艦隊これくしょん~鶴の慟哭~   作:エーデリカ

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6年間使ってきたガラケーに敬礼!スマホの使い方が分からねぇ……。

ちょっと予定より早いですが、りょうかみ型護衛艦著。艦隊これくしょん-防人たちの異世界漂流日誌-より井矢崎莞爾少将の登場です。口調はこれであっているのか?

不安要素はありますが、それではどうぞ。


二章-20 Yo buddy. You still alive?

――――手が空いているのなら、少し手伝ってくれないか?

 

避難させていたという東郷の本を、通信室に運び込むのに小一時間経過している。

横須賀組が帰り支度をする際に、カメラを持ってその場を撮ろうとしていたらこうなった。

 

「職柄上、こういうものを見つけちゃうと……集中出来ませんねー。やっぱり」

 

東郷がВерныйに呼ばれて、その場を離れたおり。休憩しようとして、足元に落ちた絵本に目を向ける。

 

――――“鬼と妖精”そう名付けられたタイトルに目を奪われた。

 

 

 

 

 

あるところに鬼がいました。その鬼は寡黙でぶっきらぼうでしたが、ひとたび仕事を始めれば、彼の右に出る者はいませんでした。

 

彼らの仕事は、人を殺す事。仲間達には、刃物や毒といった手段を使う者もいましたが、鬼は銃だけをこよなく愛しました。

 

そんな中、孤高に振舞う彼に接しようとする者もいました――妖精です。

 

妖精は語りかけます――なぜ君は、一人でいるんだい?

 

鬼は答えます――人を地獄に叩き落とす仕事に、仲間意識がいるのかと。

 

僕は好きでやっているのではない。しかし、引き金を引く事が僕が出来る有一なのだ――そういって彼は笑います。

 

暫く黙った妖精は、再び鬼に話しかけます――なら私も、君と同じように銃で人を殺そう。そうすれば君と私は同じになる。私は君の友達になろう。

 

妖精もまた、人を殺す仕事をしています。それは魔法や呪術といった類でしたが、人を殺す事に変わりはありません。

 

鬼は、何かを含んだ笑いをしました。あぁこれから宜しく頼む、友よ。鬼は二丁あった拳銃のうち、その一つを妖精に手渡しました。

 

銃の扱いを覚え、鬼と共に過ごす事。それは妖精にとっても、鬼にとっても充実した時間でした。やがて彼らは親友と呼び合う仲にまでなります。

 

しかし時間が経つ内に、妖精は気付きます。

 

――――引き金を引き人を撃ち殺した感覚が、いつまでも手から離れないのです。魔法を使った時には感じなかった罪の意識。私が人を殺したのだという後悔が、妖精を襲います。

 

気付いてしまったかい?――妖精に向かって銃を構える鬼が目に入ります。

 

そうか、友よ……君が銃で人を殺すのはこういう事なんだね?――妖精もまた、その手の得物を鬼へ向けます。

 

そうだ……僕が君に銃を持たせたのは、君に殺して貰う為だったんだ……我が友よ。

 

終わらせる事に意味はない。それでも、君はこれで救われるのかい?妖精は問います。

 

あぁ、僕の銃で殺される事に意味がある。そして最後に撃たれるのが、友である君だから意味がある――鬼もまた答えます。

 

それ以上言葉は要りませんでした。銃声が響きます。互いの得物が脳天を撃ち抜きました。

 

崩れ落ちた彼らから流れた鮮血は、まるで彼らが流した涙のようでした。

 

殺し続ける事が宿命づけられた彼らもまた、互いを殺す事でその因果を断ち切ったのでした。

 

番いの拳銃はその手から零れ落ち、闇へ闇へと堕ちて行きます。

 

 

 

 

 

「東郷中佐って、こういう本を嬉々として読んだりするんですかね?」

 

本当にあの人の趣味は分かりませんねぇ。

 

途中まで読み終わった所で、絵本を裏返すと裏表紙に書き殴られたような文字が見えた。それが筆記ではなく、印刷されたものだとは気付くのに少し時間が掛かったぐらいです。

 

――――Yo buddy. You still alive? And thanks, friend. See you again.

 

何でしょうね、これ?覗き込む青葉に、戻って来た東郷が声をかけてくる。

 

「青葉。ちょっと外に出ないか?」

 

海風も強い、南国の砂浜。紫煙を吹かした東郷はゴホゴホと咳き込む。

 

「煙草、苦手なんですか?」

「……人間は体に悪いものと思ってても、毒を取り入れようとするものさ」

 

そう言えば先日も、グラス一杯のワインでダウンしてませんでしたか?東郷中佐。

 

青葉もどうだ?――差し出された葉巻とライター。

 

「あーっと。吸うと、ホントに危ないんで遠慮しときます……」

「……“調子が悪い”のか?」

 

何かを含んだ東郷の問いに、冷や汗が伝う。バレてはいないはず……。今までだって、司令官にすら素振りを見せていない。今度も大丈夫に決まっている。

 

しかし続けられた言葉は、青葉が一番聞きたくなかったものだった。

 

「……内臓やられてるんじゃないのか?」

「どこでそれをっ!?」

「大学の同期に、医療専門家も度肝を抜くような奴がいたもんでな。先日の戦闘の戦況ログと入渠の回復具合を照らし合わせたらビンゴだ」

 

お前も、横須賀の瑞鶴と同じで持病持ちか?――問いには沈黙で返す青葉。

 

「確かにお前の戦い方は、無理な挙動のない洗礼された動きだ。だが、回避行動が余りに最小限なのが気になった。もちろん避け損なってからの被弾も多い。何かを庇ってるんじゃないか……そんな気はしていた」

 

高峰には言わねぇよ、古鷹が着任した件も絡んでるんだろう?

 

古鷹――その名前を出された時に、私は白旗を上げました。ポツリポツリと、無意識に語ってしまいます。

 

「運命って言うんですかね……。あの時、古鷹を連れて出かけなかったら。そう思う時もあるんです。信号待ちをしていて、大型バスが歩道に突っ込んできたりしなければ……私も古鷹も、こんな道を歩まずに済んだんじゃないかって」

 

「古鷹は左目と右半身が麻痺して、私も寝たきりみたいなものでした。だから軍から艦娘の適性が通知された時には、迷わずにこの道を選びました。防護機能を利用した、身体の自己修復機能の促進。正直、ここまで回復するものだとは思いませんでしたけど」

 

だって……古鷹と一緒にもう一度歩きたかったんです――後悔はしていませんよ、と笑う。

 

「それでも、破砕した肺だけは再生が難しかったそうです。どうしても高機動戦闘をすると、負担が来るのが名残ですね」

「最悪の場合、高Gがかかると肺胞の毛細血管が傷つく訳だ。気管支を通って喀血する可能性もあるんだろう。下手すれば窒息するぞ?」

「実際、轟沈しかけた時は傷だらけだったので、バレないと思ったんですけどね……」

 

あの時、実は視覚リンクで見てました?青葉の問いに対して。

ヴェルがもしかしたらって言ってたからな――と東郷が返す。

 

「今回、景鶴の艤装の件を見逃してくれたのは同情からか?」

「状況が状況でしたからね。横須賀の瑞鶴さんを助けたのに、景鶴さんが救われないのはおかしいって。だから資材や艤装の横領を普段は許せなくても、今回だけは……って思ってしまったんですよね」

 

特務官失格ですよね……自分の感情に流されては――乾いた声が夜空に響く。

 

静まった砂浜。そんな中、東郷が呟く――これは聞いた話だが……

 

「大切なものを失う喪失感や虚脱感っていうのは誰にもあるんだよ。確かに特務官の仕事は他人を孤独に追い込む事だ。汚れ仕事だから仕方ない面もある。でも、誰だって心では孤独を何よりも恐れている。お前はそれを忘れてないから、人間でいられるんだよ。それすら忘れたら、生きながらにして死んでいるゾンビーか何かだ」

 

この絵本、高峰に返してくれないか?書架にあって、青葉もさっき読んだのを手渡される。

 

「聞きたいんですけど……この殴り書きのYo buddy.って何ですか?」

「これか?作者が手書きで書き残したって話らしいが……」

 

持ち主に聞いてみれば良いんじゃないか、お前の上司だろ?そう言われたら仕方がない。

 

ありがとうな青葉、おかげで助かった。高峰にも宜しく伝えてくれ――宿舎に戻ろうとする青葉に、背を向ける東郷が声をかける。

 

「ホントに司令官達は、お互い素直じゃないんですから」

 

“鬼と妖精”その絵本出てくる彼ら。それは何かしらの隠し事をしている、自分の上司らを表しているのでは?

 

まぁ、お互いを殺す最後なんて……いやドンパチやってましたね、月刀大佐とは。

 

 

 

 

 

「……という訳で、絵本と書状を東郷中佐から預かってますけど?」

「あぁこれか。委員長がチュークに飛ばされるって時に、土産で持たせたんだがな……」

 

横須賀に戻ってきての状況報告。苦笑して東郷からの預かり物を受け取る高峰。

一応、気になってはいたので尋ねてみる。

 

「この絵本を買ったのって司令官ですか?」

 

あぁ、そうだな――裏表紙を撫でて、どこか遠くを見る高峰。

 

「この絵本の作者について知っているか?」

 

青葉は、問いに首を横に振って返す。

 

「ある国の戦闘機乗りだったそうだ。本名は今となっては分からない伝説みたいだがな。“片翼”と言われた彼は、番犬として国の空を守った。しかし、最後の最後で相棒と呼び合った戦友――戦いぶりから“鬼神”と言われた同僚と殺し合いをしたらしい。行方は知れず、後に残ったのは彼の手記だけ……それがこの絵本の原作って訳だ。最後の文は、製作者がどうしても――って言って手記のそのままを載せたらしい」

 

酔狂な詩人がいたものですね……ちっとも面白くないような――青葉が呟く。

 

「最後まで読むと分かる。あの後妖精は天国に、鬼は地獄へ堕ちた。再び再会した彼らが、今度は殺していた人間の為に銃を取るんだ。現実主義者だった妖精は理想を掲げて、彼と共に戦い抜いた。作者が願った、自分達の最後にしたかったんだろうな」

 

分かりあいたくても、正義が相容れない事もあるんだよ――高峰の言葉は何を思って言ったのか……。

 

 

 

 

 

横須賀鎮守府のとある執務室の扉を叩く。

 

「失礼します。特設調査部第六課、高峰春斗中佐。入ります」

 

執務室の窓から港湾を眺める男。井矢崎莞爾少将がこちらに視線を向ける。

 

海防大の1期生――それは、高峰たち5期生の大先輩である事を示す。黒烏が名を轟かす遥か前に、前線で戦い続けた彼ら。その活躍は未だに健在であり、主力艦隊を動かす影響力も計り知れない。

 

高峰の前にいるこの男――井矢崎少将もまた、その一人である。

 

彼の肩書は日本国防海軍横須賀基地司令官。身に着ける錨をあしらった金色の飾緒は、ここ横須賀でも相応の力量を持つ事を示している……のはずなのだが。

 

「井矢崎少将。せめて公の場ではしっかりして下さいよ……」

「そうはいっても、素はこんなだからね」

 

手ぬぐいと扇子を普段から欠かさない彼。どうやら休憩中に面談をセッティングしたらしい。

東郷から預かった書状を渡した時、彼は大層嬉しそうにそれを眺めていた。

 

「なるほどね……分かった。東郷駈中佐を会合に招こうじゃないか。招待状は今書けば良いかな?」

 

電子化された世の中では珍しく――墨をすり、筆を取り半紙に招待状を書きあげる。

最後に指印を押し、完成したものを窓際に置いた所でノックがする。

 

「瑞鶴、入ります!」

 

どこかに、あの艦娘を思わせる風貌をした少女が入室する。

 

「提督さん。立原副司令官から、午後の演習を組んで欲しいって伝言預かってるけど……あっ、失礼しました。航空母艦瑞鶴です」

 

入ってきた少女――白い弓道着を身に着けた艦娘が、書類を片手に挨拶する。

 

「ちょうど良かった瑞鶴。ちょっとトラック泊地までお使いを頼むよ。知り合いにとどけて欲しい」

「また筆で書いたんですか?達筆ですから、読む人によっては分かりませんよ」

 

了解しました。明日の定期輸送に合わせて出港します――そう言って少女は退室する。

 

「随分忙しいようですね。横須賀基地を纏める役職にまでなると」

「こっちも十一月事変から、慢性的な人手不足だから仕方ないけどね……」

「……事変?“粛清”の間違いではないですか?井矢崎少将」

 

皮肉たっぷりに返した高峰に対して、井矢崎は意に返した様子はない。

 

「十一月事変――あの事件によって、穏健派が勢力を取り戻した事は認めましょう。しかし同時に、急進派とはいえ国を守る指揮官を喪った事はご理解していますか?」

「悪戯に艦娘を送り続けたあの状態が、最善だと言えるのかい。高峰中佐は」

「……深海棲艦をも巻き込んだクーデターは、その計画が表に出る事がないまま成功したと言えるでしょう――全て、貴方の指示で行われた可能性はこちらも把握しています。そして混乱を極めた鎮守府が、貴方の活躍によって復興を遂げた事――これも計算のうちですか?」

「……中佐権限による取得可能情報に、ロックをかけるべきだったかな」

 

認めるが、悪びれない彼の態度に、さすがの高峰も声を荒げる。

 

「井矢崎少将、あまり貴方の後輩を舐めない方が良い。もちろん、東郷中佐もです」

「……それは警告かい?高峰中佐」

 

俺の同僚で遊んでいると、痛い目を見ますよ――不敵に笑う井矢崎に、背を向けた高峰。

 

「人間の正義は人それぞれだ、俺や貴方の正義も違う。ただ、人類と艦娘の為に貴方が決断した事を否定はしない――許せるかどうかとは別の話ですがね」

 

井矢崎一人を残して、静まり返った執務室。そこには彼の笑い声が響いていた。

 

「楽しみだな(はやて)。お前の弟がどれだけ成長したか、見せて貰おうじゃないか!」

 

――――東郷中佐。力尽きてはいないだろうな?この程度の戦場を生き残って貰わなければ、こちらもつまらないのだよ。




なにこの、井矢崎少将のラスボス感。落語好きというお話から、慟哭では和を重んじる変わったキャラに設定しましたが……そんな設定で、大丈夫か?――大丈夫じゃない、問題だ。

彼もまた自分の正義を掲げる一人の提督ですから、黒幕にするつもりは無いです。

では三章、『激震!横須賀動乱編』にてお会いしましょう!
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