元々、一ヶ月で二章を終わらせるつもりだったのが最大の誤算でした。どうしてこうなった。
活動報告では即出ですが、トラック泊地迎撃戦が終わってるので景鶴としての出番となります。
今回の時系列は二章終了後、三章開始前くらい。景鶴を瑞鶴と読み替えて、ご覧下さい。
同時に、三章のりょうかみ型護衛艦様とのコラボを控えての予告を含んでおります。
あと、二章で出番がほとんどない笹原中佐がゲスト参戦です。
感想欄で西向く侍様の微風ちゃんより、チョコを貰った東郷の運命はいかに……。
それではどうぞ。
「なぁ東郷」
「何だよ伏宮」
「俺……明石に何を返せばいいと思う?」
「……今年はネジとか?」
「去年は工具一式を新調したよなぁ」
全国のごく一部の男性のみに訪れるホワイトデー。良くも悪くも貰った二人はそのお返しに奔走するのだった。
東郷は景鶴と微風、そして笹原中佐から。伏宮は何だかんだで明石から貰っていた。
「俺は友チョコと、からかいしか貰ってなかったんだけど。明石とお前は夫婦で工廠経営していたみたいなもんだろ」
「いつ夫婦になったんだ俺らは……というか、工廠に俺を閉じ込めてるお前のせいだろ」
お前を慕ってくれてる秋月ちゃんなんか、なけなしの小遣いで毎年プレゼントしてくれてるだろ――そう言った伏宮に対して東郷。
「毎年返すの忘れないよう、バレンタイン当日の厨房担当が俺になってパエリア振舞ってただろ」
「あー、そう言えば。今のご時世、魚介類は貴重だからな」
秋月の質素すぎる性格は、どうにかならんのか――とは思ったりする。その分少しは、豪華な食事を食べさせたいのだが。
しかし、今年のバレンタインはトラウマスイッチ入って寝込んだ。その後にトラック泊地は戦艦水鬼に強襲されたり、それ所じゃなかった。
気が付いたら3月も始まって暫く経った。いよいよ年貢の納め時となった――という事だ。
そうなってしまっては、おちおち買い物に行けもしない離島勤務の提督達。南の島でのんびりするのも良いが、たまには俺だって本土で買い物をしたい……特に書籍を。
「微風ちゃんなんか、手作りだっただろ。連装砲型のチョコレートとは凝ってたよなー」
「……笹原中佐には、川内にお土産持たせたから解決っと」
あえて俺のトラウマである、チョコレートフォンデュのセットを送りつけてくる笹原中佐。俺ってもしかしなくとも嫌われてる!?冗談だろうが、笑顔で実行する女だからなぁ。
面と向かって相対すると、魂まで骨抜きにしようとする元同期。むしろ、彼女には関わりたくないと言うのが本音だが。
だが先日の、泊地強襲の際には川内を寄越したり、笹原本人が裏で奔走していた事を思うと――まぁ、たまには好意的な事をするんだなと。一々裏があるように思えて、信用しきれないのが自分の悪い所でもあるのだが……。
「定期輸送がスケジュール通りなら、咸臨丸は今頃ウェークか……。4月の即応打撃軍の編成に向けて、今は引っ越し作業中か?遠征がてらヴェルをお使いに出すか」
第53輸送隊に出向している微風に、品物を届けるのは一番手っ取り早いだろう。
トラック泊地は現在、泊地としての機能のほとんどを失っている。宿舎や工廠は半壊し、滑走路に空襲の爪痕を残す惨状では――とてもではないが、艦娘の運用を行えない。
その分エニウェトクやグアム、勿論月刀のいるウェークにも皺寄せが行っているのは間違いない。
即応打撃軍のトップに据えられて連日忙しいであろうに、チュークの艦娘を預かってくれている月刀には本当に頭が上がらない。
泊地には景鶴やВерный。明石といった最小限しかいない為、東郷自身は戦力が心もとないと思っている。だが、敗戦しかけた将とすれば、まぁ当然だろうな――とも思う。むしろ先の戦闘で、多くの仲間を救えた事だけでも奇跡なのだから。
全部美味しい所を、同期に持ってかれたのは否定しないが。
その同期の一人――高峰に頼んでいた資料に目を通しつつ、東郷は思考する。
横須賀か……これで景鶴の件も片付けば良いのだが。
「行くのか?横須賀に」
「あぁ。井矢崎少将に色々とセッティングして貰ってる。俺がいない間、トラック基地司令補としての役割――ちゃんと果たしてくれよ」
「別に、そのまま帰ってこなくても良いんだぜ。俺には基地司令への昇進が待ってるからな」
軽口を叩きつつ、伏宮が応える。
「……もしもの時は、頼む。伏宮少佐」
「了解であります。東郷中佐殿」
そういって工廠を去っていく東郷。
「あれっ。提督はもう帰られたんですか?」
バーナーを片手に、作業をしていた明石が向かってくる。
「あー。……なぁ明石」
「はい。何ですか?」
「お前、今欲しい物って何かある?」
随分直球ですね……ホワイトデーのお返しですか?――と明石。
そんな所だ――と苦笑する伏宮。
「そうですね……強いて言えば、開発にもうちょっと資材を回してくれませんか?最近修理ばっかりで、趣味に走れないので」
「あ……うん、そうね。努力するわ」
東郷が本土に出張するまで、ちょっと待ってろ。あいつの目が黒いうちには絶対にやるなよ、絶対だぞ。明石よ、景鶴の艤装の件で懲りたんじゃなかったのかよ。
「でっでも、わ……私はっ、伏宮司令補から何か頂けるなら何でもゴニョゴニョ。いや、一緒に作業してくれる事が嬉しかったり……」
「おら、明石。昼飯食いに行くぞ」
「へっ!?ちょっと待って下さいよ!伏宮司令補。置いて行かないで下さい!」
聞かれてないなら良かった――ホッと胸を撫で下ろし、後を明石が追いかける。
「あれっ提督さん、もう戻って来たの?」
現在は、執務室兼通信室になっている部屋。瑞鶴改め、改大鳳型1番艦景鶴が待っていた。
「景鶴。ちょっと早いけど、ホワイトデーだからこの前のお返しだ。古本で悪いが、読書好きのお前なら、楽しんで貰えるかと思う」
普段は自分の書庫にすら出さない、自分のお気に入りの本を手渡す。幸い先の戦闘では、金庫に入っていたので生き残っていた。
あーそういえば。そんな事もあったっけ……防衛戦やら色々あって忘れてた――と頬をかく景鶴。
意識して貰ってないのも、こっちが反応にこまるのだが……。
「自衛隊三部作?で……こっちはLIBRARY TASK FORCE?」
「艦娘の戦いとは違うが、そういったものを選んでみた。自衛隊三部作は、どれも未知の相手と戦うSFものだがな。潜水艦に民間人と取り残された海上自衛官の話とか。図書館の方は、書籍の検閲に対抗しようとする武装組織の話とか」
へー。うん、そうね……サンキュ。さっそく食いついたようで、もう自分の本の世界に入ってしまっている。本の虫とはこの事か。
俺はこの時、景鶴の目が、完全に獲物を待ち構えている物だった事に気づいていなかった。
じゃあ昼飯食べに行ってくるから、留守番頼む――そういって踵を返すと、不意に景鶴に服の袖を掴まれた。そのまま引っ張られる。
「ちょっと待て。何だ!?」
ズコッ。我ながら情けない事にバランスを崩して、床にひっくり返る。
目を開けた時、目の前にあったのはゼロ距離の景鶴。
「……お返しはこれぐらい要求しても、罰は当たらないわよねっ」
真っ赤になって目を逸らし、慌てて走り去っていく景鶴。
彼女を目で追いつつ。身を起こした東郷に、たまたま通りかかったВерныйが声をかける。
「景鶴は風邪をひいているのかい?顔が真っ赤だったけれど」
ニヤニヤ笑いながら、ネタが転がってきたと言わんばかりのВерный。
「……気のせいだ、多分。そういえばヴェル。ウェークにお使いに行ってきてくれないか?六駆の子達と遊んでおいで、お小遣いあげるから」
「私は子供か……」
「ついでに微風ちゃんに品物を届けて欲しい。……少しならクッキーをヴェル達も食べて良いから」
「よし、任せてくれ」
現金な奴だな、お前は。目を輝かせる我が艦隊の秘書艦。そんなにクッキーが食べたいか?
司令官の手作りクッキーだろう。食べるに決まっているじゃないか――とВерный。
そうして通信室を後にする。これからも、この日常が続けば良いのだが……。
ちなみに他の艦娘達の話によると、この日の景鶴はいつもに増して上機嫌だったらしい。
日も既に落ちて、真っ暗な闇の横須賀鎮守府。佐世保を預かる提督の一人――笹原ゆう中佐が、トラック泊地から帰投した川内を出迎える。
「ただいま、司令官。これ東郷中佐からお土産」
「おかえり川内。良くあの戦場を生き残ったと思うよ」
「夜戦するには最高の舞台だったけどね。司令官も介入してくれば良かったのに」
「私は私で、タカ君と駆けずり回ってたのよ」
紙袋を受け取りつつ中身を見る。よりによって、お返しにこれを送ってくるか――と笹原は呟く。私も人の事言えないけどさぁ。
執務室に戻り談笑していると、彼女の端末が着信を告げる。
届いた情報を見て、苦虫を噛み砕いたような顔をする笹原。
「特調三課が絡んでる?あぁもう。カケル君は何で自分からトラブルに突っ込むかな……教えたのはタカ君?横須賀の井矢崎少将もあの場にいるとなると、動きにくいか……」
「……司令官。またいなくなるの?」
笹原の一人言に川内が反応する。
「川内。あんたは……」
「……そうやって、私をまた置いてくんでしょ」
彼女の眼は純粋だ。私を盲信せずとも、自分の指揮についてきてくれる川内。だが、ちょっと懐かれ過ぎたという自覚もある。
「『あんたは私のそばにいろ。そして自分の考えを崩すな』司令官が言った言葉だよね」
「……そうだね。だから私の代わりに艦隊を」
「そんなに私は頼りないのかい、司令官!?」
川内の問いに対して、笹原は溜息をつく。止めても無駄かな……これは。
「……あんたも知ってる、チュークの景鶴についてだ。東郷中佐が、彼女の出自にケリをつけようとしているかもしれない」
「景鶴の!?なら、私もっ」
「今回の件。私は、きっと間違った選択をする……だから川内、あんたの判断で良い」
――――お前が私を止めろ。最悪の場合、私が……お前の友人の景鶴を手にかける事になる。
さーて。夜は長いよ――先程と打って変わり、笑顔で手酌をし始める笹原。
「折角だ、川内も飲もう!」
こっちへ戻って来る時に、東郷から預かった呉鶴。佐世保じゃ手に入りくいものではなかったが、湯呑の中を愛おしそうに眺める笹原。
ホラホラ――と言われ、言われるがままに、川内も口に湯呑の中身を流し込もうとして逡巡し……そのまま川内は湯呑を置いた。
「今酔うと、夜戦が出来なくなるから。また、今度にしといてね」
「まだまだ、夜更かしがしたいお子様なんだなぁ」
夜戦主義なのは司令官もでしょ?という問いに。
そうかもしれないね――と笑って返す笹原。
「早く追いついてこい川内、お前は私の艦隊の旗艦なんだから。横須賀で最悪の黒、そんな夜景を見せてあげるさ」
そういううちの上司は凛々しく、そして儚げで。どこか遠くを見る目で、夜鷹は窓の外の空を仰ぐのだった。
おまけ
「……で、青葉ちゃん。タカ君に繋がらないのは、どういう事かしら?」
『――――今、うちの司令官も立て込んでおりまして……。もしかしなくとも東郷中佐の依頼の件ですか!?』
「話が早いなら、こっちも助かるけど?」
『――――あー、どうしましょう。……そうだ。代わりと言っては何ですが、笹原中佐と川内さんに良いお話があるんですけど。どうでしょうか?』
まだターゲットは行動していませんけど、きっと良いネタになりますよ――送られてきた情報に目を通し、なるほどね――と口角を上げる笹原。
「川内。前哨戦と行こうじゃないか。総司令官のスキャンダルだ。見逃すわけにはいかないよね♪」
げっ。またうちの司令官の暴走が始まった――そう思う川内だった。
笹原がとある件で、高峰中佐に男女同権パンチを叩き込まれるのは、また別の話である。
最後のおまけは、コラボ先オーバードライヴ様の軽快な鏑矢を見てのお遊びみたいなものです。この場で、先生には深くお詫びを……。
追記:川内にお酒は、この場で飲ませないように改変しました。
東郷が景鶴(瑞鶴)に渡した本ですが、さすがに書籍名をそのまま書くとまずいので、
・自衛隊三部作
・LIBRARY TASK FORCE
↑で検索すれば、引っかかると思います。
有川先生の本を買い揃えているのは、作者のリアルでもです。