あれっ。渡井さん出番がない……」
それではどうぞ。
「やれやれ、困った援軍だね」
響が再び目を開けたのは海底ではなかった。自分が肩に担ぎ上げられ、未だに戦艦棲姫の攻撃を回避している事に気づく。
純白の帽子を目深に被り、空色の髪と目。艤装はほとんど自分と違う物の、彼女のその容姿は自分と瓜二つだという事に気づく――そうか、君が……
「暁型2番艦Верныйだ。よく来てくれた響」
その顔はこんな状況でもどこか嬉しそうで、何かを懐かしんでいる様だった。
Верныйが主機を不完全燃焼させ黒煙が噴き出す。
煙幕としては心もとないが、あるだけマシだと考える。
ひとまず、水面に下ろされ、高角砲を手渡された。君でも使えるはずだ――と
「なぜ、来てくれたんだい?泊地の方が激戦区じゃないか」
「あいにく、私の艦隊はそんなに軟弱じゃないんでね」
渡された砲塔を接続し、問う響にВерныйが返す。
僚艦とのデータリンク。互いの武器情報と戦況図が更新される。
「ほう、これは良い装備だな……。なるほど、こちらに来ているのはウェークの月刀大佐か」
「どうやら、泊地に無事辿り着いたらしい。私の任務はコイツの足止めだ」
突如現れた乱入者に向かって、戦艦棲姫が発砲する。軽々と躱しВерныйが撃ち返す。
見事なヘッドショット。頭を庇って、姫が怯む。
的確に相手の索敵装置を潰すВерный。その分敵の射撃が乱れ、あらぬ方向に弾が飛び始める。
「さすが“響”といった所か、まだ、私には追いつけないな」
援護射撃をしつつ、スイッチする響。
二人の連携は長年培われたものの様に、綺麗に。そして無駄がなく鮮麗された軌道を描く。
「おかしいな、こうやって出会うのも初めてのはずなのに」
「まったくだ、艤装の適合には似た者が惹かれると言うが……こんな戦いも悪くない」
外見が似ていてからかわれていた、雷と電の二人もこんな感じだったのだろうか。
背中合わせで一呼吸。ニヤリと笑う二人。
「そろそろ敵にも、オデッサの舞台を駆け降りて貰おうか」
「そりゃあいい、同志デカブリストよ、ともに銃を取ろう」
怨嗟の声を上げ、一斉射してくる戦艦棲姫。二人のいた場所が炎に包まれる。
だが彼女が打ち抜いたのは、残されたВерныйの防弾版。
艦娘はそこにいたはず……そう思いながら戦艦棲姫は、左右に展開する輪郭に砲を向ける。その数は1、2……8。
何故だ――増援?黒煙と炎の中を攪乱してくるその影を一つ二つと、その砲撃で砕け散る。
空色の髪が見えた。確かにこれで沈めたはず……。
しかし煙が晴れた所で混乱した戦艦棲姫が見たのは、またしても防弾版。飛翔していたそれが、ホログラムを纏い響の姿が映されていた事に気づく。ならば、彼女らの本体は一体何処だ。
「トリックには気付いたね」
――――だが、もう遅い。響とВерныйが肉薄し、その砲口と魚雷発射管を向ける。
「「Ypa!」」
持てる火力のありったけ、それを撃ち込まれた戦艦棲姫が炎上する。
シズマナイワ……ワタシハモウ……ニドト……!
戦艦棲姫が水底へ吸い込まれたのを確認し、二人は火の粉を払いつつ進路をトラック泊地へ向ける。この場の勝敗は決したが、まだ終わっていない。
『――――戦況ログを見てるが、冷や冷やしたぞ響。いきなりシールドビットを飛ばせと言われてもな……間に合わなかったら、どうするつもりだったんだ』
「その時はその時だ、司令官」
飛翔していた、複数の響ダミーの正体。渡井が突貫で作り上げた、響のホログラムであった。
STARDUSTの機動防盾。そのエネルギーフィールドを利用して画像を展開させたのは、響の機転と明鏡の渡井が仕込んだお遊びによる賜物だ。
勿論、月刀との通信が回復したのもある。彼がいなければ、同時に六基の機動防盾を操作しきれなかった。
「始めましてだ、月刀大佐。東郷中佐の艦隊で、秘書艦を務めるВерныйだ」
『――――こちらこそ始めましてだ。助けに来たこっちが言うのも何だが、響を助けてくれた事を感謝する』
「何、礼には及ばんさ」
うちの東郷中佐が世話になったそうだ、これ位はしなければな――とВерный。
「司令官。今、そちらの状況は?」
『――――青葉が設置した、遠隔ダミーが思った以上に機能してくれている。これで侵攻は大分、遅らせられるだろうな。こっちに戻れるか?』
『――――おら月刀!こっちにリソース回せ。デカトンケールの使用許可が下りてねぇんだ。各艦一人づつ狙撃管制だ。ここの演算装置をパンクさせる気か?』
『――――悪いな響、そしてВерный。後でまた、落ち着いた時に』
そういって月刀からの電脳通信が切断される。
「こんな時に何だけど、トラック泊地へようこそ。駆逐艦響」
「硝煙と火薬の匂いで歓迎されるとは、思ってもみなかったよ」
Верныйの皮肉に対して、苦笑で返す響。さぁ行こう、他の皆が待っている。
私……沈んじゃったのか。ゴポゴポと口元から水泡が上っていく。
防護機能も停止。浮力力場の再生成も間に合わない。重しがつけられたかのように、手足が鉛の様だ。
水底に引きずり込まれながら目の前を漂っていた瑞鶴が見たのは、チェーンが切れて首元から離れた桃色のロケット。蓋が壊れたのか開かれた中身には、少女と兄と笑う昔の東郷の姿があった。
ダメ、これを失くしたら提督さんに会わせる顔がない。
激痛を伴いながらも、瑞鶴は右手を伸ばす。
動いて……動いてよっ……。
あと少し。水圧で体が軋む音。そして酸素を求めようと脳が警笛を鳴らす。
意識が朦朧とする中、その指先がロケットに触れた瞬間――世界は霧散した。
「あらー。こんな所まで来ちゃったかぁ」
清々しく風が吹き抜ける草原。さっきまでとは大きく違う光景に、瑞鶴は目を見開く。草原の中心にある大樹から声をかけてきたのは、黒髪をなびかせポニーテールにまとめた少女。
「あなた……誰?」
「私かい?この姿は、お前の記憶から借りたものだけれど」
そうだな……名前はない。名付けられずに生まれもしなかった船だからな――とその少女は笑う。
「もしかして……私の艤装?」
「正解。よく分かったじゃないか」
少女――名もなき私の艤装がぴょんと跳ねて、枝から枝へ飛び降りる。
「私……沈んだのよね?」
「そうだけど、まだ生きているよ。根性論でどうにかなる訳じゃないけど、君の提督が切り札を用意してた」
それが、私さ――少女ははにかむ。
「良いかい?君はまだ死ねない。天寿を全うしろとは言わないけど、やれる事をまだ残しているはずだ」
ここはそれを確認する為の、モラトリアムって所だね。
「さて限界みたい、時間だよ。元の世界にお帰り」
背景にヒビが入り崩壊していく。その亀裂から覗くのは、日の光が入らない夜の海中のようだ。
「待って!まだ話したい事が……」
「時は刻一刻を争うんだ。こんな事をしてる間にも、君の身体機能に障害が生じたらどうするつもりだい」
会話を終えると同時に、瑞鶴の姿が掻き消える。
「あー。これでも結構無理しちゃったな」
少女の手に握られているのは、瑞鶴が手を伸ばしたはずのロケット。それが、ひび割れて音を立てる。粉々に砕け散り、塵となって虚空に消える。
「瑞鶴。うちの馬鹿を頼むよ」
次の瞬間。最後まで笑っていた少女の姿は、流れ込んできた濁流に飲み込まれた。
――――ダメージコンロール発動。いきな、瑞鶴
先程会った少女の脳内に響いた声で、瑞鶴の意識が覚醒する。
沈黙したはずの主機が動作し、瑞鶴の体を海面まで急速に押し上げる。
東郷がロケットをお守りと称して、秋月に託していた理由。それはアレ自体が、緊急用ダメコンの起動装置を含んでいたからだった。
部下が生きて帰って来ない事を、一度だけは回避しようと用意した保険。
東郷自身が思い出を失う代わりに、自分の指揮したミスを忘れない為に――後悔する為に、わざわざ形として残る物を選んだのだった。
明石や伏宮に頼み込んで作った、アクセサリにダメコンをぶち込んだ作品。発信されたプログラムコードが、停止した瑞鶴の艤装に流れ込み再起動する。
ゲホッゲホッ。咳き込んだ所で、呼吸が出来ている事を確認する。計器のアラートから中破状態まで持ち直した事を確認したが、それでも意識は朦朧としているが……。
そもそもダメージコントロールでは、一時凌ぎに過ぎないのである。
本来僚艦がいる前提なので、その後は護衛されながら後退すると言うのが本来の使い方だ。
単艦で戦線に復帰した直後の無防備な瑞鶴に向けて、空母棲姫から艦載機が放たれる。
しかし、数多の軍勢が襲い掛かる事はなかった。
「鎧袖一触よ。心配いらないわ」
海域を覆う烈風の群れ。獲物を喰らわんと、猫型艦載機を一網打尽にする。
咄嗟の事に、声の主を探す。その姿を認めた時――見間違う筈がない。私が憧れて、ただ我武者羅に越えようと思った群青色の翼。
「えっ嘘……加賀さんっ!?」
「貴方はここでも、一人で突っ走っているのね。トラックの提督も苦労が偲ばれるわ」
そうやって軽口を叩きつつも、瑞鶴の無事を確認して口角を上げる加賀の姿があった。
「な……何で!?横須賀にいるはずじゃ!」
「月刀大佐や杉田中佐とともに、本土から空挺されてきました。自慢の後輩が泣いてると思ったので」
「泣いてなんかないってば!」
加賀の目がスッと細められ、彼女の指揮で航空隊が襲い掛かる。
「やっぱり……貴方なのね。しかし、私の後輩に手を出しましたね。容赦はしません」
既に瑞鶴によって手負いだった空母棲姫は、加賀の攻撃によって成す術もなく炎を上げる。
シズカナ……キモチニ……そうか、だから私は……
「そうね……もう休みなさい“土佐”」
加賀の表情は、横須賀で見た物と変わらない。しかし、相手が空母棲姫だからこそ……攻撃の手を緩めるつもりはなかった。
やっと会えた……ありがとう……姉さん……
沈められながらも、満足げな表情で水面下へ消えた空母棲姫を見届け、加賀が振り返る。
「……まだ、戦いは終わっていないわ。行きましょう瑞鶴」
「でも、バヨネットもなくなっちゃったし。私、泊地に戻らないと……」
「その心配いらないわ」
加賀が余分に背負っていたのは、瑞鶴にも見覚えのある艤装。
「横須賀で入渠中の子がいたから、整備中の艤装が余っていたのよ。勿論使えるわよね?」
渡されたのは、見覚えのある弓と矢立。私がかつて使っていた艤装だ。
「それと、その子から伝言を預かってるわ。必ず帰ってきて、瑞鶴姉さん……だそうよ」
そっか、翔鶴姉の妹さんか……矢立に入った艦載機を確認する。烈風・彗星・流星。六〇一航空隊と銘打たれたNamed機。最新鋭の機体である。
「腕は落ちていないでしょうね?」
「残念でした。私の左腕は、とっくの昔に体とおさらばしてるわ」
加賀の問いに対して、苦笑と皮肉で返す瑞鶴。
ちょっと待ちなさい。呼び止められて振り返る瑞鶴。
「えっ。何?加賀さん」
「貴方、自分の恰好が分かってる?せめて髪だけでも、どうにかしなさい」
加賀は自分が結んでいた髪留めを解く。リボンを失くしてボサボサになった瑞鶴の髪を、後ろ一本で束ねる。
「加賀さんって、意外とお節介だったの?」
「貴方のじゃじゃ馬ぶりに比べれば、別に大した問題ではありません」
ツインテールが貴方の本体ではなくて?本人は精一杯の冗談だったのだろうが。表情がまだ堅く、ぎこちない。
こんな風に笑った加賀さん、始めて見たかも――そういって茶化す瑞鶴に対して加賀はフイと顔を背ける。
その後、何かを見つけたらしい加賀の目は細められる。
「月刀大佐からの報告にありましたが、もう一体いたとは思いませんでした」
長距離から砲撃してくるのは、戦艦タイプの深海棲艦。
その砲弾を躱しつつ、航空隊を二人は展開する。
「お手並み拝見ね……トラックでの特訓の成果、見せて貰おうかしら?五航戦」
「上等よ。いつまでも一航戦って気取ってると、今に痛い目に合うわよ」
不敵な笑みを浮かべた瑞鶴と加賀。彼女達の烈風が、流星が、彗星が飛翔する。
ちょっと待て。確認したが、二章の最終局面にて参加艦艇一覧。
チューク艦隊:瑞鶴、龍驤、摩耶、足柄、北上、五十鈴、由良、Верный、朝雲、磯風、秋月、明石、青葉
ウェーク艦隊:大鳳、龍鳳、天龍、龍田、暁、雷、電、睦月、如月
空輸組:大和、武蔵、金剛、加賀、響 、(後略)
なんだこれ、艦娘33人+提督4人。一言喋らせるだけでも、大変だわ。
なるべく出番は増やそうと思いますが、お付き合い下さい。